ここは太陽系第3惑星地球の衛星の月だ。  
空気と水はなく、重力も地球の6分の1の死の星である。  
だが、数か月前からこの星に移住した一段がいる。  
ヴィクター率いるホムンクルス軍団だ。  
彼らは月面上に街を作って、配給される人肉の細胞クローンを食しながら意外と楽しく暮らしている。  
彼らのリーダーとなるのは最強のホムンクルスであるヴィクター・・・ではなくその娘ヴィクトリアだ。  
月のリーダーを決めるときに「王といえばヴィクトリア女王」というムーンフェイスの一言で彼女に決まった。  
そんなある日地球時間で12月24日の夜23時15分のことだった。  
ヴィクター親子の宮殿に鷲尾が駆け込んできた。  
「大変ですヴィクトリア様!!月面に未確認物体が接近してきます!!」  
ヴィクトリアはミートパイを食べながら聞き返す。  
「もぐもぐ・・・隕石かしら?街に落ちたら困るし、とりあえず打ち落とすしかないわね。」  
「レーダーによると地球から飛んできているようであと10分ほどで月面に到達します。」  
「むしゃむしゃ・・・・地球から?何かしら?宇宙開発の関係のロケットかしら?」  
「いえ、2m未満の小型の物体らしいです。」  
「ばくばく・・・じゃあパパ?武装錬金で落下時に破壊してくれる?」  
ヴィクトリアが声をかけると宮殿の奥からヴィクターが出てきた。  
「わかった。よし落下予測地点へ向かうぞ!!武装錬金!!」  
ヴィクターの胸が輝いて武装錬金フェイタルアトラクションを発動させる。  
基本的にホムンクルスの核鉄は地球の錬金戦団に回収されている。  
だが核鉄を心臓代わりにしているヴィクターだけは核鉄を月へ持ってきていた。  
月では彼が唯一武装錬金を使えることになる。  
落下予測地点では未確認物体に対応するために多くのホムンクルスが集まっていた。  
「むーん!!地球からなにが届くのかな?」  
「Mr.ムーンフェイス。そろそろ見えてきますよ。」  
「巳田は退いていなさい。私がしなやかな蔦で受け止めるわ。」  
のん気なムーンフェイスだが、巳田と花房は真剣に空を見据えている。  
「ま、あとはみんなに任せて怖いから逃げよう。」  
蛙井はコソコソ逃げ出そうとしている。  
「面白れぇ!!俺様の腕力で破壊してやるぜ!!」  
猿渡は自慢の力を発揮できるとあって張り切っている。  
そこへ鷲尾に乗ったヴィクターとヴィクトリアが到着した。  
「パパ!見えてきたわよ!」  
「ああ!!まるで人影のように見えるが・・・」  
人間型ホムンクルスは既に臨戦態勢、動物型ホムンクルスは戦闘形態に変形している。(蛙井除く)  
その時落下してくる未確認物体から叫び声が聞こえた。  
「月面着陸!!蝶サイコーだ!!」  
一同はその叫び声に驚く。  
「ウソでしょ!?あれパピヨン!?」  
「主!?何故月面に!!」  
驚きのあまり呆気にとられてしまい、対応が遅れてしまった。  
ドガァアアアアア!!  
パピヨンは勢いよく月面に叩きつけられた。  
 
パピヨンが目を覚ますとヴィクトリアの宮殿にいた。  
落下のショックで大怪我を負って気絶していたようだった。  
「おお主!目を覚まされましたか!!」  
「鷲尾か。久しぶりだな。それに巳田、猿渡、蛙井、花房もか。元気そうじゃないか。」  
パピヨンの周りにはかつて自らが創った動物型ホムンクルスたちが取り巻いていた。  
さらにヴィクター、ヴィクトリア、ムーンフェイスもいる。  
「あなた?何でこんな所にいるのよ?何しに来たの?」  
パピヨンの眠るベットの横に座っていたヴィクトリアが尋ねる。  
地球からここまではかなりの距離がある。  
ヴィクトリアが不審に思うのも無理はない。  
「いや、何もない月面でただ人肉クローンを食いながら生きている連中にクリスマスプレゼントを持ってきた。」  
確かに言われてみるとパピヨンはサンタの帽子を被って白い大袋を担いでいた。  
「はぁ!?あなたまさかそれだけのためにこんなところまで来たの!?馬鹿じゃないの!?」  
「ニアデスハピネスで大気圏を突破したら案外あっという間だったがな。」  
「呆れたわね。大体来るのはいいとして着地できてないじゃない。」  
「酸素がないからニアデスハピネスの発火と起爆ができなかったからな。まあ蝶天才でも失敗はある」  
これにはパピヨンを信奉していたパピヨン製動物型ホムンクルスたちも少しあきれていた。  
