全国二千万弱の私ファンのみんなにビックバン驚くニュースがあるんだ!
この前、ちーちんに彼氏が出来たって噂が私の耳に入って来ちゃたの。
まっぴーも知らないって言うし、私もそんなコト聞いてないからデマだって思ったんだけど、
何でも賛否が分かれるようなイケメンと腕を組んで商店街を歩いてたって目撃情報があったの!
むぅー、三人娘のヘッドとしては放っておけないなぁ。
確かに最近一緒にいてもボーッとしてるし、お昼休みに虚ろな瞳で遠くを眺めながら
「バイブが弱い……」
とか呟いたと思ったら、何かを想像して一人でケタケタ笑い出したりどこか変ッ!って言うか怖ッ!
前にくらべて付き合い悪くなったし、ホントに彼氏が出来ちゃったのかなぁ?
もし噂がホントでちーちんに彼氏がいるなら、ちーちんは三人娘からフェードアウト?
それはダメッ!なぜ先の見えないトゥモローを選ぶと言うのちーちんッ!?
ちーちんは三人娘のクールでアガペーなめがねっ娘、そして唯一のツッコミキャラじゃない!
ち−ちんのいない三人娘なんて、名倉のいないネプチューンと同じなんだよ!?
行かないでちーちんッ!私一人じゃホリケンの暴走を抑えきれないよッ!!
それに彼氏が出来たなら、何で私とまっぴーに教えてくれないの?
やっぱりその男の人は彼氏じゃなくてお友達?生き別れの双子の兄との運命的再会?
腕を組んでたってコトは親しい人のはずだし………。
でも、ケータイの振動が弱くて何か困るのかな?
それよ私ッ!何気なくちーちんはヒントを残してたんだよ!私にヘルプを求めていたんだよッ!
ちーちんはケータイに関係したトラブルがトラベラーで虎舞竜なのッ!!
何でもないような事が幸せだったと思っちゃうんだよ!二度とは戻れない15の夜ッ!!
考えるの私ッ!ちーちんと一緒にいた男がいったいナニ者なのか!
頑張って右左脳ッ!ケータイに隠されたミステリーをオープンゲットするの!
……なるほど、つまりこういうコトね。
銀成学園に入学してからもうすぐ一年、ちーちんは私達と楽しい学園生活を送っていた。
私とまっぴーに手を引かれ遊びに出る。こんな日常が続く事を誰よりも願っていたちーちん。
でも時は確実に流れ、気が付けば入学後二度目の桜も近い。
真面目なちーちんは受験と言う名の社会戦争に備え日々勉強に精を出す。
しかし元来の努力肌が災いしてか、ちーちんの精神は序々にストレスという魔物に蝕まれていく。
我慢強いちーちんにも、限界というものは当然ある。それは私達が気が付くずっと前に訪れていた。
ほんの少しの息抜き。軽い気持ちでちーちんは刺激を求め携帯電話を開く。
出会い系サイト。
誰でもやってる事。それ程危険では無い事。根拠の無い安心感から恐怖心も無くメールを打ち込む。
遊楽の少ないゆとり教育の代償が産んだ現代社会の闇に飲み込まれて行くちーちん。
段々と目に見えない相手との会話をちーちんは楽しむ様になっていく。
それが禁じられた遊びだという事に気付かずに。
ある日、何度かメールのやり取りがあったマサシ(19)から誘いが来る。二人で会わないかと。
純粋なちーちんはメールの文面を信じ込み、自分が初めてデートに誘われたと動揺する。
決して不快では無い驚きにちーちんの顔はほころび、喜びと戸惑いが混合した様な内容の文を送る。
声の無い会話を繰り返し、マサシ(19)が時間と場所を提示して来た時、ちーちんは決断する。
『よろしくおねがいします』
まだずっと先だと思っていた密会当日、待ち合わせ場所は銀成駅前。
逸る気持ちを抑え切れずに、約束の時間より一時間以上早く駅前に来てしまったちーちん。
改札から溢れ出る人ゴミを見詰めながら、待ち人への期待と不安がちーちんを包み込む。
時間を確認しようと腕時計に目をやったその時、背後から肩を二度叩かれ振り返るちーちん。
細身で長身、軽い茶髪の若い男性がちーちんに声を掛け挨拶をした。
驚いたちーちんはつい大声でハンドルネームを名乗り、深々と頭を下げる。
幼さの残る爽やかな笑顔から、ちーちんを気遣う優しい言葉が掛けられる。
恥かしさから頬を赤く染め、上目使いでマサシ(19)の顔を覗き見るちーちん。
予想以上に整った顔立ちと、屈託の無い笑顔にちーちんの心は一瞬で奪われる。
立ち話もなんだからと喫茶店に移動した二人は、改めて自己紹介をする。
弾む会話。美味しい紅茶に舌鼓を打ちながら、ちーちんの緊張は解けて行く。
店を出る時、然り気無く飲食費を全額払ったマサシ(19)の背中で微笑むちーちん。
二人が向かったのは、マサシ(19)が割引券を持っているというカラオケ店。
何の疑いも無く好きな歌の話や最近流行っている曲の話題で笑顔を作りながら付いて歩くちーちん。
しかし、そのカラオケ店にはマサシ(19)の仲間達が獲物の到着を群れを為して待ち構えていた。
何人もの少女達が犠牲になってきた店ぐるみの犯行。ちーちんは都会の悪意に気付かない。
まるで月の消えた夜のような暗黒の世界に、悲鳴を上げる事すら無くちーちんは沈み落ちていった。
………………………ダメじゃんッ!!!
