「てな具合でな!桜花のヤツも満更でも無かったみたいでよ!!」  
「いいな〜、いいな〜、桜花先輩!夜空をフワリフワリ、蝶々の妖精さんとお散歩〜!!」  
「それもお姫様ダッコだよ、まっぴー?!全ての女の子の憧れ、永遠の夢、出来ないヤツは  
 男じゃないとまで言わしめる、お姫様ダッコ!!」  
寄宿舎でいつものメンバーを前にゴゼン様がカタった話が発端だった。  
ゴゼン様によると自身の創造者、あの桜花って人が学校帰りにパピヨンと共に空中散歩  
と洒落込んだことがあったとか。  
あの蝶絶ファッションセンスのパピヨンが相手では折角の夜景も別の意味で霞むだろう。  
それにゴゼン様の話なんだ。尾ヒレのつきまくった殆ど原型を留めないホラ話だろうなんて  
この俺、中村剛太を含めヤロウ連中は概ねそんな風に聞き流していたんだが――  
 
「「ろまんちっくぅぅぅ〜〜!!」」  
武藤の妹さんのまひろちゃんとその友人の一人、『さーちゃん』こと河合沙織さんは大騒ぎ  
だ。  
「あ〜私も夜空のお散歩、行きた〜い!!」  
「っていうか、彼氏欲し〜い!もちろん空飛べる人ォォォッ!!」  
「普通の人は飛べません!」  
もう一人の友人、『ちーちん』こと若宮千里さんのツッコミが入るが――眼鏡越しの瞳は  
やはり夢見る乙女だった。  
けれど普段から冷静でこの面子の中では数少ない、というか唯一の常識人である彼女の  
こんな表情を見られるのは貴重なことかもしれない。  
この間のまひろちゃんの誕生日パーティのとき、いつまで経っても俺が戻ってこないことに  
ただひとり気がついて探しに来てくれたのも彼女だ。  
そのときの俺はパピヨンの奴の武装錬金ニアデス・ハピネスの所為で『命だけは助かった』  
状態で寄宿舎の廊下に転がっていたのだけれど。  
そういえば武藤はこの二人の見分けがいまだにつかなくなることがあるそうだ。  
若宮さんは眼鏡を掛けているし、河合さんは髪の毛をツインテールにしているんだから、  
簡単に見分けがつきそうなものだが。  
「はうぅぅ〜」  
そんな溜息を洩らしながら真っ赤な顔になっているのは毒島花華。おっと今では彼女も  
まひろちゃん達の友人だ。  
その毒島が何を考えているかは予想がつく。火渡戦士長に抱きかかえられて空中散歩  
なんて光景を思い浮かべているのだろう。あの人の武装錬金なら可能だから。  
けれどその元となる核鉄を去年の終わりに取り上げられてしまっているのだから不可能だし、  
それ以前にあの人がそんな願いを叶えてくれるとは到底思えないんだが。  
「夜景、か……」  
その言葉に斗貴子先輩をちらっと見ると――やっぱり。  
いや、やっぱりこの人も女の子だったんだ!いつもは厳しくて残酷に思えることもあって  
本当はドSなんじゃないかとか血の臭いを嗅ぎたいだけなんじゃないかと疑うこともある  
先輩も、その内面は夢を夢見る可憐な乙女!!  
普段は頭に『戦』がつくけど、今は、今だけはただの乙女!!  
でもその夢を叶えて欲しい相手は俺じゃなくて。  
 
「なんだい、剛太?」  
消灯時間も近付いてお開きとなった後、俺は武藤を廊下の隅に引張っていった。  
「なんだいじゃねぇよ、お前ならできるだろ?」  
「?何を?」  
何でコイツはこんなに鈍いんだろう。頭を抱えずにはいられん。  
「夜空の散歩だよ!さっきの先輩の表情、見ただろ?!連れてってやれよ、お前なら――」  
――そこまで言ってしまってから、俺は気がついた。  
武藤は核鉄を心臓代わりにしているから今でも武装錬金を発動可能だし、その武装錬金  
サンライトハート・プラスは人間二人載せても飛行可能だ。実績もある。  
そうだ、あの八月の夜に。  
 
