『真夜中の軍縮会議・迷彩服を脱がせないで〜リターンズ〜』
防人君の部屋からまた卑猥なビデオが出てきた。
今度の隠し場所は予備の枕カバーの中、ご丁寧にハンドタオルで包んであった。
どれだけ上手く隠したつもりでも私には全てバレている現実を何時になったら彼は気付くのだろう。
その三十前の男性にしては凄まじい性欲に私は感謝してるけど、何故かぶつけ所を間違えている。
そんじょそこらの小娘どもには負けないプロポーション。
連戦と激闘の日々を生き抜く為に自然と身体に沁み込んだシャドウスキル。
園児服からブラジル水着まで世界が認める完璧な着こなしコスプレ・オブ・ザ・イヤー。
これだけの潜在能力を秘めている私のどこに不満があると言うのだろうか?
確実に防人君好みの女に成長した筈なのに。むしろ成長させられた筈なのに。
……とりあえず罰として彼の右手首の関節を一週間ほど外す事にしよう。
腑に落ちないのは、彼がこのビデオを何処から入手したのか。
購入物でもレンタルビデオでもない事は毎日防人君の全ての個人情報を洗っているから知っている。
誰かから借りるにしても大体の出元は抑えているはず。
最大の出元こと火渡君は、援交しようとした女子高生に財布の中身をパクられて
ビジネスホテルのフロントのおばさん相手に平謝りしている所の写真で脅しているし、
もう一つの大きな出元である剛太君は、最近出来た彼女(推測)にハンディカムを構えられ
「キレイに撮ってあげるから一人でイキなさい。」
と自慰を強要させられている所の動画映像(私が別に撮った物)で脅しているから考えにくい。
カズキ君は雑誌派だし、他の心当たりも全て調べたはず。
私がまだ把握していない入手先が在るのだろうか?
この寄宿舎にもう一人情報収集が得意な人物が居る事を思い出した。
「千歳さん?どうして此処に居るんですか?……それに、その格好は…………」
彼女、戦士毒島の協力を得られればこのビデオの出元が判るかもしれない。
と言う訳で手伝って毒島さん。ちなみにこの格好は変装よ。
「な、何故そんな事を調べる必要があるんですか?錬金の力を私用で使うのはちょっと……」
おねしょを怒られて半泣きな火渡君(10)の貴重な動画映像。
「御任せ下さい。」
結論から言うと私と毒島さんは直ぐにビデオの出元である人物を付き止めた。
しかしその人物に毒島さんは困惑し、私は首を捻るばかりだった。
そして私は全てを知るために、防人君に罠を張る事にした。
管理人室に戻ると防人君が冷蔵庫を漁ったり畳を引っくり返したりしていた。
何をしているの。
「うおぁふッ!ち、千歳サン!?何故俺のネバーランドに!?」
防人君が無くした過去を探してるような気がして。
「お前か?またお前なのか!?またお前は俺が物語の主人公になるのを阻むのか!?
何故お前はいつも俺の前に立ち塞がるッ!!?」
少子化対策よ。
「つーか何だその格好は!?何で銀成学園の制服着てんだッ!!?
鏡を見たのか!?自分が危険な状況下に置かれている現実を理解しているのか!?
お前には後悔する位なら目覚めなければいいと夢を見続ける事を選ぶ夜は無いのかッ!!?」
変装よ。
「一言で片付けんなッ!!下宿生達に聞かれたら何て説明すりゃいいんだよ!?
お前は新しい銀成学園七不思議にでも加わるつもりなのか!?
突如現れたコスプレ女の謎を解き明かせる名探偵の孫はこの学園には居ないんだぞ!?
明智似のメガネだったら居るがなッ!!」
ところで探し物はコレかしら。
「すみませんでした。」
パンツ一丁姿になった防人君に土下座をさせる。この格好なら簡単に逃げられないから。
あえて全裸にしないのは意外とMっ気がある防人君の事、
変に興奮してシルバーじゃない方のスキンが必要に為り兼ねないから。
ちゃぶ台の上に座り彼の後頭部を踏み付けながら聞いてみる。
コレは何かしら?
「世間一般ではロマンポルノと呼ばれる物でして…」
はっきりAVと言いなさい。映画館で上映できる様な物じゃ無いでしょ。
「若さが生んだトラップに引っ掛かったと言いますか自分から突っ込んだと言いますか。」
三十前のオッサンが若さとか言ってんじゃないわよ。
私も気が付けば二十代半ばなのよ?貴方もそろそろ責任ってモノを考えてもいい頃じゃないかしら?
