千切れそうな手足を引きずりながら自室に戻る。  
目の前が歪み意識が飛びかけるが、気力で耐えベットまでの距離を這う。  
ようやく辿り着いた安堵の地。微かに憶えている母の温もりに似た寝台が俺を安らぎへと誘う。  
ブラックアウトする前に震える指先で枕元に置いてある先輩人形(手製)を手に取り帰還を告げる。  
 
斗貴子先輩。俺、今日も一日耐え切りました。満身創痍ですけど、何とか生き残りました。  
心配してくれてんスか?大丈夫ですよ。誰よりも俺がタフガイな事、先輩が一番知ってるでしょ。  
でも、ゴメンね先輩。俺まだ、先輩を迎えに行けないよ。今のままじゃ、先輩を抱けないよ。  
だから、もう少し待ってて。もう少し……あと………少しだけ……我慢、して……うっ…ひっく……  
………穢された…また…穢されちゃったよぉ………あの女……嫌がる俺を…何度も……何度も……。  
お尻痛いよぉ……あんな、あんなコトまでされたら………もう…先輩のお婿に行けないよぉ………。  
……チクショウ………チクショウッ!あの女が、あの女が全てを狂わせたんだッ!!  
あの女さえいなけりゃ俺と先輩の愛の劇場は超満員札止めの千秋楽を向かえるはずだったんだ!!  
先輩と二人で誰も知らないおとぎ話の続きをブロードウェイで演じていたはずだったんだッ!!  
復讐してやる、逆襲に臨んでやる!女だからって一切容赦せず残酷な天使のテーゼを聞かせてやる!  
ヤってやる、殺ってやるぞ!俺はゴキゲンな蝶になって先輩とのフロンティアを取り戻すんだッ!!  
あの女をヘルに葬り去るべくあの日封印した幻の必殺技バハムートシャングリラを奴の頚動脈に  
「入るわよゴーたん。」  
どうしたんだいハニー?さっき別れたばかりじゃないか。  
「忘れ物よ、ベットの下に財布が落ちてたの。」  
わざわざ届けてくれたのかい?こんな気立ての良い子に好かれるなんざ俺ぁ三国一の幸せ者だぁ。  
「あ、その人形……ふふっ、それを抱いて寝るつもりなの?ゴーたん。」  
へっ、俺だって本当はそのプリティな寝顔を眺めながら瞳を閉じてキミを描きたいさ。  
でも寄宿舎じゃそうもいかねぇ、バレたら俺の大事な子猫ちゃんの将来を台無しにしちまうからな。  
「ゴーたんが高校を卒業しても、私はもう一年あるしね。…早く二人の新生活を始めたいのに。」  
おいおいそんなに焦らなくても二人の桃園は逃げたりしないぜ?  
俺のエンジェルが学園を卒業するまで一年間待つさ、キミの歩幅に合わせてゆっくり進んで行こう。  
俺達は禁断の果実を貪り合うエデンへの片道切符を購入したんだ、二代目アダムとイヴになろうぜ?  
「うん、私ゴーたんと一緒なら何処にだって行けるよ。…じゃあ私、部屋に戻るね…また明日……」  
あぁ、お休み。怖い夢を見たらすぐに俺の所へ来るんだよ怖がりなスィートベイビー?  
キミが俺だけの夢を見られる様に、朝日が昇るまで耳元で愛を囁き続けてあげるから………。  
 
