上司キャプテンブラボーに休暇を貰った私、カズキ、その他は伊豆の温泉宿を目指していた。
電車を乗り継ぎあと数十分後には目的地に着く。昨日の晩随分と浮かれていたカズキは
案の定爆睡していた。興奮して眠れなかったのだろう。可愛い寝顔だ。
先月は立て続けに任務が入り休む暇も無かった。見かねた戦士長が四日間の休暇と
慰安先として温泉宿を用意してくれたのを聞いたのが先週のことだ。
カズキと一緒に居られる時間が少なかったせいでカズキがエロスな雑誌にうつつを抜かす現場に
出くわしてしまったのだが、今回は特別に許してやろう。良妻賢母を目指す者としてはあまり
頭が固いのも良いものでは無いしな、元気な証拠だし。
私は戦士長がこの旅行に戦士として別の任務を含ませていることに気が付いている。
これから先、私とカズキはパートナーとして戦場に駆り出される事だろう。
ますます激しくなるホムンクルスとの抗争を生き残るためには、私とカズキの絆を
カスピ海並みに深い物にしておかねばならない。あくまで任務のために。
「いやぁー温泉なんて久しぶりですよ、楽しみですね先輩。」
カズキの隣りに座っているタレ目が話し掛けてきた。うるさい今カズキとの子供の名前を
考えているんだ邪魔するな。それにしてもカズキの寝顔は可愛いな。
「戦士長も一緒に来たかったみたいですけどね、仕事が溜まってるそうですから。」
ついでにお前も来なかったらどんなに良かったか。
「折角の休暇なんですから、俺達だけでもゆっくりさせてもらいましょう。」
適当に返事をした後、窓の外を見るフリをして窓に反射するカズキの寝顔を見る。
可愛いよカズキ カズキ可愛いよ
今すぐカズキの艶めかしい肢体をむしゃぶり尽くしたい衝動に駆られるが隣のパツキンが邪魔だ。
まあいい、チャンスはいくらでもある。なんせ二泊するのだからな。
あっという間に目的の駅に近づいてきた、そろそろカズキを起こさなければ。
「あれっ?俺寝ちゃってたんだ、ごめん斗貴子さん。」
いいんだカズキ。今夜は眠れないかもしれないからな、今の内に寝かせておいたんだ。
「どうせ昨日の夜はしゃぎ過ぎて寝てないんだろ、ガキかお前は。」
体の一部はとんでもなくオトナだがな。
「ゴメンゴメン。あ、もう着くよ、剛太荷物。」
「あいよ。」
電車を降り駅から一歩外に出ると、温泉街ならではの土産物屋が立ち並んでいた。
「賑やかだね、あっ斗貴子さん荷物持つよ。」
こういったさり気無い優しさがカズキの魅力の一つなんだ。あぁカズキ!もっと優しく!
「お前の方が荷物多いだろ、俺が先輩の荷物を持つ。」
だまれ、ブチ撒けるぞ。
結局自分で荷物を持ち、賑わう露店を横目に歩き出す。こっちの方向でいいはずだ。
途中カズキがまんじゅうや大判焼きを買おうとしていたが止めに入った。
時間が時間だ、宿に着いたらすぐに夕食だろう。それまで我慢しなさい。
宿泊先は駅から程近くにあった。なかなか有名な温泉宿で食事も美味しいらしい。
戦士長に感謝しなくてはなどと考えていると、そこそこに新しい旅館が見えてきた。
「津村様ですね、遠い所よくお越し下さいました。お部屋にご案内いたします、どうぞこちらへ。」
仲居さんに連れられて部屋に通される。いい部屋だ、狭いという事もなく掃除も
行き届いている。なにより窓から町全体を見渡せるこの風景はとてもいい。しかし
「食事はお隣に用意させていただきますので。」
二部屋の内この部屋には私しかいない。当然のように男女別だ。
私はカズキとの仲をより親密にするために此処に来たというのに何なんだこれは?