「俺はもう成人男性だからAVを鑑賞してもダディに怒られる事は無い筈だが?」
その責任じゃ無いわよ。解ってて言ってるでしょ貴方。
まあ、今回の一件は特別に無かった事にしてあげるわ。
「……ホンマに?ホンマに見逃してくれはるの!?」
但し今日中にコレを持ち主に返す事。
「グッ!致し方有るまい、その要求受け入れよう。」
それと右手を出しなさい。
「待て千歳愛してる。ガチで愛してる。だから考え直してくれないか?
今はほら大事な時期じゃないワークとか、利き腕が使えない生活ってブラボー的にも困るし。
俺が悪かったから、非行に走った俺が悪かったから、だからもう一度アリスの微笑みを俺に」
右腕を抱えてうずくまる防人君を残して管理人室を出る。
向かう先は再び毒島さんの部屋。
「本当に上手く行くのでしょうか?」
大丈夫よ。防人君の鮒並みの脳味噌じゃ私達の計画を読めるはず無いもの。
「ブラボーさんは兎も角、相手の方は一般人ですし…」
危害は加えないわ。ただ真相を知って対策を講じるだけよ。
二度と防人君が過ちを犯さない世界を私が創る必要があるの。
「……と、とりあえず時間が経つのを待ちましょう。」
ええ、夜間強襲は篭城崩しの鉄則よ。
「いや、マジ良かったよコレ。ちょっとした邪魔が入って後半今日の夕方に大急ぎで見たんだけど、
あまりのクオリティの高さにブラボークロニクルに新たなレジェンドが刻まれちまったよ。
右手?あぁ、俺が生きている証の様な物さ。心配してくれるのかい?ありがとよ相棒。
それよりこれからもグローバルなアイテムを頼むぜ?報酬はスイス銀行の口座に」
其処までよ。
「うおおあぁぁふッ!!ち、千歳サン!?何故俺のピンキーマーケットに!!?」
防人君が重すぎる十字架を背負う覚悟でいるような気がして。
「何故此処で取引が行われる事を知ってるんだ!?誰にも言って無いのに!!」
管理人室の前じゃない。
「グウゥッ!逃げるんだ相棒!!此処は俺が命に代えてでもAVを」
「その必要は無いみたいですよ、管理人さん。」
私は楯山千歳、近い将来防人千歳になる女よ。初めまして、若宮千里さん。
このビデオは貴女の物では無いわね。
「中村先輩の部屋から押収した物です、ある意味それは私の物ですよ。」
では何故防人君にこのビデオを?
「恩返し、ですね。今の私の生活があるのは管理人さんのおかげですから。」
剛太君との生活?
「良くご存知ですね。管理人さんは私と中村先輩の仲を後押ししてくれたんです。」
どういう事?
「いや、あいつ縛れるのとか好きそうだったから。」
「私が生まれ変わる為のプレゼントをくれたんです。」
……剛太君の事はこの際どうでもいいわ。
もう防人君にAVを貸さないで頂戴。それでこの話はお仕舞いにしましょう。
「そんなッ!?俺の桃源郷がッ!!?」
お黙り。
「分かりました、但し一つだけ条件があります。」
あまり私を侮らない事ね。その気に成れば貴女の弱み位簡単に、
「お二人にご迷惑を掛ける様な事ではありませんよ。欲しい物があるだけです。」
……言ってごらんなさい。内容に依るわ。
「ありがとうございます。……それと、其方こそ私を侮らない方がいいですよ?」
私は彼女に要求通り一本のビデオテープを渡した。
「ほらゴーたん?私以外にもゴーたんの一人剣道を撮っていた人が居るのよ!?
もしかしたらこの恥ずかしい映像が世界中に流出しているかもしれないのよッ!!?」
こうして防人チルドレン・シードは守られた。
それにしても彼女、あの時私が窓から覗いていた事に気が付いていたなんて……
大戦士長にスカウトしたい人物が居ると報告しよう。
「今も見られているのよ!?何処かの中南米でゴーたんの一人関ヶ原が民放で流されているのよ!?
ほら!ガチホモ達に見られながら一人でイキなさいッ!!!」
第六話BIBLE 完