 
…………………………脅かすんじゃ無ぇよ馬鹿野朗ッ!!?  
ビックリしすぎてアンモニア臭漂う液体がピャッピャしたじゃねぇか!プシャァァしたじゃねぇか!  
何だよアイツ!なんで数時間前とキャラ変わってんだよ!?ちょっとカワイかったじゃねぇかッ!?  
ベットの四方に俺の両手足を縛り付けて踏んだり踏みにじったりしたオメェは何処に行ったんだ!?  
フナ虫を見る様な冷瞳で俺の菊門を弄ったり弄り尽したりしたオメェは何処に旅立ったってんだ!?  
あの変わり様、これがちまたで噂の「ツンデレ」ってやつか?  
全然嬉しく無ぇよッ!ツンの部分をベットで出すなよ!?デレを出せよデレを!逆だろが普通ッ!!  
……しかし危なかったな、下手すりゃこの先輩人形(着脱可)の正体がバレる所だった。  
この先輩人形(穴完備)は顔のキズを取ってめがねを着ける事で若宮さん人形へと変貌するんだ。  
一瞬の間に俺の器用すぎる指先がメイクアップしたから何とかクライシスを回避するコトは出来た。  
だがこの秘密がバレたら骨折どころじゃ済ま無ぇ、今は隠れキリスタンとして生き続けるしかない。  
毎晩先輩への敬愛と想望を祝詞に変えて窓から射し込む月光に祈りを捧げる事しか出来ないなんて…  
このままじゃダメだッ!俺と先輩のメモリーズオフが遠ざかる一方じゃねぇかッ!!  
こうしてる間にも先輩は下劣な武藤からの陰湿な羞辱に苦しんでいるんだ!耐え忍んでいるんだ!!  
俺というナイトが迎えに来る瞬間を信じて薄暗い牢獄の中涙を流さず気丈に振舞ってるんだぞッ!?  
一刻も速く現状から抜け出すんだ!エスケープするんだ!ロープに足が掛かってんだろレフリー!?  
今すぐ助けに行きたいッ……でも、若宮さんに知られたら硫酸どころじゃ済ま無ぇ………。  
怖い訳じゃ無ぇぞ!?ただ真正面から若宮さんを潰しに掛かろうにも弱みを握られすぎてんだ!  
 
俺と若宮さんの間に愛は無いが肉体関係があるのは消えない事実、積み重なる後悔とトラウマ。  
奪ったのか奪われたのか分かん無ぇけどヤっちまった以上俺にも責任はあるのか?いや無い。  
俺は被害者だ。あの女に犯されたんだ。男女平等社会の闇の部分に喰い千切られたんだ。  
今日だって結局入れさせて貰えなかったし、脱ぐどころか片乳すら見せてくれなかったのが証拠だ。  
いや、もう少しで見えたんだ。俺を挑発するかの様に作務衣の隙間から双谷をさらしていたから。  
首の角度さえずらせば苺ましまろを覗けたんだ。でも俺、大の字で動けなかったし。  
………なに残念がってんだよ俺!?なに思い出して反応してんだよ俺のバルバロイ!!?  
あれだけ酷い目に遭わされて、罵声を浴びせられて、恥ずかしい思いをあんなにしたのに………  
求めてなんか無ぇぞッ!気持ちよかったけど……身体は許しても心までは触れさせ無ぇからなッ!?  
この若宮さんとの間違った関係を終わらす事が出来れば俺と先輩は夢色チェイサーになれるさ!  
だがあんなに屈辱的でアブノーマルな舞踏会を先輩に聞かれたら二人の未来に亀裂が走るんだぞ!?  
下手に若宮さんを刺激せずに先輩の元へ帰る方法を早急に想像して創製するんだ!  
頭の中の歯車がガチッと噛み合った時の俺に解けない謎なんて無ぇんだ!俺は頭がイイからな!!  
 
