あの、なんで俺こんな所で正座させられてるんですか?
砂利がスネに喰い込んで痛いんスけど、つーか此処どこなんですか?
ちょ、戦士長!?なに俺の手首縛ってんスか!?
……いやっ、違いますよ!縛られるのが好きな訳じゃないっスよ!!
確かに年上のお姉さんに責められるシュチュは好きですけど、
男に縛られても全然嬉しく無いですよ!あっ、女だったら嬉しいって意味じゃないですから!
斗貴子先輩は別ですけどっ!!
てか、ほどいて下さいよ戦士長。何の目的で、……アレ?千歳さんは?
えっ、あぁ、はい。千歳さんに突然呼び出されて銀成駅の近くにあるロッテリやに行きました。
千歳さんとはすぐ合流できたんですけど、何で呼び出されたのかとか、どこに行くのかとか
なんも教えてくんないまま移動し始めたんスよ。
とりあえず後ろついて行ったんですけど、路地裏っつーか人気の無い所ばっかり通るんです。
それで、怒らないで下さいよ?突然立ち止まったと思ったら、
お子様はご遠慮すべき煌びやかなオトナのお城の前だったんです。
千歳さんはゆっくり振り向いたと思ったらいきなり俺に抱き着いて来て
「お願い…寂しいの……」とかおっしゃられた。
フローラルな香りに加え豊満な凶器をぐいぐい押し付けてくる物だから、
俺のリザードンは火炎放射寸前。これがちまたで噂の「あててんのよ」ってやつか?
潤んだ瞳で見上げられて、理性と言う名のサクラん坊が吹き飛びそうになったその時、
愛する先輩の顔が脳裡をよぎった。そうだ、俺は先輩と共に創世の日を迎えると心に誓っていたはず。
経験豊富なクーデレ美人も魅力的だが、先輩を裏切る訳にはいかないんだ!ゴメン、千歳さん!!
「私とじゃイヤ?」
……来たるべき先輩との蜜月に備えて俺はより一層のスキルアップを図る必要がある。
悪魔城の中では今頃、魑魅魍魎による淫靡な宴が繰り広げられている事だろう。
あえてその中に入り込む事によって、俺は貧弱な坊やから強靭なソルジャーへと進化するんだ。
それはすなわち漢を知らぬ先輩に極上のもてなしで初夜を迎えてもらう事に繋がり、
濁流の様に溢れ出る俺のガンダーラへの想いを鎮める結果ともなる。
好きな食べ物も音楽も知らない仲間達と合流する覚悟を決めた俺は千歳さんの腰に腕を回した。
さあ千歳さん、カタストロフを楽しみましょう。
大人の階段を登ろうと一歩踏み出したその時、頚椎に鈍い衝撃が走り俺は意識を失った。
それで気が付いたら戦士長が仁王立ちで俺を見下ろしてた訳なんですけど違うんです。
ホントに違うんです、俺は先輩一筋ですからっ!決して脱・童貞を焦った訳ではないんです!
千歳さんなら優しく俺をオオカミにしてくれるかも、とか思ったりしただけなんです!!
出来心なんです!若さから来る過信が招いた失敗談の一つなんです!!
落ち着いて考えるとやっぱ千歳さんより先輩の方が圧倒的にイイっスもん!
具体的には若げばぁ!!!……っふ、ぬふぅ、スンマセンデシタ千歳サン…。
いやっ、何で千歳さんがいるんですか!?おつかれサマです!!
って違う!この俺を一撃で昏睡させる様な強敵を相手に一体どうやって!?
……え?何言ってんスか、……なんスかその悪女の目は?
俺の事好きって言ったじゃないっスか。週末だけでもいいからって言ってくれたじゃないっスか。
……言ってない?聞こえてましたよ俺には。千歳さんの心の叫びが。
…………………俺を騙したのかッ!!!?
二人して俺の1/3の純情な感情を踏みにじったのか!?弄んだのか!!?
