私の名前はヴィクトリア=パワード。  
錬金戦団の大戦士“だった”ヴィクター=パワードの娘だ。  
私は今は母アレキサンドリア=パワードと二人で暮らしている。  
年齢は13歳で本来ならジュニアハイスクールに通う頃だが、学校には行っていない。  
いっしょに暮らしているとはいえ、母は3年前に父が化け物になった事件以来植物状態だ。  
目覚めることなく眠り続ける母を看護するために私は学校へ通うことを諦めた。  
医師の見立てでは母はいつ目を覚ますかがわからないそうだ。  
下手をしたら一生目を覚ますことはないかもしれないとも言われた。  
しかも診断の結果、母は首から下の体機能を完全に失っている可能性が高いらしい。  
だがそんな絶望的な状況でも相手は愛する母、見捨てるわけには行かない。  
今日も私は母の看護に励む。  
床ずれを起こさないように定期的に寝返りをうたせてあげるのもすでに日課になった。  
食事は当然取れないので医師に指示されたとおりに点滴で栄養を投与する。  
排泄物の処理や母の体を拭く作業ももはや手馴れたものだ。  
コンコンコン!!  
「ヴィクトリア=パワードさんはご在宅でしょうか?」  
聞いたことない声の男が自宅の扉をノックして私の名前を呼んだ。。  
父が黒い核鉄で化け物と化した今ではこの家の来客は定期診断に訪れる医師くらいだ。  
だが扉の向こうから聞こえてきた声はお医者様のものではない。  
不思議に思って扉を開けると、そこには武装した男が3人立っていた。  
その男達の服に書かれたマークには見覚えがあった。  
錬金術、そしてかつて父と母が在籍した錬金戦団のマークだ。  
「あの、何か御用でしょうか?」  
父が化け物になってから戦団がこの家に訪れることなど一度もなく不思議に思って私は尋ねた。  
しかしそれが悲劇の始まりであったのだ。  
「お前がヴィクトリアか?我々と錬金戦団本部へ来てもらおう!!」  
5人の男達の真ん中に立っていたチームのリーダーと思われる30歳くらいの東洋人が私に言った。  
錬金戦団本部までは大人が歩いて丸1日かかる距離だ。  
私には母を看護する使命がある。  
たとえもう母が目覚めることはなくとも、それは母の命が尽きるまで私に化せられた使命だ。  
ゆえに私はこの家を離れるわけにはいかない。  
「私は母を看護しなくてはなりません。戦団本部まで行くことはできません。」  
私は断ると同時にリーダーの東洋人の顔は急に険しくなった。  
「いいから来い!!クソガキが!!」  
彼は私の腕をつかんで強引に連れて行こうとする。  
私は抵抗するが、所詮は13歳の女の子だ。  
訓練された戦士に腕力で敵うはずもなく腕を引っぱられるように彼らの乗ってきた車の荷台の檻に放り込まれた。  
無駄とはわかっていても私は檻の中で抵抗する。  
それをうっとおしく感じたのかリーダーの東洋人は核鉄を取り出した。  
「うるさい!!静かにしろ!!武装錬金!!麻酔銃の武装錬金デビルスリーパー!!」  
彼は武装錬金を発動させ、錬金の麻酔銃を私に放った。  
銃声と共に意識が遠のいていく。  
 
目を覚ますとそこは戦団本部の城の中だった。  
私の両腕と両足は鎖で建物の壁に固定されて身動きが取れない。  
「どうだ?貴様の父が破壊したこの城もかなり復旧しただろう?」  
そういったのは私を拘束したグループのリーダーだった東洋人だ。  
「そういえばまだ名乗っていなかったな。私は錬金戦団戦士長の麻原雷銃太。貴様をここへ招集した目的は  
 ただひとつ。貴様に貴様の父のヴィクターを倒す戦いに参戦してもらうためだ。」  
麻原が語る話によると、胸に心臓の代替品として黒い核鉄を入れられたことによって存在するだけで周囲の  
エネルギーをひたすら吸収する化け物となった父ヴィクターは、3年たった今でも戦団の討伐隊を退けながら  
