カズキ誕生日記念で書いてたのに、間に合わんかった…
でも開き直って貼る。という訳で、3レス頂戴!
それから看護師や準看では歳が合わないだろうというのは、言わない約束だ。
11月中旬のその日。
カズキの定期検診の付き添いで、聖サンジェルマン病院へ。
戦いの日々が終わったとはいえ、カズキの胸に核鉄が埋まっている事実に代わりは無い。
カズキ以外の実施例がたった一人、それも今は月にいるとあっては不測の事態が起きない
とも限らない。その為、こうして定期的に検査を行うことになったのだ。
取り越し苦労で済めば、それに越したことは無い。
…不安が無いといえば、もちろん嘘になる。
検査中に廊下で待つ最中、思い浮かぶのは悪いことばかり。
だから気を紛らわせようと、来月のカズキの誕生日プレゼントを考えていたときのことだった。
「津村センパーイ!」
その声に振り返ると、看護師らしき女性が数人、こちらに歩いてくる。
ああ、思い出した。錬金戦団にいた頃の後輩達だ。服装の所為で見誤るところだった。
「お久し振りです。戦団縮小後、正式に看護師を目指そうと思いまして」
「そうか、それは良かった」
未だに一部の者、特に元戦士は新たな進路が決まらないと聞いている。
戦いの中に身を置いた人間が、日常の生活に溶け込むのはかなり難しいだろう。
戦士だった私には身に染みて判る。
私だってカズキがいなかったら…
「武藤さんの付き添いですか?」
「そうだ。…皆知っている話なのか?」
頷きつつ、尋ねた。
「戦団の病院関係者だけです。――今日はミニスカートじゃないんですね?」
「ああ。もうその必要は無いからな」
私の武装錬金、バルキリースカートは大腿部に装着し、そこからの生体電流で制御する。
それで素肌に直接装着する必要から、いつもミニスカートかショートパンツだった。
けれど錬金の戦士を退いた今、その必要は無い。
学校でも来学期からは銀成学園の制服に変更しようかとも考えている。
今まで着ていたニュートンアップル女学院の制服を着ているのは当然ながら私だけで、
一部で『武藤カズキ専用セーラー服』と言われているとの話もあるそうだ。
まるでカズキがセーラー服を着ているみたいじゃないか!
それになんだ、専用って?!3倍か?赤くなって3倍なのか?!
…まあ、最近はしょっちゅう赤くなっている気もするが…
……ゴホン。
それに私だって、ああいう可愛いのを着てみたい。似合わないかもしれないけれど。
あの制服に憧れて必死に勉強し、入学した子もいると聞く。――カズキもそうだ、という噂が
あるが、何かの間違いだろう。
きっと、まひろちゃんの話が間違って伝わったに違いない、うん。
でも何故だろう。
ああいうヒラヒラした服を見ると、懐かしいような哀しいような、妙な気持ちになる。
だが、そんな私の思いも知らず、彼女達はとんでもないことを言い出した。
「もう必要無いって、武藤さんを彼氏に出来たからですかぁ?」
「もう誘惑する必要ないですもんねぇ」
「ゆ、誘惑?なにを言っているんだ、キミ達は?!」
思いもしない話の展開に虚を衝かれてうろたえる私に、だが彼女達は容赦なかった。
「だって、ミニスカートで階段を先に昇ったりとか」
「服の裾を捲り上げて、おへそを見せたりとか」
「おんぶして貰って身体を密着させたりとか」
「ミニスカートで膝枕、つまり後頭部に太腿直付けで、夜明けまで二人きりとか」
「武藤さんとの特訓から外されて、キレて暴れたりとか」
「美人の元信奉者を庇う武藤さんに嫉妬して、武藤さんを半殺しにしようとしたりとか」
「裸の背中に抱きついたり、逆に抱きしめてもらったりとか」
「何でもするとか、償うとか」
「衆人環視のもと、給水塔の上でキスとか」
「しまいには人前で、キミと私は一心同体だ!と叫ぶとか。それも何度も」
まるで回転するガトリング銃から飛び出す弾丸のように次々と喋る後輩達に圧倒される。
「ご、誤解だッ!!」
「「「してないんですか?」」」
「い、いやそれは…」
…否定は出来ない。なんか一部違うような気もするが。
「と・こ・ろ・で。どこまでイってるんですか〜?」
「?どこまでって?何がだ?」
「もう、しらばっくれちゃって!…やっぱり最後まで?!」
「一心同体ですもんね〜」
「一緒に暮らしているんですよね?」
「じゃあ毎晩、毎晩、朝まで――」
「ま、まだキスだけだッ!一緒に暮らしているといっても寄宿舎だぞ、人の目もある!!」
「じゃあ二人だけなら、とっくに?」
「「「きゃ〜〜ッ!!!」」」
…だめだ、先手を取れない…
「武藤さん、素敵ですもんね〜」
「最初からそのつもりで狙ってたって本当ですか?」
…それは…ほら、早合点とは言え、私を庇ってあんなことになったのだ。
好意を持たなかったといえば嘘になる。
それに可愛いコだと思ったし…って、ちょっと待て!
「だ、誰がそんな事を!!」
「「「早坂さんです」」」
「…早坂って、早坂桜花のことか?」
「ええ。以前、入院していたときに小児科の子供達と仲良くなったそうで。
退院してからもよく遊びにきてくれるんですよ。
それにゴゼン様、でしたっけ?あの自動人形も子供達に大人気で。
もちろん子供達はラジコンか何かで動かしてると思ってるみたいですけど」
「…そおか。早坂桜花か」
……なる程、判った。事情はすべて飲み込めた。そういうことか。
わざわざ記録を調べたのだろう、ご苦労なことだ。
よろしい、早坂桜花。今度こそ、決着をつけよう。そのドス黒い腹をブチ撒けてやる!
その近い未来を思い、思わず低く暗い笑い声が洩れる。
「フフフフフ……」
「「「津村先輩、眼が濁ってるゥ?!」」」
その手順について数パターン考えていた為だろう、肩に手が置かれるまで気がつかなかった。
「斗貴子さん、お待たせ。終わったよ」
「カズキ?!」
「ビックリさせた?ゴメンね。…その人達は?」
戦団での後輩、と答える前に――
「「「武藤さんだ!」」」
「あの〜、津村先輩のほうから誘ったって本当ですか?」
なんという聞き方を?!誤解を招くじゃないか!!いや、そもそも初対面の人間に――
だが
「違うよ。オレが斗貴子さんを好きになったんだ。
そして、斗貴子さんもオレを好きになってくれたんだ」
微笑みながらカズキが答えた。
…私の顔が赤いのは、恥ずかしいからじゃない。太陽のような、その微笑の照り返しのせい。
それが証拠に、ほら、後輩達の顔も赤い。
…仕方ない。今回は桜花の奴を見逃してやろう。
「じゃあ、オレ達はこれで」
別れを告げ、立ち去ろうとした私達に後輩の一人が言った。
「あ、それとキャプテンブラボーも似たようなことを仰ってました」
…
……
………
そおか。戦士長も、か。
とはいえ元・上司、それも退院間もない人間に手荒い真似も出来ない。
よろしい。そっちは千歳さんに極秘情報―に色をつけたもの―をメールするだけにしておこう。
後は千歳さんの判断だ。私には関係ない。
「フフフフフ……」
「と、斗貴子さん?!」
―おしまい―