何が目的だ!金か!?身体か!?どっちもたいした事無いぞ!!
何だその哀れむ様な目は!?俺は可愛そうな子なんかじゃ無い!!!
ええ、はい。落ち着きました。失礼な事言ってすいませんでした。
だからこれ以上膝の上に大石を乗せるのやめてください。
重いんです。砂利が食い込むんです。素で痛いんです。
それで何だってこんな事を、……聞きたい事がある?
なに、喋ればいいんスか。……温泉旅行……いや、それはちょっと。
話します。話しますから石はやめて、痛くしないで。
……二日目ですか?………分かりました……。
目を覚ました俺は見慣れない周囲に戸惑った。
富士山の頂上で先輩と青姦する夢を見たせいだろうか、思考がはっきりしない。
段々と意識が現実に向いてきた時、俺は昨日の惨劇を思い出した。
宇宙人に操られた先輩が俺の事を殺しにかかって来たのだ。
しかし俺の事を想う先輩の強い気持ちが精神操作に打ち勝ち、俺はすんでの所で一命を取り留めた。
俺と先輩との愛の力に感動を覚えるも、先輩が此処に居ない事に気付く。
最悪の状況が脳裡をよぎる。宇宙人の狙いは地球上でもっとも清らかな先輩の身体。
現状から察するに先輩はもう………。
俺は泣いた。ただひたすらに泣いた。愛する者を守り切れなかった悔しさ。
愛してくれた人に謝罪すら出来ない現実。後悔が俺を心を蝕むのを止めるすべを持たない俺は
泣く事でしか今の自分を表せなかった。リットル単位で泣いても涙が枯れる事は無かった。
「うるさいぞ剛太!他のお客に迷惑だろ!」
……先輩?……………先輩っ!!?
生きてた!生きていてくれた!!その事実に再び涙が溢れる。
プライドの高い先輩の事、自分が陵辱されたと知ってショックのあまり精神崩壊してしまったんじゃ
無いかって、でも先輩はそのくらいで壊れたりしないって、ずっと不安だったんですよ!!
でもよかった……どんな形でも、生きていてくれて本当によかった………。
先輩……例え先輩が汚されたとしても、俺は先輩を愛し抜きます。
二人での新しい生活がどんなに辛い記憶だって忘れさせてくれますよ。
赤い屋根の小さな一軒家に子供達と一緒に静かに暮らしましょう。
アハハッ、こらこらノリスケ(仮名)ママのおっぱいはパパの物なんだぞ?
「剛太おはよう。なんで泣いてんの?」
まだ居やがったウヌャニュペェィギュゥリュ星人!!!
てめぇこの野朗、先輩は俺の為に昨日まで純潔を守り続けてきたんだぞ!!
それを、それを貴様なんぞに、…うぅ…えぐ…うっうっ…
「どうした剛太!?まだ昨日の傷が痛むのか!?」
「ほっとけカズキ。それより私は朝食前に風呂に入ってくる。
まだ少し眠くてな、目を覚まして来る。汗も掻いた事だし。」
先輩が出て行く。部屋には俺と武藤の二人きり。
先輩はこいつをカズキと呼んだ、つまりこいつは本物の武藤なのか?
「傷はもう治ってるみたいだな。核鉄があるから大丈夫だと思ってたけど、
色々はみ出してたから少し心配だったんだ。」
具体的にナニとナニがはみ出していたのか気になったが、それより今は
俺が倒れている間に先輩がどうなったのかが知りたい。おい、お前本当に武藤か?
「なに言ってんだよ、本物だって。ナントカ星人じゃないってば。」
証拠はあるか?
「こないだブラボーにお気に入りのAV持って行かれたからって、俺にエロ本借りにきたじゃん。
『Hでキレイなお姉さん 哀・精子』」
OK分かったお前は本物だ間違い無い。俺が言うんだからノープログレムだ。
それで、昨日あの後何があった?先輩はどうなったんだ?