「む〜ん。君は天才なのか馬鹿なのかわからないね。」  
「結構体の損傷も酷いし寝てなさい。とりあえずこのアホの面倒は花房と鷲尾にお願いするわ。」  
ヴィクトリアは二人にパピヨンの介抱役に任命したが、パピヨンは無視して起き上がる。  
そして白い大袋に手を伸ばした。  
「そんなことより化け物どもへ蝶人パピヨンサンタからクリスマスプレゼントだ!!」  
パピヨンはホムンクルス軍団にプレゼントを手渡す。  
巳田にはおしゃれなネクタイ、猿渡には男らしいトレーニング機器、蛙井には月面からもインターネットに  
入る事の出来るパピヨン特性パソコン、花房には化粧品セット、鷲尾には食用ウサギ20食分を渡した。  
「おお、中々良いネクタイ。」  
「これで俺の腕力もさらに上がるってもんだぜ!!」  
「うひゃー!!2ちゃ○ねる最高!!まずはAAでこのスレを荒らしだ!!」  
「これでもっときれいになってヴィクター様に・・・。」  
「これは美味そうだ。主、ありがとうございます。」  
動物型ホムンクルス軍団はプレゼントにご満悦のようだ。  
「お前らにもあるぞホレ!!受け取れ!!」  
パピヨンはさらにムーンフェイスに東京の有名和菓子屋の月見団子50本、ヴィクターには漢らしいふんどし、  
そしてヴィクトリアには女の子らしいかわいい髪留めのリボンが数種類入ったケースを手渡した。  
「む〜ん。やっぱり和菓子は月見団子だよね。中々わかっているねパピヨン君。」  
「こ、これはバタフライたち100年前の日本人が着用していた至高の男性下着か。すばらしい。」  
「中々かわいいものを選んでくるじゃない。」  
ムーンフェイス、ヴィクター、ヴィクトリアも中々満足している様子だ。  
「よし、じゃあこの蝶サイコーなプレゼントを他のホムンクルス共にも・・・ゴパァ!!」  
プレゼントを配るために部屋を飛び出そうとしたパピヨンが吐血してぶっ倒れた。  
ピクピクと両手足を痙攣させながら気絶しているようだ。  
「馬鹿ね。まだ動けないから眠ってろって言ったのに。」  
呆れた顔をしたヴィクトリアはパピヨンを抱き上げてベットに戻した。  
 
どのくらい眠っていただろうか?  
パピヨンが目を覚ますと体の修復は完全に終了していた。  
「気がついた?あのまま3日眠っていたのよ。もう12月28日よ。」  
ベッドにはヴィクトリアが腰掛けていた。  
髪には普段の筒状の髪留めではなくパピヨンが持ってきたリボンでポニーテール風に縛っていた。  
「蝶サイコーじゃないか。いつもの筒で分岐しまくった珍妙な髪型より似合ってるぞ。」  
「あのね、あの普段の髪留めは元々ママが作ってくれたものなんだけど?」  
「フフフ。そいつは失敬。」  
パピヨンは微笑を浮かべるとゆっくりとベッドから体を起こした。  
「ホムンクルスのみんなも地球から来たサンタクロースのプレゼントを喜んでたわよ。」  
「当然だ。ホムンクルス全員のデータを戦団のサーバーにハッキングして入手して、それを元に選んだからな。」  
「そんなことしてあんたいつか戦団に討伐隊組織されても知らないわよ。」  
パピヨンはじ〜っとヴィクトリアを見つめている。  
「・・・・。何よじ〜っと人の顔を見て。」  
「武藤の白い核鉄完成のときといい今といい色々と俺のそばにいることが多いな貴様は。」  
「ぐ、偶然でしょ?」  
「まさか俺が好きなのか?」  
「ば、馬鹿なこといわないでよ!!誰があんたみたいな変態を!!」  
「顔が赤いぞ。言っておくが俺はロリコン趣味はないぞ。」  
「うるさいわね!!好きで100年以上も13歳やってるんじゃないわよ!!」  
パピヨンはニヤニヤしながらヴィクトリアをからかって楽しんでいるようだ。  
ヴィクトリアは真っ赤になってパピヨンに怒る。  
「貴様の怒った顔は初めて見るな。中々かわいいぞ。」  
「な!?いきなり何を言い出すのよ!!ロリコン趣味はないんじゃなかったの?」  
「ふん、ホムンクルス相手に一般的な年齢を当てはめるなんてナンセンスだろ。」  
「何なのよあんたは!?何が言いたいのよ!?」  
「大したことでないさ。貴様の色々な表情を見てみたいと思っただけさ。」  
ヴィクトリアは相変わらず顔を真っ赤にしていたが、怒った顔から恥ずかしそうな顔に変わった。  
パピヨンは相変わらずニヤニヤとヴィクトリアを見つめている。  
「馬鹿ね・・・。」  
ヴィクトリアは顔を真っ赤にしてうつむきながらつぶやいた。  
