一学期が終わったその翌日。  
三年生になったカズキ達は今年も海への一泊旅行に出発しました。  
受験を控えているとはいえ、偶には息抜きも必要、と主に斗貴子さんを説得して、  
向かうは去年と同じ海豚海岸。宿も同じく三浦屋。  
違うのは、行きもキャプテンブラボー運転のマイクロバスなこと、そして何より参加メンバー。  
去年のメンバーに剛太と毒島さん、そして休暇を取った千歳さん。  
まあ、ここまでは誰にとっても想定内。加えて、桜花さん&秋水の早坂姉弟。  
更に――火渡。  
火渡曰く、生徒だけで泊まり掛けの旅行なんて教師として許可できるか!仕方ねェ、  
俺も付いていってやるぜ、と恩着せがましいのです。  
周りが気付いてないと思っているのは、本人と他一名だけなのに。  
 
このメンツですから、もう到着前から車内で大騒ぎ。  
火渡も友達や教え子達と一緒なので、それなりに楽しそうです。  
カズキとの間の蟠りも最近、かなり無くなって来たみたいです。教師と生徒という関係が  
良い方向に向かわせているのかもしれません。  
ま、理由はどうあれ、良かった、良かった。  
 
が、秋水だけが妙に憮然とした表情。実は数日前に、姉の桜花さんとこんなメールの  
やり取りが。  
『秋水クン、カズキ君達が海に行くということで誘われたのですけれど、秋水クンも  
 参加するわよね、当然』  
『俺は修行があるから、姉さんだけで楽しんできてくれ』  
『気分転換も必要よ。それに海で私が絡まれたとき、誰が助けてくれるというの?  
 参加するわよね、当然』  
『武藤に頼んでくれ。今夏は師匠に稽古をつけて貰えることになったんだ』  
『二日くらい良いじゃない。それに私の背中に日焼け止めを誰が塗ってくれるの?  
 参加するわよね、当然』  
『武藤に…だと津村がまたキレるから、誰か同行する女性に頼んでくれ』  
『そう。じゃあ、まひろちゃんに頼むわ。残念ね。まひろちゃんの水着姿、見られなくて。  
 参加しないのね、残念』  
『…師匠に許可を貰ってきます』  
なるほど。逸る気持ちとかその他を抑えブゴァ!!  
 
…何で海に行くのに木刀を持っているんでしょうか、この人は。お陰で、もう海岸に着いて  
しまったじゃないですか。そして皆は着替えて真夏の海へ。  
 
「あれ、斗貴子さん。その水着…」  
「どーした?何か変か?」  
「いや、おへそ…見えない」  
「去年、キミがへそばかり見るからだ。だから今年はワンピースにしたんだ」  
「え〜」  
「…仕方無い。待っていろ、着替えてくるから…もう一つ買っておいて良かった」  
 
「………」  
「あ、あの。中村先輩?どうしました?…何か変ですか?」  
「い、いや、とんでもない!凄く、その刺激的というか…って違う!!変な意味じゃなくて!  
 千里ちゃん、その可愛いというか、何というか…」  
「え…そう言ってもらえると…」  
今年はあなたが中学生日記ですか。  
と、そこへ。  
「ちーちん、タコーッ!」  
「うぎゃあ?!」  
まひろちゃんがトスしたタコがちーちんの頭上に。  
「これ、去年のタコさんかなぁ?」  
「知るかぁ〜!!」  
 
「あのー、大浜先輩。水泳、教えて貰えませんか?」  
「あれ?泳げなかったっけ?」  
「あんまりうまくなくて…駄目ですか?」  
と、上目遣いで大浜を見る、さーちゃん。  
「ぼ、僕でよければ、もちろんOKさ!」  
 
そして岡倉はもちろん、ガールハントにって、あれ?  
釣りをする六舛の横で膝を抱えています。  
「はあ〜折角、キレイでグラマラスなお姉さんとお知り合いになれたと思ったら…  
 ブラボーの彼女とは…とほほ…失恋最短記録、更新だぜ…」  
 
「オラ、毒島!仲間と遊んで来い。俺ァ、コイツらを片付けねェといけねェんだ!」  
と、火渡が指差すのは生ビールの缶の山。  
「帰りの荷物を減らさねェとな、防人達に文句言われっからよ」  
「え〜、でも…その…火渡様と…」  
「海に来ようなんぞ考えるくらいには人見知りは治ったんだ。もうひと踏ん張りしてこい!!  
 …俺が見ててやっからよ」  
 
「ねえ、武藤クン。悪いんですけど日焼け止め、塗って下さらない?」  
「えっ?へっ?あ、いや、その…」  
「くぉらぁ!桜花ァァ!!カズキに何をさせる気だ?!弟はどうした?!」  
「何って、日焼け止めを塗って頂くだけですわ。素・手・で。  
 …それに秋水クンは、ホラ。あっちでまひろちゃんに日焼け止めを…アラアラ、真っ赤な顔  
 しちゃって」  
 