「別に。斗貴子さんの部屋に行ってそのまま寝たけど。」
……?なにを言ってるんだ武藤、先輩の部屋で寝た?二人で?
「うん、斗貴子さんがこのまま此処で寝ろって言ったから。
別に俺はどっちの部屋で寝てもよかったし、布団も二つあったから此処でいいやって。」
何がどうなっている?先輩が同じ部屋で男と二人で寝る?ハッ、あり得ないねそんな事。
斗貴子先輩は天使だぞ?戦乙女だぞ?神々しいまでに輝く女神様が
汚らしい下々の者共にその柔肌を触れさせる訳がない。触れさせる訳が分からない。
クールになれ中村剛太。なぜ先輩は武藤を部屋に入れたのか、それが勝利の鍵だ。
……なるほど、つまりこういう事か。
俺が先輩の手により倒されたその時、先輩にかかっていた精神操作が完全に解ける。
倒れている俺にすがり付き、泣きわめきながら俺に謝り続ける先輩。
俺のかたきを討つため立ち上がるものの、愛する者を失った悲しみから足元がおぼつかない先輩。
そんな状態では宇宙人に勝てるはずも無く、善戦虚しく敗れ去る先輩。
先輩の身体に宇宙人の触手が絡みつく。
最初は抵抗していた物の、俺がいない今抵抗する意味が無いと感じた先輩は
その穢れを知らぬ肉体を不気味な触手にされるがまま、ただ悲しみの中で放心している。
触手はまるで一本一本が意思を持っているかのごとく、先輩の身体を這いずり回る。
ついに先輩の秘密の花園に魔の手が伸びようとしたその時、奇跡が起こる。
色々はみ出して倒れていたはずの俺の身体からまばゆい光が溢れ出る。
その光を浴びた宇宙人は断末魔を上げながら灰となり消えてゆく。
俺の元に駆け寄る先輩。しかし俺の意識は回復しない。先輩の視界が涙で滲む。
その時俺は寝息を立てる。寝息がいびきに変わり、それと同時に安堵する先輩。
さっきの光は二人の愛が生んだメイクミラクルだと気付き、一人赤くなる先輩。
その時になって初めて自分がおぞましい体験をした事を思い出し、肩を抱えて震える先輩。
乱暴に部屋の扉が開かれる。宇宙人に捕らえられていた武藤がようやく戻ってくる。
俺の傷は核鉄の治癒力で問題無いと判断した武藤は、先輩を落ち着かせる為に
部屋の移動を提案する。俺から離れたく無いと首を振る先輩を立たせ、
強引にでもこの空間から移動をさせる。もう休んだ方が良いと布団を敷く武藤。
しかし先輩は俺への心配と恐怖体験からなかなか寝付けない。
部屋を出て行こうとする武藤を捕まえて落ち着くまで居てくれと言う先輩。
俺と先輩の仲を知っている武藤は、先輩が寝付けるまでならと下心なく了承。
自身の疲れも手伝って先輩より先にウトウトする武藤。
優しい先輩はこのまま眠って構わないと武藤用の布団を敷く。
泥の様に眠る武藤。その様子を見て安心感が先輩を包む。
瞼が重くなり、明日こそ俺に告白しようと心に決めて先輩は眠りに就くのだった。 f@n
涙で前が見えない。なんて感動的なんだ!?
結果として先輩は武藤とも宇宙人とも関係を持っていない事になる。
つまり先輩は処女。
しかも先輩から俺への告白が確定済み。寄宿舎では人の目がある、キメるとしたら今日しかない。
告白→よろこんで→ボルケーノってことなのか!?今日一日でそんなにイベントがあるのか!!?
いや駄目だいけない、いくら相思相愛でも順序って物がある。まずはキスからだ。
キスってどんな味がするんだろう。甘いのか?甘酸っぱいのか?
