「ただいまー」
そう言いながら、俺は部屋のドアを開けた。でも、何故か斗貴子さんが
迎えに出て来てくれなかった。鍵は開いてるし、今日は斗貴子さん休みじゃ
なかったっけ?そう思って寝室の扉を開けると、上体を起こしてこちらを
見ている斗貴子さんがいた。俺を見て、斗貴子さんの表情はパッと明るくなる。
「やっぱりカズキか!帰ってきてくれたんだな!」
「『帰ってきてくれた』って、俺が任務の時以外で帰らなかった事、
ないでしょ?」
そう言って微笑みかける。
「いいから、早く来い!!」
斗貴子さんは手招きをして俺を誘った。……何か変だぞ。
斗貴子さん、まだパジャマのままだし、今まで寝てたみたいだし、顔も
熱でもあるのかって言うぐらい赤い。大体、今日は戦団に来なかっ…あ。
「もしかして…」
カレンダーを見る。うん、斗貴子さんがこういう風になったのは、丁度一ヶ月ぶりだ。
「分かった、でもちょっとだけ待ってて。汗だけ流してくるから」
「そんなの別に…」
「でも、俺の汗で斗貴子さんが汚れちゃうなんて、俺が嫌だよ」
そう言うと斗貴子さんは不機嫌そうにウーと唸って、
「五分だけだぞ!すぐに上がってこないとブチ撒けるからな!!」
と言ってベッドにもぐりこんだ。五分じゃシャワー程度しか出来ないよ……。
でもまぁ、早く戻るのもある意味斗貴子さんの為になるんだから、別にいいか。
そう思って、俺は手近にあったタオルと自分の下着をとってバスルームに走った。
「おまたせ、斗貴子さん!」
本当に汗だけ流してきて、タオルで頭を拭きながらベッドに腰掛ける。
タオルを窓辺に引っ掛け、掛け布団の中に入ろうとするのと同時に、斗貴子さんが
俺の腰に手を回してきて、俺にくっついてきた。顔を見ると、さっきと同じか、
それ以上に赤くなった頬に、満面の笑みをたたえていた。
「ふふふ。気持ちいいな…。」
「痛いの、少しはマシになった?」
「ああ。すごく楽になった。……もっと強くしても、いいか?」
「もちろん!斗貴子さんがしたいだけ、強くしていいよ」
斗貴子さんは嬉しそうに腕の力を強めて、俺の胸に顔をうずめる様に抱きついてきた。
今日は斗貴子さんの、女の子の日。斗貴子さんの場合、痛いだけじゃなくて、少し、
熱がでた様になるらしい。当然、俺にはよく分かんないけど。そして、更に…
「カズキ。キス、して」
「うん、いいよ」
斗貴子さんはキスしやすい様に少しだけ顎を上向きにしている。唇に唇を重ねて、
鳥のいななく様な音をたてる。そして、スッと顔を戻すと、斗貴子さんは目だけ
怒らせて、こう言った。
「バカ。誰がそんなに短くしろと言った。もっとしっかり、舌まで絡ませる
ヤツをして欲しいと言ったんだ」
…ディープキスが欲しいなら、そう言えばいいのに。でもまぁ、斗貴子さんの唇を
味わえるんだから、文句なんか無いけど。何回でもキスしてあげるけど。
「じゃ、ご要望に答えて………」
「あ…んむぅ……くちゅ、ちゅ…」
女の子の日の斗貴子さんは、なんというか、すごく「甘えん坊」だ。
さっきからずーっと頭を撫でてあげてるけど、ただ心地良さそうに身を委ねる
だけ。多分いつもの斗貴子さんなら、『キミは私を子ども扱いしてるのか!?』
とか言ってくるだろう。(でも斗貴子さんの事だから、俺が『ゴメン、嫌だった?』
って聞けば真っ赤になりながら『そ、そりゃキミにされるなら嫌では…』って
言ってくれるよね!)斗貴子さんが俺に『キミに抱きついてると痛いのがマシに
なる様な気がするんだ。と言うかマシになるんだ、うん。だから、このまま
抱きついてていいか?』と言ってきたのが事の始まり。それから斗貴子さんは、
月のしるしが来る度に、いつもより少しだけストレートに俺に甘えてくる様になった。
何をして欲しいかを言う時も、いつもよりちょっと素直だ。
…そんな斗貴子さんも、すごく可愛い。いつもの斗貴子さんも大好きだけど、
甘えん坊な斗貴子さんだって大好きだ。だから、いくらでも甘えさせてあげて、
いくらでも甘やかしてしまう。やっぱり、痛いよりは痛くないほうが良いしね!
「ぷはぁっ…はぁ、気持ち良かった。ありがとう、カズキ」
俺と斗貴子さん自身の唾液で濡れた唇を動かして、俺に礼を言ってから、
再び俺の胸に顔を擦り付ける様に抱きついてきた。
「俺も気持ち良かったよ、斗貴子さん」
そう言って、俺も斗貴子さんを抱きしめた。そして、ニッコリと笑いかけると……
斗貴子さんは、火照った顔で、幸せそうに笑い返してくれた。
<番外の二・了>