桜花は秋水の部屋の扉を開けた。
秋水は2月に入って武者修行の旅に出かけていてしばらく帰ってきていない。
そのせいで1か月近く主のいない部屋はほこりや汚れがたまってしまっていた。
明日には卒業式に備えて秋水が帰ってくる。
それに備えて桜花とゴゼンは秋水の部屋の掃除を始めることにした。
「まずはゴミ箱のゴミを捨てようかしら。」
桜花が秋水のゴミ箱の中身をゴミ袋に移していると、どうにもティッシュが目立つことに気がついた。
まさかと思ってそのうちのひとつを手にとって香りをかいでみた。
「桜花!!スルメイカの匂いがするぜ!!」
「ということは・・・・。もしかして?」
桜花の顔が腹黒いニヤニヤした笑顔に変わる。
「例の物を探すわよゴゼン様!!」
「OK!!ベッドの下にはねぇな〜。」
秋水のベッドの下に桜花たちの探しているものはなく、ほこりのたまった床が広がっていた。
例のものの隠し場所としては最もスタンダードなここは残念ながらハズレ。
「甘いわよゴゼン様。秋水君のことだから裏をかいて・・・」
桜花は秋水の布団を除けて、ベッドのマットのファスナーを開けた。
マットの中にあるクッションに手を伸ばしてゴソゴソすると何が手に当たった。
それをしっかりとつかんで引っ張り出した。
出てきたのは俗に言うエロ本と呼ばれる部類の本であった。
「ビンゴだぜ桜花!!何々?『東間ミズキ超過激ヌード写真集〜私だけを見つめて〜』だってよ!!」
「まだ2〜3冊あるわよ。まずは『Hでカワイイ女子校生』。」
「“女子高生”じゃなくて“女子校生”ってあたりがそれっぽくてエッチぃな。」
「まだあるわよゴゼン様。『野外露出王国』、『エロエロ学園パラダイス』、『エロスの神様』・・・」
「か〜っ!!秋水もやっぱり男の子なんだなぁ!!あんな顔してかなりエロエロじゃねぇか!!」
「秋水君中々マニアックな趣味をしているわねぇ〜。」
秋水のお宝を探し当てた腹黒コンビのテンションは急上昇していく。
「もっと探すわよゴゼン様!!」
「オウ!!俺の予想が正しければ秋水はこの何倍もエロ本を隠し持ってるぜ!!」
結果、ゴゼンの予想は正しかった。
壊れたビデオデッキから中の機械を引っ張り出して、抜け殻状態の箱と化したものの中にエロ本が4冊、押入れの
中にある小学校の頃のランドセルの中から小学校6年生の教科書に偽装したエロ本が8冊、勉強机の引き出しの底
を2重底にして隠してあったエロ本が引き出し5箇所で合計12冊、さらにDVDプレイヤーの下側に小型のケー
スに入れられてセロハンテープで固定されたエロDVDが3枚、クローゼットの中にある中学校の制服の中からエ
ロDVDが4枚と、合計でエロ本29冊、エロDVDが7枚が桜花たちに発見されたのだった。
「秋水のヤツ!!なんて凝った場所に隠してやがるんだ!!」
「ホホホ。でも私たちの手にかかったらこのくらい見つけるのはお手の物よ。ねぇゴゼン様。」
部屋中のエロスな物を探し終えた腹黒コンビは明日帰ってきた時の秋水の顔を想像してニヤニヤしている。
「勉強机の上にこれ全部置いて置いたらムッツリスケベの秋水どんな顔するかな?」
「きっと一瞬石化した後に動揺しておろおろし始めるわね。・・・・・あれこの子は・・・?」
ふと、何かに気がついた桜花は秋水のエロ本やDVDを凝視し始めた。
「っておいおいどうしたよ桜花?オメーもエロくなっちまったか?ってえぇええええ!!!」
ゴゼンもそれに気づいて大声で驚いた。
「ただいま。」
翌日、帰ってきた秋水は玄関の鍵を開けて家に入った。
桜花がいないことに不思議に思いつつも、とりあえず自分の部屋に入る秋水。
入った瞬間に秋水は部屋の違和感に気がついた。
1ヶ月以上ほったらかしだったのに、部屋はほこりも無くぴかぴかでキレイなままだったからだ。
確実に何者かが部屋の主である自分に許しを得ることなく勝手にこの部屋を掃除している。
もちろんその何者かなど姉の桜花と、その武装錬金のエンゼル御前くらいしか存在しない。
そして部屋を見回すと勉強机の上に自分の隠し持っていたエロ本やDVDのコレクションが総出演していた。
秋水は一瞬石化して微動だにしなくなり、その後動揺しておろおろし始めた。
大体桜花の予想したとおりそのままの状態だった。
「よぅおかえり!!ムッツリ秋水!!」
「武者修行の旅は辛かったでしょう?こんなエッチな秋水君が1ヶ月の禁欲生活だもんね。」
秋水の背後から気配を絶ってひょっこり現れる天下無敵の腹黒コンビ。
