就寝前の点呼も済み、まもなく消灯時間。  
洗面所へ行こうと部屋の扉を開けたときだった。  
私のかわいいカズキが部屋の前を通り過ぎようとしていた。何かブツブツ言っている。  
というか、私の部屋を通り越して何処へ行く気だ?!  
この先はすべて女子の部屋だぞ。  
「カズキどうした、何処へ行く?おい、カズキ?――カズキッ!」  
呼び止めても返事がない。シャツの首根っこを引張って強引に呼び止めた。  
「あ、斗貴子さん」  
「あ、じゃない!どうした、ぼんやりして?」  
「うん、あのさ」  
「なんだ?」  
「女の子だったら、なんて名前がいいだろう?」  
「?はぁ?」  
「男の子なら和斗で決まりだと思うんだけど。  
 やっぱり二人の名前から取るべきだよね、オレ達の赤ちゃんなんだから」  
…幸い辺りに人影無し。カズキを部屋に押し込んだ。  
「また訳の判らないことを!人に聞かれて誤解されたら、どうする気だ?!」  
音を立てて扉を閉めると、思わず叫んでいた。  
もうすぐ三学期が始まる。既に寄宿舎に戻っている生徒もいるのだ。  
「だって流行とかマンガのキャラの名前っていうのは…一生付き合っていくモノなんだから」  
人に伝えたいことは判るように話せ、と何度言ったら理解するのだろう、このコは。  
仕方ない。記憶にしっかり刻み込まれるよう、両方の頬っぺたを引っ張りながら言った。  
「だ・か・ら、わ・か・る・よ・う・に・は・な・せ」  
「だひゃら…斗貴子さん、ここ数日、元気が無いから。  
 何か心配事でもあるのかなって考えてたんだ」  
…まったく、このコは。こういうことは直ぐに判るくせに。キミの好きなところのひとつだ。  
だが、続きがあった。  
「だから妊娠したのかなって。心当たりなら山程あるし。  
 もちろん避妊はちゃんとしたつもりだったけど、100%確実なことなんて無いものね。  
 でも安心して、斗貴子さん。オレ、学校辞めて働くから!心配しn」  
カズキ以外には目潰しをしないよう注意しないと。習慣は恐ろしいからな。  
「暴走するな!妊娠などしていない!!…キミがちゃんと…してくれるからな、大丈夫だ」  
「そっか…じゃあ、なんで?頼りないかもしれないけど、オレ、力になりたいんだ」  
「…心配をかけてすまない」  
それだけ言うと俯いて、顔が赤くなったのを誤魔化した。  
何故、キミはそうやって私の心を揺さぶるんだ。  
どうしよう、言うべきだろうか。彼には嘘をつきたくない。でも  
「…笑わないか?」  
「?うん、笑わないよ。斗貴子さんの心配事を笑ったりするもんか」  
意を決した私は、顔を上げて彼を見つめた。  
 
「…寂しいんだ」  
斗貴子さんが意外な言葉を口にした。  
「えっ?」  
「寂しいんだ、キミと一緒にいられなかったから」  
「?だってクリスマスも初詣も、ううん、それ以外のときだって大抵一緒にいたじゃない?」  
「キミだけと、という意味だ!せっかくイベントなのに…これでも私だって年頃なんだぞ。  
 そういうときには恋人と――キミと二人だけで過ごしたかったのに…」  
 
クリスマスは去年までと同様、帰省前の岡倉達と一緒にパーティをやった。  
まひろや、ちーちん、さーちゃん、それに剛太、毒島さん、秋水先輩と桜花先輩も一緒だ。  
そしてもちろん斗貴子さんも。  
「でもクリスマスは皆のパーティのあと、二人だけになったじゃない?」  
「…パピヨンが乱入してきただろうが!」  
そうだった。サンタクロースというより、布袋様に近い扮装で窓からやってきた。  
マスクだけならオシャレなのに。…マスクだけ着用は嫌だけど。  
 
「初詣は初詣で…まひろちゃんや剛太、毒島はまだ判る。なんで火渡まで…」  
それにキャプテンブラボーと千歳さんを加えたメンバーで近所の銀成神社にいった。  
ブラボーに火渡を誘ってくれと頼んだのはオレ。もちろん毒島さんの為だ。  
そうそう、桜花先輩は巫女さんのアルバイト。すごく似合ってた。  
ここ数年やっているけど、年々希望者が減っているとか。  
確かに、どの巫女さんも忙しそうだった。  
特に背が高くてカッコイイ巫女さんがそうで、まるでオレのことを避けているみたいだった。  
そういえば秋水先輩はどうしてたんだろう?  
いや、そんなことより今はもっと大事なことがある。  
 
