「あの〜円山さん、何でこんなとこに?」
円山に手を引っ張られた毒島が連れて来られたのは、多くのショップが入るファッションビルだった。
「あのねぇ、アンタもいつまでもガスマスクってのもどーかと思うわよ? 思いきって違うファッションでもしてみなさいな」
「で、でも別にわたしはこのままでも〜」
毒島はあまり気が進まない様子だ。
「まぁまぁ、火渡戦士長の為だと思って! いくら仲のいい夫婦でも、あまり変化が無いとマンネリになっちゃうわよ?」
プシューーー
「わわわわ、私とひ、火渡様は、そそそんな関係じゃっ!!」
円山は毒島の方をろくに見ずに言う。
「はいはい、お約束の反応ありがと。さ、ここ、ここ!」
毒島はほへ〜、と店内を見回す。
「ナ、ナ○キショップですかぁ? しかも、キッズ…?」
「そっ。毒島ちゃんはちっちゃいし、カワイイ体型だから、こーゆーのはきっと似合うわよ?」
「はぁ…そういうものですか?」
「そーゆーもんよっ。さっ、選びましょ!」
店内を歩き回って服を選ぶ円山の後ろを、毒島はトコトコとついていく。
「これと……これと……こぉれぇとぉ……これでいいかしらね。はい、毒島ちゃん! 着てみて?」
「はぁ……」
渋々と試着室に入る毒島。
しばらくたって、中から毒島の声が聞こえた。
「……あの〜、着ましたけど…」
「あら、早く見せてよっ」
試着室から長い黒髪をなびかせて、童顔の少女が遠慮がちに出てきた。
頭はロゴ入りキャップを斜めに被り、やや大きめのTシャツの上に半袖パーカーを着て、これまたやや大きめのハーフパンツを履いている。
毒島の小柄でスリムな幼児体型に見事に似合っている。
オドオドしながら毒島が尋ねた。
「……あ、あの、私、変じゃないですか…?」
円山は感激したように声をあげる。
「変どころか、すんごく似合ってるわよ! スポーティでボーイッシュでイイ感じ!」
「……は、はぁ…」
毒島は頬を染めて、うつ向いてしまった。
「あっ、でも毒島ちゃん、ここをこうして…こうすれば…うんっ、完璧!」
円山は満足気に頷く。
毒島の長い黒髪がポニーテールにされ、足元には白いスニーカーを履かされる。
「毒島ちゃん、カ〜ワイ〜! これなら火渡戦士長も放っとかないわよ!」
「……い、いえ…そんな……あ、あの…」
毒島は顔を真っ赤っ赤にして、耳からはプシュー、と天然水蒸気を出している。
「……ふむ、毒島にはもっと似合うものがあると思うがなぁ」
不意に円山の背後から、太い声が響く。
円山は後ろを振り向いた。
「あら、戦部じゃない。どうしたの?」
「うむ、この近くを歩いていたら根来が、この店の試着室に毒島がいる、と言うのでな」
次の瞬間、円山はフロア中にドスの効いた声を響かせた。
「根来ォー!! このど変態!! ブッ殺してやるから出てきなさい!!」
毒島は両手で顔を押さえ、しゃがみ込んでしまっている。
戦部は顎に手を当て、苦笑しながら言った。
「まあ落ち着け、円山。どうだ、根来に代わって詫びという訳では無いが、もっと毒島に似合うものがあるとこに連れて行ってやろう」
戦部はそう言うと毒島をヒョイ、と小脇に抱え、歩き出してしまった。
「ちょ、ちょっと戦部、どこ連れてくのよ!? あ、店員さ〜ん、お金ここに置いとくわね〜! ちょっと、戦部!!」
戦部が小脇に抱えた毒島を連れて来たのは、浴衣売り場だった。
「毒島、どうだ?」
戦部はそう言うと毒島を床に降ろした。
「わぁ…」
売り場に入った毒島は眼を輝かせて、色とりどりの浴衣に見入っている。
円山は横にいる戦部を肘でつついて言った。
「ちょっと、アンタも結構やるじゃない、戦部」
戦部は、色々な浴衣に目移りしている毒島を見守りながら、笑っている。
「うむ、あいつは俺達にとっては妹のようなものだからな。どうしても、見る目も変わってくるさ」
「まあ、ねえ」
毒島は振り向いて言った。
「……あ、あの、試着してみていいですか?」
円山と戦部は笑って頷いた。
普通の服とは違い、だいぶ時間はかかったが、やがて綺麗に浴衣を着付けた毒島が試着室から出てきた。
「……あ、あの、どうですか…?」
毒島は、淡い青の朝顔模様の浴衣に、水色の帯を巻いていた。
「あら、キレ〜イ」
「ほう、似合ってるじゃないか」
毒島はだいぶ気に入っているようで、鏡の前でクルリクルリ、と角度を変えながら、笑顔を浮かべている。
円山が、後ろから毒島の両肩に手を置いて言った。
「だいぶ気に入ったみたいねー。よし! お姉さんがプレゼントしてあげちゃう!」
「え!? で、でも悪いです…。さっきの服だって…」
「いーの、いーの。たまには…ね!」
円山は戦部を振り返って言った。
「ちょっと、アンタも出すのよ、戦部」
「お、俺もか?」
「あったり前でしょ? カワイイ妹のためよ、お・に・い・さ・ん!?」
戦部は、相変わらず顎に手を当てたまま、笑った。
「ふふ…まあ、そうだな」
毒島は、そんな二人のやり取りをおかしそうに見ていたが、やがて満面の笑みを浮かべて言った。
「……ありがとうございます。お姉さん、お兄さん」
おしまい