ダメじゃんそれ!?それダメじゃんそれ!えらいこっちゃ!!
汚された!ちーちんの綺麗なお花が穢されたッ!マン開の夜桜を大所帯にお花見された!!
ボク達ワタシ達のちーちんが奪われた!パパより優しいテノールで奪う覚悟がヤツらにあった!!
何でちーちんがそんな酷い目に遭わないといけないのッ!?
独裁者の楽園でノーリーズンな色欲マスカレイドが一触即発なうえにフライ・ハイだなんてッ!!?
…落ち着いて私。まだちーちんが黒き獣に明日を狩られたと決まったわけじゃ無いはずでしょ。
なぜちーちんはケータイの振動が弱いコトに不満を持ってるの?
それはマサシ(19)とのメールがまだ続いてるって証拠だよ。
メールが来たらすぐに返信を送りたいから文句を言ってたんだよ。
…………これからヤツらに襲われるってコトじゃないッ!!
このままじゃちーちんの嬉し恥ずかし青春ハイスクールララバイが乙女のピンチでSOS!!
ちーちんは騙されてるの!基本的にマサシ(19)に騙されてるの!!メールも神田が打ってるのッ!!
最終的には216年に一度の降魔の儀により使徒の餌になるんだよ!?誰が覇王の卵を手にしたの!?
目を覚ましてちーちん!白馬の王子様なんて信じてるわけじゃないでしょ!?のぼせんなッ!!
…落ち着いてってば私。まだちーちんの柔肌に獣人共の海蛇が食い込んだってわけじゃ無いでしょ。
ちーちんが危険密集地域にいるのは確かだけれども、今からでも助けるコトは出来るはずだよ。
まず今日から私が四六時中ちーちんにくっついて、ヤツらとの接触を阻止する必要がありそうだね。
何とかしてちーちんとヤツらを遠ざけて、目覚めても決して覚めない夢の中から救い出さないと!
こういう場合まっぴーは確実に役に立たない、むしろ邪魔だから今はシカトしておこう。
ヤバそうなヤツらだし、平成に甦った電光超人斗貴子さんにこのコトを話して協力して貰って………
あッ!そう言えば斗貴子さん、今日カズキ先輩とどっか行くって今朝言ってたんだった!?
この一大事に東日本ストロベリー行脚?東海道五十三連戦宿巡りの旅?
何考えてるのあのアガシッ!!これだから近頃の若いモンは!若いモンモンはッ!!
こうしてる間にも純然なちーちんの歩行者天国をサラマンダー達が狙っているんだよ!?
キマイラ共が虚無の空間からメルヘブンに向かって総攻撃しようと牙を研ぎ澄ましているんだよ!?
平成に甦ったグラディエイター斗貴子さんが殺らないで誰が殺るって言うのッ!!
しかたない、取りあえず私だけでもマリア様に代わってちーちんを見守らないと!!
あれ、もう放課後?ちーちんは……あ、待ってちーちん!どこ行くのちーちん!?
そっちに行っちゃダメ!戦場では私から離れんなって言ってんでしょッ!?
「何でそんな強く腕に絡み付いてくるのよ?」
ちーちんをまもって守護するためなのッ!それよりちーちん、このあと予定とかある?
「えっと、人と会う約束があってね。だから今日は沙織に付き合えないんだけど。」
ま、まさかヴードゥー教のサバト決行日が今日だって言うの?