「ね・・・姉さん!!これは違うんだ!!これは・・・その・・・あの・・・そうだ!!武藤!!武藤が津村斗貴
子に見つかったらぶちまけられるから、しばらくの間預かってくれって俺に・・・・」
とっさに嘘をついてごまかした秋水だが、この同様っぷりでは俺のものですと言っているようなものだ。
「そう?じゃあ寄宿舎に電話して武藤君に聞いてみるわね。」
あっさり嘘を見破った桜花はポケットから携帯電話を取り出して寄宿舎の番号を押し始めた。
「待って!!それは本当は嘘で・・・・そうだ!!太と細に押し付けられたんだ!!」
「だったらなんでそれを捨てねぇで後生大事に保存してんだ秋水!?」
「それにあの人たちがとことん見下していた人間に物をあげるなんてコトはありえないわよ。」
断っておくが、秋水は決してとっさに嘘をついてごまかすのが苦手なわけではない。
むしろLXEの任務をこなす過程でとっさの嘘は山ほどついてきた。
しかしこの動揺しきった状況ではそれが態度に出てしまう上に、まともな嘘も思いつかない。
「っていうかオメーのだろうが秋水!!ごまかすなんて男らしくねぇぞ!!」
「秋水君。あ・な・た・の・で・し・ょ!?」
桜花とゴゼンの追求にもはや観念した秋水。
「・・・・・・はい。俺のです。」
秋水は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにボソッとつぶやいた。
桜花は逆に少し安心していた。
秋水は今までエロスのかけらもみせなかったので、性欲がないのではと心配していた。
今回の一件で秋水にもちゃんと性欲と言うものが存在したことがわかってホッとしていた。
健康な高校生男子で性欲が存在しないというのは異常としかいえない。
しかし話はそれで終わりではなかった。
「ところで秋水!?これ見てて気がついたんだけどよ、お前のエロ本って東間ミズキって女が必ず出てるよな?」
東間ミズキとは今年で20歳になるデビュー1年目のヌードモデル兼AV女優で、身長は162cmでスリーサイ
ズはB87、W58、H89の業界では比較的人気のある女の子であった。
栗色の長髪と天然系キャラが特徴だった。
「この娘誰かに似てると思わない?秋水君?」
「誰かって誰だよ姉さん?」
そう問いつつも秋水の中では既に答えは出ているようで冷や汗がダラダラと流れてくる。
「っていうかオメーわかってんだろ秋水!!」
「この娘、武藤君の妹さんのまひろちゃんによく似てると思わない?」
桜花の言葉に反応して即座に秋水は怒号を返す。
「姉さん!AV女優に似ているなんて彼女に失礼だろう!!」
「あら?でも本当にそっくりよ。」
たしかに桜花の言うとおり東間ミズキはまひろに似ていた。
体格、顔つき、髪の色、髪型、目の色などの条件が合致して印象がよく似ていた。
「それに秋水!!これを見やがれ!!」
ゴゼンが持ってきたのは秋水の所有していたエロ本の中の一冊。
「この女のページだけやけに痛んでねぇか!?他の女のページはきれいなまんまなのによぉ!!」
「秋水君?あなたもしかしてまひろちゃんが好きなんじゃない?でも告白する機会もなく、どんどんたまっていく
もんもんとした性欲を彼女にまひろちゃんを重ね合わせて発散させてたんじゃないの?」
秋水はさっき以上に冷や汗をダラダラ流しながら桜花とゴゼンから目をそらした。
2人の推理はどうやら図星だったようだ。
「ねえ秋水君?まひろちゃんが好きなんでしょ?」
「俺は・・・・その・・・・。」
「好きなんでしょ!?はっきりしなさい!!」
「はい・・・・。」
桜花の問答におもわずうなずいてしまった秋水。
その姿は普段の剣道着に身を包んだ凛々しい姿からは想像できないほど弱弱しい。
「もうちっと自分に正直になれよ秋水!じゃねえと人生面白くねぇぜ!」
しかもゴゼンにまでダメだしされる始末だ。
「秋水君。このままじゃよくないわよ。」
「姉さん・・・。俺にどうしろと?」
「決まってるでしょ?まひろちゃんに告白するのよ。」
「こ・・・告白!?」
秋水はもてるくせに女性に対して非常に奥手で、自らアプローチすることは今までなかった。
そのため告白されたことはあっても告白したことは一度もなかった。
理由は秋水自身が自分の思いを伝えるのが恥ずかしかったためだ。
それに告白して失恋するのも闘いで負けて傷つく以上に怖かった。
好きなら告白すればというのは簡単に出る結論ではあるが、秋水にはその一歩を踏み込むことが出来なかったのだ。
