Π月ε日 日曜日 台風、大雨
大粒の雨が窓を打つ音で、武藤斗貴子は目が覚めた。枕元の時計に目をやると、
午前九時を回っている。今度はリモコンを手に取り、テレビをつける。丁度
お天気番組がかかり、日本地図と渦巻く雲の様なものが映し出される。
…この地域は、今回の台風の強風域と暴風域の境目ぐらいに入っている様だ。
(建物の心配をする程じゃないが、外に出られる状況でも無いみたいだな…)
台風が昨晩の内に去っていてくれと願っていた斗貴子は、当然肩を落とした。
錬金の戦士である以上、一日休暇をとるのも楽ではない。ましてや、夫と休日を
合わせられるなんて奇跡に近い。そんな日が、まさか台風とは………
不意に、隣で裸の肩が動き、ムクリと上体を起こした。
「あ…すまない、起こしたか?」
「ふぁ…ううん、斗貴子さんの所為じゃないよ」
そう言って、武藤カズキは彼女に微笑みかけた。斗貴子は、それならいいが、
と言って、カズキとは逆にベッドに倒れこんだ。
「全く今日に限って台風だ何て、私達もツイてないな」
「んー、外には……出られそうに無いね」
「ああ。久しぶりに君と出かけられると思っていたんだが…」
斗貴子は既に不貞腐れ気味である。カズキも非常に残念だったが、しかし
斗貴子を見てニッコリと笑った。
「どうしたんだ?」
「いや、それでも、斗貴子さんと今日一緒にいられるんだからいいかなーって
思っただけだよ。」
そう言ってぎゅっと斗貴子を抱きしめる。カズキがそう言ってくれるのなら、
斗貴子も満更ではない。斗貴子もしっかりと抱きしめ返して、顎を少し上げて
キスをねだる。カズキがそれを受けて、軽く唇を重ねた。顔を離すと、斗貴子も
カズキもいつもの様に少しだけ頬を染めていた。
「おはよう、斗貴子さん」
「おはよう、カズキ」
朝の挨拶だけして、二人はまた抱き合った。雨も風も止んではいないが、
ただ幸せだなぁと、カズキは思った。
しかし、そこでふとある事に気付き、カズキは体を離した。唐突だったので、
斗貴子はほんの少し驚いた。
「…?どうしたんだ、カズキ?」
「イヤ、なんて言うか…」
じーっと、斗貴子の胸の辺りを見ている。いや、胸の辺りではない。
胸を見ているのだ。勿論、昨晩は一緒に寝ているのだから、斗貴子も一糸
纏わぬ姿である。その事に気付いた斗貴子は、また顔を赤くした。
「コラ。一生懸命にどこを見てるんだ。いくら夫婦でも、失礼だろう。」
「……………」
聞いていない。少しムカッときて、二の句を告げ様とした瞬間、カズキは
斗貴子の胸に手を置き、優しく力を加えた。
「あっ…あっ、オイ!」
感じた、と言うよりは驚きの方にウェイトがある声を出す斗貴子。カズキは
構わずに手を動かし続けた。
「ねぇ、斗貴子さんの胸、前より大きくなってない?」
カズキは真顔でそんな事を言った。
「んん、な、何なんだ、急に…?」
今度はこらえた様な声だ。顔もさっきより赤みが増して、眉間に小さくシワが寄る。
「ほら、胸って揉んだら大きくなるとかって言うでしょ。だから、もしかして
俺がよく斗貴子さんの胸揉んでるから大きくなったんじゃなかなー、って思って」
カズキがそんな事を言うモンだから、斗貴子の頭の中でカズキとの情事の光景が
フラッシュバックした。途端に、急激に体が熱くなる。まだ愛撫を続けるカズキの
手から、彼の体温が伝わる。ただそれだけで心地良い。とうとう耳まで真っ赤に
させながら、
「あ…あん、あっ…カ、カズキィ………」
と、非常に控えめに、自分が感じてしまった事を伝えた。ハッと顔を上げ、カズキは
やっと手を止めた。斗貴子の潤んだ瞳と視線が交わされる。カズキも自分の顔が熱く
なるのをはっきりと感じて、バツが悪そうに背中を向けた。
「…ゴメン、斗貴子さん。」
そう言って謝る。しかし、今度は斗貴子が擦り寄って、背中からカズキの胸に
手を回す。丁度、核鉄の心臓の上あたりに。
「と、斗貴子さん!?」
「…キミだって、鼓動が早くなってるじゃないか……」
確かに、カズキの核鉄はいつもよりずっと速くビートを刻んでいた。背中越しに感じる
斗貴子の呼吸は不安定で、荒い。斗貴子は続ける。
「ずるいぞ。こんな気分にさせるだけさせて、後は知らんぷりなのか?」
「で、でも…その……い、いいの?」
当然カズキのモノ自体は既に隆起している。しかし、カズキは今更ながら斗貴子にした
事に負い目を感じていた。
「じゃあキミは、…えーと、その、…し、したくない……のか?」
直接的な表現を避けようとするのが斗貴子さんらしい、とカズキは思った。そして、
(原因はカズキにあるとしても)斗貴子の方がしたいと言う事は非常に珍しかった