 
結局一晩中考えてもナイスなアイデアは出て来なかった。  
っていうか途中から数少ない若宮さんとのガチンコバリバリバリューを思い出して、  
俺のグロ可愛いミュータントタートルがおっきくおっきくなってしまい、  
先輩に対して申し訳ない気持ちでいっぱいの中、間欠泉が噴き上げ夜空を駆け抜けてしまった。  
…先輩…先輩に会いたい……先輩に会って昨日のコトを謝りたい……昨日のコト先輩知らないけど。  
二人の絆が確かなら俺が念じれば先輩は俺の前に現れるはず。……先輩…………斗貴子先輩ッ!……  
「あ、剛太オハヨー。」  
何でオメェなんだよッ!!?  
よりにもよって武藤かよ!?一番見たく無ぇよお前の顔なんて!失せろこの糞味噌野朗ッ!!  
「朝から何怒ってるんだよ?うわっ、凄いクマ出来てるぞ。」  
ああ、昨日ちょっとミッドナイトシャッフルしちまってな。寝不足なだけだ。  
「えーと、もしかして彼女と?」  
あ?……彼女?  
「ちーちゃんと付き合ってるんだろ。」  
付き合って無ぇよッ!!毎日会って毎晩好き勝手ヤられてっけど付き合ってる訳じゃ無ぇよッ!!  
あの子か!?先輩より胸の薄いあの子に聞いたんだな!?それは歪曲された真実だ武藤ッ!!  
「違うの?みんなから最近いつも一緒にいるって聞いてるぞ?」  
お前にゃ見え無ぇ透明な首輪で繋がれてんだよ!逃げようとするとご主人様に折檻されるんだよッ!  
つーかみんなって何だよみんなって!?もうそんなに広まってんのかよ!?  
俺らがデキてんのはお前らに取って既成事実なのかよ!?既成事実だけどもッ!!  
「何だ、剛太にもやっと春が来たと思ってたのに。早く恋人作れよな。」  
グオオォォォオゥゥッ!!!テメェぶっ殺すぞ武藤ぉォォッ!!  
俺の真の恋人である先輩をたぶらかしローザミスティカを奪ったのはオメェだろぉぐあぁぁッ!!?  
やはり何よりも優先してお前の息の根を止めておく必要が今の俺にはありそうだなぁぁぁ!!?  
リミッターの外れた俺はナニするか判らんぞッ!?伝説の必殺技イズミノカミカネサダがお前の膝を  
 
その時突然、俺の脳内で恐ろしく狡猾で秀逸なプロジェクトが重役会議を通過した。  
不本意だが今先輩に一番近い人物である武藤なら若宮さん恋人説の誤解を先輩に説明出来るだろう。  
そして武藤を味方に付ける事が出来れば俺、先輩、武藤の戦団創設以来最強のトリオが完成する。  
いくら若宮さんが抵抗した所で屈強な錬金戦士達の圧倒的な暴力の前には為す術も無いだろう。  
単純に力で押え込む。傷を付けたりはしない、ただ俺達を怒らせたらどうなるか、それを解らせる。  
武藤さえ此方側に取り込めれば、このスクールランブルは俺の勝利で終結する。  
 
「……剛太?何で笑ってるんだよ………気持ち悪いぞ。」  
ふっ、気にすんな。ちょっと自分の才能が怖くなっただけだ。それより武藤、頼みがあるんだが。  
「いいけど、早く学校行かないと遅刻するぞ。」  
別に放課後でも構わないんだ、先輩に俺と若宮さんは付き合って無い事を言っといてくれないか?  
「別にいいけど、剛太が直接言えばいいんじゃん。」  
おいおい武藤友達だろ?察してくれよ。噂の当人が言って回るなんて恥ずかしいじゃ無ぇか、だろ?  
「そっか、そうだな。分かった、斗貴子さんには俺から伝えとく。」  
掛かったな武藤、その一言でお前は俺の掌の上で死ぬまで踊り続けるピエロになったんだ。  
せいぜい滑稽なダンスで俺を楽しませてくれよ?  
「でもさ、俺ちーちゃんは剛太のコト好きだと思うぞ。何て言うか、オーラを感じる。」  
…………確かにそうかもしれん。だがな武藤、若宮さんは先輩を不幸にする邪教徒その物なんだぞ?  
先輩に取ってナニが幸せなのかを考えろ。先輩の望みは何だ?俺とのロマンシング性だろう?  
お前は今、先輩を幸せにする最後のチャンスを掴んだんだ。何故それを活かそうとしない?  
お前は先輩に惚れてるんだろ?だったら先輩の為に頑張れよ。努力しろよ。努力してみせろよ。  
いいか、自分の為だと思うな。俺と先輩の為だと思い俺に尽せ、奉仕しろ。俺を救ってみろ。  
「そ、そんなに睨むなよ。ちゃんと言っとくってば。」  
頼んだぜ武藤、これで先輩は至福の感涙を流すだろう。お前に取って良い方であれ悪い方であれな。  
先輩、随分待たせちゃったね。でも、あの神聖なる亡失都市に、やっと俺達到着するんスよ。  
 
