いつもの様に、俺は斗貴子さんを抱きしめて、斗貴子さんにだけ聞える様に呟いた。  
「だいすきだよ」  
 
 
 
そう言った途端、斗貴子さんは俺の腕の中で俯いてしまった。  
「……どうしたの?」  
「…別にどうもしない。ただ…」  
斗貴子さんは顔を隠したまましゃべり続けた。  
「ただ、キミが、毎日の様にそう言ってくれるのが……嬉しくて」  
「なら…顔を上げてそう言ってくれると、俺も嬉しいんだけど」  
「……………」  
斗貴子さんは顔を上げてはくれない。きっと、恥ずかしいんだ。  
俺だって恥ずかしくない訳じゃないけど、好きという想いを伝えたい気持ちの方が強い。  
「斗貴子さん。顔、上げて?」  
俺は斗貴子さんにそう催促した。多分、耳まで真っ赤にしてるんだろうけど。  
「…もう……」  
下からの斗貴子さんの視線が、ゆっくりと俺を捕らえた。  
……あぁやっぱり。  
「顔、だいぶ赤いね。…かわいい」  
「やめてくれ……」  
斗貴子さんがまた下を向こうとしたから、思わず斗貴子さんの後頭部を押さえて、  
くちびるを重ねた。  
「あ、コッ……んっ」  
俺が舌を入れようとすると、斗貴子さんはすぐに受け入れてくれた。  
斗貴子さんは、ホントにキスが好きだ。  
ちゅ、ちゅう、ちゅぶ。くちゅ、ちゅ。  
俺と斗貴子さんの唾液が混じり合って、だんだん区別がつかなくなっていく。  
 
くちびるを離したのは、カズキではなく私。  
お互いに恍惚となっていたので、どれ位の間くちびるを交わしていたのかよく分からない。  
ただ、口の中に残る粘つきから考えて、興奮しているという事だけは分かる。  
……このコも、私も。  
「斗貴子さん、鼓動が速くなってる」  
「人の事言えないだろう、キミも」  
二人とも紅潮した顔で、二人ともクスクスと笑った。  
本当にただそれだけだったのだが、それは私にとってこれ以上無い幸せだ。  
「本当に嬉しそうだね。ね、斗貴子さん……」  
カズキが再び顔を近づけてきて、よく通る声で囁いてきた。  
「その………イイ…かなぁ?」  
……こんな状況でなければ、言葉を省きすぎていて意味が通らなかっただろう。  
「……しょうがないな、キミは」  
「エヘヘ、ゴメンね。でも、斗貴子さんがイヤだって言うんならしないよ?」  
カズキが心配そうな瞳を寄越してくる。  
本当は嫌なのだが、カズキの為に耐えているとでも思っているのだろうか。  
「別に…イヤなんかじゃないぞ?キミとなら……の話だがな」  
「ホント!良かったぁ!!それじゃ、斗貴子さん………」  
カズキのくちびるが、また私のくちびるを塞いだ。  
衣擦れの音と相まって、私は次第に高まってゆく。  
 
「はぁぁ……カズキ…」  
皮膚と皮膚が触れ合って、斗貴子さんがそんな声をあげる。  
露になった斗貴子さんの肌はすっかり上気していて、桜色だった。  
もう何度見たか分からない。けれど、心底『綺麗だ』と思う。  
「すっ……ごくキレイだよ、斗貴子さん」  
「……またそういう事を言う…」  
そう言って斗貴子さんはそっぽを向いてしまった。本当の事を言っただけなのに。  
何だ少し寂しくなって、斗貴子さんの胸にしゃぶりついた。  
斗貴子さんの体がぴくん、と跳ねる。  
「ひゃうっ!…きゅ、急に何をっ……!!」  
ちゅむ、ちゅむ、くちゅ。  
わざと音を立てて、乳房を舐め回す。決して歯を当てない様に細心の注意を払いながら。  
俺に出来る限り優しく接して、斗貴子さんを気持ちよくさせる。  
ちゅうう、ちゅっ、ちゅっ。  
「ンン、あっ…カズキぃ……」  
斗貴子さんが俺の頭を注視しているのが分かる。  
乳首から口を離さず斗貴子さんを見つめ返すと、そこには蕩けた瞳があった。  
「カズキ…」  
気持ち良くなってくると俺の名を連呼するのは、斗貴子さんのクセだ。  
甘い、甘い声は、より一層斗貴子さんをいとおしく思わせる。  
我慢できなくなった俺は、斗貴子さんの一番大切な場所に触れた。  
くちゅり。  
「ひゃぁあん!あぁ…あん!ダッ、ダメだカズキ…ッ!!」  
「ダメ…なの?こんなに濡れてるのに?」  
シーツが湿っている事が見なくても分かる程、斗貴子さんは感じてくれているのに。  
「だ、だって、もうそんな所さわられたらぁ…私はっ……!」  
傷の場所が分からなくなる程、斗貴子さんは真っ赤になってるのに。  
「斗貴子さんは……どうなるの?俺にだけ、教えて?」  
「バカッ…それが一番、恥ずかしいんだぞっ……」  
自分の顔も真っ赤になっている事は、重々承知だ。  
―――ああ、俺はこんなにもこの人の事が、すきなんだ。  
 
