オレハ、ドウスレバイインダヨ…
心の底で吐き捨てるように、つぶやく火渡。
自分の体の下に居る少女、毒島華花が自分を見つめている。潤んだ眼で、何もかも受け入れるかのような瞳で。
冷蔵庫の中身は空っぽ、茶棚の中のインスタント食品も品切れ。しかし今から外に出てメシを買って来るのも手間だ。
そんなときのお決まりのメール……「メシ」とだけ書かれたメールを送る。
30分も待てば、スーパーの袋を小さくて細い腕にぶら下げた華花が玄関のドアを叩く……今日も、例に漏れず彼女は訪れた。
「お、お待たせしました……はぁ、はぁ……」
「おせぇ。腹減ってるからさっさと作れ」
「は、はい!」
部屋にあがらせてキッチンへ促すと、自分は手伝いもせずにドカッとソファーに寝転がり、タバコに火をつける。
横目で華花が料理を作るのを眺めながら、なにをするでもなく、ただ待つ火渡。
その胸元に突然振動を感じる、携帯電話が鳴っているようだったが、懐から取り出す間に振動は終わった。
(メールか…)と携帯電話を開く火渡、その画面に書かれた文言にびきり、と青筋が浮く。
「むぁるぅやぁまぁ……」
その文面は、「今日は危険日らしいから気をつけてね」というもの。
何度も何度もこいつからは、いや、再殺部隊の他の面子…戦部すらからも華花の想いにどうする気かと言うことをからかわれる。
そのたびに適度に燃やしてきた。…自分でも分かっているつもりだ、華花が自分をどう思っているか、ということを。
しかし、それに応えようとは思わない。
自分がどういう人間か分かっている、女からすればきっと自分は最低の男なのだろう。
DV夫婦の夫に虐待を受けている女は、自分が居なければこの人はだめなんだ、という思考が働くことがあるらしい。
それが原因でいつまでもそこに居続けようとする、それはきっと間違っている。
彼女を、華花をそんな状況に陥らせたくない。自分がやさしくしてやればいいのだろうが、それが出来るとは思えない。
自分の性格は火がつきやすい……何か気に食わないことがあったらおそらく華花を傷つける。
それは……
「火渡様。出来ました」
「……」
「火渡様?」
「……ああ」
思考がさえぎられる。華花がお盆からテーブルに食事を移し終えて、火渡を覗き込んでいた。
考え込んでいたためか、それに気づかなかった。箸を受け取ると目の前に広がる夕食をむさぼる。
教え込んだ自分好みの味、好きな料理……、その間、調理用具を洗い、タッパに余り物をつめる華花。
「…食ったぞ」
「あ、はーい」
皿を渡し、食後の一服に火をつける火渡。
渡した際の華花の顔を思い浮かべる、ご飯つぶを一粒も残さず食べつくした皿を見たときのあの嬉しそうな表情。
「…クソが」
あの表情を見た瞬間、自分の中にわきあがった感情。
だが、それを求めることと現実の矛盾、胸の中に黒いものが沈殿する。
オレハ……ドウスレバイイ……。
「火渡様、じゃあ私戻りますので。冷蔵庫の中に余りものを入れておきましたが、三日くらい持ちますので…」
ドウスレバイインダヨ……!
それもこれもコイツが俺に余計なことを抱かなければ・・・そうだ、それが悪いんだ。
だったらコイツがそんな風に思わなくなればいいんだ、俺のことを見るのも嫌になればいいんだ。
思考がどんどん黒く、暗くなっていく。誤った方向へ走り出すが、それを止められなかった。
その暴走した思考のままに火渡は体を動かす。
「じゃあ、私そろそ・・・・・・!?!?きゃぁぁっ!?」
華花の細い腕を掴み、軽い体を引き寄せて、そのままベッドの上に転がす。
自分に何が起こったかわからず、ベッドの上で蠢く華花の体にのしかかる火渡。
「ひっ、え…っ!?え!?あ、火渡……さ、ま?」
細い両の手首を掴んで、万歳をさせるように捕らえる。
「馬鹿が……無防備すぎんだよ。溜まってるから色気もなんもねぇが、テメェで抜かせてもらうぜ」
下卑た言い分で、できる限り嫌悪感を持たせるように言いはなつ。
「あっ……ひっん……んぷぅッ」
そのまま唇を奪い、むさぼる。タバコのヤニのにおいのするキスなんざ、どう考えても吐き気を催すキスだ。
だが、それくらいでちょうどいい。もう嫌だと思うほどに、刻み込む、自分という男の醜いところを…そうすればきっと…きっとこの苦しみから解放される。
無理やり唇を開き、その口腔内に舌を送り込む。怯えたように縮こまった華花の舌を捕らえると、蹂躙した。
ぬるぬるとした唾液同士が絡み合い、舌の裏側をなぞると、びくんっ!と痙攣する彼女の反応を見たくてそこを陵辱する。何度も、何度も。
「んぅ…ンッ、……ふぁ…っん、ンッ!ンッ!ンンン……ッ!」
鼻にかかったような声で鳴く華花、火渡は横目で彼女を見るとぎゅっと閉じた瞳からは涙がにじんでいるのを捕らえた。
そうだ、もっと泣け、泣いて、泣いて……オレヲ嫌イニナレ。 嫌いに、嫌いになってくれ。
嬲っていた舌を解放する、しかし、陵辱の手が止まったわけではない。今度は上あごの裏側に舌を這わせる。
ちろ、ちろ、とつつく様に舐めるたびに、ン、ン、と小さく上がる声、ノックするかのような愛撫から次第に乱暴に舌を這わせる。
荒々しくなっていくにつれて、華花の声も大きく、苦しげになっていく。
・
・・
・・・
・・・・
「〜〜〜〜っ!!……ぷはぁっ」
たっぷりと何分も華花の口腔を蹂躙し、陵辱し尽くして、やっと火渡の唇が離れた。
銀糸が二人の唇の間に渡る。火渡も、華花も唇の周りは互いの唾液にまみれている。
ぐい、とそれを火渡は手の甲で拭うが、何分間も陵辱されて顎の力が抜けてしまったのか華花は荒い息を吐きながら口をぽかんと開けたままだ。
口の中から覗くその舌がふるふると震えている、その艶かしい肉色のそれがぞくりと色っぽさがあって、火渡は唾を飲み込む。
コレデイイ、コレナラ……、これだけ好き勝手にされればきっと……。
だが、火渡の悲しい望みは断ち切られる。
「火渡、さまぁ……」
涙で潤んだ眼で、赤く染めたほほで、汚された唇で自分の名を呼ぶ。
まるで大切な宝物のように自分の名を。汚した俺を愛しげに。
その視線が、声が、火渡の心を暗く、沈殿したものの暴走を再び呼び起こす。
オレハ、ドウスレバイインダヨ…
心の底で吐き捨てるようにつぶやく火渡。
どうすればいいか分からない、分からないままに、火渡は華花の荒い呼吸に合わせて上下する乳房へとゆっくり手を伸ばしていく……。