「ハックション!!ハックシュン!!ファックシュン!!」  
「あれ斗貴子先輩風邪っすか?」  
豪快なくしゃみを乱発する斗貴子に剛太は思わず尋ねる。  
「いや、花粉症らしい。去年までなんともなかったのに・・・。」  
「あー。花粉症って急に発症するっていいますからね。」  
「今日だけでポケットティッシュを3つも使い切ってしまった。」  
「マジすか!?けっこう重症ですね。あ、千里さんと約束あるんで俺もう行きます。」  
「デートか?君達かなりラブラブだと評判だぞ。」  
「ええ。でもラブラブが評判なのはむしろそっちですよ。それじゃ先輩、お大事に。」  
「ああ、は・・・ハックション!!」  
斗貴子が花粉症を発症したのは3日前のこと。  
最初は風邪かと思っていたが、目のかゆみなどの症状も現れたために思い切って昨日耳鼻科で診察を受けてみた。  
結果はずばりスギ花粉の花粉症と診断された。  
吸引機で鼻の中にたまった鼻水を吸引してもらい、手渡された薬を使ったら少しは楽になった。  
とはいえやはりそれでもまだまだ花粉症を完全に抑えるには威力不足だった。  
1時間後、剛太は千里と合流して銀成駅へ出るバスに待っていた。  
「ハックション!!ハックシュン!!」  
「あれ?花粉症?」  
「ええ、小学校の頃に花粉症になって毎年こうで・・・は・・・ハックシュン!!」  
「大変だね。そういえば今年は斗貴子先輩も花粉症になったらしいよ。」  
「へ〜。そうなんですか。」  
人の噂とは恐ろしいもので必ずしも正確に伝わるとは限らないのである。  
まずは千里から沙織へ。  
「そういえば斗貴子先輩花粉症になったらしいわよ。」  
「へ〜。じゃあちーちんの仲間だね。」  
沙織から桜花へ。  
「そういえば斗貴子先輩が花ふん症になったらしいですよ。」  
「あら、それは大変ね。」  
桜花から秋水へ。  
「津村さんはかふん症になったらしいわ。」  
「ふ〜ん大変だなそれは。」  
秋水からまひろへ。  
「そういえば津村はかふんしょうになったらしい。」  
「え〜!?」  
まひろから岡倉へ。  
「大変よ!!斗貴子さんふかんしょうなんだって!!」  
「マジかよ!!」  
そして岡倉からついにカズキへと伝わった。  
「大変だカズキ!!斗貴子さんなんだけど・・・・」  
「な!?本当か岡倉!!偽りない話なんだな!!」  
「ああ、まひろちゃんから聞いた話だ。」  
「岡倉。だったら俺、斗貴子さんに謝らないといけない。」  
カズキは斗貴子の部屋へ走っていった。  
 
「斗貴子さん!!」  
カズキは勢いよく斗貴子の部屋の扉を開けた。  
「うわっ!!ノックぐらいしろ!!」  
「ゴメン斗貴子さん。本当にゴメン。」  
「何の話だいきなり?」  
「もう演技なんてしなくていいよ。俺に気を使って今まで言えなかったんでしょ。」  
「だから何の話だ!!さっぱり話が読めないぞ!!」  
カズキと会話が成立しないのはよくある話。  
とはいえ何故謝罪されているのかわからないままでは非常に不愉快だ。  
「とにかく順を追って話してくれ。」  
「岡倉から聞いたんだ。斗貴子さんが不感症だって。」  
「はぁ?何だそれは?何でそんな話になっているんだ?」  
「きっと斗貴子さんがそんな風になったのには深い理由があるのに・・・」  
「いや、ちょっとカズキ・・・」  
「そうか。ホムンクルスに陵辱されたとか精神的なトラウマでセックスを気持ちいいと感じなくなったとか・・・」  
「あのなカズキ・・・」  
「俺に気を使って気持ちよくもないのに感じている演技までして・・・」  
「じゃなくてなカズキ・・・・」  
「なのに岡倉に指摘されるまで俺は気がついてあげること出来なかったなんて・・・何が一心同体だ!!」  
「だからなカズキ・・・」  
「俺は何でもする。何でも償う。だから!!俺を許してくれ!!」  
「あぁああぁああああ!!いい加減にしろ!!」  
あらぬ方向へ暴走を続けるカズキに思わず目潰し、斗貴子の指がカズキの目に突き刺さった。  
「あのな。何で私が不感症と言う話になっているのか知らないがそんな事実はない。」  
「え!?そうなの?」  
「君とのセックスは本当に気持ちいいと感じている。」  
斗貴子は少し顔を赤くしながら事実を説明していく。  
「じゃあホムンクルスに陵辱されたってのは?」  
「それは君の勝手な推測だ。第一、君との初めてのときに破瓜の血が流れただろうが。」  
「あ・・・・・・」  
「とにかく私は不感症などでは・・・ハックション!!」  
「あれ?斗貴子さん風邪?」  
「いや、風邪じゃなくて花粉症・・・・まさか!?」  
斗貴子はこういう事態になっている原因に何となくピンときた。  
その様子を見てカズキも大体の事態が飲み込めた。  
「もしかして斗貴子さんが花粉症ってのが間違って伝わって不感症になってるとか?」  
ようやく自体の原因がわかって少しホッとした2人。  
カズキの暴走も収まって事態は収拾した・・・・かに思えたのだがそうではなかった。  
翌朝カズキと斗貴子が登校すると、クラス中この噂でもちきりだった。  
「津村さん。本当のこと武藤君に言ったほうがいいよ。それがお互いのためよ。」  
「武藤!!お前津村さんが不感症だって気がついてなかったのか!?」  
斗貴子は女子に、カズキは男子にそれぞれ詰め寄られる。  
「誰だ!!根も葉もない噂を広めた奴は!!」  
斗貴子の怒りに満ちた声が教室に響いた。  
人の噂も七十五日というが、この噂も完全に消えるまでにはしばらく時間を要した。  
 

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