そんなトコにちーちんを行かせられ無いって!ダレに会うつもりなのか言いなさいちーちん!!
「だ、誰でもいいでしょ!先輩よ、二年生の先輩。」
あいつら学園内部にも仲間を送り込んでやがったの!!?
何て高度な計画性!そして想像以上の資金力!ヤツら初めっからちーちんだけを狙ってたんだね!?
そいつに会わせてちーちん!思い付く限りの拷問に掛けてアジトを吐かせたあと蹴り殺すッ!!
「……まあ、いいけど。………変な事言ったりしないでよ?」
大丈夫!何も言わずに背後から近づいて脊髄を狙うからッ!
どんな手段を使ってでも雇い主をゲロさせるの私!例え嘆きのロザリオを背負うコトになろうとも!
あとは斗貴子さんにマサシ(19)一味の居場所を教えればサーチ&デストロイ!!
首を洗って待ってなさいマサシ(19)、あんたは決して越えちゃいけない境界線に踏み込んだ。
御上があんたを赦しても、私と斗貴子さんはあんたに神罰を与えるための鬼になるコトを選んだの!
あんたの網膜に太陽が映るのもあと僅か、産まれ立ての小鹿のように震えて眠りなさいッ!!
「お待たせしました。」
ちーちんに後ろから声を掛けられたキンパツ頭は、大きく肩を跳ね上げてゆっくりと振り返った。
「いや、全然待って無いよホントに。……むしろ何時までも待ち続けていたかったくらいで………」
剛太先輩?前見た時より少しやつれて真っ青な顔してるけど、間違い無く剛太先輩だよね。
「今日は沙織も一緒なんですけれど、構いませんか?」
「マジッ!?いいよ大歓迎!むしろ居てくださいッ!!」
よかった、今日会う人って剛太先輩だったんだ。じゃあ今日は安心かな。
…お待ちなさい私。私は剛太先輩のコトを何にも知らないよね?
カズキ先輩や斗貴子さんと仲が良いからって安心出来るような相手なの?
「何処かお店にでも入りましょうか。」
「あ、はい。喫茶店にでも。あッ!もちろん奢りますから沙織サンもご一緒にッ!!」
剛太先輩がヤツらに関わってるってコトは?何か目的があってちーちんに近づいてるって可能性は?
……なるほど、つまりこういうコトね。
剛太先輩には歳の離れた可愛い妹が居る。名前はノゾミ(9)。
ノゾミ(9)は生まれつき病弱で、入退院を繰り返す様な身体の弱い子だった。
大切な妹が苦しむ姿を、沈痛な面持ちで見守り続ける剛太先輩。
何時か必ずノゾミ(9)は元気になる。そう信じて剛太先輩はノゾミ(9)の前で笑顔を絶やさなかった。
しかしこんなにも愛すべき兄妹を、神は無慈悲にも見放した。
ある日ノゾミ(9)が学校で倒れたという知らせが剛太先輩の耳に届く。走り出す剛太先輩。
息を切らせて掛かり付けの大学病院に飛び込む。病室の前に掛けられた面会謝絶の札。
主治医を捕まえ、此処が病院である事を忘れ声を荒げる剛太先輩。
主治医の口から絶望的な言葉が次々と流れ出る。まるで本を読み上げるかの様な無感情な声で。
その場に膝を着き、頭を抱える剛太先輩。絶望が己の全てを支配する。
ノゾミ(9)が助かる道が無い訳ではない。アメリカの病院で手術をすれば可能性は残る。
だが、手術には三千万の費用が掛かる。
決して裕福とは言い難い中村家、これ以上の借金は家族全員の身を滅ぼす。
ノゾミ(9)を助けたい、でも金が無い。
金さえあれば、ノゾミ(9)は助かる。
自分の今も、未来も、何もかもを捨ててでもノゾミ(9)を助ける事を選んだ剛太先輩。
たった一人の妹を日の当たる世界で生かす為、剛太先輩は日の当たら無い世界に落ちて行く。
剛太先輩がマサシ(19)と出会ったのは約二ヶ月後。共通の知り合いを通しての事だった。
金策に苦しむ剛太先輩の姿を見て、マサシ(19)は悪魔の様な提案を剛太先輩に持ち掛ける。
剛太先輩の役目は被害者の調査。確実に落とせる相手かどうかの思考及び周辺調査。
恋愛経験の少なそうな、まだ男を知らなそうな少女に狙いを定め剛太先輩は近づいて行く。