ヴィクターに白い核鉄を打ち込む為の突撃。斗貴子先輩と共に敢行したそれが不完全な  
結果に終わったとき、武藤はヴィクターと二人、月へ昇っていった。  
斗貴子先輩を残して。  
もちろん今はこうして戻ってきているのだし、それが皆を守る為だったということは斗貴子  
先輩も理解しているだろう、アタマでは。  
けれど心では?斗貴子先輩、そして武藤の。  
 
沈黙。  
マズった。俺は恐る恐る顔を上げた。  
武藤はそれでも微笑んでいた。泣きそうな笑顔で。  
「……すまん…」  
俺が搾り出せた言葉はやっとそれだけ。  
「いいんだ、剛太……全部、オレの所為なんだから。気にしないで…じゃ、おやすみ」  
「あ、ああ、おやすみ」  
気にするなって?無理言うな――だが、どうする?  
 
三日悩んだ挙句、戦士長キャプテンブラボーに相談することにした。  
消灯時間後、こっそり管理人室へ向かう。扉をノックしようとしたとき、中から話声がした。  
聞く気は無かったけど聞こえてしまった。  
「急に呼び出して何の用なの?いくら私の武装錬金が……」  
千歳さんだ。ここからは大人の時間か。仕方ない、明日に――  
「銀成グランドホテル最上階でのディナーに御招待、ってのはどうだ?」  
「……屋台でチューハイとかホッピーとかのほうが好きそうな防人君がそんな豪華な処で  
 なんて、どういう風の吹き回し?それとも何か企んでるの?」  
「裏なんてないさ。純粋にだな、御招待申し上げているんだ……いや最近、ウチの生徒達  
 の間で夜景ブームなんだ。  
 俺もそれに便乗してだな、その…まあなんだ『少年の心は時として成人男子に伝染する』  
 という言葉もある通り………ええい!  
 カズキと斗貴子を見ていて思ったんだ。  
 俺とお前の止まった時間をもう一度、動き出せるようにしたい。お前と同じ時間を――」  
これ以上は……俺は気づかれないよう立ち去った。もうアドバイスは貰ったし。  
 
銀成グランドホテル。二年前に出来た高層ホテルでその最上階の展望レストランは一般人  
が立ち入り可能なスペースとしては銀成市で最も高い、と街を案内して貰ったときに聞いた  
ことがある。  
もちろん値段も高い。先輩達にプレゼントしようにも俺の手持ちでは無理だ。  
だが、この街にはもう一つ、二年前までは銀成市No.1の高さを誇ったビルがある。  
銀成スカイタワー。  
低層階をショッピングフロア、その上をビジネスフロアにしたこのビルは、最上階に食堂兼  
展望室を持つ。食堂といってもかなり高レベルの割にお手頃な値段らしい。  
もちろんそこからは銀成市を一望出来る。  
高さNo.1の座を明け渡した今も大人気スポットなんだが、『ゆったりとした時間と空間を』  
という趣旨の元、無料ながら期日指定された入場券が無いと入れない。  
しかも全部記名された上での発行の為、転売による入手も不可能。  
手に入れるには毎週土曜日に直接、銀成スカイタワーまで行って応募し抽選に当たるしか  
ない。  
幸い明後日が土曜日だ。  
ああ、尽きぬ情熱と褌の神にして創造神ヴ=ヒロヲよ、我に幸運を!  
つーか普段、碌な目に合わせ無ぇんだからこんなとき位、協力しろォォォッ!!  
 
……駄目だった。俺の前後の番号は当選したのに。……ヴ=ヒロヲ〜!!  
まあ次回以降に賭けるしかない。そう自分を慰めながら遅い昼食の為に駅前のバーガー  
ショップへ向かった。  
「え〜と、テリヤキ・パピヨンセットをひとつ…オマケはブチ撒けちゃんで」  
奴の名前を冠したモノなんぞ口にしたくは無いが、バーガー自体は美味いし、このオマケは  
強力だ。現在のブチ撒けちゃんはVer.2で俺の手持ちはこれで6個目だ。  
ちなみにVer.1の方は武藤に貰った分を含めて4個ある。  
注文品を待つ間、ボケッとレジ周辺を眺めていた俺の目にその文字が飛び込んできた。  
『銀成スカイタワー最上階にご招待!ゲームに勝ち抜いてペア入場券をゲットしよう!!』  
「銀成ゲームパークで、蝶・絶・賛!開催中です」  
いつもの店員さんの声に我に返る。  
「今日は夕方四時からの開催ですね。当店も協賛してますので、どうぞよろしく!」  
ラッキー!!運命はまだ俺を見放してなかった!感謝します、創造神ヴ=ヒロヲ!!  
ゲームなんてあんまりやったこと無いけど、錬金の戦士の能力を持ってすれば楽勝の筈!  
 
