ゝ月ヾ日 日曜日 雨  
全く、休日出勤なんていい加減なものが、何故この世に存在するのだろうか。  
当然その分の手当は貰う事になっているが、「休日の気分」というものを  
壊されるのが、俺は我慢ならない。今日の様に突然なら、尚更だ。しかも、  
今日の天候は雨。中々気分の悪い取り合わせだった。  
そういえば、俺の心情を盛り下げてくれる出来事は、もう一つあった。  
駅前で、カズキ君と斗貴子君に会った事だ。仲良く、さも当たり前の様に  
相合傘で、かなり(俺にとっては)パンチの効いた構図だった。斗貴子君の  
出張の見送りだったそうだ。目的地の方面が違うのですぐに分かれたが、  
斗貴子君が改札をくぐる前に、カズキ君が彼女の唇をやや強引に奪ったところを  
見てしまった瞬間、俺のやる気は根こそぎ無くなった。だって、彼女には  
見送ってくれる人も愛してくれる人もいるのに、俺にはその片方だっていないのだ。  
…悲しい。すごく。しかも非難の対象は自分以外にいないのだから、思いの  
やり場も無い。ああ、これが負け組ってヤツか。何だか今日は卑屈だ。  
 
 
$月#日 月曜日 晴れ  
うまい塩辛が手に入ったので、ワンカップを買いにコンビニに行くと、  
カズキ君と斗貴子君に出くわした。話を聞くと、要するにデートの最中だった  
らしい。と書いても、時はすでに十一時前後だったので、彼らももうマンションに  
帰る間際だったのだろう。適当に挨拶を交わすと、彼らは肉まんを一つ買って  
コンビニを出て行った。コンビニを一歩出た瞬間、彼らの手が絡む様に  
繋がった事といい、その後肉まんを二つに割って二人で嬉しそうに食べていた  
事といい、ハタから見ていると本当に彼らはバカップルだと思う。それを尻目に、  
俺は一人ワンカップとタバコを一カートン買って帰ってきたのだ。なんて悲惨。  
……などと、ヤケ酒を煽りながら書き殴っているうちに、隣から情事の音が  
響いてきたというのは、どういう神のおぼし召しだろうか?いつの間にか彼らは  
帰ってきていたらしい。…アレか、もしかしてそういうプレイなのか。一人やもめに  
見せ付けて楽しむという趣旨なのだろうか。実はあの二人はドSなんじゃないのか。  
………イカン、完全に酒が回ってきた人間の思考だ。むしろヤキが回ったと書くべきか。  
彼らがそんな人間じゃ無い事は、重々承知のハズなんだが…。これ以上続けると  
何を書くか分からんので、今日はこれでお仕舞いにしておこう。  
 