「秋水君。こうやって思いを伝えもせずに代替手段で性欲を発散するなんて状況を続けていくのはよくないわよ。」
「そうだぜ秋水!!当たって砕けろ!!まっぴーに思い切って告ってみやがれ!!」
桜花とゴゼンに後押しされる秋水。
「でも告白って言われても彼女になんて言えばいいやら・・・。」
「なんて言えばもなにも告白すればいいんだよボケ!!細けぇことは考えるな!!」
「秋水君。キレイに取り繕った言葉にしようとしてはダメ。そんな言葉じゃ彼女に心には届かないわ。あなたの思
いをそのまま言葉にするの。あなたの本当の心を偽りひとつなくまひろちゃんに伝えるのよ。あと伝えるシチュ
エーションも大事よ。例えば放課後の屋上に呼び出して夕陽をバックに告白するとかいいんじゃない?」
「おぉ!!そりゃロマンチックだな桜花!!ナイスだ!!秋水それで行け!!」
桜花とゴゼンにアドバイスはされるが、やはり秋水は困惑を隠しきれない。
「・・・・。姉さん。やっぱり俺告白は・・・。」
「いいから告白しなさい。問答無用よ。」
「俺たちが散々アドバイスしてやってるんだからとっとと告白しろっての!!これだから童貞は嫌なんだよ!!」
いまいち告白する勇気が持てない秋水だったが、桜花とゴゼンに半ば強引に押し切られてしまった。
結局その晩は桜花とゴゼンによる告白の特訓が深夜まで続けられた。
「き・・・君が好き・・・なんだ・・・」
「このタコスケ!!男ならもっとでけぇ声で告白しろ!!」
何度も何度もゴゼンに手厳しく怒鳴られ・・・
「あなたのことが好きです。つきあってくだたい・・・あ!?」
「秋水君。本番では緊張して噛んだらだめよ。」
何度も何度も桜花にやんわりと諭され・・・・
「好きだ!!大好きなんだ!!世界の何よりも君が好きなんだ!!君のためなら俺は死ねる!!君のためなら俺は
世界中を敵に回しても構わない!!君のためなら俺は何だってできるんだ!!君のためなら・・・(やけくそ)」
「長ぇ長ぇ長ぇ長ぇ長ぇ長ぇ長ぇ!!無駄に長げぇんだよ!!もっと手短にしやがれ!!」
「あなたの本当の気持ちをぶつければいいのよ。長ったらしい言葉は必要ないわよ。」
時には同時に怒られることもしばしば・・・・
3人の特訓が終了した後も、秋水はベッドの中でシミュレーションを繰り返した。
特訓の甲斐もあって、翌朝の秋水はある程度の自信を得ていた。
早速学校に行ってキョロキョロと『武藤』の名前の入った下駄箱を探した。
「あった。武藤!!これだ!!」
秋水はドキドキしながら下駄箱に一通の手紙を入れた。
伝えたいことがあるから放課後に屋上に来て欲しいという内容の手紙だ。
その日の秋水は放課後のことを考えて、常にどこか上の空だった。
そしてやっと放課後になり、秋水はダッシュで屋上へ移動してまひろを待った。
しばらくしてガチャリと屋上の扉が開いて、夕陽に赤く照らされた屋上へと誰かが入ってきた。
「武藤?」
秋水が尋ねると「はい。」と返事が返ってきた。
顔を見て面と向かって告白する勇気がないのか、秋水は声の主を見ずに屋上から校庭を眺めている。
「あの・・・秋水先輩?話ってなんですか?」
「俺は・・・君が・・・俺は君が好きだ。俺と付き合ってほしい。」
「え・・・秋水先輩!?」
思いを伝えた秋水は目をつむり、恐る恐る背後に向かって振り返る。
「秋水先輩!!ごめんなさい!!」
「そうか・・・。困惑させたようですまなかった。」
結果は惨敗だが、不思議なことに胸の中は長いことあったもやもやが晴れて妙にすがすがしかった。
ゆっくりと秋水は目を開くが、そこにいたのは・・・
「ごめんなさい秋水先輩。俺には斗貴子さんがいるから・・・・。それに同性愛に興味は・・・。」
武藤は武藤でも、武藤まひろではなく兄の武藤カズキだった。
予想外の展開に秋水はまたもや石化して失神し、その場に倒れこんでしまった。
「秋水先輩!!しっかりして!!」
その頃屋上の貯水タンクの上から桜花とゴゼンが2人を眺めていた。
「なんでまひろちゃんじゃなくて武藤君が来たのかしら?」
「あいつ・・・さては緊張して学年を確認せずに手紙を入れたな。ってか声聞いて気づくだろ普通。」
ゴゼンの推測は大当たりで、実は秋水が手紙を入れた下駄箱は2−Bの武藤だったのだ。
「うふふ。本当に馬鹿ね秋水君。でもこれであの子もまひろちゃんに告白する勇気は付いたはずよ。」
「今度こそうまく告れるといいな秋水。」
その後、まひろと仲良く街を歩く秋水が見られることになるのだが、それはもう少し先の話になる。