そんな事を考えてる内に先輩が帰ってきた。いつの間にか食事も用意されている。
「ではいただこうか。しっかり食べるんだぞカズキ。」
先輩、何で武藤にはご飯よそって俺にはよそってくんないんスか。
あ、そっか。これから毎朝俺にご飯をよそう事になるからその予行練習ですね先輩。
俺には一番美味しくよそえる様になってから、って所ですか。
くはぁ、いじらしいっス先輩!そんなに俺を想ってくれてるなんて!!
「カズキ、ご飯粒が付いてるぞ。慌てて食べる事も無いだろうに。」
「え?どの辺?」
「しょうが無いな、取ってやろう(じゅるり)」
これはあれですね。来たるべき新婚生活で俺に対して照れないように
シュミュレーションしているんですね先輩。でもいいんですよ、
顔を赤くしながらご飯粒を指で摘む先輩なんて想像しただけで、もうっ!!
「斗っ、斗貴子さん!?」
「何赤くなっているんだ、もう取れたぞ(カズキハァハァ)」
………先輩は今何をした?確かに武藤の頬にご飯粒が付いていた。ああ付いていていたとも。
それを何で取った?真珠の如く眩く光る先輩の上の口?何だ今の白昼夢。
やり過ぎっスよ先輩!試してみたいのは分かりますけど、チューは本番まで取っといて下さい!!
いや待て俺。先輩は今『本当は剛太にしたかったのにな』と
センチメンタルになり落ち込んでいるんだ。そうに違いない。
ここは俺が顔にご飯粒を付ける事により、自分を捨てて先輩の望みを叶えてあげるんだ。
さあ先輩こっちの準備はいいですよ、顔中いたる所にご飯粒を付けました。
恥ずかしがる事はありません!カム・ヒア!!
…………結局そのまま食事は終了し、白い髭を生やした俺は「ご飯粒付いてるぞ」と言ってきた
武藤を睨みつけながら顔中の米を摘んで食べ続けた。塩の味がする。泣いてなんかねぇよ。
「さっき仲居さんに聞いたんだが。」
二人分のお茶を淹れながら先輩が喋り始めた。
そのお茶が俺の前に置かれないのは、先輩なりの照れ隠しだと俺は信じている。
「どうやら今日は一日雨のようだ。強く降る事は無いが小雨が降り続けると言っていたな。」
少し残念そうに先輩は言った。確かに窓の外は小雨がぱらついている。
満天の星空の下で俺に情熱的な告白をするつもりだったんだろう。
おいおいお天道様。うちのプリンセスはご機嫌斜めだぜ、出て来てくれないかい?
「そうなんだ、一緒に恋人岬に行こうと思ってたのにね。どうしよっか?」
「それは残念だが、元々慰安で来ているんだ。何もせずゆっくりするのも悪く無いだろ。」
恋人岬?お前なんか一人でバナナワニ園にでも行っとけ馬鹿!
「じゃゲームでもしよっか。俺、色々持って来てるから。」
武藤は荷物の中からトランプやらボードゲームやら次から次に取り出し始めた。
お前、荷物多いと思ったらそんなもん持って来てたのか。
だが残念ながらどんなゲームを持って来てもお前が俺に勝つ事は無い。俺は頭がイイからな!!
そんな感じでスピードで武藤と無駄に張り合ったり、大貧民で負けた罰で雨の中コンビニまで
パシらされたり、部屋に帰ったらなんか先輩ツヤツヤしてるし、武藤汗掻いてるしで
俺が居ない間に何が?とか考えてたら、今度は武藤が「足りなかった」とか言って近くの薬局に
行くし(何が?)先輩と二人きりのチャンスにこちらから仕掛けようとしたら、何故か先輩は
武藤を追って出て行って、一人取り残された俺は先輩の荷物を漁ろうかどうかモンモンと悩んだり、
相合傘で歩く先輩と武藤を窓から見てしまい、一人血涙を流したりしてました。
……えぇ、はい。そういや武藤に戦士長から電話がありましたね。丁度その時です。
………そのあとですか……別に何も無かった様な………。
はい嘘です、すいません。喋りますからその釘と金づち引っ込めて下さい。何に使う気ですか?