人間だった頃はもちろん、ホムンクルスになってからもそんなことを言われたことはない。  
ヴィクトリアはホムンクルスになってからは基本的に恋心と言った感情は自分には無縁だと思っていた。  
元々パピヨンに対する感情はホムンクルスなのに食人衝動がないことへ対して羨ましく思うものだった。  
だが知らないうちにパピヨンの不可能を可能にするような面に惹かれていたのかもしれない。  
対するパピヨンもヴィクトリアの不思議な魅力に少し惹かれていた。  
だが実はパピヨンは蝶野攻爵だった頃も含めて今まで本当の恋と言うものをしたことがない。  
そのためこのヴィクトリアに対する心の中のもやもやした感情の正体がわからなかった。  
時にはまさかこれが俗に言う恋心かと思ったが、まさかあんな化け物の小娘にと否定する自分もいる。  
わざわざ月に来た本当の理由にはこのよくわからない感情の正体を突き止めるためだった。  
クリスマスプレゼントは月に来るための理由付けに過ぎない。  
だが今の会話でパピヨンは、この感情の正体を突き止めるに至っていた。  
(これが恋・・・。武藤と津村斗貴子の間にある感情・・・)  
 
しばらくヴィクトリアと話をした後、パピヨンはベッドから起き上がった。  
「さてそろそろ地球に帰るとするかな。ホムンクルスの連中によろしく。」  
「もう帰るの?っていうかニアデスハピネスが起爆できないのにどうやって月の重力圏を出るのよ?」  
「ふん。見ていろ。武装錬金!!」  
宮殿の外に出たパピヨンはニアデスハピネスを階段状に並べてそれを登り始めた。  
蝶ステキなスーツに身を包んだ男が地球へ向けて階段を登って行く様はまるで王子様だ。  
パピヨンは以前バタフライが武装錬金を足場に空中に立っていたのをヒントにしたようだ。  
「重力圏を突破するまでこうやって登り、宇宙空間に出たらこの階段を蹴ってそのまま勢いで大気圏まで進む。」  
ヴィクトリアはこの武装錬金は本当に応用が効くものだと感心した。  
「さて、次は正月に餅でも持ってくるとしようかな。」  
「あなたいい加減にしなさいよ。また月面に激突して大怪我するつもり?」  
「今度はニアデスハピネスをクッションにして着陸する。蝶人は同じ失敗は繰り返さない。」  
「そう。じゃあお餅を楽しみにしているわ。」  
「あと酸素発生装置と七輪、炭を持ってこないとな。餅が焼けん。」  
パピヨンはヴィクトリアに向けてニヤリと怪しく笑った。  
ヴィクトリアもニッと妖しく笑い返す。  
「さ〜て。俺を待っている地球の人間がいるからそろそろおいとまさせてもらうか。」  
「あなた結構無茶するからせいぜい死なないように気をつけなさい。」  
「ふん。貴様に言われるまでもないさ。蝶人パピヨンは永遠に不滅だからな。」  
パピヨンは階段を再び登り始めた。  
月の引力は地球よりもはるかに弱いので、しばらく階段を登れば重力圏は突破できるだろう。  
「おいみんな見ろ!!あれは!?あの階段はなんだ!?」  
そのころホムンクルスたちが住む街では赤黒く輝く階段を地球へ向けて登っていく男の姿に驚愕していた。  
その姿は神秘的で神々しく見えた。  
「む〜ん。彼は中々かっこいいね。」  
ムーンフェイスも素敵なパピヨンの姿を絶賛している。  
パピヨンは階段の途中から街を見下ろして叫んだ。  
「さらばだ月の連中よ!!また俺様がやってくる日を蝶楽しみにしているがいい!!」  
「おぉおおおおおおお!!パピヨン!!パピヨン!!パピヨン!!」  
蝶素敵な蝶々怪人にホムンクルス達からいっせいにパピヨンへの歓声が上がった。  
「パピ♪ヨン♪もっと愛をこめて!!」  
「馬鹿ね。目立ちたがりなんだから。」  
階段のふもとから見ていたヴィクトリアは少し呆れていた。  
パピヨンはしばらく自分への歓声を浴びて満足するとまた階段を登り始めた。  
ヴィクトリアはずっと眺めていたが、しばらくすると階段がスーッと消えた。  
パピヨンが月の重力圏を突破したのだろう。  
母なる太陽の光を浴びて流星のように輝きながらパピヨンは地球へと飛んでいく。  
ヴィクトリアはその幻想的な姿に目を奪われていた。  
やがてパピヨンの輝きは地球の大気圏へ消えていった。  
「また会える日を楽しみにしているわよパピヨン。」  
ヴィクトリアはそうつぶやくと宮殿へと戻っていった。  
 

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