そして俺は今、特設ステージの上で決勝戦の開始を待っている。  
ここに来るまで苦しい戦いの連続だった。予想に反して対戦相手が明らかにゲームのプロ  
とでもいうべき奴ばかりで手強かった。その上、新作ゲームのお披露目という理由からか、  
試合ごとにゲームの種類が変更され、慣れる暇が無かったからだ。  
最もこれは対戦相手も同じだろうから一概に不利とも言えないか。  
『マッパ・マックス』を皮切りに、『風呂ーティングMy・ン♪』、『ドッグトレーナー2 飼い犬の  
逆襲』等々――  
優勝が掛かっていなければ結構楽しめたのだろうが、俺にそんな余裕はもちろん無かった。  
何せ自分の戦いに精一杯で次の相手がどんな奴なのか知らなかった位だ。それは決勝戦  
の相手についても同じことだった。  
そして司会者のアナウンスに低音のBGMを伴って遂に登場したその相手を見て驚いた。  
 
特設ステージの強力過ぎる照明を反射して眼鏡のレンズが冷たく輝く。  
聖サンジェルマン病院の女性看護師さん、通称メガネナースさんだ。服装は違うが入院中  
のブラボーを見舞いに行ったときに何度か見かけ、話をしたこともあるから間違いない。  
それに彼女も戦団関係者だ。しかしここにいるということは、まさか――  
俺は彼女にだけ聞こえるように問い掛けた。  
「彼氏、出来たんですか?」  
「いいえ。……まだ、ね」  
研ぎ澄まされた剃刀のような、それでいて俺にだけ聞こえる声でそう答えた。  
……『やっと』って付け加えなくて良かった。  
「じゃ、なんで?」  
「嫌がらせよ、世の中のカップルへの……そういうキミは?キミも、まさか敵?」  
「いいえ………自分の不始末へのケジメっす」  
「そう――よく判らないけど、手加減はしないから」  
そう言って冷ややかな視線を一瞬、俺に向けた。  
以前会ったときの厳しさの中にも優しさの滲み出ていた雰囲気とまるで違う。  
……こ、怖えェェ〜〜!  
だが。  
俺もここで負ける訳にはいかない!  
 
そして決勝のゲームは。  
『ニンジャ叩き』!!  
要するに昔あった『モグラ叩き』の現代版だ。  
といっても昔のように作り物のモグラ、じゃなかったニンジャをハンマーで叩く物では無く、  
3D画面内の地面や壁、あるいは樹木等から突然現れるニンジャを叩く方法だ。  
しかも今回のように対戦型だと相手が叩いて撃退したニンジャが自分の方に叩き出されて  
くる、という有難くないオマケまである。  
俺とナースさん、それぞれの別方向の意地を賭けた戦いのゴングが今、鳴り響く!!  
 
……勝った。こういうのを首の皮一枚の差というのだろうか。  
気がつけば会場も熱狂の坩堝と化している。自分では意識する余裕も無かったが、かなり  
熱い戦いになったようだ。  
「良い勝負だったわ。おめでとう」  
以前会ったときの優しい雰囲気に戻ったナースさんにも祝福の言葉を貰った。  
ありがとう、愛と蝸牛の神、キウ=ロック=サン!!……あ〜あと、ついでにヴ=ヒロヲも。  
 