冬のニセコ高原の様に顔面蒼白な先輩が弱々しい口調で俺に勘違いを詫びる。  
『すまなかった剛太。何も知らぬまま、噂を鵜呑みにしてしまった。』  
いいんスよ先輩、分かってくれたらいいんです。怒っちゃいませんから、そんなに謝らないで。  
俺の優しさに触れ、先輩の目頭は熱くなる。だが沈んだ表情は変わらない。  
『……最低だな、私は。………剛太の事を信じずに、勝手に軽蔑したりして…』  
そんなに哭かなくても、そんなに自分を責めなくていいんだよ涙色のヴィーナス?  
慰めようとした俺より速く、決意と躊躇が入り混じった様な先輩の懇願が飛ぶ。  
『責任を、取らせてくれないか?……許して貰えるなら…剛太の望みを、何でも聞き入れる……』  
ダメだよ先輩、そんなのダメだ。責任とか、償いとか、そんな事で自分を傷付けちゃいけない。  
拒まれたと思い崩壊しそうな先輩の身心を引き寄せ、消えてしまわぬ様に力強く抱き締める。  
おでことおでこがごっつんこ。驚く先輩に、愛情も欲望も全て隠さず打ち明ける。  
そんなの抜きにして、大好きだから、愛してるから先輩の事を抱きたいと。  
最高にチャーミングな笑顔が俺の網膜を焼き尽くす。二人のシルエットが重なり、そして離れる。  
『…こんな幸せが、あっていいのか?……私は、夢の中に居るんじゃないのか………』  
夢の中でもいいさ。こんなドリームなら何時までも見続けられる、そうだろティンカーベル?  
キミが望むなら俺はピーターパンになって、キミをこの永久の世界に閉じ込めたって構わないんだ。  
時代から隔離された二人だけの幽世で、いつまでも愛を慈しみ合おう。  
『………来てくれ…剛太…………私を………キミだけの、物に……』  
OK大丈夫、ちゃんと伝わっているさ。顔を真っ赤にしなくていいんだよ俺のリトルマーメイド?  
キミが一人で泡になる事は無い。二人で一緒に、愛欲と言う名の海に溺れよう。  
細くしなやかな先輩の肢体をベットに押し倒し、紅潮した耳たぶにそっと俺は息を吹き掛かった。  
 
「おーい剛太ー?」  
遂に俺だけに許されてる伝説が今始まる!嘆きの中希望の中命の意味を覚えてブラックハウリング!  
「剛太、確りしろって剛太。」  
今こそ立ち上がれ運命の戦士よ!!ギンギラギンにさりげなくその性義呼び覚ませ!命をかけて!!  
「剛太!帰って来いってば剛太ッ!」  
だあぁぁッ!!何だよ武藤ッ!?オメェは俺の邪魔をするのが趣味なのかよぉッ!!?  
「いや、後ろ。」  
ああんッ!?俺のバックを捕れるのはディルドを着けた先輩  
「おはようございます中村先輩。」  
イヤあぁぁァ!!?出たああぁぁぁぁァァァッ!!!  
「オハヨーちーちゃん。今日はまひろ達と一緒じゃないの?」  
「日直の仕事があって、少し早く先生の所に行かないといけないんです。」  
嘘だッ!!俺の後を着けて来たんだ!粘着質なストーカーの如く俺の背中に張り付きヒタヒタと!!  
ココは退くぞ武藤!先輩と合流して今一度迎え撃つんだ!無様でも今は逃げ体制を整えるんだッ!!  
「こんな所で何を話してたんですか?」  
「ああ、今聞いたんだけどちーちゃん剛太と付き合って無いんだってね。」  
ムゥトオォォぉぉーーゥ!!?止めろ馬鹿それは核ミサイルのスイッチだぞぉぉォ!?  
「…………………中村先輩が、そう言ったんですか……?」  
「え、うん。剛太がさっき……教えてくれた………んだけ…ど…………」  
 