つーかなんでそんな事聞くんですか!?ほっといてくださいよ!!
任務?三人で?……今のうちに解決しとけ?………いや大丈夫ですよ。
仕事はちゃんとやりますよ。もう大人なんですから、気持ちの切り替えくらい出来ます。
……そう言う意味の大人じゃ無いっスよ!チェリーって言うなよチクショウ!!
ホントにもう勘弁して下さいよ戦士長!マジで!!
こないだ買った最新AV貸しまあべしっ!!!……あふっ、はふぅ、スンマセンデシタ千歳サン…。
……四の五の言わずに喋れ?………その前に鼻血拭かせてもらえませんか……。
オセロで武藤に三連敗した俺は、罰としてジュースを買いに行っている。
くそぅ、何故だ。この俺が何故あんなパンピーに負けるというのだ。
しかし今武藤は先輩とオセロをしている。大方インチキでもしていたんだろうが
先輩には通用しないぞ、確実に五連敗はするね。武藤は落ち込むね。
そして油断した所をドーーン!!
武藤への罰ゲームを考えながら部屋に入ると、先輩と武藤がオセロをしていた。
オセロをしていたんだ。オセロをしてたんだっつってんだろ!!
決してオセロ盤の上で手と手を重ねて見つめ合ったりして無ぇからな!
白やら黒やらひっくり返そうとして手が重なっただけの事故なんだからな!!
ピンク色の波動なんか俺には感じねぇからな!!
いい加減俺に気付けよッ!!!
半泣きで先輩から武藤を引っぺがし、武藤に対して威嚇のポーズを取る。
「えっと、今のはオセロを裏返そうとして。」
先輩はそうだろうな。だがお前は鷹の目をしていた!先輩を狙うハンターの目をなッ!!
俺と武藤の間合いが少しずつ縮まってきた時、トゲのある声で先輩が語りかけてきた。
「随分と時間が経ったが夕食まではまだ時間があるな。剛太、風呂にでも入ってきたらどうだ。」
風呂っスか?そうですね先輩がそう言うのなら入ってきます。先輩は?
「私は夜にもう一度入る。気にせず行ってこい。」
分かりました。先輩の為にしっかり一部を洗っておきますね。
「あっ、俺も行く。じゃあ斗貴子さん行ってくるね。」
「(ちっ)ああ、ゆっくり疲れを取ってこい。」
武藤が疲れている様には見えないが、俺達は先輩を残し大浴場へ向かった。
時間が良いのか男湯にはほとんど客がいなかった。ほぼ貸切状態だなこりゃ。
武藤がパンツを脱ぐ。武藤のチャレンジャースピリッツがあらわになる。
全泣きで引き戸を開ける。水蒸気が目にしみただけだ。
やはり客は少ない。俺と武藤はかけ湯をしたあと温泉に浸かる。
寄宿舎の風呂も足を伸ばせるが、この景色は楽しめない。
武藤と二人で使うには勿体無い程だが、心地よさの前にそんな考えもすぐに消え失せる。
そして俺は温泉を堪能しながら、今夜起こる俺と先輩とのランデブーに思いを馳せる。
完熟トマトの様に真っ赤になった先輩が震える声で『ずっとキミだけを見ていた』と想いを告げる。
普段よりずっと小さく見える先輩の身体をその心ごと優しく包み込む。
自分の意思とは関係なく涙が溢れる先輩。それが幸せによる物だと先輩はまだ気付いていない。
慌てて涙を拭こうとする先輩。しかしそれより先に俺は自分の唇で先輩の涙を拭き取る。
先輩の顔が更に赤くなる。まるで常夏の国ハワイの沈みゆく太陽の様に。
おっと失礼、先輩の方がずっとキレイさ。ハワイの夕焼けが嫉妬しちまうくらいにな。
『キミは卑怯だ。私ばかりキミを想っているみたいじゃないか。……言葉で聞かせてくれないか?』
分かってるさ先輩、その言葉が聞きたくてちょいとイジワルしただけなんだ。
ありったけの想いを最高の笑顔と共に先輩に届ける。再び先輩の瞳が揺れ動く。
『そんな事言われたら、私はキミから離れられなくなってしまうじゃないか。』
おっと、こいつぁとんだ我がままフェアリーだぜ。私生活に困らない程度にしてくれよ?