受け取った優勝商品のペア入場券は使用者も期日の指定も無いというスペシャル仕様  
だった。道理で胡散臭い連中がいた訳だ。これなら転売可能だからな。  
その後、終バスを逃しながらも鍛え上げた戦士の脚力で、なんとか門限までに寄宿舎に  
戻れた。  
そして自室に辿り着くと、ペア入場券とブチ撒けちゃんVer.2を机の上に置き、そのまま  
ベッドに倒れ込んだ。  
夕食も風呂も抜きだ。疲れた……だがこれで……俺は満足して眠りについた。  
 
翌朝。一食抜いていた俺は早々に食堂に向かった。  
時間が早いのと日曜日の所為もあり、殆ど人気は無かったが、毒島を加えた四人娘と  
カズキ以外の男三人は揃っていた。  
「剛太さん、剛太さん!!」  
まひろちゃんが俺に声をかける。それはいつものこと、なのだが……  
なんというか今日は『にへら』という擬態語がぴったりするような表情をしている。  
そして朝食のトレーを受け取った俺がテーブルにつくのを待ちかねたように話し始めた。  
「これで皆揃ったね!  
 実はね、昨日の土曜日の朝早く、お兄ちゃん達が外から戻ってくるのを見掛けたの!  
 な〜んかいつもと雰囲気違うと思ってぇ、斗貴子さんを追及したら――」  
「何それ?!朝帰りぃ?」  
「沙織!!」  
若宮さんがいつものように制止に入る。  
……あれ?  
「夜にお兄ちゃんと抜け出して、星空を見てたんだって。  
 ほら、あの朝陽が美しい丘!あそこなら夜景もサイコーだし!!  
 何でも二人の思い出の場所なんだってさ」  
……変だな?  
「クァ、クワァズキィィィッー!!!」  
「で、でもそれってブラボーや他の先生達に知られたらカズキ君達、拙くない?」  
「確かにな。ブラボーはあまり問題にしないだろうが、外部に漏れると――」  
「だいじょーぶ!!ブラボーも金曜日の夜遅く、屋台の焼き鳥屋さんで飲んでたって!  
 それも凄く綺麗な女の人と、ふ・た・り・で!自宅通学組の部活帰りの人が見たという  
 有力な証言あり!何を隠そう、私は情報収集の達人よ!!」  
いつものようにポーズを決めるまひろちゃん。だが眼鏡を軽く押し上げつつ六舛が言った。  
「ブラボーはれっきとした大人だ。カズキ達とは違う。  
 そんなことより、だ。その情報を聞いたときにカズキ達のことも話したんだろう?  
 となるとそこから漏れてしまう可能性があるな」  
「!そんなヒドイよ、六舛さん!!秋水先輩はそんなに口の軽…い……!#$%&」  
「やはり秋水先輩経由か」  
窓から差し込む爽やかな陽光を反射して眼鏡のレンズが冷たく輝く。  
後はまひろちゃんが赤くなったり青くなったり、もう大騒ぎ。  
 
賑やか過ぎる朝食を終え部屋に戻った。結局、斗貴子先輩と武藤には今日の朝食では  
会えなかった。まひろちゃんが騒ぐのを予測してのことだろう、きっと。  
それにしても。  
今の出来事を思い起こしてみる。  
斗貴子先輩のことはもうとっくに諦めているし、もちろん武藤との仲も応援しているけれど、  
それでも二人が仲良くしているのを聞いたり見たりすると、少し――古傷が痛んだ。  
でもさっきの話を聞いても何ともなかった。やっと傷が癒えたのだろうか。  
良いことだ――良いことなんだろう、きっと。  
 
ところで。  
俺が悩んでいる間に問題というか課題を武藤はクリアしてしまった訳だが。  
さて、どうしたモンか。昨夜の俺の頑張りは無駄になっちまったか。  
そんなことを考えていると窓の外から話し声がした。  
「キャプテンブラボー、金曜の夜に屋台で一緒だった女の人って誰?彼女さん?!  
 おっと、何を隠そう私は誘導尋問の達人よ!だから嘘ついても駄目だからね〜」  
……最初から誘導尋問って宣言してどうする。  
「ヘイ、ガールズ!もちろん俺の愛は皆に注がれている!  
 だが許してくれ!俺の心はただひとりのレディ、俺がいなけりゃ駄目な人のモノなのさ!」  
……うまくいったんだ、屋台でも。  
 
