「プライベート・レッスン」
休日の朝早く、オレと斗貴子さんは町外れの空き地で戦闘訓練に励んでいた。
「だァァーーッ!!」
「ふん」
突撃槍を構えて挑みかかるオレを、斗貴子さんは闘牛士のように軽いステップでかわし、
あるいはバルキリースカートの刃で巧みにあしらっていく。オレの槍はかすりもしない。
それでも、訓練を始めたばかりの頃よりは、少しずつ動き方のコツが分かってきた。
最初の頃は何も考えずに突進して、ガラ空きになった背中や足下に処刑鎌のキツい一発
を叩きこまれたっけ。
ホムンクルスから皆を守るためには、できるだけ多くの戦闘経験を積んで、一刻も早く
強くなりたかった。
だから核金の持つ治癒能力を頼りに、多少のケガは覚悟の上で、実戦に近い形の稽古を
つけてもらっているんだ。
「ぜぇ、ぜぇ……」
数十分後、オレは全身から滝のような汗を流して、大の字に寝転がっていた。
対照的に、斗貴子さんは涼しい顔をして腕組みし、オレを見下ろしている。
またいつものように説教されるかと思ったら、ふいに斗貴子さんの口元が緩んだ。
「ムダな動きがだいぶ減ってきたな、カズキ」
「へへ」
照れ笑いを浮かべた途端、喉元に鋭い刃が突きつけられる。
「ちょっと誉めたら、すぐこれだ。油断と慢心は最大の敵だぞ」
「……はい」
斗貴子さんはオレの隣に腰を下ろし、休憩がてら話しはじめた。
「そろそろ次のステップへ進む時期か」
「……次のステップ?」
思わず聞き返すと、斗貴子さんは厳しい面持ちで言葉を継いだ。
「錬金の戦士として認められるためには、単に戦闘力の高さを示すだけでは不充分だ。
自らが持つ武装錬金の”特性”を最大限に活かした技を編み出し、見せねばならない」
「へぇ。……斗貴子さんは、どんな技で合格したの?」
”俊敏にして正確なロボットアーム”を活かした技、か……。
オレの月並みな想像力で思い浮かぶのはといえば、「作動中の時限爆弾を解体する」
とか、「他人に寄生した肉の芽を外科手術の要領で取り除く」とか、そんな感じだ。
いずれにしても、命が懸かったハードな試練というイメージだろうか。
ところが……斗貴子さんは、オレの質問に何故か顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
何ていうか……予想外の質問だったらしい。
「バカ。私の技など気にしなくていい。今は、キミの話をしている」
「え〜っと……斗貴子さん?」
「………………」
「怪しいなぁ。何か隠してるでしょ?」
「わ、私は! 何も……」
この慌てぶり、この誤魔化し方。怪しい、怪しすぎる。
「じー……」と、顔をそむけた斗貴子さんの正面に回りこんで、瞳を覗きこんだ。
「あ、あんな…恥ずかしい…こと、話せるわけないだろう……」
「教えてよ、先輩! 一人前の錬金の戦士になるために、どうしても知りたいんだ」
「うぅっ……その頼み方は反則だ……」
それでもオレは諦めない。しばらく迷い続けた末に、斗貴子さんは観念した。
「……仕方ない。だが、絶対に人目につかない場所へ……私のホテルへ移動しよう」
(ここだって、充分人目につかない場所だよなぁ。一体全体、何をするんだろう?)
期待と不安が入り混じった気持ちのまま、オレは斗貴子さんに続いて「ホテル銀成館」
へと向かった。
「始める前に、一つだけ念を押しておく。今から見せる”技”は、絶対に他言無用だ。
万が一にも他の誰かに見られたら、もう私は生きていけない。
相手がキミだから……カズキだから、見せるんだ。いいな?」
普段と同じセーラー服姿でバスルームから戻ってきた斗貴子さんは、今にもオレを呪い
殺しそうなほど神妙で殺気だった表情をしていた。
「う……うん」
思わず気圧されて、生唾をゴクリと飲みこむ。
もしかしたら……命に関わるほど危険な”技”なんだろうか? オレなんかが軽々しく
聞いていいようなことじゃなかったのかもしれない。
それにしても……斗貴子さんが左手に握ってる白くて四角いカップは、一体何だろう?
