武装錬金
「姉弟丼一丁!」
「斗貴子っ♪」
彼女の名前を呼ぶのは彼女と同じ顔をしたもう一人の人物、斗貴男だ。
「お前か。なんのようだ?」
場所は斗貴子が滞在しているビジネスホテルの一室。
「へへー。お邪魔しまーす」
とてとてと上がりこんで椅子に腰掛けた。
「コーヒーでも淹れる。少し待て」
「うん」
部屋の中をぐるりと見回しながらいろいろ細かい点に目をつける。
(服は少数。可愛い小物も無いし、化粧品もないな……)
難癖をつけながら目を泳がせていると斗貴子がポットを持って姿を現した。
「何をきょろきょろしている」
「べっつにー。ただ色気の欠片もないなって思って」
「失礼だな!男のお前にそんなこと言われたくない」
「僕の部屋のほうがここより色気あるよ。カズキもそう言ってくれたし」
転がるようにして斗貴子が斗貴男に詰め寄った。
「カズキがお前の部屋にぃ?」
「うん」
「何をしたっ!そそ、それにお前はカズキのことは君付けで呼んでいたじゃないか!!」
「だってあんなことした仲なんだもん。呼び捨てするのが普通だよ」
「あんなことっ!?何を、何をしたんだ!!」
「訊きたい?」
「場合によっては斗貴男といえども容赦しない」
「じゃあ教えてあげるよ。身体でね」
斗貴男の顔が斗貴子の顔に近づき、少し突き出された唇が彼女の唇に重ねられた
「――ッ!」
すぐさま斗貴子は斗貴男の肩を掴んで顔を引き剥がした。
「くっ、何を……あッ」
しかし斗貴男はすぐに斗貴子の肩を掴み返し、強引にベットに押し倒した。
体型も同じくらい華奢なのに、こういったところで男女の差が現れてしまう。
彼女の上に跨り、得意げな顔をしている。
「何をする!」
きっと睨みつけるが、斗貴男はさらっと受け流す。
「言っただろ。ボクとカズキの関係を身体で教えてあげるって」
にやりと笑い告げるところが、可愛い顔とは裏腹に凶悪な印象を与えてくる。
「こ、こんな、ベットの上でするような関係を結んだのか」
「うん」
その一言に彼女の顔は強張った。
(まさか、カズキがほ、ほほほほ、ホモの道に走るなんて……!)
ことあるごとに身体を求め、求められ、そういった関係をカズキと続けてきた。
しかしそれが弟の登場で脆くも崩れ去り、あろうことかそんな道に走るとは。
(私には、彼を引き止めるだけの魅力がなかったのか?)
そして斗貴男には彼を引き抜くだけの魅力があった。そう思うと無性に悔しくなってきた。
「安心して。カズキは責めで、ボクは受けだから、彼のお尻は汚れてないよ」
「くっ……」
「でもカズキってひどいんだよ。ボクが泣き叫んでるのに『気持ちいいー』とか言って腰を止めてくれないんだもん」
嬉々として話す斗貴男のせいで、思い浮かべたくもない情景が浮かんでしまう。
「やめろっ、それ以上言うなっ!!」
「あ、もしかして斗貴子、妬いてる?」
「そうだ、私が嫉妬してはいけないか!?」
もはやなりふり構っていられない。
とにかくカズキを取り戻さなくてはならないという使命感が芽生えていた。
「――いけないよ」
だがその使命感は斗貴男の発した凍てつくような声の前に枯れそうになった。
その声に驚いて絶句している彼女にさらに続ける。
「だって、ボクって本当に彼に一目惚れしちゃったんだもん」
「な……」
「だからね、ボクと斗貴子じゃどっちのほうがカズキに相応しいかベットの上でわからせてあげるんだ」
その台詞が引き金となり、斗貴子への斗貴男の凌辱が開始された。