「ん…………ふう──」
ゆらゆらと立ち昇る湯気に包まれ、津村斗貴子は湯船の中でゆっくりと手足を伸ばした。
「いい湯加減だな。……こんな風にリラックスするのは久しぶりだ」
シーズン中の割には静かな、岩の露天風呂。見上げれば、雲一つない夜空には白い満月が煌々と輝く。
少し熱めの湯の中で身体の力を抜くと、アルコールの倦怠感が少しずつほぐれ、勢い良く巡る血潮に
胸の鼓動が速くなる。
「ふふ…。なんだか不思議な感じだな。あの月に、ついこの前まで君がいたなんて」
微笑みながら、肩を並べて湯に浸かる少年に話し掛けた。
「う、うん……」
斗貴子の隣で、真っ赤な顔の武藤カズキが正面を見据えたまま返事をする。
「なんだ。君はさっきからずっとその状態で固まっているな。ここは温泉なんだから
もう少しくつろいだ方がいいんじゃないか?」
「そ、そりゃそうだけど……その……」
顔を正面に向けたまま視線だけ動かして、カズキは斗貴子を盗み見た。
ほんのり桜色に上気した頬と、潤んだ瞳。濡れないように髪を頭の後ろで一つ縛りにしているために
白いうなじが露わになっていて、まるで誘うように小首を傾げてこちらを見上げている。
「駄目だぁ〜〜! 斗貴子さん色っぽすぎ。やっぱ俺に混浴は敷居が高すぎるぅ〜〜!」
ザブン!
頭まで潜って、それからブクブクとカズキが湯の中から顔を上げてきた。
「…………なんで斗貴子さんはそんなに平然としてられるかなぁ」
「バカを言え。私だって恥ずかしくて緊張しているに決まっている」
斗貴子が湯から上げた左腕を右手で洗うようになぞる。細い腕を伝って落ちる雫が月明かりと照明に
輝きながら零れ落ち、揺れる波間に控え目な胸元が見え隠れした。
「けど、せっかくこうして一緒に居られる機会に恵まれたんだから。思い切らないと損だろう?」
「うぅ……。“混浴は女の人の方が度胸が据わってる”って、本当だったんだ……」
雑誌か何かで読んだ話を思い出して、カズキが俯く。そんなカズキの様子に斗貴子が吹きだした。
「クスクス…。まぁ、そうやって柄にもなくうろたえる君の姿が見れたのだから、やはり勇気を出して
一緒に入ったのは正解だったな。…………これであの連中が居なければ申し分無いのだが……」
ぼそりと呟いて、カズキの向こう側に並んで浸かるカップルをジト目で睨んだ。
「あらあらあら。随分な言われようね」
穏やかな微笑をたたえつつ、長い髪をバレッタでまとめた早坂桜花が斗貴子を見返す。その隣では、
彼女の双子の弟である秋水が、やや緊張気味な表情で垣根向こうの松の枝振りを眺めていた。
「念のために言っておきますけど、今宵の祝宴は秋水くんも主賓の一人。あなたに文句を言われる
筋合いは有りませんわよ、津村さん」
「一時はパピヨンの片棒を担いでいた貴様まで付いてくる必要がどこにある!?」
今回の温泉宿一泊旅行は、遅ればせながらブラボーの復帰祝い、カズキの帰還祝い、そして秋水の戦団
入隊祝いを兼ねて千歳、斗貴子、桜花をそれぞれ伴って催された。つい先刻まで宴会場で飲めや歌えの
ドンチャン騒ぎだったのだ。
「ま、まぁ、斗貴子さん。桜花先輩には色々助けてもらったんだし……」
「……姉さん。せっかくの旅行で諍い事は……」
「ふ、ふん。分かっている」「あらあら、ごめんなさい」
カズキと秋水の仲裁で、一瞬激しく散った火花が治まる。男二人は揃って密かに安堵の溜息をついた。
斗貴子と桜花。
小柄な体躯に凛とした強さを秘めた少女と、肉感的な肢体に和人形のような美貌を併せ持つ生徒会長。
見た目にも対照的な二人の美少女は、性格の面でもやや反りが合わないらしい。
『…っく、んっく、んっく…………ぷはーー』
『おお、いい飲みっぷりじゃないか桜花君。ブラボーだ!』
『あの、戦士長……。一応私達は未成年なので、あまり大っぴらに飲酒は……』
『はっはっは。固い事を言うな戦士・斗貴子。今日は特別だ』
『うふふ。ブラボーさんの言う通りですわよ津村さん。おめでたい席なんですから、こんな時くらい
羽目を外しましょう。……もっとも、未発達お子様体型の津村さんにお酒は毒かもしれませんから、
無理にお勧めはしませんけど(クスクス)』
『(カチン!)なめるな桜花! この程度の酒、たとえ核鉄の補助が無くてもどうということ(グイィーーッ)』
『あら、結構いけるクチね。……秋水くん、私にもう一杯』
『(ゴトン!)カズキ……注ぎなさい』
『あ、あの…斗貴子さん。そういう飲み方は、あまり良くないと…』
『姉さん。もうその位で……』
『カズキ!!』『秋水クン!!』
『『…………はい……』』
(結局あの後、怒涛の飲み比べだったもんなぁ…)
カズキと秋水がひたすら酌をして、斗貴子と桜花が互いを挑発しながらグラスを傾ける。最初はビール
だったのがいつしか熱燗に代わり、そのうち焼酎のお湯割りからストレートへ。見ている方が酔っ払い
そうな、まさに“死闘”だった。
とうとう見かねた千歳さんが二人のグラスを取り上げて、酔い覚ましにと露天風呂へ追い立てたのだ。
(斗貴子さんも、なんで桜花先輩相手だとあんなにムキになるんだろう)