「悪いコね、あの二人をからかって」  
「ふふふ、久し振りに会ったので、つい。独りで大学に行っていると寂しくて」  
千歳さんのいるパラソルに戻ってきた桜花さん。  
「でも千歳さんは泳がないんですの?」  
「この歳になると紫外線がね…まあ、それなら海に来なければ良いんでしょうけど」  
そう言いながら見つめる先には、キャプテンブラボー・サーファータイプ。  
「ブラボーさんもこんなイイ女ほっといてサーフィンですか」  
「フフ…ホント。子供みたい、いつまで経っても」  
「フフ…ホント。武藤クンをそのまま大人にしたみたい」  
「そうね。あんなに楽しそうなあの人を見るのは何年振りかしら。…彼のお陰よ。  
…あなたも辛いわね」  
「…いいえ。私は彼にとって友人のひとり。…最初から判ってましたし、それで良いんです。  
 それに…津村さんも大事なお友達ですから」  
「そう。…やっぱり辛いわね…そうそう、私でよければ日焼け止め、塗りましょうか?」  
「…はい」  
 
ビーチボールを使って、異種球技戦を繰り広げる三人娘改め、四人娘。  
「にしても、まったく。こんなカワイイ女の子が四人もいるのに、声を掛ける男が一人も  
 いないなんて〜!屈辱ゥゥ〜」  
「ちょっと沙織――」  
「そりゃ、ちーちんはイイよね〜、剛太先輩がいるもの〜」  
「わ、わ、私と中村先輩は、別に…そういう沙織だって大浜先輩と」  
「…いいなぁ…皆いいなぁ…」  
「まひろちゃんだって」  
「華ちゃんは先生がいるもんね」  
「!プシュ〜(///)」  
実はその火渡先生が遊撃戦というか機動防御というか、活躍している所為なんですけどね、  
男が近寄ってこないのは。  
「俺の右手が(ry  
いや、ちょっと待て。色々な意味で。  
 
「ちょっとストップ!」  
と、銀成市のNo.1バカップルを呼び止めたのは。  
「パピヨン!何だ、その格好はッ?!!ええい、寄るな!知り合いと思われたら困る!」  
「えっ?でもオレ達、知り合いだし」  
「キミはあの姿を見て何とも思わないのか?!」  
「う〜ん、マスクと水泳帽だけならオシャレだ」  
「すると何か、この蝶・素敵水着を脱げ、と?…むう、さすがにこの俺もそれは…じゃない!  
 武藤!貴様、どういうつもりだ?!何故この俺を海水浴に誘わん?!」  
「だってオマエ、また全国を飛び廻っていて、連絡が取れなかったじゃないか」  
「ふむ、確かにな…まあ、今回は大目に見てやろう」  
「貴様に大目に見てもらう必要など無い!!行くぞ、カズキ!!」  
「まあまあ。そういうなよ、ツムリ〜ン」  
「あっ、ゴゼン様!…そうかゴゼン様、桜花先輩と――」  
「その通り。お前と桜花が繋がっている限り、俺とお前も繋がっているのだよ」  
「繋がってる繋がってる言うなぁ!!」  
「何を連想しているのだ、このブチ撒け女?…いやらしい子だね」  
「き、き、貴様ァァァッ〜!!」  
「まあまあ、斗貴子さん。落ち着いて、落ち着いて」  
「そうそうツムリン。血圧が上がるぞ〜」  
「やかましい!だいたい、ゴゼン!お前はコイツのこの格好を見て、何とも思わんのか?!」  
「ま、俺様は二回目だからな、コレ見るの。さすがに慣れたぜ」  
「何を言う!去年の物とは違う。全く違う!よく見ろ!!特にこの――」  
「今のうちに逃げるぞ、カズキ!」  
 
「あのう、もし宜しかったら私とお茶しませんか?」  
「いえ、私と」「アタシが先よ」「いやいや僕が」  
「ちょっと、引っ込んでなさいよ!」  
「何よ、アンタ!!」  
逆ナンされそうになっているのは…ああ、やっぱり秋水。  
「いや、すまないが連れがいるので…」  
といいつつ、ふと浜辺に眼を向けて――  
「失礼!」  
有無を言わせぬ態度で人だかりを押しのけ、向かった先には。  
「いいじゃない、お茶するくらい。一人なんでしょ?ねえ彼女ォォ?」  
まひろちゃんに見知らぬ男がしつこく迫っていました。まひろちゃんは嫌がっているようです。  
…少なくとも秋水にはそう見えました。  
「やあ、すまない。遅くなってしまった。…おい、君。俺の彼女に何か用か?」  
と、例の眼で凄まれて、逃げ出さない奴はいません。  
「あ、あの。秋水先輩。ありがとうございます」  
「いや、俺も付きまとわれていたから丁度良く…って、あっ、彼女と言ってしまって、ご免。  
 このやり方が一番、手っ取り早くて、揉めないと思ったから。…気を悪くしないでくれ」  
「いえ、構わないです…」  
「えっ?」  
 
「何だ、千歳。泳がないのか?」  
「…皆で私に年齢を思い知らせたい訳?ねぇ、防人君?」  
「何を怒っているんだ?ああ、紫外線か。まだ、そんな歳じゃないだろう」  
「もう、そんな歳よ。――誰かさんのお陰でね」  
「ん〜?…判った。責任取るから、一緒に泳ごう!」  
「えっ?ちょ、ちょっと、防人君?!」  
 