ひたすら東へ向かって現在東洋の大国である清国の海岸沿いで逃亡を続けているらしい。  
見つかる可能性など少ないが化け物から人間へ戻る方法を求めてひたすら東へ東へ。  
だが何故私に父を討てと言うのか理解が出来ない。  
そもそも私に父を討つことなど出来ないし、それだけの能力もないはずだ。  
「フフフ。元が大戦士だけあって化け物の力と合わさってその戦闘能力は脅威でね。もはや正攻法でやつに  
トドメを刺すのは不可能に近い。だが、自分の愛する娘なら油断したところを討つことは可能かもしれないだろ?」  
何と悪趣味な作戦だろうか。  
私に父と闘うこと、ましてや殺すことなど出来るわけがない。  
「いやよ!!私は父を騙すようなことはできないわ!!この鎖を外して!!」  
「五月蝿いぞガキが!!貴様は黙って化け物退治をしていればいいんだ!!」  
麻原の顔が修羅のごとく凶悪になる。  
この男は物事が自分の思い通りにことが動かないと許せないタイプの人間のようだ。  
「フフフ。ところで貴様何か違和感を感じないか?自分の体に。」  
麻原は悪趣味で下卑た笑みを浮かべる。  
違和感?そういえばお腹が減った。  
だがこれは今まで感じた空腹と何かが違う。  
 
人間が食べたい?  
 
まさか!?こんな話は以前化け物になる前の父と眠りにつく前の母に聞いたことがある。  
錬金術の人工生命研究によって生まれた人間を主食とし、武装錬金の力を持ってしか倒すことのできない化け物。  
その名はホムンクルス。まさか自分もいつの間にかホムンクルスになっているのか?  
「気がついたか。私の武装錬金で眠っている間に貴様の体はホムンクルスにさせてもらった。」  
私が人を喰らう化け物?人を喰わないと生きていけない?嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!  
「戻して!!私を人間に戻して!!人を喰らうなんて嫌ぁ!!」  
「フフフ。貴様の父ヴィクターを殺したら元の人間の体に戻してやろう。貴様の母アレキサンドリアの  
 の命も保障する。だが断るなら母子共々我々の手で葬り去ることになる。貴様はまだまだ若い小娘だ。  
 大人になり、結婚して、子を産み、子を育て・・・。そんな人としての幸福がほしければ戦え。」  
私はしばらく悩んだが、割とすぐに選択を下した。  
「わかったわ。父は私が倒します。」  
父の命よりも私の幸福を選んだ娘。  
私は人類の歴史上でも最低最悪の女かもしれない。  
「フフフフ。交渉成立だな。ならば早速ディナーと行こうか?」  
 
手足の鎖を外された私は麻原についていく。  
ディナーと言ってもまさか豪勢な夕食を用意してくれるわけではないのだろう。  
ついていった先に待っていたのは縄で縛られた共に18歳くらいの二人の双子の男女だ。  
「食べろ。こいつらは貴様のディナーだ。フフフフ。心配しなくてもこいつらはホムンクルスの信奉者だ。  
 己の欲のために魂を化け物に売った売人だ。おっと、化け物は貴様も同じだったか?フフフフ。」  
麻原は本当に何度も下卑た笑いをする。正直不愉快だ。  
私は人間を食べるなんてしたくない。  
人間を食べてしまったら魂まで人間でなくなってしまう気がしたからだ。  
この時はまだ自分は心だけは人間でいられると信じていた。  
「フフフフ。どうしたヴィクトリア=パワード?口からよだれが垂れているぞ。」  
私自身気がつかなかったのだが、私は彼らを見て食欲で犬のようによだれを垂らしていた。  
あの2人若くてピチピチしてておいしそう。駄目だ人間を食べたら魂まで化け物になるんだ!!  
でもおいしそうだ。食べては駄目だ!!おいしそう。駄目だ!!おいしそう。駄目だ!!  