首まで湯に浸かってあれこれと考えているうちに、熱さで頭がくらくらしてきた。慌てて立ち上がった
カズキは、タオルで股間を隠しながら斗貴子と桜花の目を憚るように湯船から出ると、ガラス戸を
隔てた内湯の洗い場へ逃げ込む。腰掛に座って一息ついてから、のろのろとした動作で蛇口を捻り、
桶に湯を流し込みつつ備え付けのボディソープをタオルに振り掛けた。
「すまないな、武藤」
いつの間にか秋水が隣に腰掛け、同じようにソープを泡立てている。カズキ同様、あの場所に
居辛くなったようだ。
「姉さんが絡んで、迷惑をかけた」
「い、いや! 斗貴子さんこそ、今日はなんだか普段と違ってて……あんな飲み比べとかしない人だと
思ってたんだけどなぁ…」
「それを言うなら、姉さんもあんな態度は他人には決してしない人のはずなんだが……」
「あの二人って、そこまで仲が悪いんですかね」
わしわしと腕を洗いながらカズキが問い掛ける。
「…………いや、仲が悪い、というのは少し違う気がするな」
こちらも体を洗いながら、秋水が答える。
「姉さんはいつも穏やかに笑っていて、なかなか本心を他人には見せないタイプなんだけど、彼女に
対しては割と素直に感情を剥き出している気がするよ。気に入った人にちょっかい掛けたがるのは
姉さんの癖みたいなものだしね」
「あ、そうなんだ。じゃあ桜花先輩は斗貴子さんの事を嫌ってる訳じゃないのかな。斗貴子さんは…」
カズキは、桜花のモーションに対する今までの斗貴子の反応を思い起こしてみる。
「そういえば……」
元々津村斗貴子は任務以外の事には淡白な人物だった。趣味といえる物も無く、人付き合いに慣れて
いないのか学校でもカズキ以外の人物とは一定の距離を置いているフシがある。
そんな彼女が、こと桜花に対しては異常な程の敵愾心を燃やす事実に気がついて、おや、とカズキは
首を捻った。
「斗貴子さんが誰かにライバル意識を持つのって、実はメチャクチャ珍しいのかも?」
「ライバルか。当たらずとも遠からず、といったところかな?」
ふむ、と秋水が頷いた。
「まぁ、当人同士がどれだけ自覚しているかは怪しいものだけど」
お互いに顔を見合わせて苦笑する。男同士の友情が静かに深まった瞬間だった。
「随分と話が弾んでいるな」
ひたひたとカズキの背後に歩み寄る足音と共に、斗貴子の声が近付いてくる。
「邪魔をしてしまったか?」
「ううん、そんなことな────」
振り向いたカズキの返事が途中で止まった。
恥ずかしげに俯き、視線を逸らせた恋人の裸身がそこに立っている。宴会場から直接風呂へ来た為に、
浴槽で纏うバスタオルの持ち合わせなど無かったのだ。
スレンダーながら鍛えられた健康的な身体は、湯気のフィルターを通しても分かるほどピンク色に
紅潮している。かろうじてタオルで前を隠しているものの濡れた布地はぴったりと肌に張り付いて、
胸の先端の突起や下草の翳りがうっすらと透けて見えていた。
その仕草のせいか。酒とお湯の火照りのせいか。それとも旅先という状況によるものか。
今まで何度も身体を重ねているはずなのに、普段の何倍も扇情的に感じる斗貴子の姿に自分のモノが
どうしようもなく反応して、カズキは慌てて前を向きタオルで股間を隠した。
「ど、どどどどうしたの? 斗貴子さん」
「君こそ、何で声が上ずっている? あ〜、その……。せっかく一緒なんだから、その……アレだ。
せ、背中を…………流そうと思ったのだが……」
「そ、そ、そうなんだ……。あ、でも……」
「嫌、なのか?……」
戸惑うカズキの様子に、斗貴子はいつになくしおらしい声で、縋るような目線を少年の背中に送る。
「そ、そんなことない!! すっごく嬉しいよ。嬉しいんだけど……」
この状況では非常にまずい。今でさえ不肖の息子が半勃ち状態でタオルを押し上げているのに、
これで背中を流されたら間違いなく臍まで反り返って臨戦態勢を整えてしまうだろう。そんな少年の
葛藤など気付いた風も無く、斗貴子はいそいそとカズキの背後に跪いた。
「なら、流させてくれ。今日は君が主役だというのにさっきからあれこれ気を遣わせてばかりで、
これでもすまないと思ってるんだ……」
後ろから伸びてきた白い腕に、カズキがドギマギする。たおやかな手はボディソープのボトルを掴んで
すぐに引っ込んだ。と、
「あらやだ、秋水くんたら。一人で身体を洗ってるなんて水臭いじゃない。“いつもみたいに”
お姉さんが背中を流してあげるわ」
わざと一部分を強調するように話して、桜花が斗貴子同様に秋水の背後に膝を突く。
「ふん、ただれた姉弟め!」「あら、当然のスキンシップよ」
互いに牽制し合いながら自分のタオルを泡立て、男の背中を流し始めた。
「ど、どうだ? このくらいの力加減で」
斗貴子がぎこちなくカズキの背中を擦りながら、反応を伺う。
「あ、うん、気持ちいい……。上手だよ、斗貴子さん」
「そうか、良かった。…………ふふふ。こうしてみると、やっぱり君の背中は大きいな」
「そ、そう?」
