「アレク!」
「あら、お帰りなさい」
家の裏手に積まれた薪を抱え上げようと腰を屈めかけたアレキサンドリアは、不意に掛けられた声に
おっとりと振り向いて笑顔を向けた。
肩の上で切り揃えられた金髪が柔らかく揺れ、陽光にきらきらと輝く。
「駄目じゃないか、そんな重いもの! 力仕事は俺に任せろと言ったろう」
嗜めるような口調で話しながら大股で彼女に歩み寄る青年は、彼女の夫・ヴィクター。
一見細身ながら、鍛え抜かれた強靭な筋肉がシャツの袖や襟元から覗く。
ともに錬金術の世界に身を置く者同士であり、戦士と科学者でもある。
ヴィクターは妻の隣まで来ると、積み上げられた薪束の一つを担ぎ上げた。
アレキサンドリア──アレクは、生真面目に働く夫の顔を見上げてクスクスと笑う。
「もう、大げさね。この位は平気よ」
「む……いや、大事にし過ぎて悪い事など無い。少なくとも、俺が居る時は頼ってくれていい」
朴訥に返事をしながら、いたわるように下腹を撫でる妻を見返す。そこは服の上からでも判るほどに
膨らんで、順調な生育ぶりが見て取れた。
「ふふふ……じゃあ、お願いしようかしら。湯浴みしたいから水汲みと、お湯を沸かすのを」
「お安い御用だ。任せてくれ」
そっと腕を絡めてくる妻に、ヴィクターは笑顔で力強く頷いた。
* * *
彼らの生きる時代。近付く新世紀への希望と不安渦巻く、十九世紀末。
彼らの生きる世界は混沌に包まれていた。
急速な工業と経済の発展に対応しきれない古い体制は大不況と貧富の格差を生み、
急速な人口の増加に追い付けない都市部は、汚物と工場廃液と疫病で汚染された。
加えて、錬金術によって産み出されたホムンクルスの暗躍。
費用対効果に優れ、あらゆる過酷な環境下で活動できる“最強の労働力”として造られた彼らは、
自らの意志と知恵で造物主に反旗を翻した。そして逆に“人類の捕食者”として、闇の世界に
その勢力を拡大しつつある。
そんな混沌の時代に立ち向かうため、彼らは戦う。
ホムンクルスを打ち滅ぼす大戦士として。錬金術で未来を照らす若き天才科学者として。
だが、今の彼らはごく普通の夫と妻。そして、もうすぐ父と母になるために、自然に囲まれた田舎に
居を構えて日々を穏やかに過ごしていた。
* * *
「どうしたの?」
湯上りの、うっすらと紅潮した白い肌を惜しげもなく晒したまま、アレクは背後から自分を抱き締める
夫に尋ねる。
「いや……。生命とは、かくも偉大で神秘的なものなのだな」
お互いに裸で、ベッドの上。ヴィクターは、大きく膨らんだ妻の腹に手を当てた。
そこに宿る、新たな命。自分と彼女の血を分けた、もう一つの鼓動を確かに感じる。
「貴方は男の子と女の子、どっちがいい?」
夫の胸板に頭を預け、どこかうっとりと謡うようにアレクが囁いた。
「どっちでもいいさ。健やかに産まれて、育ってくれるなら」
答えながらアレクの髪をかき上げ、顔を上向かせる。
「でも、そろそろ名前も考えておかないと……」
「女の子なら女王陛下の名を。男なら、俺が尊敬する英雄の名を……」
唇を重ねる。
「ん……」
アレクの身体から、余分な力が抜けていく。温かくて柔らかな肌を全身で感じながら、ヴィクターは
妻の唇に舌を這わせる。
「んむ……ふぁ……」
アレクが微かに口を開き、夫の舌を受け入れた。
ちゅっ……ちゅぷ…………ぴちゃ……
揺らめくランプの赤い灯の下。口付けの水音と秘めやかな吐息、肌の擦れあう音だけが、質素な寝室の
空間を満たす。
「……ここも随分と張ってきたな」
唇を離して、ヴィクターがアレクの乳房を片手に掬い上げた。まるで熟れた果実のようにみっしりと
丸く張り詰めて、赤みを増した乳輪が一際大きく膨らんでいる。