『剛太……。名前で呼んでくれないか……。もう、先輩じゃ嫌なんだ………。』
俺だってもう先輩なんて呼べないさ。先輩後輩はもう過去なんだから。俺の「斗貴子」
二人を包む一瞬の静寂。もう言葉は必要無い。ただお互いがお互いを求めあう。
愛する事を知らずに育った少女。しかし稽古不足を幕は待たない、恋はいつでも初舞台。
戸惑いの中、重力に引かれあう様に二人の影が重なる。永遠とも思える長い口付け。
甘い蜜の味をずっと味わっていたいと思うが、俺の方から唇を離す。
幸せそうな、でもどこと無く残念そうな表情をした斗貴子と目が合う。
俯く斗貴子。俺は斗貴子の肩にあごを乗せる。両手は斗貴子を抱いて離さない。
斗貴子の耳元で俺は小さく告げる。もっと斗貴子が知りたいと。
ここからじゃ斗貴子の顔は見えない。でも斗貴子が微かに頷いたのを俺は感じた。
俺を信じてくれた斗貴子。そして斗貴子の覚悟。そのカルマを背負い俺は斗貴子に覆い被さった。
「おい、剛太。聞こえてんのか?」
遂にシリコンでの練習成果を斗貴子にぶつける時が来た。ロマンティックが止まらない俺は
「剛太。おい剛太ってば。」
うるせえな!いいトコなんだよ、今!!
「あ、聞こえてた。のぼせてんのかと思ったぞ。」
へっ、俺はいつでも先輩にお熱だぜ。沸騰するくらいにな。
「明日銀成に帰るだろ。お土産どうしよっかと思って。」
知るか。自分で考えろ。
「ブラボーには何かいい物買って帰りたいよな。
この温泉もブラボーのおかげで入れてるんだし。何がいいだろ?」
AVでいいだろ、一番喜ぶぞ。
戦士長への土産のジャンルを武藤と議論していると、本当に少しのぼせてきた。
おい、俺はもう上がるぞ。
「俺はもう少し入ってる。斗貴子さんに伝えといて。」
ああ、伝えてやるさ。先輩への燃える様なパッショーネをな。
部屋に帰ると先輩が座椅子にもたれ掛かる様にして眠っていた。
疲れているのだろうか、安らかな寝息を立てている。
どうやら先輩は俺の自尊心を刺激するスキルをラーニングしている様だ。
落ち着け!俺のモーターギア・イン・アウトモード!!
ここで先輩の事を襲ったりしたら、先輩のピュアなハートを傷つけてしまうじゃないか!
俺を信じてくれている先輩を裏切るのか?持て余す若い獣欲の所為にして過ちを犯すのか?
駄目だッ!!俺は先輩を悲しませる為に産まれて来たんじゃ無い!先輩を守る為に、
幸せにする為だけにこの世に生を受けたんだ!パパとママの若気の至りが生んだ伝説!!