この全身から流れ出る汗が夏の陽射しから来るものでは無い事くらい、俺は自分で理解している。  
三人を包む沈黙。セミの鳴き声だけが五月蠅く響く開かずの森から、後戻りはもう出来ない。  
怖くなんか無ぇ!ひぐらしがないてるからって怖くなんか無ぇからなッ!!  
「………話しがあるわゴーたん。」  
それは違うんだ、俺の話を聞いてくれないかい?おっちょこちょいなシュガシュガルーン。  
ほら最近猛暑が続いただろ?それでちょっとマイコンピュータがオーバーヒートしちまったのさ。  
俺がキミを手放す訳無いじゃないか。一番解っているのはキミだろ、じゃじゃ馬ドルヴァドール?  
だから笑っておくれ。キミにそんな顔は似合わない、太陽を真っ直ぐに見上げる向日葵の様な笑顔が  
「武藤先輩、私達今日休みます。」  
ま、待ってよ若…千里ちゃん、早まっちゃいけない。もっとよく考えてから決断しよう?  
今夜ベットの中でキミの上と下から流れる涙を俺が拭う為にもこの身体は大切に扱うべきだろ?  
とんでもなくいいコトを全身全霊でキミのテロリシズムに……あ、スンマセン……痛ッ…や、やめ…  
トーキックはやめて痛いからソコ痛いから…がッ……武藤見てないで助けろよ!?俺を救ってみろ!  
冗談、冗談だって!いいコトって老人ホームでのボランティア活動の事で…ちょ……ご慈悲をッ!!  
「……………何をしてるんだキミ達は。」  
 
せ、先輩ッ!?どうしてこんな辺境の樹海に!?  
「通学路じゃないか。おはようカズキ、昨晩は良く眠れたか?」  
「オハヨー斗貴子さん。俺はよく寝れたけど、晩くまでおジャマしちゃってゴメンね。」  
「いいんだ。…その……私から、誘ったのだから………」  
武藤ッ!?キィサマァァァッ!再びそのロシアンラストエンペラーで先輩の稲畑をぉぉォォッ!!  
「………斗貴子さん……私………私ッ!!」  
え?ナニ?何で泣いてんの若…千里ちゃん?  
「ど、どうした!?何かあったのか!?」  
「私、中村先輩の事が好きでッ!でも、中村先輩に、たった今棄てられちゃってッ!!」  
…………………ワッツ?  
「す、棄てられだとッ!?どう言う事だ剛太ッ!!?」  
待って先輩!?俺は基本フェミニストな上マゾだからそんな鬼畜米兵な真似出来る訳無ぇってばッ!  
「中村先輩を責めないでくださいッ!私が、私が勝手に好きになって…先輩は……悪く無くて……」  
な、何だ今の若宮さんの眼は?一瞬だけ俺に見せた地獄の様に深く雷光の様に鋭い覇者の眼光は!?  
俺はあの眼を、何処かで見た事がある……そう遠く無い過去、俺はあの邪神の瞳を………。  
「…中村先輩の命令なら何でも聞いたのに………すごく怖かったけど、必死で我慢したのにッ!」  
そうだ…あの時だ。かつてたった一度だけ、若宮さんが俺より先に絶頂を迎えたあの夜に見たんだ。  
 
俺の上で跳ね廻りそのまま達した若宮さんは荒い吐息を俺の首筋に掛ける様な体勢で動かなかった。  
例の如く拘束されていた俺は刺さりっぱだわフタコブ山が当ってるわの状況に混乱し興奮していた。  
可能な限り身体を動かし首を横に向ける、映り込む若宮さんの艶めいた赤ら顔。  
その瞬間、俺の中でなにかが弾けた。って言うか息子が弾けた。ヤベェ!!な、膣内にッ!!?  
ゆっくり瞼を開き俺の目を覗き込む若宮さん。まどろむ様な瞳が段々と色を変え俺を凍り付かせる。  
その後はもう土下座だ。ただひたすらに土下座だ。ひたいの骨が剥き出るほどに。  
若宮さんの脚を舐めて、子供が出来たら責任を取るという血判状を書き挙げて何とか俺は赦された。  
だが罰として衣服を全て剥ぎ取られ、国家が推奨するクールビズを強制的に体験させられた上に  
「全裸のまま自分の部屋まで戻りなさい。」  
と命ぜられ不覚にもゾクゾクしながら見上げた満天の星空がとてもキレイだったあの夜に見たんだ。  
そう、あの時の眼と同じなんだ。俺に罰を与える時と同じ、冷徹なエクスキューショナーの眼と…。  
 