ぢゅ、ぢゅぅう。ずちゅ……  
カズキが私を抱きしめたまま、カズキ自身をゆっくりと挿入してくる。  
もう声を堪える事も難しくなってきた。  
「ン、あ、カズキ、カズキィ……」  
情事の最中、気が付くと私はこのコの名前を呼んでいる。  
私の中に収める事を終えたカズキは、にこりと笑って、軽いキスをくれた。  
「なあに?心配しなくても、俺はここにいるから…ね?」  
そう言って、また私のくちびるを奪った。今度は、舌も交わす。  
それと同時にカズキが腰を動かしだした。  
ちゅっ、ぐちゅう、ちゅば、じゅっ……  
決して乱暴にではなく、まるで頭を撫でているかの様に優しく心地よく。  
唾液と蜜、二つの粘液の音があまりにもいやらしい。  
眩暈を起したかの様に、頭の中がくらくらと揺れる。  
それでも、目の前にいるこのコだけははっきりと見えている。  
じゅ、ちゅぢゅう、じゅぷ……  
塞がった口から零れるのは、言葉ではなく水音だけだ。  
だが唐突に、彼に伝えたい想いが私の中に生まれてきた。  
快感に打ち震えている所為か、上手く力の入らない腕を動かし、キスを中断させる。  
「ハァ、ハァ…どうしたの?斗貴子さん…?」  
カズキも息が上がっている。もう絶頂が近いのだろう。まぁ、それは私もだが。  
「あぁ……っは……ん………きぃ……」  
「え?何て言ったの?」  
上手く舌が回らない。更に言うなら、恥ずかしいという事もある。  
それでも何故か、私はこの言葉を『今』彼に伝えたかったのだ。  
「……す………きぃ……」  
「…え?」  
「はぁん、あ、すき…だっ………キミの…ぉ、事がぁっ!!」  
 
斗貴子さんが、俺の事を好きだと言ってくれた。  
勿論、分かってた事なんだけど。俺達は恋人同士なんだから。  
それでも―――  
泣きたくなる程、嬉しかった。  
「斗貴子さん、俺も、俺も斗貴子さんの事だいすきだよ!斗貴子さん、斗貴子さぁん!」  
意図せず、腰の動きが速くなっていた。斗貴子さんの嬌声が、更に上擦る。  
「あひゃああん!!カ、カズキィ、んぁ、あぁぁ!」  
じゅぽ、じゅぽ、じゅぷっ、ぐちゅちゅ……  
ただでさえ強い斗貴子さんの締め付けは、今や俺のモノを潰さんばかりとなっている。  
斗貴子さんももう限界なんだろう。  
「斗貴子さん、俺、そろそろ…っ」  
「カズキ、わ、私もぉ……んぅ、い、一緒に!」  
「分かってる、大丈夫だよ斗貴子さん!」  
俺は、斗貴子さんの一番深い部分を思い切り強く突いた。  
「あっ、ひゃあぁっ、カッ、カズキィイイイ!!」  
「んんっ…斗貴子さんっ……!!」  
斗貴子さんが俺にしがみ付いたまま痙攣している。  
びくん、びくびくびくん―――  
俺も斗貴子さんを抱きしめて、斗貴子さんの中に大量の精を解き放つ。  
びゅくっ、びゅるるるる―――  
「カ、カズキの………あったかい…」  
俺と斗貴子さんは、余韻のままに、しばらく抱き合っていた。  
 
「それにしても、本当に元気だなぁキミは…」  
「えーと……その…ゴメンナサイ……」  
昨日も、一昨日も、そしてその前日も、このコと一緒に寝たというのに。  
「まさか、性欲の任せるままに、他の女の子に手を出すなんて――」  
「そんな事しないよ!」  
私が全てを言い切る前に、カズキは反論を始めていた。  
「俺のパートナーは斗貴子さんだけだって!  
 って言うか、斗貴子さんがいるのに、斗貴子さんを蔑ろにしたりしないよ!!」  
「そ……そうか。すまない…」  
私は冗談半分で言ったのだが、彼のあまりに強い思いにどきりとさせられる。  
「でも……斗貴子さんも…俺だけ、だよね?」  
さっきとは打って変わって、弱弱しい声でカズキはそう言った。  
私は、出来るだけ優しい声で彼に答えた。  
「私も…だぞ。キミ以外の男に、私が体を開くと思うか?」  
「…ううん。思わない」  
カズキは眩しい程の笑顔を湛えながら、私を抱き寄せた。  
「あ、そうだ、斗貴子さん!」  
思い出した、という風にカズキが喋り出した。  
「斗貴子さんさっき、俺の事『すき』って言ってくれたよね?」  
……覚えていた。珍しい事だからだろうか?  
「ん、まぁ、な」  
「えへへへへ」  
ぎゅう、とカズキの腕に力がこもり、彼と密着した。彼の鼓動と体温が伝わってくる。  
こうされると日の光を浴びているかの様に心安らぐのは、何故なんだろう。  
彼が、私にだけ聞えるように語り掛けてくる。  
 
 
 
「だいすきだよ」  
 
 
 
 
 
 
腕の中の人へ―――了(始めに戻る)  
 

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