 
【月〕日 日曜日 晴れ  
今朝はけたたましいインターホンの音で目が覚めさせられた。しかも何回も  
押し続けていた様で、俺が玄関に出るまでに何回チャイムを聞いたか知れない。  
朝っぱらから何なんだよ、とか思いながら扉を開けると、そこに居たのは女の子だった。  
誰だ、と俺が考える前に彼女はこう言った。「こんにちはぁ、お兄ちゃんが  
いつもお世話になってるって聞いてます!妹のまひろです!」そして頭を下げる。  
「まひろ」と言う名前には聞き覚えがあった。そうだ、たしかカズキ君の妹だったかと  
思い至った時には、まひろ君はもう用件を喋り始めていた。「実は、お兄ちゃんと  
お義姉ちゃんにプレゼントもって来たんですけど、二人とも居ないみたいなんですよぉ、  
カギもかかってるし…それで、お兄ちゃんがお隣の人と仲良いって聞いてたんで、  
何かご存知かなーと」つまり、ドッキリ的に突然訪問したはいいが留守だった、という話。  
今日は二人とも出張の日だと聞いてるよ、そう言った時の彼女の落胆ぶりは凄かった。  
しかし彼女の行動力はもっと凄かった。その姿を見かねて、カズキ君だけなら今日中に  
帰ってきて俺と飲む約束をしてるけど?と言った瞬間、パッと目を輝かせて、発した台詞が  
「ホントですか!?じゃあどうせだからこのお部屋で待たせてもらっても良いですか!?」  
…どうせだから、ってこんな使い方する言葉だったか。というか男の家(部屋だが)に  
自分から上がりこむ様な真似はよすべきだろう。それ以前に自分から他人の家に入りたいと  
いう風な発言は…とか色々思ったが、どうも彼女はこの辺の地理に詳しくないらしく、  
遊び場所どころか道を一本外しただけでこのマンションにも帰ってこれないと言う。  
オマケに、カズキ君達の部屋の合鍵も忘れたそうだ。…結局、まひろ君は俺の部屋で  
カズキ君の帰りを待つ事になる。下らない世間話をしたり、カズキ君夫妻の話で  
盛り上がったり、後は俺の唯一の特技である弾き語りを披露したりして時間を潰した。  
話していて分かったが、やはり彼女は少し頭のネジはゆるい様だ。まぁ、元気で向こう見ず  
なところは兄譲りかも知れない。悪い子では、絶対に無いんだが…放って置くと  
危ないタイプだ、多分。  
カズキ君が帰ってきてからは三人で一緒に飲んだのだが、この三人が共有できる  
話題というのは斗貴子君の事しか無い。そして、酔った時のカズキ君に斗貴子君の  
話題をふると惚気だけが返ってくる(確か前にもこんな事を書いたが…)ワケで、  
これ以上は愚痴になるので割愛しておこう。  
 
 
》月{日 水曜日 雨  
すでに機を失いつつある(というか失っている)彼らへのお礼の品を、とうとう  
手に入れたのが二日前だったか。ペアのエプロンというのは中々見つからなかったが、  
何とか購入できた。ので、今日はそれを届ける予定だったのだが……  
やっと礼を返せる、と意気揚々と扉を開くと、同じようにカズキ君達の部屋から  
男が出てきた。彼は俺と目が合うと軽く会釈してきたので、俺も返したのだが、  
彼は今にも泣き出しそうな雰囲気だった。とは言え、俺は彼が出てきた部屋の主達に  
用があったので、仕方なく、カズキ君達はいますよね?と彼に聞いた。彼は困った様な  
顔をして、「あぁ…今は入らない方が身のためですよ」と言った。そして、まだ完全に  
閉め切っていなかったドアを開き、見てみなよといった感じで俺に手招きをした。  
そこから見えたカズキ君と斗貴子君の二人は、どう見ても愛の言葉を囁き合っていた。  
「…ホラ…」と彼が呟いた彼の声は哀しかった。俺は扉を閉め、何も見なかった事にした。  
もしかして、君が来てたのにああなっちゃったのかい?と聞くと、彼は溜息を吐いて、  
「オレが居ようと居まいと、せんだ…あぁいや、職場でもどこでも、二人揃うとああですよ」  
なんて言った。彼も苦労しているようだ。何だか他人とは思えず、名前を聞いてみると、  
彼は中村剛太と名乗った。ちょっと飲みに行かないか、と誘ってみると、快く応じてくれた。  
彼も、俺にシンパシーを感じたらしい。今日一日で、剛太君とは親友と言い合えそうな程に  
親密になった。それからかなり飲んだので、酔い覚ましに日記を書いている感じだ。  
あ、結局お礼渡せてない…全く、何をやってるんだか。明日にでも渡さなければ。  
……よし、酔いも覚めたし、寝るとしよう!今日の日記は以上!たまには明るく(?)終わろう!  
 