「…………剛太、貴様と云う醜男はぁぁッ!」  
若宮さんは、俺の産まれ持っての頑丈さと核鉄の治癒力が合さった脅威的な生命力を知っている。  
「斗、斗貴子さん!?落ち着いてよ、チキンの剛太にそんなコトする度胸は無いって!」  
「止めるなカズキッ!!か弱い乙女の聖少女領域を穢す様な下郎はこの世には要らんッ!!」  
惚れた弱味で、俺が先輩になにをされても反撃出来ない事も知っている。  
「楽には死なせんぞッ!己の愚行を後悔しながら生死の境を彷徨い続けるがいいッ!!」  
先輩を彼方側に取られた今、俺がこのランブルローズを制する確率は、ゼロ。  
「睾丸をぉ!ブチ撒けろぉぉぉォォーーーッ!!!」  
 
………へへッ、身体の感覚が無くなってから随分経っちまいやがった。こいつぁもう無理そうだ。  
しかし、俺もとんでも無ぇアバズレに惚れられちまったモンだ。色男は辛ぇなぁオイ。  
自分で勝てなきゃ他人を使う、か。人の振り見てナンとやらってか?笑え無ぇジョークだぜ。  
眼の前が霞む。何だか、暖かくなって来やがったぞ………いよいよ、お迎えか。  
でも…先輩の手で殺されたのなら、満足かもな。……愛する人に、死を看取って貰ぇたんだ。  
……クソッタレ!っんな訳無ぇだろ!?先輩は、俺を殺した事を一生後悔して生きるんだぞッ!?  
俺はもう、先輩を慰めてやれ無ぇ!先輩の傍にいる事すら出来無ぇんだ!!クソッ!クソォォッ!!  
…………あの女……あの女さえいなけりゃ……こんなコトには…………ッ!!  
恨んでやる……あの世で呪ってやるッ!!あの女、あの女絶対ぇ許さ無ぇェッ!!!  
 
こ、此処はドコだ?…俺は、死んだんじゃ無ぇのか?  
何だ?このドでかい扉は。…………うおぉッ!!?誰だアンタッ!?何時からソコにいた!?  
………イズコ?アンタの名前か。………怨みの門?……何だそりゃ?  
イズコと名乗る女(割と美人)は俺が魂だけの存在になったと告げた。  
そしてイズコ(先輩並みに貧乳)は三つの選択を俺に突き付けた。  
天国に逝くコト。幽霊になるコト。そして、誰かを呪い殺すコト。  
俺は歓喜に打ち震えた。何故なら、あの女を呪い殺せるんだ。全ての元凶である、あの女を…………  
 
……なにを、迷っているんだ?アイツさえ……あの女さえ………いなけりゃ……………。  
は、ははッ………ドラマみたいだぜ…………死んでから、気付くなんて…………。  
思い出してみろよ?あの子は、本気で俺を苦しめようなんて、そんな事考えて無かったじゃねぇか。  
……ただ、俺に喜んで貰おうと………振り向いて貰おうと…………必死、だったんだ…………。  
ゴメン、ゴメンよ。俺、本当はキミに惹かれてたんだ。若宮さん……いや、千里…ちゃん。  
今更解っても……もう、遅ぇのにな?せめて、千里ちゃんの為に、俺が最後に出来る事を…………。  
イズコ(多分処女)、決めたぞ。俺の、俺の逝くべき道は━━━━━  
 
 
その時、空間を超越して乱入して来た千里ちゃんがイズコ(凄ぇ顔してた)を殴り倒した。  
俺の襟首を掴みまた空間を無視して光速で寄宿舎の自室まで俺を連れ帰ってベットに押し倒した。  
片乳を見せる事で完全勃起させた俺のルーザーを老獪なテクニックを駆使して約8秒で締め倒した。  
「殺したって死なせない」とか訳分からんコト言いながら何かもう出なくなるまで俺を攻め倒した。  
 
こうして俺は救われた。  
                             第一話 LIGHTNING SPIRAL  完  
 

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