今日は麗らかな小春日和。
公園のベンチに座って、ひらりひらり、と舞い落ちる枯葉を目で追いながら、桜花は微笑む。
少し前までは、こんなにゆったりとした幸せな時間を過ごせるなんて思わなかった。
今は、膝の上にこの世で一番大事で、大切な相手が居眠りをしている。
「そろそろ陽射しも落ちて来るかしら・・・秋水クン、起きて」
すぅ、と寝ている相手の肩を軽く揺さぶって一声かけてから、またひらり、と舞い落ちる枯葉を見る。
「あぁ、姉さん・・どの位寝てたかな」
「1時間位、かな?秋水クンの寝顔を見てるのも楽しいわ」
くす、と悪戯っ子のような笑顔でそう言えば、相手もまた幸せそうに微笑み返して来る。それから、手をこちらの方へと
伸ばして来て、頬をそっと宝物を触るかのように撫でて来る。
「あらあら、まだ寝惚けてるのかしら、秋水クン」
撫でて来る手の上から自分の手を重ねようとしたらその手は離れ、膝の上から頭がどく。
ひんやり、と冬の空気が膝の上を覆って行くのを感じて、何だか切ないような寂しいような気持ちになる。
「姉さんの顔、少し冷えてる。少し寝過ぎたかな、ごめん」
座り直した相手の額が自分の額にこつん、とぶつかる感覚に少しだけ上がる体温。
「秋水クンが膝の上にいてくれたからあったかかったのよ?平気、風邪なんてひかないから。安心して」
少しだけ顔を突き出して冷えた唇を一瞬だけ重ねる。鳥が相手の嘴を啄ばむように、相手の唇を啄ばむ。
ちゅ、と小さな音を残して顔を離し、にっこりと微笑一つ。
今はこうして幸せでいられるのだから。色々とあったけれど、二人ぼっちの世界から出る事は出来た。
それでも。
健やかなる時も病める時も 喜びの時も悲しみの時も 富める時も 貧しき時も
これを愛し これを敬い これを慰め これを助け 死が二人を別つまで共に生きることを
「やっぱり私は秋水クンが一番だわ」
「どうしたの、姉さん」
ううん、と軽く首を振ってから立ち上がる。相手に手を差し伸べて、口を開いて。
「さ、そろそろ行きましょう?みんなで夜、遊ぼうって言ってくれてるんだから」
そして二人は、一緒に歩き出す。後に残ったのは、枯葉が落ち、春の芽吹きを待っている枝の先だった。