しばらく私は葛藤していたが、結局何を言っても私もホムンクルスだった。  
食欲に支配されて途中から体の制御が利かなくなった。  
私の意思に反して体は双子を狙って襲い掛かっていた。  
私の口は人間ではありえない大きさまで裂けてまず双子の弟のほうを丸呑みにする。  
「姉さぁあああん!!うわぁあああああ!!」  
「嫌ぁあああああ!!!!」  
姉のほうは弟が丸呑みにされる姿を見て悲鳴を上げる。  
美味しい。  
悪魔の様に黒く、地獄の様に熱く、接吻のように甘い。  
だがこっちの姉のほうがさらに美味しそうだ。  
私は再び口を大きく開けて双子の姉を口の中に入れる。  
今度はゆっくりと何度も噛み締める。  
ゴリゴリゴリゴリ!!グチャグチャ!!ベキベキベキベキ!!  
「きやぁああああああああ!!」  
双子の姉の断末魔の悲鳴が口の中に響く。  
美味い。人間のころに食べた何よりも美味い。  
それに弟よりも姉のほうが数段美味しい。  
満足するまで人間を味わった私は元の顔に戻した。  
私は人を食べてしまった。もう人間ではない。  
食事を終えて正気に戻ると人間を食べて悦に浸っていた私に罪悪感と嫌悪感が同時に襲う。  
「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。」  
例え信奉者だったとはいえ相手は人間だ。  
申し訳なくて私は泣き崩れた。  
「フフフフ。さて、身も心も化け物になったところで貴様の父を殺すための戦闘訓練を開始するぞ。」  
麻原は泣き崩れる私を引っぱって戦団本部の奥にある戦闘訓練室に連れて行く。  
この訓練室で私は動物型ホムンクルスと1か月に渡って何度も死闘を繰り広げた。  
武装錬金以外受け付けないホムンクルスの体は腕を食いちぎられても翌朝には再生している。  
何度も体を破壊されながら私はどんどん戦闘力を上げていった。  
 
私は戦団の戦士の誰かの武装錬金である戦艦の武装錬金シードラグーンに乗船していた。  
私のほかに戦士長麻原他2名と動物型ホムンクルス多数が乗っている。  
私だけでなく動物型ホムンクルスまでいるのは目には目を、化け物には化け物ということだろう。  
1か月に及ぶ戦闘訓練を終えた私はついに父との決戦の場へと旅立ったのだ。  
目指す行き先は清国の上海近郊。  
そこで父は討伐隊と戦闘を繰り広げているようだ。  
武装錬金は現代科学では再現不可の特性がある。  
シードラグーンの特性は恐らく超高速での航行で、イギリスを出発してわずか3日で上海の港へ到着した。  
そこからは徒歩で父のいる戦場を目指す。  
上海の港から歩くこと1日、ついに戦場に到達した。  
丘の上から見下ろすと蛍火の髪と赤銅の肌の変わり果てた父の姿が飛び込んできた。  
3年ぶりの父と娘の対面。  
しかし共に人間ではなくなった父と娘・・・。  
人間に戻る方法を探して逃げ続ける化け物の父と自分の幸福のためにそんな父を殺しに来た化け物の娘。  
思わず瞳から大粒の涙が零れ落ちる。  
父がこちらに気がついたようだ。  
「ヴィクトリア?お前はまさか娘のヴィクトリアか!!何でこんなところに!?」  
「行け!!化け物共!!行ってヴィクターを始末して来い!!」  
父が私に叫ぶと同時に麻原が叫んだ。  
数十体の動物型ホムンクルスがいっせいに父に襲い掛かる。  
動物型ホムンクルスは父の武装錬金フェイタルアトラクションで次々に倒されていく。  
強い。父は私が思っていたよりもはるかに強かった。  
怖い。私の足は父の強さへの恐怖でブロンズ像のように硬直して動かない。  
「ヴィクトリア=パワード!!何をしている!!ヴィクターを殺すのだ!!母親がどうなってもいいのか!!」  
私に麻原が怒号を浴びせた。  
そうだ。私は母のため、そして人間に戻るために父を倒さなければならないのだ。  
意を決して背に持っていた剣で父に斬りかかる。  
しかし父の化け物の体には歯が立たずに、父の皮膚に刃がぶつかると同時に剣は粉々になった。  
そうこうしている間に動物型ホムンクルスはいつの間にか全滅していた。  
残るホムンクルスはわずかに私一人だ。  
剣が使えないならば肉弾戦をいどむしかないが、武装錬金を備えた父に丸腰で勝てるのか?  