食事以上にカズキを食べたいというのにその辺への配慮は無しか?えぇい女将を呼べ。
ノックが聞こえまさか本当に女将が来たのかと思ったらカズキが顔を出した。
「斗貴子さんごはんの用意しばらく掛かるそうだから、一緒に温泉行かない?」
「何を隠そう俺は温泉の達人だっ!」
と誰に向かって宣言しているのか分からないカズキとにやけ顔のへタレを連れて
大浴場へと向かう。風呂上りの客とすれ違うがみんな満足そうな顔をしていた。
青いのれんに男、赤いのれんに女と書かれた入り口が見えてきた。
混浴を期待していたのだが、完全に男女別のようだ。えぇい女将を呼べ。
「じゃ、じゃあ俺達はこっちだから、斗貴子さんまた後で。」
鼻の下を伸ばした小僧も何か言っていたがそれより風呂に入る前なのに顔が赤くなった
カズキの事で頭がいっぱいだ。カズキも混浴が良かったのか?それともこれから風呂に入る
私の裸を想像したのか?まったくエロスはほどほどにしろと言っているのにしょうがない子だ。
今頃カズキのサンライトハートJrが私に突き刺さりたくて暴れているかもしれない。
『斗っ、斗貴子さんゴメンっ、もう我慢できないっ!!』
はっ!いけない、想像だけで軽くイってしまった。
気を取り直して風呂に入ろう。夜の事もあるからな。
目の前に予想よりずっと豪華な造りの露天風呂が広がっていた。
私を含め十数人しか客はいない、のんびりできそうだ。
浴槽に入る前にシャワーで汗を流し、備え付けのボディソープで体を洗う。少し丁寧に。
確かに私は背も低いし胸も小振りだが腰の細さと脚線美、肌の張りには自信が有る。
実際カズキも私の足はお気に入りで、太ももをキスマークだらけにされた事もある。
今回は長いスカートを持ってきていないので他の箇所を愛してもらおう。
とりあえずへそを念入りに洗っておく。
カズキも今ごろ体を洗っているんだろうか、口には出さないがヤる気満々だからな。
なぜなら今日の朝カズキが起きる前にカズキの荷物をこっそり漁ってみると明るい家族計画が
1カートンほど出てきたからだ。しかし私とカズキの仲をより親密にするためにはコレは必要無い。
と言う訳で全てに小さな穴を開けておいた。私としてはナマでも一向に構わないのだが
『斗貴子さんが大切だから着けるんだよ。』
と照れながら言ってくれたカズキの笑顔が脳裡をよぎる。
はっ!いけない、かなりイってしまった。
十分体を温めて浴衣姿で廊下を歩いていると
「俺は王子サーブの達人だっ!」
未来の配偶者の声が聞こえるではないか。
どうやらカズキはまだ顔が緩んでいるボンクラを相手に卓球をしているようだ。
長湯してしまったが優しいカズキは私を待ってくれている、幸せな気分だ。
声を掛ける。振り向いたカズキはしばし私を眺めまた顔を赤く染めた。
「斗貴子さん、浴衣すごく似合ってる……なんか色っぽい……」
そっそうかカズキ!そんな事言われ慣れてないから照れるじゃないか!
少し胸元やうなじを強調してみたのが効果的だったようだな!あぁカズキ!もっと私を見て!
「イイッス!湯上がり美人な先輩、蝶イイッス!!」
見るな変態、訴えるぞ。
うなじにカズキの視線を感じながら部屋に戻ると海やら山やらの幸がてんこ盛り状態で私達を
待っていた。普段宿舎の食事かコンビニなどで買うおにぎりが主食の私からすれば
豪華すぎる品々が並んでいる。カズキも予想外の光景に驚いている。
「すごいよ斗貴子さん、生け作りだよ!伊勢海老もある!」
「蟹もあるし…鮑でかいなおい、うわっ先輩、牛肉霜振ってますよ!」
初めて見たであろう懐石料理に興奮しっぱなしの二人を座らせて食事を開始する。いただきます。
「うまっ!刺身うまっ!なにこれ!なに豆腐?うまっ!この豆腐うまっ!分かんないけどうまっ!」
「すげぇ鮑踊ってるよ!うねうね動いてるよ!あっ肉焼きすぎた!でもうめぇ!ごっさうめぇ!」
えぇい、やかましい。しかし確かに美味いな、自然と溜め息が出る。こんなに豪華なのに
宿泊代金は戦団持ちでいいのだろうか?戦士長はなぜこんな豪華な料理を私たちに……
そういう事か。つまりこの食事でしっかりと精を付けて今夜おこなわれるグラップルファイトに
臨めという事なんですね?そうなんですね戦士長。窓から見える満天の星空の中に笑顔で親指を
立てるブラボー戦士長を見た気がした私は、カズキの茶碗にそっと山芋を流し込んだ。
