「腹減ったー……」  
戦士長、火渡は自宅でうなだれていた。  
この日、休暇で帰省していた火渡は自宅に帰るやいなやすぐに就寝。  
翌日に食糧を買い忘れてた事に気付き買いに行こうと試みるも気力がなく断念。  
とりあえず何か食べなければと火渡の取った行動は、  
「腹減った」  
 
のメールを戦士全員に送りつけた。  
しかし帰ってくるのは、  
 
「現在仕事してます」  
 
という返事ばかりだった。  
つまりこのまま行くと餓死しかねない状況に火渡は陥っていた。  
「俺バカだ……」  
反省はしているものの思考は働かず先ほどから同じセリフを繰り返す。  
「俺バカだ………」  
意識が遠のき始めたころ、  
「火渡様〜いますか〜」  
という少女の声。  
その声に聞き覚えのある火渡は残った気力を振り絞り玄関へ這って行く。  
玄関を開けるとそこにはやはり見覚えのある顔があった。  
「毒島……か…」  
「火渡様!大丈夫ですか?」  
毒島華花、彼女もまた錬金の戦士であり現在は部隊を離れ銀成学園に通っている。  
彼女は今、両手に買い物袋を下げ火渡宅の前に立っていた。  
「メール見ました、すぐに何かつくります!」  
「あ……あぁ……」  
そういうと華花はキッチンへ走った。  
 
十分くらいだろうか……火渡には長く感じた。  
時折鼻につく料理の香り。  
火渡の腹は限界へまっしぐらだった。  
 
「火渡様、出来ました……熱いですから気を付けて……」  
早業だった。  
目の前に置かれた料理は数秒のうちに火渡の腹へ。  
「おかわり!」  
あっという間の出来事にキョトンとした華花だがすぐにキッチンから料理を運んでくる。  
運んでは食い、食っては運んで……かれこれ三十分食べ続けた火渡は最後の一皿を完食。  
「ごちそうさま!」  
「は、はい…」  
火渡の食事のスピードに圧巻され続けた華花はそのまま後片付けを始めた。  
火渡はそのまま一服、はたから見れば夫婦に見えないこともない。  
しばらくして後片付けを終えた華花が戻ると火渡が口を開いた。  
「なんでお前が来たんだ?学校だろ」  
そうこの日は平日、普段なら学校に通っている時間帯だ。  
しかも火渡の自宅は学校からかなり離れている。  
一日は無いとたどり着けない距離だ。  
「え………その、火渡様にメールを貰って何だか不安になって……学校に欠席届けを出して……」  
「だからなんでわざわざ学校休んで来たんだって聞いてんだろバカ」  
「え、その……」  
華花は口ごもる……言えるはずがない。  
 
「花嫁修行をしてこい」  
とかつての仲間に後押しされたと。  
(灰にされる……)  
華花が来たことではなく名目が花嫁修行だということに激怒した火渡が首謀者円山他数名を燃やしにかかるのは目に見えていた。  
「え……その……円山さんに」  
「……円山か、円山だな!どんな事吹き込まれた!言え!」  
火渡は怒鳴りつける。  
華花は半泣きになりながらさらに続ける。  
「は、花嫁修行をしてこいって言われて……ごめんなさい!」  
花嫁修行………この単語を聞いた火渡の動きが止まる。  
しばらく硬直していた二人だが、火渡が再度動きだす。  
「花嫁修行ぉ〜!?お前が?」  
「は、はい……前からお料理は勉強してましたが……」  
「ぶはははは!お前がか!」  
(笑われた!)  
火渡は腹を抱えて笑う。  
華花は花嫁修行の事を火渡に知られ、あげくに笑われた事にショックする。  
火渡は机をバンバン叩きながら笑い続ける。  
そしてついに………、  
「ぅえっ………」  
華花が泣き出した。  
さすがの火渡もこれには焦る。  
「い、いや…その……………」  
火渡の顔には焦りの色が出ていた。  
華花は涙を溢しながら口を開く。  
「わ、私……火渡様の為に…頑張って……来たのに……」  
 
「火渡様の為に」  
火渡にこの言葉が引っ掛かる。  
(俺?俺の為に?)  
「私……ヒック……ずっと火渡様のことが好きで……ぅえっ……それで今まで頑張って……」  
火渡の心に突き刺さる。  
「火渡様のことが好きで」  
(俺が好き……だと?)  
初めて知る部下の気持ち。  
そう、火渡は華花を部下と見ていた。  
しかし華花は火渡を一人の男性として今まで認識していた。  
この僅かな差が今のこの状況を産み出した。  
火渡は理解した。  
自分が戦士長として押し殺した感情、ずっと昔に忘れた記憶。  
「でも……でもっ…笑われた………私……やっぱりダメですか?」  
(そうか……俺は)  
「そうですよね……歳だって違いますし」  
(俺は……コイツが…)  
爆発した。  
何もかも思い出した。  
全て取り戻した。  
「あの……お邪魔でしたよね……厚かましくて……帰ります……」  
帰ろうと立ち上がる華花の無意識に手を掴んでいた。「好きだ………」  
とっさに出た一言。  
もう隠す必要は無かった。  
こんなに自分を想う人を笑った。  
火渡はそれを悔いた。  
「お前が……好きだ、毒島………」  
「火渡……様」  
なら、今出来ることは素直に感情を出し、目の前の人の感情に答えるだけ。  
二つの影が重なった。  
 
 
あれからどれだけたった?  
ずいぶん長い時間交じりあった二人。  
火渡は自分の隣で寝息をたてている少女を優しく抱き上げる。  
「火渡様……私……」  
華花は火渡の腕の中で呟く。  
「私……後悔してません…………」  
火渡はベッドに華花を寝かせる。  
そして呟く。  
「後悔なんかさせねぇよ……お前はずっと……」  
一瞬口ごもる。  
そして華花の頬を撫でる。  
「俺の嫁だ…」  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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