「あ〜チキショウ…六舛め、可愛い子、引っ掛けやがって…」  
岡倉が一人、膝を抱えています。どうやら六舛は陸の釣りもうまくいったようで。  
と、そのとき。  
「なんだ、あの人だかり?…秋水先輩か。さすがだな…こっちにも少し分けて欲しいよ。  
 …あれ?まひろちゃんも一緒?…そういうことか。ならば、ここは義侠心と友情の名の元に  
 自ら封じた禁じ手を使うぜぇ!」  
やおら立ち上がって、  
「お〜い!まひろちゃんに秋水せんぱ〜い!伏せてェェェッ!!」  
そして何やら怪しげな構えを取ると、  
「喰らえぃ!悶絶!拡散・岡倉キィィィィィィッス!!!」  
…え〜と。何つーか、ハーグ陸戦条約とかに抵触しそうなシロモノだな。  
 
一方、まひろちゃん達のほうは。  
岡倉の叫び声で咄嗟に反応したのは、秋水。さすがというべきか。  
で、反応の遅れたまひろちゃんを庇うようにその場に伏せた、までは良かったが。  
「な、何だ?今のは?!まひろちゃん、大丈夫か?」  
「は、はい。…あ、あの手を、その、退けてもらえると…」  
伏せた拍子に秋水の手がまひろちゃんの胸に。それもしっかりと。  
「は?…や!いや、すまん!!触るつもりじゃなくて――」  
そういいながら離れないその手は何か、と小一時間(ry  
二人とも真っ赤な顔だからといって、『この手を放すも〜んか』はマズいよね。  
 
「お〜い、秋水ィィ。何やってんだ、オメ〜?」  
小姑キタ――――ッ!!  
「ゴ、ゴゼン様?!…いやこれは、何だ、その…事故!そう事故だ!!」  
「はっ、まったく。情けねぇなぁ〜。  
 漢字でも仮名でも、竜水和尚様と一文字しか違わねえってのに」  
十七か、聞くだけで(ry  
だがNON!まひろちゃんは2/29生まれだから、まだ十六歳だ。いや、そうじゃなくて。  
 
その頃、遥か沖合いでは例の三人組が残り四形態のお披露目をしていたとか、いないとか。  
 
そんなこんなで日も暮れて、夕食のオカズ争奪戦や、風呂での各々の品評会を終え、  
浜辺で花火と相成りました。  
予め打ち合わせしてあったらしく、女性陣全員が浴衣姿で、これは嬉しいサプライズ。  
ゴゼン様経由で知ったパピヨンも蝶・素敵過ぎる浴衣姿で、これはイヤなサプライズ。  
 
「おい、テメェ!俺の核鉄、返しやがれ!!」  
「何の話だ?ああ、そういえば。どこかの馬鹿が核鉄を紛失した、とか聞いたが。  
 フン。もしや、お前か?」  
「んだとォ、この野郎ォォ?!力づくでも――」  
一触即発とはこのこと。千歳さんとカズキが止めに入りますが。  
「やめなさい、火渡君!」  
「うるせえよ!」  
「おい、蝶野!よせよ」  
「仕掛けてきたのはそっちだ」  
さあ、困った。でも。  
「火渡君!…あなた、生徒達の楽しい思い出を壊す気?」  
「う…」  
「蝶野も!」  
「…ま、そっちから仕掛けてこないというなら、こちらからわざわざ手を出す理由もないね」  
「なら、明日までは休戦。いいわね、二人とも?」  
 
「アラアラアラ。津村さん、浴衣がお似合いね。これなら武藤クンも惚れ直すわ」  
「直す、とはどういう意味だ?…しかし、お前が私を褒めるとは…何を企んでいる?」  
「いいえ、何も。ただ事実を述べただけですわ。  
 私やまひろちゃん、それに千歳さんは大変でしたから。色々、挟まなくちゃいけなくて。  
 ホント、こういうときは和服の似合う体形が羨ましいですわ」  
「…貴様ァァァ!!」  
こちらは休戦とはいかないようで。  
 
「?あの、中村先輩?どうかしました?」  
「へっ?あ、いや、その、浴衣姿も可愛いなって」  
「えっ?あ、ありがとうございます」  
中学生日記その2。  
 
「オラオラオラオラオラッ!!」  
両手に花火持って走るのはやめようよ。一応、教師なんだからさ、火渡。  
 
「エブリバディ、注・目!蝶・打ち上げ花火を見せてやろう!!」  
そういうと、燃える炎の黒死の蝶達が舞い上がり、満月を背景に優雅で華麗なダンス。  
そして爆発!  
巨大な蝶の姿を描いて、やがて夜空に消えて。月面からも見えたかな?  
 
「斗貴子さん」  
「どうした、カズキ?」  
「こんな楽しい日が、ずっと続くといいね」  
「そうだな…大丈夫。きっと続くさ」  
そっとカズキの手を握った斗貴子さんでした。  
 
―おわり―  
 

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