「赤ちゃんのために、ちゃんと身体の準備が出来てきてるのよ」
夫の頬を撫でながら、アレクは子供に諭す風に囁いた。
「────どれ?」
華奢な身体を軽々と横抱きにして膝の上に乗せ、ヴィクターがその胸元に口を寄せる。
「んっ!」
アレクが小さく声を上げた。ヴィクターは固く尖った乳首を口に含み、舌で転がし、わざと音を立てて
吸い上げる。
「あん! まだオッパイは出ないわよ。それに、最初のお乳は赤ちゃんの為の大切なものなんだから」
くすぐったそうに身をよじるアレク。だが、ヴィクターはそれでも乳房に吸い付いたまま。
「もう、駄目だったら……やっ……んぁっ……」
身悶えながら、アレクの声に甘い響きが混じっていく。ヴィクターは二つの乳房を交互に吸い上げ、
空いた片方は大きな掌で執拗に捏ね回す。ジンジンと熱く疼きだす双乳から引き出される官能の波に、
たまらずアレクは夫の頭を掻き抱いた。
「アレク……」
ヴィクターは妻にしがみ付かれながら、そっとその身体をベッドに横たえる。上半身だけで覆い被さり
頬にキス。それから首筋に、鎖骨にと口付けを繰り返す。
「愛しいアレク。君は俺の希望であり、誇りだ。……君と、お腹の子と一緒に歩む未来のためならば、
俺はどんな苛烈な戦いにも立ち向かって行ける」
「……私もよ、愛しいヴィクター。貴方と、この子の未来のためなら、どんなに不可能な夢だって
きっと実現できる」
ヴィクターの手と唇が、アレクの身体を滑り降りる。お腹の膨らみを愛しげに撫で伝い、その下へ。
「あっ!?」
アレクが小さく声を上げた。武骨な掌が、太腿の内側に入り込む。ヴィクターは妻の白い脚を左右に
開かせ、その間に自分の身体を滑り込ませる。そして、シーツの上に投げ出された両の膝を抱えて
起こさせた。
「んうっ……んあぁ」
M字に開かれた脚の間。金色の恥毛の下で、薄桃色の秘唇が密やかに綻んでいる。優しくキスをすると、
アレクがシーツを掴んだまま上体を捩らせた。
ちゅうぅぅ……ちゅっ……ちゅる……
ヴィクターは花弁に唇を押し当て、舐る。獣のように舌全体で花弁を下から上へと舐め上げ、襞の間に
舌を挿し込み、溢れる蜜を啜る。。
「んぁ……ん…………ふぅん……」
アレクは目を閉じながら、夫の与えてくれる快楽を受け止める。切なそうに眉根を寄せ、指を噛んだ。
「あぁ……そう、ソコよ……ソコがいいのぉ……」
両手が、火照る乳房を包み込んだ。舌の動きに感じ入りながら、自分で胸を慰める。強めに握ると、
中に詰まった血潮が逃げ場を求めて駆け巡り、胸の先っぽが痛いくらいに痺れる。
「あひぃっ!?」
乳首を捻り上げた途端、電流のように駆け巡る快感に声を上げて震える。理知的な青い瞳は恍惚に潤み、
アレクは熱く疼く乳房を揉みしだきながら、ゆらゆらとお腹を揺らせて喘いだ。
妻の太腿を抱えていたヴィクターの手が、蕩ける秘唇に伸びた。中を傷つけないよう慎重に、
花弁の間に指を潜り込ませる。
「はぁっ、ヴィク……タ……ああぁっ!!」
アレクの膣が、蠢く夫の指を締め付けた。子供が通る道とは思えないほど狭く、そして温かい。
ゆっくりと指を前後させると、動きに合わせてアレクが吐息を漏らす。ぬろぬろと、入り組んだ襞々が
絡み付き、吸い着いて、夫の指を離そうとしない。
ヴィクターは挿し込んだ指をそのままに、花弁の上の小さな肉芽に吸い付いた。
「ひあぁっ! あっ! あぁ、ダメェ!」
今までと比べ物にならないくらい激しい反応を見せて、アレクが叫ぶ。脚がピンとシーツに突っ張って
踵とお尻が浮き上がるが、ヴィクターは妻の声など耳に入らないかのように夢中でむしゃぶり付く。
「やぁ、ダメぇ! もっと優しくしてぇ……」
荒々しく秘穴を吸い上げられ、アレクは恥ずかしさに頬を染めながら啼いた。