どこかで見たような覚えが……ん〜と、例えば床屋さんとか……
「それでは、始めるぞ」
「お願いします」
「………………」
「………………」
「………………ば、バルキリぃ…………スカぁトっ!!」
しばらく戸惑った末……斗貴子さんは核金を握りしめながら、うわずった声で叫んだ。
まばゆい光を帯びて核金が変形し、斗貴子さんの太腿に装着される。
こうして正面からゆっくり見るのは初めてだったから、オレは思わず見惚れてしまった。
(なんだかTVの特撮ヒーローみたいだ……)と、思ったのも束の間。
バルキリースカートのうち二本の”腕”が、斗貴子さんのスカートをたくし上げた。
「……え!?」
驚きのあまり、オレは素っ頓狂な叫び声をあげてしまった。
二本の”腕”が紺色のプリーツスカートの裾を器用に引っ掛けて捲り上げ、斗貴子さん
が今まで戦闘中には決して見せなかったスカートの奥をあらわにしたのだ。
しかも……
さようなら、お子様向け番組の時間。こんにちは、アダルト番組の時間。
「………………は、履いてないィィッ!!?」
「バカ。そんなこと、大声で、言うな」
消え入りそうな声で、斗貴子さんがたしなめる。うっすらと上気したような表情で。
「これも日常に課せられた修業の一つだ。”下着をつけずに日常生活を過ごして緊張感を
磨きつつ、決して隙を見せずに行動する”……という」
「し、知らなかった……」
床に手をついて愕然とするオレ。
錬金の戦士の修業とは、こんなにもレベルが高いものだったのか……。
「と…ところで、そのカップは?」
オレが問いかけると、斗貴子さんは真顔に戻って
「見ていろ。……これからが本番だ」
と、カップの中から泡だらけの「刷毛」を取り出した。
「これを………………ここに、たっぷりと塗りたくって」
泡立てた刷毛を手に取り、自らの下腹部に近づけて……ぎゅっと押しつける。
うっすらと淡い色の恥毛が生い茂る、秘密の楽園に。
「ま……まさか!?」
ここまで来れば、いくらオレでも想像はつく。
「そうだ。錬金の戦士の奥義……”バルキリー剃毛”。しかと見届けて…くれ、カズキ」
「……ぁっ……」
ほんのりと湯気の立った刷毛を丹念に動かし、恥毛の上をなぞって泡を塗りたくる。
毛先の動きに反応して、敏感な斗貴子さんは唇から吐息を漏らす。
まるで自慰に耽っているような、その淫靡な光景に、オレの目は釘付けだった。
鼻血がドボドボと絨毯の上に零れ落ちる。
頭がクラクラしてきた。
それでもオレは、斗貴子さんに目を奪われたまま、ポツリと呟いた。
「凄い……すごいよ、斗貴子さん」
これだけの痴態を演じているのに、スカートを捲った二本のロボットアームは微動だに
しない。ものすごい意志力だ!
そして遂に、残る二本の”腕”が動き出した。
斗貴子さんの端正な顔に緊張が走る。
ひとすじの汗(……?)が、太腿の内側を伝わり落ちる。
「……ぅ……ふ……ぅっ……」
しょり、しょりっ……。
柔肌に触れるか触れないかという微妙にして絶妙なタッチで、二本の処刑鎌が交互に
斗貴子さんの下腹部をなぞり、白い泡を拭い去っていく。
……ふわっ……ストッ……。
微かに黒いアクセントの入った白い泡が、ゆっくりと淡雪のように床へ降りそそぐ。
刃が通りすぎた跡は、まぶしいほどの白い肌。
少しずつ確実にその面積は広がり、太腿の内側はヌルヌルに潤んでいく。やがて……
「あ……あぁ……そこは……私……ダメ……きゃふぁッ!!」
ぷっくりと興奮に膨らんだ陰核をギリギリでかすめて、最後の一太刀が刻まれた。
と同時に、緊張の糸が切れた斗貴子さんは、その場にへなへなと座り崩れたのだった。
「……ど、どうだった、カズキ?」
すっかり腰が抜けてしまったようで、斗貴子さんは座り込んだままオレに水を向けた。
「うん。凄かったよ、オレ感動した!」
「そうか、良かった。修業の励みになったか?」
「うん! オレも、斗貴子さんに負けないスゴい技を編み出すように頑張るよ!」
「ところで……カズキ……悪いんだが……その……」
技の披露を終えた斗貴子さん、何だかモジモジしながら上目づかいで言いよどんでいる。
「もしかして……今ので、感じちゃった?」
「バカ……そんなこと、最後まで言わせるな」
「でも、欲しいんでしょ?」
「………………(コクン)」
頷いたのを見るやいなや、斗貴子さんめがけて怒涛のルパンダイブ。
「つるつる無毛のパイパン斗貴子さんも可愛いよ! オレ、オレ、もう……!!」
「カ、カズキ! …………あぁっ、んっ……ふあぁ……?」
そしてオレたちは”プライベートレッスン”へ突入するのだった。
(糸冬)