白い指が防人の厚い胸板に押し当てられたかと思うと、するすると首筋まで流れるように撫で上げられた。
しとやかに、しかし熱っぽく千歳は防人の背中に手を回す。
そのまま唇を押し付ける。そして小さな舌が防人の口の中に…
(う、うおおおおおっ………ブラボー!)
予想以上に乱れた千歳の官能的な姿に、防人は心の中で歓声をあげていた。
『秘薬』
「おい防人、これちょっと千歳あたりと試してみろ」
火渡が俺に見せたのは、カカオの粉末…のようなものだった。
「これが例の錬金の秘薬か…照星さんが今度潰したアジトから押収したって言う」
「おう、ばっちりくすねて来たぜ。どーせほっといても上のジイサンどもが独り占めしちまうだけだしよ」
千歳は防人が手をつけるまで男を受け入れた経験が無く、
防人とのセックスもそれほど回数を重ねたわけではなかった。
まだ初心なところがあり、防人は千歳のそんなところも好きだったが、
男として満足のいくセックスはいまだできていない。
ああ…一度でいいから千歳と思う存分気持ちいいセックスしたい…
防人は欲求不満を抱えながらそう考えていた。
二人きりの室内で、秘薬をココアに混ぜこっそり千歳に飲ませた。
一時間ほどで、千歳は落ち着かなくなったのか赤い顔で部屋をうろうろしだし、
初めて彼女のほうからベッドに誘ってくれた。
その時点で防人は涙が出そうになるほど感激した。
(す、すごい効き目だ…)
髪を乱して官能的にせまってくる千歳の姿に、容易く彼の理性は決潰した。
秘薬のことがばれたら、などという危機感も罪悪感も吹っ飛んでしまうほどだった。
「千歳っ!」
防人は吼え、千歳の身体を抱きすくめた。
「防人くん…」
切なそうな千歳の喘ぎが防人を情欲をそそった。
千歳の中は温かく、防人の熱い情欲を受け入れてきゅっと締まる。
「んっ…んん…」
初めはさすがに少し辛そうだった彼女の声は、しかしみるみる柔らかくなって甘い喘ぎになっていく。
「ああ。あん…防人くぅん…、あ…」
ちゅ、ちゅっと愛らしいキスを受け、その喘ぎを聞いているうちにむくむくと射精欲が湧いてくる。
まだ駄目だ、と思っていたがこの悩ましい刺激に耐えられず、あっという間に達した。
防人は少し赤くなり、急いで抜いた。
「あん。もっと…」
千歳はそこで口ごもり、少しうつむいた。
しばらくの沈黙の後、そっと防人の耳元で呟いた。
「防人君の、ううん、防人君がほしい…」
(う、うおおおおおぉーっ!!)
防人は感動のあまり頭の線が二本くらい吹っ飛んでしまったような気がした。
(ああ、あの千歳が!男を自分から誘ってくるなんて!ブラボーーーー!でもそんな顔俺以外には見せるなよ!)
防人はいそいそと二枚目のコンドームに手を延ばした。
翌朝―
防人は非常に晴れやかな、満足した顔をしてベッドに横になっていた。
千歳は疲れを顔に残しつつも、朝食を防人のために用意してくれている。
「ああ、コーヒーは俺が…」
ベッドから起き上がろうとすると、室内フォンが鳴った。司令室からだ。
相手が照星だろうとわかったので千歳が取った。
「はい、千歳です。戦士防人はいまちょっと…」
『ああ、防人に伝えておいてください。昨日火渡がくすねた媚薬ですが、
あれは人体に害は認められませんでしたが、成分が強すぎるのですべて焼却処分するように決定しました。
火渡からもらったのはワレてますよ。』
「媚薬…!?」
千歳は防人を見る。防人はギクリ、と身をこわばらせた。
照星の電話から、声が防人にも聞こえるように続いた。
『いかんせん効き目が強くてですね、口に入れた女性がなすすべも無く一番近くにいる男性に発情してセックスしたくなってしまうという危険なモノで
十分デートレイプドラッグとして使えますから。絶対に焼却処分するんですよ!』
ガシャン!と千歳の手から子機が落ちた。顔は青ざめ、手がブルブルと震えている。
「さ、き、も、り、くん…」
千歳の声は怒りに震えていた。目には涙が浮かんでいる。
「い、いや、でも俺とお前の仲だし、俺も男としてもうちょっと気持ちいいセックスがしたかったなーなんて…ちょ、ちょっとまった千歳!早まるなっ!」
その直後、防人は朝食用のフォークで千歳に刺され二針縫い、痕は核鉄治療をするまで消えなかった。