山ほどあった料理を見事なまでに平らげた私達だが明らかに食べ過ぎた男子二人は
腹を抱えて幸せそうに伸びていた。仲居さんに笑われたではないか、まったく。
しかし満腹状態での激しい運動は体に悪いな。仕方が無いからカズキの体調が
良くなるまでお姉さんが優しく看病してあげよう。もう一人の事など知らん。
「調子に乗りすぎたかな?でも美味かったよね斗貴子さん。」
これからもっと美味しいデザートが待ってるぞカズキ。カズキの頭をそっと
私の膝の上に乗せる。何やら怒鳴り声が聞こえてくるが無視する。
「ありがと。それにしても俺こんなに美味い物があるなんて知らなかったよ、
でも俺一人で食べても味気無かったんじゃないかな。」
少し癖のある髪を撫でながら、なぜだ?と聞いてみる。
「斗貴子さんが居たから、斗貴子さんと一緒に食べたからあれだけ美味いと感じたんだ。」
カ、カズキッ!! 思わずカズキの頭を抱え込んでしまった。
泣き声の混じった怒号が聞こえるが気のせいだろう。
「斗貴子さん、これから自然に二人の思い出は増えていくけどこれだけは約束するよ。
必ず斗貴子さんの隣りには俺がいる、二度と斗貴子さんを一人にしないから。」
自分でも顔が赤くなっているのが分かる。これはどう考えてもプロポーズだろう。
嬉しすぎて涙が出そうになったがここは耐えてカズキの次の言葉を待つ。
しかし次に聞こえてきた声は背景と化していた男の物だった。
「ムゥトゥオォォォォォォォォッ!!!先輩から離れろこのチンカス野朗!!お前俺が居ること分かってて
先輩を口説いてんじゃねぇぞゴラァァァァッ!!!」
今いい所なんだから邪魔をするな、唾液を飛ばすな、私も分かっていて口説かれていたが何か?
「武藤は馬鹿か!武藤!!先輩がお前になびくはず無いだろ武藤!武藤、お前な武藤、もっと
身の程をわきまえろ武藤!!分かってるのか武藤!おい武藤!お前本当に武藤か?武藤!!」
お前こそ身の程をわきまえろ、混乱しっぱなしじゃないか。それにこのカズキは本物だ
私には分かる。だがこのカズキが偽者だとしたらカズキが二人いる事になるな。
………そういうプレイもありだな。
「そいつから離れて下さい先輩!そいつは先輩の貞操狙うウヌャニュペェィギュゥリュ星人なんです!!
武藤がどうなろうと知ったこっちゃないが俺は騙されないぞ!先輩の処女は俺が守る!!!」
あぁもう面倒くさい、さあカズキあんなド三品の事は気のせずにさっきの続きをしよう。
これはあくまで任務のためなんだ、絆を深めるためなんだ、だから遠慮する事は無い。
愛してくれカズキ、愛し抜いてくれカズキ。
「剛太…そこまで斗貴子さんの事を……!でもこれだけは譲れないんだ!
俺と斗貴子さんは一心同体!たとえ剛太でも俺達を引き裂く事なんてできないんだ!!
斗貴子さん、下がってて!ここは戦場になる!!」
落ち着けカズキ!あんなポンコツの言葉なんかに耳を貸すな!ただの雑音だ!
「キサマァ!宇宙人の分際で!お前なんぞに先輩は渡さん!!先輩を懸けて俺と勝負しろ!!」
「たとえ剛太が相手でも容赦しないぞ!その勝負必ず俺が勝つ!!」
何で乗っかってるんだカズキ!勝負などしなくても私達はギシギシアンアンな関係ではないか!
私の為に戦ってくれるのは嬉しいが、この勝負何の意味の無いぞ!
「俺は勝って先輩と相思相愛になるんだ!ズコズコウッドピュゥな関係になるんだ!!
くたばれウヌャニュペェィギュゥリュ星人!!武装錬金!モータちぶぅっ!!!!」
バルキリースカートが雄犬の急所を的確に貫く。ブチ撒けた訳では無いぞ、明日の朝まで
動けなくなる程度に痛めつけただけだ。
「斗貴子さん!?うわっ!エグっ!!大丈夫か剛太!?ああっダメっぽい!」
カズキ、私の為に無益な戦いはしないでくれ。私はキミが居てくれるだけでいいから。
「斗貴子さん…」
でもたまに不安になるんだ。キミが私から離れて何処かに行ってしまうじゃないかって。
キミはみんなのヒーローだから何処にだって行ってしまうんじゃないかって。
「斗貴子さんを置いて行ったりはしないよ!!」
わかっている。だが私には少し勇気が足りない、だから…私の部屋に行こうカズキ……。
私達は寄り添う様にして男部屋を出た。ビクンビクンッと痙攣し続ける肉塊を残して。
翌日私とカズキはむせび泣く剛太の声で目を覚ました。
この旅館壁が薄いのではないか?えぇい女将を呼べ。
第二話WORLDLINER 完