「ああ。いつだったか君に背負ってもらった時より、もっと大きくなった気がする……」
たくましさを増した少年の後ろ姿に、洗いながら次第に斗貴子の胸が高鳴っていく。
──出会いは、予想外の不幸な事故だった。ホムンクルスとの戦闘に巻き込まれ命を落とした少年は、
人一倍正義感の強い、けれど、どこにでも居る平凡な高校生のはずだった。
だが少年は新たな命と引き換えに、平穏な生活を捨て人々を守るために戦うことを決意したのだ。
強き意志とともに彼は著しい成長を遂げた。
少年が、化け物に肉体を侵食されつつあった自分を背負って山を降りた日を、斗貴子は今でも昨日の
出来事のように鮮やかに覚えている。彼自身も傷を負っていながら、自ら命を閉ざそうとした自分を
『あきらめちゃ駄目だ』と何度も励まし、ついには死の絶望から救い出してくれた。
あの時初めて気が付いた、彼の背中の大きさと温かさ──
(ああ、そうか。きっと私は、あの時に、もう……)
ふとタオルを持つ手が止まり、掌でカズキの背中に触れていた。
「うひっ!? と、トキコサン!?」
「あっ!? す、すまない! つい、その……」
「まあ、津村さんたら破廉恥な。ここがお風呂場だって分かってらっしゃるのかしら?」
秋水の背中を洗いながら、うろたえる斗貴子を桜花が横目で見遣る。
「ど、どこが破廉恥だ! わ、私はただ背中を流しているだけだ!」
取り繕うように斗貴子が両手でカズキの背中を撫で回し始めた。
「ちょっ!? と、斗貴子さん、それヤバイって!!」
ぬるぬると背中を愛撫される感触に、カズキのモノがさらに仰角を上げてきた。両手で押さえ込み、
必死に平静を装う。
「ふぅん……。それがあなた流の洗い方という訳ですのね。……いいわ、でしたらこちらも普段通りの
洗い方でやらせてもらいますわ」
桜花は意味ありげに斗貴子に向かって微笑むと、手に持っていたタオルを脇に置いた。そして裸のまま
秋水の首に腕を回し、背中へゆっくりと抱きついていく。
「な!?」「ね、姉さん!?」
うろたえた斗貴子と秋水の声にも、桜花は動じない。
「いいじゃない、秋水くん。私たちの仲の良さを見せ付けちゃいましょう」
鼻にかかった、甘えるような囁き声。
「うあぁ! 姉さ、ん……」
秋水の背中に柔らかな姉の肌が押し付けられ、擦り付けられる。とりわけ豊かな二つの膨らみが
むにゅむにゅと背中を撫でる気持ち良さに、たまらず声を上げた。
「ふふ……。秋水くんたら、剣道の合宿や大会から帰るといつもこれをおねだりするのよね」
「だ、だって……遠征中はずっと姉さんに会えないから、寂しくて……」
「秋水くん…………可愛い」
桜花は軽く弟の頬に口付けると、一層熱っぽく身体を擦り付ける。
くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ………
「んっ……ふっ…………う……」
肌の滑る音と桜花の吐息が浴場に響く。突然の出来事に、斗貴子はカズキの背を洗う手を止めて二人の
痴態に見入ってしまっていた。
「……ふ、ふん! 場所もわきまえずにベタベタと…。どっちが破廉恥だ」
気を取り直した斗貴子が、自分の事を棚に上げて吐き捨てる。それから改めてカズキの背中を流そうと
前を向くと、当の少年は隣の睦み合いを凝視したまま真っ赤な顔で硬直していた。
それを見た途端、プツン、と斗貴子の中で何かが切れる。
「カァ〜〜〜〜ズゥ〜〜〜〜キィ〜〜〜〜」
がっしっっっ!!!
問答無用で頭を鷲掴みにされて、カズキの顔が青ざめた。
「どぉ〜こぉ〜をぉ〜見ている」「ご、ご、ご、ごめんなさいぃ〜〜〜!!」
ギリギリと食い込む指に『殺される!』と本気で怯えるカズキだったが、その力はすぐに軽くなった。
「私だって……あのくらい……」
「え? 斗貴子さん?」
両手が少年の胸へと滑り、回した腕でぎゅっ、と抱きついた。
「うひゃあ!? と、斗貴子さん!」
「ん……カズキ…………」
背中に密着する少女の体温。くすぐったい柔らかさに、カズキのリミッターはあっという間に
振り切れた。完全勃起状態の愚息を隠すことにも思い至らず、伝わる感触に意識を集中する。
一方の斗貴子は、抱きついたもののそこからどうしていいのか分からず、ただじっと固まっていた。
「斗貴子さん……すごくドキドキしてる」
背中越しの鼓動に、カズキが前を向いたまま呟く。
「…………君だって……」
斗貴子の掌が、カズキの左胸に押し当てられる。失われた心臓の替わりに脈動する核鉄のリズムに、
少しだけ彼女の緊張が和らいだ。
「そ、それじゃあ…う、動くぞ」
「あ、うん……」
カズキの返事に、おそるおそる斗貴子が身体を上下させる。
(ふぁあっ……。やだ…………乳首、擦れて……)
動く度に、胸の先端に甘い痺れが走る。まるでカズキの背中を使ってオナニーしているような背徳感と
自分の身体で少年に奉仕している悦びが、倒錯した快楽を少女にもたらした。
「んっ……んっ……んふっ……」
無意識のうちに、斗貴子の呼吸に甘い声が混じり始める。
(うわわ! 斗貴子さんのが、せ、背中、当たってる!)
