ただ虚しく手を伸ばし、去って行くのを見送ることだけしか出来なかった。  
 
『キミといる未来』  
 
 
眼を開ければ、そこにはカズキの寝顔。  
ほっと息をつく。  
――やはり夢だった。  
カズキが私を残して月に行ってしまった、あのときの夢。  
あれから半年以上の時が過ぎたというのに。  
最近、やっと見ないで済むようになったと思っていたのに。  
もう、大丈夫。大丈夫だから、あんなことは忘れてしまえ。何度、自分に言い聞かせたこと  
だろう。  
そう思いながら、改めてカズキを見つめる。  
まだ幼さの残る彼の寝顔。愛し合っているときには、あんなにも大人びて見えるのに。  
全く無防備で呑気な寝顔。でもこの寝顔を見ていれば、私は落ち着きを取り戻せる。  
再び眠りにつくことだって出来る。  
今は瞼に隠されたその瞳を思い出す。優しさと情熱を秘めた、真っ直ぐな眼差し。  
その瞳の前では、何も隠すことが出来ない。  
でも構わない。  
身も心も余すところ無く曝け出そう。全てを彼に奉げよう。  
私で良いのなら。  
暴力と血生臭い過去しか持たない、こんな私で良いのなら。  
 
枕にしていたカズキの腕がいきなり動いた。同時にもう片方の腕も覆い被さり、私は  
カズキに抱きしめられた。  
「斗貴子さん…」  
起きていた?!  
「…ムニャ…」  
…のでは無かった。寝惚けて手近のものを引き寄せただけのようだ。  
ここ数日、ぶり返してきた寒さの所為だろう。  
全く、私は暖房器具の代わりか?…まあ良い。私は何でもする、と言ってしまったからな。  
それに――それに私もこのほうが落ち着く。  
彼の鼓動を感じていれば、それだけで心が和らぐ。特にあんな夢を見た後は。  
私はカズキから、かけがえの無いやすらぎを貰った。  
いやそればかりでは無い。私は彼から、どれだけのものを貰ったのだろう。  
平和な日常、良き友人達、なによりカズキ自身――私の愛しい人。  
でも  
私は彼に何をして上げられたのだろう。  
 
そもそも私がカズキを巻き込んだのだ。  
まさか自分から危険に飛び込んでくるような人間がいるとは思いもしなかった。それも  
見ず知らずの人間の為になんて。  
みんなを守る為に戦う。彼はそう言った。その『みんな』の中に私も入れてくれたから。  
だから今、ここにいる。いることが出来る。狂戦士から女になって。  
でも  
私が彼に与えたものは、戦い。ただ、それだけ。  
 
ここにいる資格が私にあるのだろうか。彼に愛される資格があるのだろうか。  
私はただ彼を利用しただけなのではないだろうか。  
この場所を得る為に。  
 
「――子さん?斗貴子さん、どうしたの?大丈夫?」  
「…カズキ?起きたのか?……大丈夫って、何のことだ?」  
気がつくと髪を撫でられていた。大きな暖かい手。  
「だって、泣いてるみたいだったから…それとオレに抱きついてるし」  
いつの間にか、すすり上げていたようだ。  
「あ、ああ。それで起こしてしまったのか、すまない。なに、ちょっと鼻が詰まっただけだ。  
 冷え込んできたからだろう。今更、花粉症でもないと思う。  
 それと!抱きついたんじゃなくて、キミに抱きつかれたんだ」  
「えっ?あ、ごめん。斗貴子さん、あったかいから、つい」  
すまない、カズキ。嘘をついてしまった。…でも半分は本当だ。  
「私は湯たんぽじゃないぞ…まあ良い。実を言うと、私もこうしていたほうが暖かい」  
本当に暖かい。…離したくない。ここにいたい。  
「ねぇ、斗貴子さん――愛してる」  
「と、突然、何を言う?!……そりゃ…私だって」  
愛してる――本当に?  
「私だって」  
心から?  
「私――」  
 
カズキの口唇が重なる。舌を絡ませて、両腕を背中に廻して、互いの身体を抱き寄せる。  
そのまま、どれほど時間が過ぎただろう。惜しむように少しだけ離れて。  
それからあの全てを見透かす情熱的な眼差しで見つめられた。  
「斗貴子さん――斗貴子さんに会えて良かった。  
 斗貴子さんがいてくれたから、今オレはココにいられる。  
 まひろや岡倉達のいる大事な世界を失わずにすんだ。何より斗貴子さんも。  
 だからオレは  
 斗貴子さんと、ずっと一緒にいたい。  
 二人で、ずっとずっと、こうしていたい。  
 誰かをこんなに大事に思えるなんて、考えもしなかった。  
 斗貴子さん――オレの傍にいてくれて、ありがとう」  
カズキ。ああ  
私は  
 
「…な、なにを急に…キミと私は一心同体だ。前にも言っただろう。――ずっと一緒だ」  
やっとの思いで、それだけ答えた。  
何故、キミは私の不安を判ってしまうんだ?  
「うん!」  
そんな風に、いつもの明るくて優しいカズキの表情で答えるものだから。  
思わず笑みがこぼれて、それから。  
「ふふふ…しかしキミの『達人』の中には、『心を読む』もあるのか?」  
だから、つい私もそんなことを口にしてしまった。  
「?えっ?…う〜ん、そうだな…今の斗貴子さんの気持ちは――  
 心眼!カズキ・アイ!!」  
「いつの間に、そんな技を取得したんだキミは?!」  
でもそうやっておどけながらも優しい瞳を向けるから。  
私の心は何も隠すことが出来なくなって。  
出来るのは心臓を一拍、強く打つことだけ。  
「よし、判った!!それじゃ――」  
もう一度、くちづけ。それから  
 
〜オワリ〜  
 
 

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