先輩の無防備な横顔が眼に映る。
……キスくらいイイよな。うん、イイに違い無い。
だって先輩が望んでんだもん。俺とのキスを望んでやまないんだもん。
少し強引な方がイイんだって偉い人が言ってたもん。
時代はワイルドな男だって筑紫哲也が言ってたんだもん。
フッ、今すぐ起こしてやるぜ白雪姫?お妃様に嫉妬される程の美しさはもう俺だけの物さ。
極度の緊張で酸素が足りないと肺が悲鳴を上げる。
ジョッキ一杯じゃ収まらないほどの汗が全身から流れる。
先輩の顔が近づくにつれ、二人の思い出が走馬灯の様に俺の頭を駆け抜けて行く。
夏の海での再会 深夜の浜辺での鬼ごっこ 二人の未来を守る為の逃避行
親指姫になった先輩 先輩のすっぽんぽん 思い出の学園での新しい思い出創り
強すぎる敵との戦い 失った戦友への嘆きと後悔 先輩のすっぽんぽん
様々な感情が渦巻く中、最後に残ったのは俺と先輩の愛。二人の時代を作る愛。
ラブ・サバイバーとなった俺の唇が先輩の唇に触れようとしたその時、
眠り姫の瞼が予告も無く開いた。
「………何をしている剛太?」
最後に聞いた言葉は恐ろしく冷たい魔法。
最後に見た光景は美しく舞うヴァルキュリアの幻想。
一言も発する事無く俺の身体は深淵へと沈んで行った。
そのあとの事は覚えてません。目が覚めたら旅館を出る時間でした。
もういいでしょ、話せる事はこれで全部です。
先輩は俺に幻滅して俺の淡い初恋は終わりを告げた、それだけの話ですよ。
どこにでも在るコイバナっスよ、笑いたかったら笑って下さい。
……ホントに笑うなコンチクショウ!!!
ああ振られたよ!全部俺の一人芝居だったんだよ!!分かってたよ!俺は頭がイイからな!!
そりゃ気まずいさ!!振られたもん!俺、振られたもん!怖くて先輩に合い辛いもん!!
そんなに滑稽かッ!落ち込む俺を慰めようとか微塵も思わ無ぇのかッ!!
俺が傷付いてるんだぞッ!悔しく無ぇのかこのゴミ虫共がッ!!
あぁッ!!………これ以上ナニ言えっつーんだよ!もうなんも出てこねーぞ!!
…………先輩が怒っている理由?さっき言ったっしょ。
…………その位じゃあんなに怒らない?……そう言われれば……。
なんスかそのバット、いくら殴られてもこれ以上……………
無理無理無理無理無理無理無理無理無理ッ!!!
そんな太いの入らない!!無理ッ!!裂けるッ!!裂けちゃうッ!!!
お願い許してッ!!もうイヤだよ!……ヤだよぅ……こんなのイヤぁ………ぐすっ…あぐっ…。
……でも本当にもう心当たりが無くて、……ただ気絶してただけだし。
あっ、そういや嫌な夢を見ました。関係無いと思いますけど。
……内容ですか?……あんま思い出したく無いんですけどね…………。
此処はどこだろう。真っ暗で何も見えない。
俺はどうなったんだ。分からない。何も思い出せない。
これが死ってやつなのか。案外苦しく無いんだな。
遠くから声が聞こえる。いくら聞いていても飽きない大好きな声が。
先輩。先輩が呼んでる。俺の事を呼んでる。叫ぶ様な声で俺の名前を何度も何度も。
起きなくちゃ。目を覚まさなくちゃ。だってまだ先輩に伝えて無い事があるから。
「あはぁ!カズキィ!!気持ちイイよぉ!もっとぉ!もっと突き上げってぇ!!ふああぁぁ!!」
「ほら斗貴子さん、ここがイイんだね!こんなに締め付けて、もうイきそうなんだね!!
そんなに大きな声出したら剛太が起きちゃうよ!淫乱な斗貴子さんを見られちゃうよ!!」
「いやぁカズキィ!もう云わないで呪文めいたその言葉ぁぁぁ!!
ひゃうぅぅッ!!らめぇ!らめなのぉぉ!イクぅ!!イっひゃうぅぅぅッ!!!」
なんだこのナイトメア。
俺は何故こんな夢を見ている?まだ目を覚ましていないのは間違い無い訳だが、
この悪夢はいったい何を意味してるんだ?なんかの暗示なのか?