ぎこちなく、けれど懸命に擦り付けられるなめらかな肌に、カズキもすっかり頭に血が昇っていた。
小さいながらに柔らかく押し当てられた膨らみと、その中央でコリコリと存在を主張する突起の感触。
それらが背中の表面をぷるりと移動する度に、ペニスが反応して何度も跳ね起きる。
「っふぅ……ふぅ……ど、どうだ、カズキ? 私は……お、桜花ほど大きくはないけれど…」
膝を使って上体を動かしながら、斗貴子が耳元で囁く。
「凄いよ、斗貴子さん……これ、無茶苦茶気持ちよくて…………俺、もう……」
「ほ、本当に?……」
斗貴子が動きを止め、カズキの胸に回していた腕の片方を下腹部へと下ろしていく。そして探るように
伸ばされた手が、タオル越しにいきり立ったモノを捉えて握り締めた。
「うひゃろほふわぁ!?」
「あ、こんなに……。クスッ。嘘は言ってないようだな」
手の中の熱いシャフトに微笑を浮かべ、握り締めた強張りを上下に扱き始める。
「つ、津村さん! あなた、何やってるの!?」
斗貴子の大胆な行為を目の当たりにして、桜花が驚愕に目を見開く。
「うわわ!? ち、違うんです桜花先輩! これはその……」
「んん〜〜? 何って、カズキを洗っているに決まっているじゃないか。どうした桜花?
私達は“恋人同士”だからな。このくらい当然だろう?」
弁解しようとするカズキを制して、扱く手を休めず斗貴子が応じる。ふふん、と鼻で笑いながら。
「あ、あ〜〜ら。随分と仲睦まじいバカップルぶりですわね。お、おほほほほ」
笑いで返す桜花だったが、その頬は引きつり、眉が吊り上がっていた。愛想笑いを保持したまま、桶に
汲んだお湯で秋水の背中の泡を洗い落とす。
「……さ、秋水くん。背中は終わったから、今度は前の方を洗ってあげるわ。立ち上がって、こっちを
向いてちょうだい」
「い、いや、姉さん! それは流石にちょっと……」
姉の言葉に、いつも冷静沈着な秋水も思わずうろたえて後ろを振り返り──息を呑んだ。
「しゅ・う・す・い・く・ん」
姉を見た秋水の額を冷たい汗が伝う。笑みは絶やしていないものの、その背後に立ち昇るどす黒い
オーラ。反抗すればただでは済まないと本能が警告を発し、秋水は慌てて立ち上がった。
「あらやだ、秋水くんもこんなになってたのね」
カズキと同じくビンビンに勃起したペニスを目の前に突き出されて、桜花がクスクスと笑った。
「そ、そりゃあ姉さんにあんな事されたら誰だって……」
「うふふ。もう、秋水くんたら」
頬を赤らめながら、桜花は弟のペニスをそっと撫で上げる。姉の指に触れられるだけで、秋水の怒張は
更に充血し、その固さと大きさを一際増した。ほう、と桜花は息を吐くと、熱い視線を弟の怒張に
注ぎながら掌にソープを垂らして泡立てる。
「待っててね秋水くん。すぐに良くしてあげるから」
泡まみれの掌が、優しく弟のペニスを包み込んだ。
「くぅっ!」
姉の手は筒を握るように丸められて、血管の浮き出た肉のシャフトを上下に擦る。ソープのぬめりが
膣の中にくるまれているような密着感を生み、秋水は食いしばった歯の間から快楽の声を漏らした。
「凄いわ秋水くん。いつもより、ずっと熱い……」
弟の強張りを欲して身体の奥が甘く疼き始めるのを感じながら、うっとりと桜花が呟いた。
「うふふ。ちゃぁんと満遍なくきれいにしなきゃね」
左手でシャフトを握ったまま、右手が亀頭を包み込んだ。先端からくびれの裏側まで、丹念に指先で
擦っていく。
「どう、秋水くん。気持ちいい? 姉さんの手は気持ちいい?」
「…………いい……。最高だよ姉さん」
「くっ、あの淫売め! なんてあからさまな真似をぉぉ……」
明らかにこちらを意識した桜花の行動に、怒りに燃える斗貴子が歯軋りする。
「い、痛い痛い痛い!!」
無意識のうちに思い切りペニスを握り締められ、カズキが悲鳴を上げた。
「…………カズキ。立ちなさい」
「へ?」
「背中はもう終わった。今度は前だ」
「あ、あの、斗貴子さん。こーゆーのって別に誰かと張り合うようなことじゃ……」
「……た・ち・な・さ・い」
「は、はいいぃぃっ!!」
瞬間、首筋に走った怖気に急かされ、ばね仕掛けの人形みたいにカズキが跳び上がる。そのまま後ろを
振り返ると、ブルンと固く反り返ったペニスが斗貴子の前に晒された。
「んふ〜、いい子だ。……それじゃあ年上のお姉さんが、君のオチンチンを優〜しく洗ってあげよう」
トロンと潤んだ目で艶っぽく微笑み、普段なら絶対に自分から言わないような淫語を口にして、
斗貴子が両手に泡を塗りたくる。
「まったく、こぉんなにカチカチにさせて…。ここが公共の場だと分かってるのかなぁキミは。ん?」
