斗貴子はここ3週間ほどロッテリやに通ってパピヨンセットを注文している。
新しいパピヨンセットはキャラクターフィギュアが大幅に追加さえれている。
パピヨンA、パピヨンB、パピヨンC、偽善君、ブチマケ女、アロハ男、シスコン剣士、腹黒姫、
銀色コート、火男丁髷、コスプレ女、バロン神父、バタフライ、腹黒エンゼル、偽善君Vの15体だ。
フィギュアは箱を開けてみないと中身がわからない仕様になっている。
「ぐぁああ!!また銀色コートか!!偽善君が出ない!!」
3週間通っても偽善君が出ないのに苛立って斗貴子は絶叫した。
偽善君V(ヴィクター化カズキがモデル)は1発で当てたものの、通常の偽善君はいくら食べても当たらない。
そのくせ何故かブラボーを模した銀色コートはすでに8回も当たっている。
「戦士長に用はないんだ。欲しいのはカズキのみ。偽善君のみなんだ。」
斗貴子は不機嫌そうにブツブツつぶやきながらハンバーガーを口に運ぶ。
「よかったらこれ差し上げます。」
ふいに後ろから話しかけられたので振り返ると、いつもの店員さんが立っていた。
この時間で今日は上がりなのか私服に着替えている。
彼女が斗貴子に手渡したのは偽善君のフィギュアだ。
「どうもこれ目当てで毎日通っておられるようですから。」
「いいんですか?」
「あんまり当たらないんで見ていてかわいそうになったんで。それに私それ2個目ですから。」
「ありがとうございます。」
斗貴子は心の中で思わずガッツポーズを決める。
3週間通って合計1万円以上ハンバーガーにつぎ込んだかいがった。
「それにしても今回は一気にフィギュアの種類が増えましたね。」
「え!?ブチマケ女さん知らないんですか?蝶人パピヨンがアニメ化になるからですよ。」
「ブチマケ女って呼ばないでくれます?それはパピヨンが勝手に・・・ってアニメ化!!」
斗貴子は驚いて思わず座席から立ち上がる。
店員さんはカバンの中からアニメ情報誌を取り出した。
そこには「蝶人パピヨンTV東京系にて1月11日19:00スタート!!」と書かれていた。
1月11日といえば今日のことではないか。
舞台は秘密結社SEN-DANによる世界征服が進みつつある世界、ある貧弱な少年が先祖の勇者バタフライの残した
研究資料を元に蝶人パピヨンとして覚醒し、秘密結社SEN-DANに立ち向かう冒険物語。
主人公はパピヨン、味方は偽善君カズキン、ブチマケ女ツムリン、アロハ男ゴーチン、亡国の王子のシスコン剣士
シュウ、そしてSEN-DANの陰謀で氷塊に閉じ込められた腹黒姫ことオーカ姫の順に仲間になるようだ。
また氷塊に閉じ込められたオーカ姫の魂より生まれた腹黒エンゼルがナビゲーター兼マスコットとなる。
敵はボスのバロン神父ショーセイ、三銃士の銀色コートブラ坊、火男丁髷のヒワタン、コスプレ女のチトちゃん。
以上が店員さんの取り出した雑誌に書いてあった内容の抜粋だ。
内容的に再殺部隊に追われていた頃に似ていなくもない。
「ロッテリやのフィギュアがアキバ系に受けたようで漫画化、アニメ化と快進撃ですよ。」
全てのキャラクターが自分の知っている人物そっくりなので斗貴子は少し苦笑いをする。
しかしこの店員さんは中々アニメ通なようだ。
ロッテリやからの帰りに街を眺めているとたしかにアニメ蝶人パピヨンのポスターを時々見かける。
街の子供たちにいたってはパピヨンカードゲームやパピヨンフィギュアで遊ぶ子も結構多い。
「う〜ん。パピヨンがそんなに人気なんて世の中わからないな・・・。」
斗貴子は何とも不思議に感じてしまう。
夜19時、斗貴子がテレビをつけるとアニメ蝶人パピヨンが始まった。
OPテーマの『真っ赤な吐血』が終わり、CMを挟んだ後に本編が始まった。
何とパピヨンの声優は本物のパピヨン自ら担当しているようだ。
さらに第1話から登場した偽善君カズキン、ブチマケ女ツムリンともに声が本物にとてもそっくりだ。
第1話だけあってパピヨン中心に話が展開されるが偽善君はとても愛くるしく斗貴子には感じられた。
そして放送終了。
「本物のカズキもいいが偽善君カズキンも中々いいなぁ・・・・」
翌日斗貴子は5巻まで出ている週刊少年ジャンプで連載中の蝶人パピヨンのコミックスをまとめ買いした。
やはり偽善君カズキンかわいいようで顔を赤らめて何回も読み返す。
15回目の途中にふと時計を見るともう深夜23時だ。
風呂も食事もトイレも忘れて何回も読み返していたようだ。
さらに翌日偽善君の携帯ストラップをアニ○イトで大量購入する。
自室の鍵、携帯、カバンなどに取り付けて軽く悦に浸っている。
「カズキンかわいい・・・・・」
さらに翌日、またアニ○イトで偽善君のグッズを買いあさる。
偽善君フィギュア、サンライトハート携帯ストラップ、偽善君ハンカチ、偽善君ポスター・・・etc
どんどん部屋は偽善色に染まっていく。
その惨状たるや本物のカズキが少し呆れてしまうほどだ。
そしてその1ヵ月後のこと。
コンコンと斗貴子の部屋をノックする男がいた。
「斗貴子さん入るよ。」
斗貴子の部屋はさらに一段と偽善色になっている。
カズキが斗貴子の部屋に入ると斗貴子は机に向かって何かを必死に書いている。
どうやら必死すぎてカズキが入ってきたことにも気がついていないようだ。
よく見ると斗貴子の机の上にはインクや丸ペン、スクリーントーンなどが置いてある。
「何を書いてるの斗貴子さん?」
カズキは斗貴子が書いているものを覗き込むとそこには蝶人パピヨンの偽善君とブチマケ女の姿があった。
どうやら漫画のようなのだが、問題はその絵の内容だった。
なんと偽善君とブチマケ女が絡み合うエロシーンだったのである。
「うわぁ!!カズキいたのか!?びっくりさせるな!!」
斗貴子は今頃気がついたようでものすごく驚いている。
「斗貴子さんこれは・・・・?」
「ああ、アニメと漫画だけでは物足りなくなったから自分で書いてみた。今度コミケで出品しようかと・・・。」
何と言うかぶっちゃけた話、書いているものはエロ同人誌に他ならない。
カズキは斗貴子を見つめてつぶやく。
「あんまり言いたくはないんだけど・・・。」
「なんだカズキ?」
「斗貴子さん完全に腐女子になってるよ。」
「何だと!?」
どうやら斗貴子はこのとき初めて気がついたようだ。
なお次のコミケでは斗貴子の書いたエロ同人誌が馬鹿売れすることになるが、これはまた別の話。