 
3月11日 土曜日 晴れ  
「ホワイトデーのお返しって、どんなものがイイんですかね?」  
今日、カズキ君がウチに来て最初に言った言葉だ。あてつけかい?と言いそうに  
なったのをこらえ、何故そんな事を聞くのか聞き返してみると、彼はすこし笑って  
「イヤ…斗貴子さんへのお返しなんですけどね、この時期になるといつも迷うんです」  
と言った。バレンタインのお返しと言えど、そこは彼らの仲だ。斗貴子君もマフラーを  
贈っていたし、彼も何か形の残る物を渡したいのだろう。そう思って、アクセサリーは  
どうかな?と言ってみたが、彼は首を横に振った。「斗貴子さん、そういうの嫌いだから…」  
そういわれてみれば、彼女がその手のものを身につけている所は見たことが無い。  
「だから、プレゼントに迷うんですよ…」彼は続けてそう言った。  
最後まで答えがでないまま、彼は帰っていった。参考までに聞いた話では、これまでの  
ホワイトデーには衣服類を贈っていたそうだが…たまには趣の違うもの贈りたいらしい。  
服以外、アクセサリー以外で女の子の喜びそうな物っていうのは、確かに難しい。  
人に相談したくなる気持ちも分かる。でも何でまた俺に聞いてきたんだろうか。  
相手を間違えているとか以前の問題な気がする。やっぱり自慢だったのか?  
 
書いてるうちに思い出したが…斗貴子君は結婚指輪だけはつけていた様な…。  
そう、確かそのはずだ。前言ならぬ前記撤回。うん、指輪をプレゼントしたら  
いいんじゃないか?高くつく事にはなるが、まぁ案としては悪くないだろう。  
早速彼に言ってみよう。…でも、14日に間に合うかなぁ?  
 
 
3月13日 月曜日 晴れ  
九時半ごろに、カズキ君が訪ねてきた。今日は別に彼と会う約束はしていなかったから、  
正直面食らったのだが、彼がすごく嬉しそうだった事にもっと面食らった。  
「指輪、買いましたよ!相談に乗ってくれてありがとうございました!」  
彼の言った事を理解するのにはやや時間がかかったが、結局指輪に決めたという事らしい。  
しかしそこで、ある疑問が浮かんだ。サイズ直し等の事を考えると、完成が  
早過ぎるのではないだろうか。それを見透かしたかの様に、彼は続けた。  
「いい指輪があったんでサイズ聞いたら、丁度それが斗貴子さんのサイズと同じ  
 だったんですよ!ホント、明日に間に合ってよかったですよ!」  
つまり、店頭にあったものをそのまま購入してきたらしい。できた、と書くべきか。  
…思うに、彼は結構運がいいのだろう。欲しかった物が丁度条件を満たしている、そんな事は  
普通滅多に無い。俺は、礼なんていらないよと言っておいた。そもそも礼を言ってもらうような  
立場でもないのだから。それでも彼はもう一度ありがとうと言って、俺の部屋を後にした。  
彼のああいう爽やかさには、とても好感が持てる。好青年という言葉は彼に為にあると  
言っても過言ではないだろう。…俺もあんな感じだったらモテたのだろうか?  
 
 
3月15日 水曜日 晴れ  
少し心配だったが、カズキ君のプレゼントは喜んでもらえている様だ。朝のゴミ出しの時、  
ゴミ捨て場で偶然斗貴子君と会ったのだが、右手の薬指にキラリと光るものが。  
その指輪キレイですね?と聞いてみると予想通りの答えが返ってきた。  
「これ、昨日カズキがバレンタインのお返しにって…」そう言いながら彼女は少し頬を染める。  
グリーン色の、美しい宝石の指輪だった。エメラルド…いや、多分ペリドットだろう。  
何にしても、彼女が気に入ってくれている様子だったので、指輪を推薦して正解だった様だ。  
…それにしても、彼女へのプレゼントで悩むなんて懐かしい感覚だ。恐ろしく昔の事で、  
忘れてしまっていた様な出来事だった。……やっぱり欲しいなぁ、彼女…。  
いつか自分にも春は来ると信じつつ、ここでペンを置こう。  
 
 
 
 
 
 
 

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