ので、カズキは嬉しくなって満面の笑みを浮かべながら振り返った。
「じゃあ…いい?」
肩に手を置いて、笑みを途切れさせずにそう言った。斗貴子の顔は相変わらず
赤いまま、視線をわざとはずしながらこくりと頷いた。
「んむ……ちゅ…んあ…はぁ……んっ…」
深く、もっと深くと、二人は唇を重ね、舌を絡めていた。カズキの手はまた、
斗貴子の胸を刺激している。その手の平は強く、しかし指先まで優しい。円を
描くように斗貴子の胸を押しつぶしたり、すっかり硬くなった乳首を軽くつまむ。
「あ、ぁ…ダメだカズキ、そんなに強くし――あっ、む…んちゅ、くちゃ…」
「あむ、ぷはっ…いいじゃない、斗貴子さん。きっと気持ちいいよ……」
そういって、カズキは斗貴子のうなじを舐める。ああ、と斗貴子の切ない声が
聞えた。カズキは、右手をゆっくりと下腹部に向かって動かした。
「あ、カズキ…んんっ!」
カズキが内腿ををなでたのだ。そこは秘所から溢れ出た愛液でよく滑った。
カズキは、決して肝心な所には触れないように、内腿をなでさすり続ける。
「あ、カズキィ…んっ、ああんっ、お、お願いだから…焦らさ……ないで!」
十分に赤い顔をまだ赤くさせながら、そう懇願する斗貴子がとても可愛らしくて、
カズキは心の底から嬉しくなる。
「じゃあ、触るよ」
わざわざ断りを入れ、斗貴子の秘所に触れる。湧く様に出てくる愛液でビショビショの
そこは、熱を帯び、カズキの指を容易に受け入れた。カズキは出来るだけ優しく、
そこを掻きまわしてみた。即座に斗貴子が反応する。
「あ、ぁん!やぁあ、はぁ…あん!んんっ…んぁっ!!」
斗貴子の悩ましげな声が、カズキの体を火照らせる。そろそろ我慢の限界だ。
「斗貴子さん、そろそろイイ…かな?」
遠慮がちにそう聞いた。泣きそうなのかと思うほどウルウルとした目でカズキを
見つめながら、斗貴子は小さく、ウン、と言った。
カズキは、自分のそれを斗貴子の秘所にあてがい、そして、ゆっくりと
腰を突き入れていく。
「あぁあっ、カズ、カズキィイ……」
「斗貴子さんの中、すごく熱いよ…」
グッと最後に力を込めて、斗貴子の奥まで到達した。
「カズキのも…すごく、熱い……」
「それじゃ、動くよ…」
大きく腰を引き、そして突く。徐々に加速しながら、それを繰り返す。
「はぁぁっ!だめ、だめだぁっ、カズキ!んあ、ぁ、あん!」
「斗貴子さんの中、すごいよく締まってるよっ…!」
「そ、そんなコト…んあぁ、いっ、言うなぁっ!!はぁんっ…」
斗貴子の背骨が弓なりに曲がる。そろそろ限界も近いようだ。最も、それは
カズキも同じである。
「斗貴子さん、俺、もう…」
「んん、カズキぃ、わたし、も…」
カズキは最後の加速をかけた。
「ああぁっ、カズキィイ…ッ!!」
斗貴子が先に達して、膣が強くカズキを締め付る。
「斗貴子さぁん、斗貴子さんっ…!!」
そして、カズキは斗貴子の中で果て、熱い白濁を流しこんだ。
「…それにしても、昨日の晩にあれ程激しかったのに、ホントにキミは元気だな。
エロスは程ほどにしろといつも言ってるのに、キミときたらいつもコレだ…」
「ええー、そんなにエロスじゃないよ、俺は」
「いーや、とんでもないエロスだ。そうじゃなかったら、毎回毎回あんなに
出来るはずがない!!」
斗貴子はそう断言した。カズキは当然納得できず、ふくれっ面を作る。
しかし、カズキはある事に気付き、斗貴子に指摘した。
「あ、じゃあ、毎回毎回ちゃんとそれに付き合ってくれてる斗貴子さんも、
エロスなんじゃない?」
斗貴子の顔はまた再び赤みを帯びた。
「バ、バカを言うなっ!そんな事ある訳ないだろう!」
「だって、斗貴子さんの言うとおりだとしたら、そうなるじゃん」
そう言ってカズキはニヤニヤ笑った。
「違うって言うんなら、俺がエロスだっていうのも撤回だよ?」
珍しくカズキに言い包められそうになる斗貴子。
「ち、違う!キミはエロスで、私は違うっ!それでいいんだ!」
「ああっ、そんなの無しだよ!ちゃんと自分の言った事に責任もってよ!」
「うるさい!目潰しするぞ!?」
右手でチョキの形を作ってカズキの顔の前に出す。カズキはここで敗北を悟った。
「…ゴメンナサイ」
「分かればいい」
斗貴子は満足そうにそう言った。すると、カズキの腕が斗貴子を抱き寄せた。
「…まぁ、斗貴子さんといれるんなら、エロスでも何でもいいけどね」
と言って、微笑んで見せた。斗貴子も、つられて笑った。
結局、この二人にとって、台風など大した問題で無いという事が証明された
一日だった。彼らがこの後も情事を続けたのは、言うまでもない。
さて、全く同日、一人腐れていた会社員がいると言う話もあるが、
それはまた、別のお話。
<番外・了>