口元に“へらり”とした笑みを浮かべたまま、からかうような口調でカズキのシャフトを片手で握る。
根元を締め付ける指の輪が、泡をまぶしながらそろそろと先端へ向かってゆく。
「ふぁぁ……ときこ、さぁん……」
カリ首まで上った指が、根元へ戻りまた上る。それは洗うというよりも明らかにペニスに快楽を
送り込む動きだった。絞り上げられた先っぽに、みるみるうちに先走りの雫が浮かぶ。
「ほぉら…。ちょっと擦っただけで、もう涎を垂らしてるぞ。ん〜? そんなに私の手はイイのか?」
空いたほうの手先で亀頭の先端をぬるぬると弄りながら、扱く手も休めず斗貴子が尋ねる。
今までになく積極的な斗貴子の行動に、快楽に溺れかけつつもカズキは妙な違和感を覚えた。
「斗貴子さん……もしかして、酔ってる?」
「なんらとう!? られがよっへるってゆーんら!!」
目を据わらせたまま憤慨する斗貴子。
「ロレツ! 呂律回ってないから!!」
「そうか!! 二人ともどうも様子がおかしいと思ったら、そういう事か!」
カズキ達のやりとりに秋水がはたと手を打つ。飲み比べの直後に風呂に入って身体が温まり、血行が
良くなったことで一気にアルコールが回ったらしい。
当然といえば当然の結果だが。
「ど、どうしよう秋水先輩」
「いや、どうと言われても……」
カズキと秋水は、困惑の表情でお互いの顔を見合わせる。
「こぉらぁ、よそ見しないの!」
手にしたペニスを捻り上げ、桜花は拗ねたように下から秋水を睨む。
「イタタッ、ご、ごめんよ姉さん」
「くすん。秋水くんたら津村さんの方を見てばっかり。……もう姉さんの身体に飽きちゃったのね?」
「ご、誤解だよ! 俺はずっと姉さんだけを…」
涙声で俯く桜花に秋水が慌てて身を屈め、姉の両肩に手を置いた。
「………………ウフフフフフフ。いいわ。なら姉さんの事しか考えられないようにしちゃお〜っと」
泣き顔から一転して、何かを企む笑顔。
ずい、と秋水の上体を押し退けると再び手に取った湯桶でペニスの泡を洗い流す。
「ふふ。秋水くんの、もうはち切れそう……」
天へ向かってそそり立つ洗いたての剛直を、桜花はそっと握って自分の方へと引き倒した。つやつやに
輝くピンクの亀頭を間近に見つめ、ちろりと覗かせた舌で唇を舐める。
「!? ま、待った姉さん! いくらなんでもそこまでは…」
姉の目論見に気付いた秋水が制する声も、既に桜花には届いていない。
「くすくす…………あ〜〜ん……」
かぷちゅっ。
「うああぁぁっ!」
掌よりもずっと熱い口内粘膜にくるまれ、背筋を快感が駆け抜ける。秋水はたまらず声を上げて身体を
のけぞらせた。
「んむ……ん…………ふふふ……」
秋水の反応に嬉しそうな笑い声を漏らし、桜花は弟のペニスを吸い上げる。
「お、桜花っ!? やり過ぎだぞ!!」
もはや言い訳のきかない桜花の行為に、カズキを扱く手を止めて斗貴子が怒鳴る。
が、相手は動じた風も無く、これみよがしに唇で肉茎を弄び、ちゅぽっ、と音を立てて引き抜くと
艶然と斗貴子に微笑みかけた。
「あらあら。でもこのままの状態じゃお風呂から上がれませんし、秋水くんだって辛いでしょう。
私のせいでこんなになってしまったのですから、昂ぶりを鎮めてあげるのも姉としての務めですわ」
「姉だから問題なんだろうが! いや、それ以前に人前でする事か!!」
負けじと斗貴子が言い返したが桜花は相手にもせず、秋水に向き直るとまた弟のペニスに吸い付いた。
「ああっ!!……ダメ、だよ……姉さ、ん……」
片手で真っ赤になった顔を隠し、秋水が身体を震わせる。拒絶の言葉を吐きながらも、あまりの
気持ち良さに姉の奉仕から逃げることが出来なかった。
軽く先端を含んだだけのように見えて、桜花の口の中では柔らかな舌がくるくると亀頭に纏わり付き
敏感な裏筋をくすぐる。あるいは尖らせた舌先でペニスの先割れをくじり、滲み出た先走りの汁を
舐め取る。
「あっ……あっ……。酷いよ姉さん。先の方だけじゃなくて……もっと……」
「ふふふ。“もっと”なあに? こっちも良くして欲しいのかしら」
亀頭から口を離し、桜花は肉茎の部分を指先で擦り上げた。それだけで秋水のペニスは今にも爆発
しそうに激しく跳ねる。
「クスクスクス。……でも、だぁめ。もっともっと我慢できなくなるまで、お預けよ秋水くん」
娼婦の如き男を蕩かす微笑みとともに、また先端を口中に収める。
「あぁっ! 姉さん! 姉さぁん!」
「…………桜花先輩……スゴ……」
目の前で繰り広げられるナマ近親相姦ショーに、カズキは完全に圧倒され魅入られていた。
桜花が舌を伸ばしてちろちろと秋水の丸い先端を舐める仕草に、まるで自分がフェラチオされている
