目を覚まして辺りを見回してみると、そこは自室ではなかった。
いや、そもそも自室で寝た記憶はないのだから当然かもしれない。
しかし、自室以外で寝た記憶もなかった。
頭ははっきりせず、目蓋は重く、かなり寝付きが悪かったのがうかがえた。
剣道の練習のあと、不覚にも居眠りしてしまったかな・・・
・・・じゃあこの手枷と足枷はなんだ?
枷に気付いた瞬間から俺の脳は飛び起きた。
辺りを見回すと何もない。5m先に何か布の塊が落ちてるだけだ。
なんだ!?あれ?俺どうしたっけ!?
確か・・・そうだ、今日は日曜で・・・部活がないから朝稽古して・・・
で、姉さんの作ってくれた昼食を食べて・・・で・・・で・・・
・・・やられた。
姉さん、昼食に何か入れたな・・・
俺は自体を把握した。どうやら姉さんが俺をどこかに監禁したらしい。
俺は頭を抱えてため息を吐くしかなかった。
何考えてんだよ姉さん・・・弟を拉致監禁する姉なんてきいたことないよ・・・
呆れていると先程の布の塊がもぞっと動いた。
俺は思わず身構えた。
一瞬ホムンクルスかと思ったが、そのはずはないことにすぐ気が付いた。
連中は数ヵ月前に月の世界に旅立ったから。
そもそも、いくら姉でも弟の俺を人食いの怪物と同じ部屋に
無抵抗状態で放り込みはしない・・・はずだ。
じゃああれはなんだ?
よく目を凝らして見てみると、布は布団のようだ。
それが三ヶ所くらい何かで縛られている・・・縄跳びか?
そして布団の端からでてるのは・・・どっかで見たようなツンツンヘアー。
武藤か!?
「武藤!!」
俺は頭の主らしい後輩の名を読んだ。
すると布団の塊からう〜んとうめき声がした。
そのまま布団の塊はこちらに半回転する。
目の前には見慣れた後輩の寝呆けヅラがあった。
武藤は薄目をあけてこちらを見、重い口を開けた
「う〜ん・・・あれ?秋水先輩?お早ようございます。何で俺の部屋に?」
まだ寝呆けているらしい。俺はまたもため息を吐いた。
「よく見ろ。ここはおまえの部屋なのか?」
それを聞いて武藤は顔だけ動かして辺りを見回した。
最初はのんきな顔をしていたが、キョロキョロするごとに焦りだした。
自体を把握してきたらしい。
「え?、え!?ここどこですか!?」
「俺にもわからない。というかお前、何にも覚えてないのか?」
「いや、俺は普通に朝起きて・・・ベッドでぼ〜っとしてたらまひろが来て・・・
クッキー作ったから食べてっていわれて食べて・・・食べて・・・あれ?」
どうやらそこで記憶がとぎれたらしい。
「お前もか・・・」
何となく予感はしていたが。
「え?どういうことですか?」
「俺も姉さんの昼食を食ってからの記憶がない・・・たぶん薬か何かが入って・・・」
「あら?二人ともお早よう。」
俺の話をさえぎって後ろの方から声がした。
その声の先には・・・
「ま、まひろ!?」
武藤は完全にうろたえている。
「姉さん!!これはどういうことなんだ!?」
もはや、姉が何かをしたことは明白だった。
俺は少々怒気をこめて姉をにらみつけた。
しかし姉さんはうふふと笑って受け流した。
「あらあら、怒らないで秋水クン。黙ってつれてきたことは謝るわ。」
「ごめんなさい先輩。おにいちゃんもごめんね?」
武藤の妹も謝っている手前、これ以上怒りを顕にするわけにもいかない。
「・・・で、なぜ俺は拘束されて、武藤は布団でスマキにされてるんだ?」
俺は即座に核心を突いた。
この異常自体の真相を知りたかったからだ。
「フェアトレードしたからよ。」
「「フェアトレード!?」」
俺と武藤は声をそろえて聞き返した。フェアトレード?何のトレードだ?
「ええ、秋水クンと武藤クンのね。」
姉さんはこともげもなくいった。
「「はぁ?」」
俺たちのトレード?ますます意味がわからない。ただむちゃくちゃな事なのは解った。
姉さんは続ける。
「まひろちゃんがね、秋水クンの事をとても気に入ってるみたいで
色々相談を受けてたの。だから一日だけあなたを貸してあげる事にしたのよ。
代わりに私は武藤クンを借りるってわけ。」
わが姉ながらとんでもないことをいう。これでは人身売買ではないか。
「ちょ、ちょっとまって!?斗貴子さんはこの事しってるの!?」
武藤がすがるように聞いた。
「あ、お姉ちゃんは今日は久しぶりにジムでトレーニングしに行くって出掛けていったよ。」
「津村さんにはあなたは今日用事があるといっておきました。
御前樣を監視に付けましたから帰ってきてもわかります。」
そこまで聞いてさすがの俺も黙っていられなくなった。
「姉さん!!ふざけるのもいい加減にs」
プシュー――――――ッ
俺が言い切る前に姉さんは何やらスプレーを俺に吹き掛けた。
とたんに意識が遠退く。
武藤には彼の妹が吹き掛けていた。
「さすが毒島さんの作った催眠ガスね。しかも男性にしか効かないんだから。」
「それにしても華花ちゃん、今頃私たちが用意したデート、楽しんでるかな?」
「それはきっと大丈夫よ。さて、私たちも楽しみましょう・・・」
薄れゆく意識の中、俺の聞いた会話はそんな感じだった・・・