「ゴメン。オレ、斗貴子さんがそんな風に感じてたなんて思いもしなかった。  
 …どうしたら良い?オレに出来ることならなんでもするよ。今度はオレが何でもするから」  
ちょっと躊躇ってから。  
「それなら…あの…その…」  
斗貴子さんは目線をベッドのほうへ向けた。  
「うん!」  
お姫様抱っこでベッドへ。  
避妊具はポケットの中にあるから大丈夫。  
『Hでキレイなお姉さん』の編集後記に『男の身嗜みとして、いつも身に付けておけ』と  
書かれていたからだ。  
ありがとう、編集の人。アドバイスが役にたったよ!  
夜空にサムアップする編集の人が見えたような気がした。顔、知らないけど。  
そういえば斗貴子さんの部屋では初めてだ。  
その新鮮さの所為だろうか。  
頬を染め、瞳を潤ませた斗貴子さんは、いつにも増してキレイで可愛い。  
口唇を重ね、その小さな身体を覆い尽くすように優しく、力強く抱き締めた。  
 
日頃、エロスは程々に、とか言っておきながら自分から誘うとは。  
Hでエロスなお姉さん、とか思われていないだろうか。  
ベッドの上でカズキの熱い口づけと抱擁を受けながら、そんなことを気にしてしまう。  
と、カズキの右手がスカートを捲り上げ…  
 
チュン、チュン…  
スズメの鳴き声。もう朝か――って、また肝心な部分スルー?!  
いや、違う。  
窓の外はまだ暗い。夜にスズメの声?  
おかしい。  
そう思ったときだ。窓が破壊され、同時に私達も扉のほうへ飛び退く。  
その間もカズキは自分の身体で私を庇うような位置につく。  
うれしくてその背中に抱きつきたいが、今はそんなときではない。我慢だ、我慢。  
窓の外から妙に高い声、というか子供っぽい声が響いた。  
「見つけたぞ!錬金の戦士ども、チュン!!」  
スズメだ。ただ全高3メートルはありそうな図体で、空中に静止している。  
「斗貴子さん、これ――」  
「ホムンクルスだ!」  
まだ残っていたのか!  
「知っているぞ、核鉄を手放したそうだな、チュン!  
 そうとなれば最早、お前達なぞ怖れるに足りん、チュン!」  
単に巨大なスズメではなく、更に戯画化、というよりコミカルな姿をしていた。  
カズキの部屋で見た漫画の隅に描かれていたスズメにそっくりだ。  
楕円形の頭部に小さな嘴、つぶらな瞳。身体も翼も小さい。その小さな翼を必死に  
動かして空中に浮いている。  
なかなかカワイイ姿だが――私達の時間を邪魔した罪は重い。償いは――  
「…核鉄を借りるぞ」  
カズキの胸に背後から手を伸ばしながら言った。自分でも声に怒気が含まれるのが判る。  
何ヶ月振りだろうか。  
「よくも…よくも!私とカズキの熟した苺の様に赤く、溶かしたチョコレートの様に熱く、  
練乳の様に甘いストロベリーな時間を邪魔しおって!貴様、絶対許さんッ!!  
 武装錬金、バルキリィースカァートォォォォッ!!」  
山吹色の光に包まれてアナザータイプが発動した。  
「ハァルァワタをブチ撒けろォォォォッッ!!」  
…訂正だ。ブチ撒けるというより粉砕になった。  
久々の割りに、過去最高の高速稼動が出来たと思う。  
「出番1レスだけェェ〜?!島本先生、ごめんなさ〜い!!チューン」  
断末魔の悲鳴を残して消滅していった。  
 
…しまった。つい怒りに我を忘れ、とんでもないことを口走ってしまった。  
『クールで優しくて、ちょっぴりHなお姉さん』な私のイメージがッッ!!  
どうしよう、軽蔑されるだろうか?  
 
背中に斗貴子さんの身体を感じた。息が荒くなっている。  
既に武装解除されて、核鉄はオレの胸に戻っていた。  
「あの、カズキ…みっともないところを見せてしまったな…」  
「ううん、久し振りに発動したのに、凄いキレだったよ!さすが、斗貴子さんだ!!」  
振り返って、斗貴子さんの肩に手を掛けながら言った。  
でもお世辞と思われたのか、斗貴子さんは顔を伏せてしまった。本気なのに。  
ただ出来れば捕まえて、月でヴィクターに教育してもらいたかったんだけど。  
やっぱりまだホムンクルスが憎いんだな…  
 
それにしても。  
「ねぇ、斗貴子さん」  
「…」  
「窓、壊れちゃったね」  
「うん」  
「寒いから、オレの部屋、行こ?」  
「うん」  
「…で、続き、しよ?」  
「……うん」  
早速、斗貴子さんをお姫様抱っこした。  
「ちょ、カズキ、このまま行く気か?!」  
「大丈夫、斗貴子さん軽いから!スカートでも見えないようにするから大丈夫!!  
 それともオンブのほうが良い?」  
「そうじゃない!」  
「…あ、そうか!ブラボーに報告しなきゃね。途中で寄って、窓の修理も頼まなきゃ。  
 それからオレの部屋で――」  
「するなぁぁッー!!」  
「え?しないの?」  
「いや、そりゃしたいけど…って違う!」  
「違う?…あ!でも廊下ではさすがにマズイよ、寒いし」  
「バカァァァッー!!」  
「そんなに廊下で?判ったよ、オレも覚悟を決めるよ!!」  
「…もういいから死なせて…」  
「判った!何度も死ぬって言ってもらえるよう、オレ、頑張る!!期待して!  
 もう寂しいなんて思わせないからね、斗貴子さん!」  
 
―オワリ―  
 
 

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