ような錯覚を覚えてどうしようもなく股間が滾ってくる。
そんなカズキを、斗貴子は彼の前に跪いたまま悲しそうに見上げる。彼女の手の中で少年のモノは
熱く脈打っているが、その瞳は少女を向いてはいない。俯き、唇を噛んだ。
「カズキ…………」
意を決して、斗貴子もまた桶を手に取った。泡まみれで天を衝く怒張に湯を注ぎ掛ける。
「熱ちちっ。……あ、え? と、斗貴子さん!?」
刺すような湯の感覚に、カズキの意識が引き戻された。慌てて下を向けば、斗貴子が自分のモノへと
顔を寄せつつある。
「んむ……」
ちゅっ。
「ふわあっ!」
裏筋への口付けに、カズキの身体が震えた。
「んっ。カズキ……カズキィ…………」
ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。
張り詰めた亀頭に。血管の浮き出た竿に。ペニスのあちこちへと斗貴子は口付けを繰り返す。
「んっ……。何でもする。君のためなら、私は何でもするから……。だから……。
桜花じゃなくて、私を…………」
「斗貴子さん……」
少年のペニスを愛おしく両手に包み込み懸命に尽くす斗貴子の頬を、そっとカズキの手が撫でた。
「ごめん、斗貴子さん……。でも誤解しないで。俺は斗貴子さんだけだから。本当だから」
「ああ……カズキ…………。嬉しい……」
カズキの言葉に安堵と喜びの笑みを浮かべ、再びペニスに唇を寄せる。小さな舌で、人並み以上の
サイズを誇る少年の肉茎を舐め上げた。
「くぁっ! 斗貴子さん……それ、やばい……」
「ん…………ん…………」
揃えた指先を紅潮した竿の根元に添え、押し付けた舌をねっとりと這わせる。何度も頭を上下させ
ペニスの腹側を繰り返し舐めしゃぶると、今度は首を傾げて横咥えし、側面も唇と舌で愛撫する。
斗貴子の送り込む刺激と、何より頬を染めて一心に奉仕する彼女の姿に、カズキは愛おしさと快感が
同時にこみ上げて急速に絶頂へ向かい駆け上がっていく。
斗貴子の口唇奉仕を視界の隅にみとめて、ふん、と桜花は鼻を鳴らした。
(思った通り対抗してきたわね津村さん。けど、こちらの誘いに乗った時点で勝負は見えているのよ)
秋水のペニスから口を離す。さんざん嬲られ、真っ赤に充血している先端と唇の間に粘液の糸が引いて
途切れた。
(あなたと私の決定的な差を思い知らせてあげますわ)
桜花は己の勝利を確信し、その場に膝立ちになると瑞々しく張った乳房を両手で支え上げる。
掌から零れ落ちそうな膨らみは、下から持ち上げられたことで“たゆん”と柔らかく揺れ、一層その
大きさを増したように目に映る。
「姉さん……」
姉の意図を察した秋水は、今度は止める事無く、心持ち腰を落として姉の胸元へ剛直を寄せる。
そして魅惑の谷間へと、桜花は弟の強張りを挟み込んだ。
「ああ、凄い!」
声を上げたのは桜花の方だった。
「こんな……こんなに大きく、熱くなってるなんて。……ごめんなさい秋水くん。姉さんたら、我慢
させ過ぎちゃったみたいね」
双乳に挟んでなお亀頭が顔を覗かせる怒張に、心底申し訳無さそうな声で桜花が囁く。自分の手で
乳房を左右から押し付け、こね回し、弟の竿を胸で揉み擦る。
「……ふ……ぐ……」
秋水は歯を食いしばり、あえなく果てそうになる欲望を必死にこらえていた。
濡れた姉の乳房は最初こそ少し冷えていたものの、ペニスを挟んでこね回すうち次第に熱を帯び始め、
時折乳首が足の付け根や下腹部を掠めてくすぐったい快楽を送り込んでくる。
「アハッ。秋水くんのオチンチンが膨らんできた。奥から精液がこみ上げてくるの、感じるわ」
限界まで熱く固く張り詰めた秋水のペニスを肌で感じ、熱にうかされたように桜花が呟く。
「姉さん……俺、もう……」
「いいのよ、秋水くん…………ホラ……」
竿を胸に挟まれたまま先端を舌で刺激され、ついに秋水は達した。
「くうううぅっ!!」「ああっ!!」
勢い良く噴き出した白濁液が姉の胸に、顎に、頬に飛び散り汚していく。それだけでは飽き足らず
秋水は桜花の頭を押さえ付け、胸の谷間で自らの怒張を前後させて快感の余韻を絞り出す。桜花は
されるがまま弟の欲望にその身を捧げ、目を閉じて精液とペニスの熱さに肌で感じ入っていた。
「はぁ…………はぁ…………姉さん……」
「うふっ。……いっぱい出たね、秋水くん」
ザーメンまみれのまま秋水に微笑み掛けた後、桜花は斗貴子へと余裕たっぷりの視線を送ってみせた。
(桜花め。どうせその手で来ると思ったぞ)
カズキのモノを横咥えにしたまま、斗貴子は桜花と睨み合う。
(だがそれしきで勝ったつもりなら、この私を甘く見過ぎたな!)