「アレク……」
身体を起こし、ヴィクターが妻の顔を覗きこんだ。
「ハァ、ハァ…………ふふ、いいわよ……」
艶然と微笑んでアレクが身を起こす。
「今度は貴方が横になって。私が……」
入れ替わるようにヴィクターをベッドに寝かせ、その身体の上に跨った。
「ん……」
隆々とそそり立つ夫の先端に手を添え、熱く潤った花弁へと宛がって腰を下ろしていく。
「ふ……あああぁぁぁ……」
屹立が自分の身体を押し分けて潜り込む。貫かれ、埋められ、満たされていく感覚にアレクが震えた。
ヴィクターもまた、自分のモノが熱くぬめった襞の中に飲み込まれ、包まれていく心地良さにゾクリと
肌を粟立てる。根元まですっかり隠れて、ふっくらとしたお尻がぺたりと自分の上に乗っかる感触も
少々くすぐったいながら良いものだ。
「ん……んふ……」
夫の上でアレクが腰を動かし始める。お腹が重いため、上下ではなく前後にゆっくりと揺するように。
「あっ!? あな……た……」
ヴィクターが手を伸ばし、揺れる妻の乳房を鷲掴みにした。掌で転がすように揉み解していく。
「んっ、あっ、あっ、いい……いいのぉ……」
前後していた腰の動きに、時折り横の動きが混じる。最も快感を引き出すポイントを探りながら、
アレクの腰遣いは貪欲さを増していく。
「んあぁうっ!?」
ずん、と膣奥を抉られて、アレクの身体が仰け反った。ヴィクターが腰を突き上げ、アレクの中を
掻き回す。二度、三度と、数を重ねる毎に勢いを増しながら。
「あぅっ! 待って、あなた。これ以上は──」
「アレクッ! アレク!」
妻の腰をがっちりと掴み、彼女の名を呼びながら、荒馬のようにヴィクターは腰を跳ね上げる。
その度にアレクの身体は彼の上で翻弄され、乳房がブルンと揺れる。
「あぁっ! だめ、ヴィクター! お腹に響くわ」
「!? す、すまん。……俺としたことが、つい……」
「もう……そんなに焦らないで。今日は私に任せて。ね?」
ヴィクターの手を取り、掌を重ね合わせる。互いの手を繋ぎあったまま、アレクはゆっくりと腰を
くねらせ始めた。
「ん……あ……」
「いいよ、アレク。上手だ……」
アレクの身体が踊り、ベッドが軋む。ランプの明かりに二人の影が妖しく揺れる。
ヴィクターも、妻の動きに合わせて腰を捻る。互いの動きが重なり合い、円を描いてリズムを刻む。
「あっ、んっ、いいわ……この動き、好きぃ……」
トロンと恍惚に浸る瞳でアレクは喘ぐ。
交わる水音に貪るような激しさは無く、ゆっくりと、バターのように溶けていく感覚。
快感がじんわりと広がり、高まっていく。
「ねぇ、あなた。イキそう? ねぇ……私、もう……」
「我慢しなくていい。……君の、好きなように……俺も……」
「んっ……んんっ……あっ……あっ!」
夫の掌を握るアレクの手に、力がこもる。
「あっ……あっ……んああぁぁーーーっ!」
ぎゅっ、と夫のモノを締め上げてアレクの身体がわななき、同時にヴィクターも胎内に精を放った。
* * *
「……また、出撃が近いの?」
浅いまどろみの中。夫の腕に包み込まれて、アレクは逞しい胸に頭をすりよせる。
「炭鉱を丸ごと一つ、ホムンクルスの集団に押さえられた。放っておく訳にはいかない。
心配しなくてもいい。俺は必ず生きて帰る」
絹糸のようなアレクの髪を指で梳きながら、ヴィクターは答えた。遠く未来を見据える瞳で。
「俺達の子供が、心安らかに過ごせる日のために。今は戦い続けよう、一緒に」
「ええ、あなた」
元気に動く我が子を、アレクは腹の上から愛しげに撫でた。
「信じましょう。この子が生きる未来には、病気も、飢えも、戦争もない世界が訪れていることを。
錬金術は、そのためにこそ在るのだから────」
(了)