相手を掌握し、自然な形でマサシ(19)と接点を持たせる。そこまでが剛太先輩の仕事。
その後少女達がどうなったか、もちろん剛太先輩は知っている。
激しい後悔と自己嫌悪。だが時間が経てば経つだけノゾミ(9)の助かる確率は下がって行く。
ノゾミ(9)の為に、ノゾミ(9)を救う為だけに自分と他人を犠牲にし続ける剛太先輩。
そして闇の住人は遂にちーちんにその手を伸ばす。
もう慣れてしまった方法でちーちんに近づく剛太先輩。心の中で謝り続けながら。
ちーちんは剛太先輩からある出会い系サイトの話を聞く。
同じ手口、同じ人物達による凶悪犯罪。ちーちんは二度と這い上がれない谷底の前に佇んでいる。
しかし後ろからちーちんの手を掴む者が居た。河井沙織、つまりは私。
この状況を打破すべく、マサシ(19)に連絡を取る剛太先輩。邪魔者が居るが、どうすればいいかと。
マサシ(19)から、あまりに凄惨で残酷な返事が剛太先輩に返って来る。
二人共谷底に突き落とせばいい、と。
震え上がる剛太先輩。改めて自分が居る世界の救いようの無さを思い知る。
今更悔やむくらいなら、最初から何も望まなければ良かった。
だがもう後には引けない。もうノゾミ(9)と一緒に居た世界には戻れ無い。やるしか、ない。
謝罪の言葉を繰り返しながら、剛太先輩は崖の前で手を繋ぐ二人の少女の背中を、弱々しく押した。
………………………私もダメじゃんッ!!!
ダメじゃん私!?私がダメじゃんそれ私!えらいこってす!!
喰われる!殺る前に犯られるッ!助けて斗貴子さんヘルプ・ミー!セイブ・ミー!!
私一人じゃ何の抵抗も出来ないよ!ちっぽけな自分を思い知らされる生暖かい日の夕暮れだよ!!
誰でもいいから助けてよ!来てよまっぴー私のところへ!?やっぱ来ないで!来るなら兄が来て!!
剛太先輩の自責の念もノゾミ(9)ちゃんが置かれてる現状も解るけど我が身はやっぱり可愛いし!?
どうしようちーちん!?私達これからすごいエロスなコトされちゃうよ!?
おっぱいとか触られちゃうかもしれないんだよッ!!?
「じゃ、あの店入ろっか。」
入ったらもう終わりじゃん!!デットエンドじゃん!!
あの喫茶店の中には何が先祖なのかも解らないような地球外生物がわんさか溢れ返ってるんだよ!?
ヤードラット星人っぽいのとかが潜んでるんだよ!?私のでっかい宝島がアドベンチャーされる!!
ゆとり教育が産み出した社会の汚物共の古いアルバムの中に思い出がいっぱい!主に私のッ!!
ってちーちん!?何ノコノコ付いてってんの!?そっちに渇いた喉を潤すオアシスは無いってば!!
「沙織?ほら、行くよ。ご馳走になっちゃいなって。」
私達がゴチソウにされちゃうよ!!喰べごろマンマのメインディッシュに調理されちゃうんだよ!?
とにかく逃げなきゃちーちんッ!カズキ先輩も斗貴子さんもココにはいないんだよ!?
今は身を隠すの!復讐の鐘の音を待つの!生きて生きて生き延びて最後にヤツらを殺せばいいッ!!
「あと、私から話したい事もあるし。」
……どうしよう、ムリヤリちーちんに店の中に押し込まれて席に着いちゃった。
怪しい人影とかチーマーっぽい集団とか極楽とんぼの太った方とかは見当たらないけど……。
気を抜いちゃダメだよ私、常に周囲を警戒してヤツらのレイドアタックを阻止しないと。
殺気を出し続けるの私。拳を握り腰を浮かせ、いつでも敵に飛び掛れるように闘志を滾らせるの。
「隠すつもりは無かったんだけどね。」
私は一人でも殺れるはず、己に勝つため己を削りバーニングった野性の本能をさらけ出しなさい。
私は殺れば出来るコ、言いたいコトも言えないこんな世の中でロンリーウォーリアートゥナイト。
「付き合ってる人が居てね、ちゃんと報告しようと思って。」
闘争が戦争となった今、もう二度とあの頃のような笑顔には戻れ無いけど堕天使と悪魔が心を支配…
……………今、何てったのちーちん?