ぬぬぬぅ〜〜〜〜…
唇をカリ首の辺りまで滑らせ、カズキに正対するように顔と身体を向け直すと
「……あむっ」
パンパンに膨らんだ亀頭を口に含んでいく。
「うわ…。斗貴子さんの口、あったかくて……気持ちいい……」
ぶるるっ、と身体を震わせ、カズキは悦びを伝えるように恋人の頭を撫でた。
斗貴子は一瞬だけ嬉しそうに目を上げてカズキに応えると、先程の桜花と同じように口の中で丸い
先端をくるりと舐める。鈴口から滲み出た露を味わってから
「ん…………ぐ……」
大きなカズキのモノを、ゆっくり、少しずつ深く咥えていく。
「……ん……ふ…………」
口の中いっぱいに収めたところでようやく半分。そこからが斗貴子にとっての勝負所だった。
二、三度鼻から深呼吸して息を整えると、喉を大きく広げて
「んぐっ…………」
更に奥まで怒張を飲み込んでいく。
「うわ……うわ……斗貴子、さぁん!……」
「……うぐっ!……む…………ん……」
喉の粘膜に亀頭が触れた途端えづきそうになるのを必死にこらえ、斗貴子はカズキを導き入れる。
熱い塊が喉を押し広げていく圧迫感も、呼吸もままならない苦しさも、それが愛しい恋人のためなら
悦びに変えられる。
「ふぁ………ぁ……とき、こ……」
締め付ける唇の輪が、とうとうペニスの付け根に到達した。同時に竿の部分に舌が押し当てられ、
先端を喉奥できつく包み込まれる感触に、カズキは呆けたように口を開き、快楽の呻きを上げる事しか
出来ない。
「ん〜〜〜〜……」
斗貴子は苦しさに涙を浮かべながら、喉奥まで飲み込んだ肉棒を、今度はゆっくりと引き抜いていく。
赤黒くぬめり輝くシャフトが少しずつ姿を現し、カリ首の辺りまで引いたところで止まった。
先っぽを咥えたまま斗貴子は再び呼吸を整え、息が落ち着くとまた奥へと飲み込んでいく。
最初でコツを掴んだのか、今度はそれほど苦しそうな様子も見せずに喉まで肉棒を受け入れた。
また引き抜き、そして飲み込む。
「うっ……くぅ! ……ダメ、斗貴子さ……俺…………も……限か……」
3度目のディープスロートで、このまま激しく突き入れたい欲望をこらえながらカズキが告げた。
「んむ…………」
斗貴子が剛直を喉から引き抜き────トドメとばかりに先端を甘噛みする。
「斗貴子さんっ!!」「んぶうううぅぅぅっ!!!」
とうとう耐え切れずカズキは斗貴子の口にブチ撒けた。撃ち出された白濁が、鈴口に宛がわれていた
舌の上で弾けて口いっぱいに広がっていく。
びゅくん、びゅくん…………びゅくん……
斗貴子は口の中に精液を溜め込んだまま、目を閉じて射精の律動が治まるのを待つ。そして勢いが
治まったところで精液を零さないよう慎重にペニスから口を離した。わずかな逡巡の後、意を決して
こく、こくん
白い喉が動いて、少年の放った粘つく青臭い体液を飲み下す。だが、
「うぇっ! こほっ。けほっ」
さすがに全部は無理だったらしく、タイルの上に座り込んだまま口元を手で覆ってむせた。指の間から
飲みきれなかった白濁が滴り落ちる。
「だ、大丈夫? 無理しないでよ斗貴子さん」
「……は、初めて飲んだが、結構ノドに絡み付くものだな……でも、キミの精液なら嫌じゃない」
涙目になりながら、それでも斗貴子はカズキに笑顔で応えた。唇の端に垂れた精液を指先でぬぐう。
「斗貴子さん……」
カズキは感動に震え、自分も跪くと斗貴子の身体を抱き締める。斗貴子はカズキの背にそっと腕を回し
ニヤリ、と口を歪めて桜花に視線を返した。
「くっ! やってくれるわね津村さん…」
桜花がわなわなと震え、悔しげに爪を噛んだ。
「正直ここまでしぶといとは思いませんでしたわ。まさかそんな『ビックリ人間ショー』みたいな
芸当をお持ちとは知りませんでした」
一糸纏わぬ格好で腕を組み、桜花が斗貴子に言い放つ。
「貴様もな、桜花。男に媚びる腹芸の数々、よっく見せてもらった」
負けじとこちらも素っ裸のまま、カズキを押し退けた斗貴子が仁王立ちになって言い返した。
「まぁ、その涙ぐましい努力だけは認めて差し上げますわ。見た目の魅力に乏しい分は
技術を磨かないと武藤君がかわいそうですものね」
軽く顎を上げ、斗貴子を見下ろすように睨んで桜花が微笑む。
「ふん。貴様こそ、ちょっと油断して肉が付くだけで台無しの体形になるのをギリギリ抑える為に
陰で必死なんだろう。宴会ではさんざん飲み食いしていたが、せいぜい体重計に怯えていろ」
両手を腰に当て、斗貴子が不敵に笑う。
「言ってくれるわね。でも好きな人の為ならそんな苦労も気にならないわ。やっぱり殿方にしてみれば