すると父が私に問いかけてきた。  
「ヴィクトリア・・・。何でここに・・・。」  
「私あの丘の上にいる麻原って言う戦士長にホムンクルスにされたの。あの男は私がパパを殺したら  
 私を人間に戻してくれると言ったの。もしパパと戦うのを拒否すれば私とママの命はないとも・・・  
 ごめんなさいパパ。本当にごめんなさい。私とママの幸せのために死んで!!」  
父は私に悲しい顔をして涙をこぼしながら言った。  
「ヴィクトリアよく聞きなさい。ホムンクルスが人間に戻る方法はないんだ。」  
嘘よ。じゃあ何で麻原は私にあんなことを言ったの?私は一生化け物のままなの?  
「お前はあの男に騙されたんだ。俺の部下だった戦士麻原。冷酷で非道なあいつならやりかねない。」  
私はショックで全身の力が抜けていくのを感じた。  
それと同時に数十発の弾丸が父の体に食い込んでいくのを見た。  
 
丘の上から父に弾丸を放ったのは戦士長麻原だった。  
彼の麻酔銃の武装錬金を受けて父は倒れこんだ。  
「フフフフ。娘をおとりにしてヴィクターに麻酔の弾丸を打ち込む。作戦成功だ。」  
相変わらずの下卑た笑みをしている。  
「まさか最初からこうするつもりで私を騙したの!!」  
「もちろんだ。大体ホムンクルスから人間に戻る方法があるなら我々錬金の戦士をホムンクルスにして戦った  
ほうが貴様なんかをホムンクルスにするよりも何十倍も効率的だからな。娘との再会で油断した貴様の  
父ヴィクターに麻酔弾を大量に打ち込んで動けなくする。動かなくなったらたとえ化け物といえど退治は  
比較的容易に出来るのだからな。だが心配するな。母親の件については嘘はついていない。ちゃんと戦団で  
保護している。彼女は戦団の錬金術研究の優秀な頭脳だ。そう簡単に殺すなんてもったいないことはできんさ。  
さて、貴様はもう用済みだ。動かなければ1発で章印をぶち抜いてやる!」  
私はもはや生きる気力を失っていた。  
一生ホムンクルスのまま人間には戻れない。  
しかもこのホムンクルスの体は人間を食べる。  
おまけに騙されたとはいえ父を殺す作戦に加担したのだ。  
麻原の武装錬金から私の胸の章印に向けて弾丸が発射された。  
これで全てを終わりにしてしまおう。  
その時私の視界に赤銅色の鍛え上げた筋肉が飛び込んできた。  
これは父の腕だ。  
恐らくホムンクルス以上の化け物である父には麻酔の効果が薄かったのだろう。  
父はその太い腕で私に向かって飛んできた弾丸をキャッチした。  
そして麻原の隣に立っていた戦士の脳天にめがけて投げ返す。  
父が投げた弾を受けた戦士は頭に風穴を開けて息絶えた。  
おかしい。妙だ。  
麻原が見せた資料では父は討伐隊として派遣された戦士を今までの3年間の闘いでただの一度も殺していない。  
それは今では化け物として追われる身とはいえ、戦士たちが自分の戦友だったからだ。  
だが今、父はためらうことなく戦士を殺した。  
「うおぉおお!!麻原!!許さんぞ貴様!!」  
父は心の底から怒り、激高していた。  
「化け物退治のためにまだ幼く!何の罪もない娘を本人の意思に反してホムンクルスにし!しかも人間に戻すと  
騙して手駒として使い!用が済めば化け物として処理しようとする!!我々と貴様、どっちが化け物だ!!」  
「黙れ!!それならば二人同時攻撃だ!!行くぞ!!」  
「わかりました戦士長!!武装錬き・・・うぎゃぁああああああ!!」  
生き残っていたもう一人の麻原の部下に父は武装錬金フェイタルアトラクションを投げつけた。  
回転して飛んでくるフェイタルアトラクションで麻原の部下は体を両断されて死んだ。  
「次は貴様の番だ麻原!!貴様は悪魔だ!!楽には死なせない!!」  
父は先ほど投げたフェイタルアトラクションがブーメランのように返ってきたのを確認してキャッチ。  
そのまま武装錬金の特性を発動させた。  
父の武装錬金の特性は重力操作だ。  
フェイタルアトラクションから発生した重力に引き込まれるように麻原が丘の上からこちらへ飛んでくる。  
ザシュウ!!  