「はあ、はあ、斗貴子さん……良かった?」
「んっ……良かったぞカズキ。ふふっ……本当に元気だなキミは、もう何回目だ?」
「あー、何回目だっけ?忘れちゃた。斗貴子さんこそ元気じゃない。好きだよね、エロス。」
「そんなコト言うな馬鹿ッ!恥ずかしく無いのかキミは!!……まあ、しているあいだは
私も没頭するし、キミも上手くなってるから苦にはならないし………嫌いじゃ無いが…………。」
おいドリーム、何時まで俺をお前の世界に縛り付ける。
先輩と?武藤が?甘々ピロートーク??俺は病んでいるのか。
「……斗貴子さん可愛いすぎ。………もっかいイイ?」
「まったく、しょうがない子だなキミは。……あっ、コラカズキッ………んんっ!」
お前が何を訴えようとしているのか俺には解らない。
しかしもういいだろう。俺の先輩をこれ以上汚さないでくれ。
もう止めてくれ、もう見たくないんだ。こんなものもう見たくない。見たくない。見たく……
……何だこの感覚は?先輩が陵辱されてるのに、悔しいはずのに、俺は今、興奮している?
先輩と武藤の行為をこのまま見続ける放置プレイに俺はもう耐えられない。
では俺は何を望んでいる?この高揚感の正体はなんなんだ?
再び先輩の獣道に武藤のパトリオットが侵入する。武藤の動きに合わせて腰を振る先輩。
俺は……交ざりたがっている?あのカオスに?
そうさコレは夢。レム睡眠が見せる一夜の幻。
俺の中に眠る新たな性癖を気付かせてくれた、ブレインから俺へ初めてのプレゼント。
サンキュー、ドリーム。お前からの粋な計らい有難く頂くぜ。
重たい身体を無理矢理起こす。全身が痛む。痛みの伝わる夢なんて初体験だぜ。
おっと、これからもっと重要な初体験が俺を待っている。夢の中も大事な訓練場さ。
ズボンとパンツを一気に下ろす。おしりを出した子一等賞。
喘ぐ先輩にルパンダイブ。テンションに任せろ。迷ったら負けだ。
先輩、俺と寝んごろにぃぃーーーーッ!!!
で、バルスカでブチ撒け寸前にされるって夢なんですけど。
………なに言ってんスか。夢っスよ、疲れた脳が見せたイタイ夢っスよ。
だってあり得ないでしょ。先輩があのブサイクに身体を許す?どんなギャグですかそれ。
…………………嘘だっ!!!
あれはフィクションだ!ファンタジーだ!!渇いた心が見せた蜃気楼なんだ!!
確かに俺は先輩に振られたさッ!!でもあのクサレチンポと先輩がくっつくなんて許され無いんだ!
先輩はいつか必ず俺の魅力に気付くんだ!俺が居ない世界では生きて行けない事実に気付くんだ!!
前世から先輩と結ばれるって決まってんだ!!
先輩は処女じゃなきゃ駄目なんだッ!!!
先輩?どうして此処に。………全部聞いてた?
…………そんなッ!!現実!?あれが!?
嘘だ……あの日、先輩が処女を………武藤なんかに………
え?そんな、そんな前から!!?………嘘だ………うそだ………ウソだ……………
戦士長、千歳さん、俺また振られちまいました。
ああ、大丈夫。男だからな、泣いたりしないさ。
でも、先輩はとっくに、武藤のものだったんスね……。
……戦士長、俺しばらく旅に出ます。先輩を吹っ切る為に。
先輩が思い出になるまで、世界を見て回って来ます。
…………先輩と武藤に、俺の戦友に『幸せに』って、そう伝えて下さい。
じゃあ俺行きます。二人共お元気で。大丈夫ですよ、俺だって、錬金の戦士なんですから……。
数週間後、中国の貨物船に漂流していた日本人の青年が保護された。
彼は自分の名前を泣きながら『ツムラ ゴウタ』と名乗ったと云う。
第四話MESSENGER 完