この位のプロポーションが無ければ抱いた心地がしませんものね」
「そ、そんなもの、好みは人それぞれだろうが! とはいえ、甘ったれのシスコンなら大きなオッパイ
欲しがるのも当然だろうがな」
「………………なんですって?」
桜花の顔から笑いが消えた。声のトーンが幾分落ちて、厳しい口調に変わる。
「聞き捨てならないわね津村さん。私はともかく、秋水くんの事を悪く言うのは筋違いじゃないの。
だったら言わせてもらうけれど、武藤君だって絵のセンス同様に女性の審美眼は随分と疑わしいわね」
「っ!? カズキを侮辱する気なら許さんぞ桜花!」
斗貴子が目の色を変えて拳をかざして見せるが、桜花は怯まない。
「侮辱じゃなくて事実ですわよ。……それともぉ、誰かさんが無理矢理脅して付き合ってるのかしら」
わざとらしく手の甲で口元を隠し、得意の含み笑い。対する斗貴子も負けてはいない。
「ふふん。カズキの愛情を疑っているのなら、それこそ見当違いだな桜花。私が尽くす以上にカズキは
私に良くしてくれるぞ。いつも軽〜く一回イクぐらい念入りにクンニしてくれるし……」
「ワーーーーーッッ!!! ワーーーーーッッ!!!」
うっとりと自分の身体を抱き締めて回想する斗貴子の言葉を、カズキが大声で遮った。
「あ〜〜ら。秋水くんだって、私が泣いて許しを乞うまでそれはもぉねちっこい愛撫を…」
「ね、姉さん! 恥ずかしいから止めて!!」
「ほう……面白い。それならカズキと秋水、どちらがパートナーへの愛情が深いのか、この場で
きっちり証明してやろうか!?」
「笑わせますわね。ついこの前まで処女と童貞だったくせして、私たちのキャリアに敵うと思って?」
「ふん! 貴様らの内向性現実逃避な近親相姦なぞ、共に死線をかいくぐった私達の“一心同体”の
足元にも及ばん!!」
炎をバックに浮かび上がる龍虎相対の図。あるいはハブとマングース。はたまた威嚇し合う狐と狸。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…………!!」
「フウウウウウゥゥゥゥ…………!!」
「うわぁ…………なんか嫌〜な予感がするなぁ……」
女同士の睨み合いを遠巻きに眺めて、カズキがフリチンのまま肩を落とす。
「奇遇だな武藤。……実は俺もだ」
隣では同じくフリチンの秋水が、腕組みをしながら成り行きを見守っていた。
ここまでは“被害者兼傍観者”に過ぎなかった自分たちが、なにやら勝負の片棒を担がされそうな
話の流れになってきている。これでもし不首尾なことをやらかしたら何を言われるか、どんな仕置きを
受けるか分かったものではない。
「…って、ボーゼンとしてる場合じゃないですよ秋水先輩!! 何とかして二人を止めないと!」
冷や汗垂らして慌てるカズキに、秋水は目を閉じてしばし黙想する。固唾を呑んでカズキが見守る中、
彼はゆっくりと目蓋を開いた。
「…………すまん、武藤。ああなった姉さんは、もう俺にも止められない」
「そ、そんなぁ〜〜〜………」
「逆に尋ねるが、君はあの状態の彼女をどうにか出来るのか?」
未だ桜花と睨み合う斗貴子を指し示されて、『うっ』、とカズキは言葉に詰まった。
「……ごめん、秋水先輩。やっぱ俺にも無理…」
「そうか。…………ならば打つ手は一つしか無いな」
「な、何か名案でも!?」
藁をも掴む思いのカズキに、秋水が黙って頷く。
「俺が思うに、そもそもこの対決は二人の“女の意地とプライド”の張り合いが原因だろう。ならば、
この際逆にお互いを辱めて醜態を晒し合い、二度と張り合おうと思わない位にプライドを打ち砕いて
しまうのが結果的には得策ではないだろうか」
「…………そ、そ、そ、そんなオソロシイコト……」
無謀とも思える秋水の提案に、カズキが本気で震え上がる。
「だがやるしかあるまい。どこかで歯止めを掛けないと、そのうちエスカレートし過ぎて刃傷沙汰に
発展しそうで不安だ…」
「……なんでだろう。悲しいけど冗談に聞こえない……」
恋人が過去に示したスパルタンな言動が走馬灯のように思い浮かび、少年は涙目で力無く笑った。
「秋水くぅ〜ん。姉さん、少し身体が冷えてきちゃったわ。……温めてくれる?」
「カズキ! ……そ、その……さっきみたいに、今度は……わ、私の背中を流して…くれないか」
(来たぞ武藤。こうなった以上、覚悟を決めろ!)
(分かったよ秋水先輩。所詮俺も、戦いから逃げられない運命なんだ!)
少女たちの誘う甘い呼び声に、カズキと秋水は互いに目で頷き合い、新たな戦場へ一歩を踏み出した。
〔取り敢えず終了。もしかしたら後編に続く〕