「だから、恋人が出来たんだってば。」
「黙っててごめんね、何となく言い出せ無くって。」
マサシ(19)?マサシ(19)なの!?遂にマサシ(19)がその醜悪な姿を現しやがるのね!?決戦だッ!!
「誰よマサシって。………気付いてよ、私が待ち合わせしていた相手は?」
ちーちんの隣りの席を見ると、怯えた表情でスプリンクラーのように汗を噴き出してるキンパツ頭。
それって、もしかしなくても……剛太先輩?
「うん、もうすぐ一ヶ月くらいになるかな。」
剛太先輩はちーちん陥落のため銀成に送り込まれて来たファーストエージェントのはず。
その剛太先輩が何ゆえちーちんとラブ・ミー・テンダー?愛ジャスト・オン・マイ・ラブ?
「まひろにもまだ言って無いのよね。ほら、あの子頭が弱いから下手な刺激与えたく無かったし。」
まっぴーのコト何だと思ってるのちーちん!?そりゃ頭の中に小人が住んでるって有名だけど!
ナニがどうなってんの!?マサシ(19)は!?ノゾミ(9)ちゃんの安否はッ!!?
一から百まで全てを話しなさいちーちん!詳細に、鮮明に、TIPSすら含めて聞かせなさい!!
……この目から流れる温かい汁は何?心の奥底から湧き上がる優しさに似た気持ちの正体は何なの?
ちーちんの口から語られた二人の第一歩、もう誰にも知られるコトの無いトゥルーラブストーリー。
ごめんねちーちん。私、何にも気付いてあげられなかった。苦しんだんだね。切なかったんだよね。
さっきから金魚のように口をパクパクしながらちーちんを見詰めている剛太先輩に向き直る。
剛太先輩、ちーちんのコト大切にしてあげてね。二人で必ず、幸せになってください……。
「通ったの?今の話通ったのッ!?色々ありえ無ぇっしょ!?だって俺若…千里ちゃんに無理矢理」
「何ですか、先輩?」
「イエス……マイ・マスター………」
何かよく解らないけど、二人共幸せそうに笑ってる。剛太先輩は唇にチアノーゼ現象が出てるけど。
私の勝手な勘違いで付いて来ちゃったけども、今日ってやっぱデートするはずだったんだよね?
おジャマ虫は消えた方がいいよね、ホースメンに蹴られて死んじゃいたく無いし。
話してくれてありがとねちーちん。私もう行くから、あとはお二人でごゆっくり。
「行っちゃうのッ!?いやそんな事言わずに三人で、三人で何処か遊びに行ったりいっそ俺だけ帰」
「待って沙織、お願いがあるんだけれど。」
え、何?
「沙織からみんなに私達の事、それと無く伝えてくれないかな?自分から言うの恥ずかしくて。」
みんなってまっぴーとかカズキ先輩とかでしょ?
「あと、斗貴子さんにもお願い。」
おっけー!お安い御用だよ。それじゃ今夜寄宿舎でね、ラブラブしすぎて遅くならないようにッ!
剛太先輩が何かこっちに向かって叫んでたけれどきっと照れてるのねイヤン先輩の初々ラブリー!!
お二人さんが帰って来る前に愛の伝道師コト私が新たな時代の幕開けをみんなに広めとかないとね!
疾風になって寄宿舎へ!今夜は剛ちーナイトフィーバーでHAPPY READY GO!!
結局その日、消灯時間になっても二人は帰って来なかった。
次の日の朝、両手に謎の荷物を持ったちーちんとなぜか昨日と違う服を着た剛太先輩が帰って来た。
更に次の日、まっぴーからこんな怖い噂があると聞かされた。
深夜誰もいないはずの私達の教室から、男性の叫び声と女性の笑い声を警備員さんが聞いたらしい。
『これで私達の関係がみんなに知れ渡ったわ!あの貧乳にも筒抜けになったのよゴーたん!?』
私は何も知らない。剛太先輩の目に涙の跡があったコトなんて。
『嬉しいでしょゴーたん!?ゴーたんが帰って来れる場所は私の胸の中だけになったのよ!!』
私は何も知らない。ちーちんの荷物の中から懐中電灯がこぼれ落ちたコトなんて。
『私以外の雌共に気を許しちゃ駄目だからね!!?私の私だけの私のゴーたんッ!!!』
やっぱり全部マサシ(19)が悪いんだよッ!!
第七話LASTFALCONIR 完
第一章 迷走の果ての聖域編 了