父がフェイタルアトラクションで麻原の両腕を切断した。  
 
「ひぎゃぁあああああ!!痛い!!痛い!!痛いぃいい!!」  
あたりに麻原の苦痛の叫びが響き渡る。  
「これでもう引き金は引けないな。貴様は最高に苦しませて殺す。」  
父は麻原の体を何回も切り刻んで細切れにしていく。  
「ぎやぁあああ!!ふぎゃあああ!!ひぎゃぁあああ!!」  
自分も戦団本部の訓練室で経験したからわかるが、腕などの体の部位を失うのはものすごく痛い。  
今の麻原にはそれが何十回も襲ってきているのだ。  
私をホムンクルスにした憎い男ではあるが、さすがにあまりの光景に目をそらしてしまう。  
「あ・・・あ、あ・・・あ・・・・」  
途中から麻原はあまりの痛みについに悲鳴さえ上げなくなった。  
そしてほどなく苦悶の表情で出血多量で息絶えた。  
麻原の返り血を浴びた父が私のほうに振り返る。  
「俺は錬金術は恐怖と戦い、厄災をはね余け、より一人でも多くの人が幸せになれるようにするために存在  
していると思っていた。だが実際は人食いの化け物ホムンクルスを生み出し、黒い核鉄の生成により俺と言う  
さらなる化け物を生み出した。さらには俺を討たせるために罪も無いお前を無理やりホムンクルスにする始末。  
この力は確実に人類を不幸に導く。核鉄、武装錬金、ホムンクルス、錬金戦団、そして戦士たち・・・。  
 俺は今より錬金術の全てを滅ぼして地上から消し去ることにする。」  
錬金術の全てを滅する・・・。  
それはホムンクルスになった自分を滅することを意味していた。  
だが私は人食いの化け物。もう人間に戻れない。生きていても仕方が無い。  
むしろこれ以上人を喰らって生きるくらいならはやく死んでしまいたい。  
「わかったわ。さあパパ、早く私を殺して!」  
父は悲しそうな顔で私を見つめた。  
「お前は錬金術を全て滅してからだ。」  
「私はもう化け物なのよ!!生きていても人を喰らうだけなのよ!!」  
「錬金術を滅した後、錬金術最高の化け物である私は自らの命を絶つ。そのときはお前と母さんもいっしょだ。  
 一人で生きるのは寂しいものだ。だからせめて死ぬときは家族全員いっしょだ。」  
悲しい覚悟を決めた父に私はこれ以上何もいえなかった。  
「この核鉄は持って行きなさい。錬金の戦士と出会ったときの護身になるだろう。」  
そう言って父は麻原の使っていた51番の核鉄を手渡し、空に飛び立った。  
「俺が錬金術を消滅させるまでお前は行きぬくんだ!絶対に錬金の戦士などに殺されたりするな。  
次に会うときは私たち親子の最後の時だ。さようならヴィクトリア。」  
そう言って父はさらに東へと飛び去った。  
「パパ・・・・・・。」  
父の姿が見えなくなるまで私はいつまでも東を見ていた。  
父が目指した東には日本と言う国がある。  
侍の国だったが、50年ほど前のアメリカの来訪を機に一気に近代化して今では清国や、ロシアに戦争で  
勝つほどの国力を身につけた私の祖国イギリスと同じくらい小さな島国だそうだ。  
私は父が私の所に戻ってくるのを待つことにした。  
何十年でも何百年でも・・・。  
 

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