そういえば。  
後で聞いた話だが、ちょうど同じ頃、瀬戸内海にある錬金戦団・日本支部で火渡戦士長と  
坂口照星大戦士長の間にこんなやり取りがあったそうだ。  
===以下、支部の知り合いから聞いた話===  
火「だから二日、いや一晩でいいから核鉄、貸してくれよ!」  
坂「何度頼まれても答えは同じです。キミのことです、パピヨンと戦うつもりなのでしょう?  
  キミ達の武装錬金が衝突すれば――」  
火「だからそんなことには使わねェって、さっきから何度も言ってンじゃねェか!  
  ったく、少し前のことも覚えてねェのか、この耄碌ジジィ!」  
坂「……こっちへ」  
   <残酷表現につき、自主規制。音声のみ、お楽しみ下さい>  
?「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA――」  
数分後。  
火「だ、だから……」  
坂「しつこいですね、キミも。――本当の目的を言いなさい。場合によっては考えないでも  
  ありません」  
火「……本当かよ?」  
坂「ええ」  
火「………毒島の奴がよ、街の夜景を空から見てみてェ、なんて言い出したもんでよ…  
  だから――」  
坂「判りました――持っていきなさい。かわいい部下の願いを叶える為です。  
  ただし毒島君はキミと違って熱に弱いですから、注意するように」  
===以上、聞いた話おわり===  
その後で火渡戦士長が『俺はかわいい部下じゃねェのか』とか『旅に出てェ』とかブツブツ  
言ってたらしい。  
 
ま、そんなどうでもよいことはともかく。  
考えた末、ペア入場券はやっぱり武藤に渡すことにした。  
期日指定無しだから、いつでも気の向いたときに斗貴子先輩と行けばよいのだし。  
それに俺が持っていても使い道が無い。  
気づけば昼食前になっていた。だが逆にこの時間ならまだ部屋にいるだろう。俺は武藤の  
部屋へ向かった。  
「なんだい、剛太?」  
やはりいた。  
だから俺は何度も脳内シミュレートしたセリフと共に銀成スカイタワーのペア入場券を  
差し出した。  
「大したコトじゃないんだけどよ……これ貰ったから、良かったら斗貴子先輩と行けよ」  
だが。  
「――剛太。オレ、昨日いたんだ。銀成ゲームパークに」  
 
げ。  
「見てたのか?」  
「うん」  
「んだよ、お前も入場券狙いだったのか」  
「違うよ、偶然。……時々ね、確かめに行くんだ」  
「?」  
「それよりこの間のこと、やっぱり気にしてたんだ…ゴメン」  
「い、いや別に!偶然、そう偶然!!  
 前を通りかかったらイベントやってて、面白そうだから冷やかしで参加したらだな――」  
と、武藤が噴き出しやがった。失礼な奴だ。  
「剛太、ゲーム中に興奮してずっと叫んでたの覚えてない?」  
「……俺、喋っちゃってた?」  
静かに頷く。  
「な、な、な、なんか拙いこと、言っちゃった?」  
俺の秘めた想いとか苦悩を叫んじまったのだろうか。  
そうでなくても錬金術に関わることを口にしていたら大変だ。大戦士長のお仕置きが待って  
いる。背後からあの笑い声が近付いてくるような気がした。  
「それは大丈夫。オレ以外には単なる愚痴としか思えないようなことばっかり」  
……愚痴かよ、俺の苦悩は…まあいいや。  
「それにしても決勝での対戦相手、キレイな人だったね」  
「はあ?ありゃ聖サンジェルマン病院のナースさんだぞ?ほらメガネナースさん。  
 お前、何度も会ってるだろ?」  
「メガネナースさん?うん、会ってるけど。あんな人だっけ?」  
ひょっとしてコイツは斗貴子先輩以外の女は見分けつかないんじゃないだろうか。  
そんなことより。  
「どうすっかな、コレ。………やっぱり先輩連れて行ってこいよ、無期限だから。  
 俺が持っててもしょうがないし」  
「剛太が誰か誘って行けばいいのに。あれだけ頑張ったんだから」  
「そんな相手、いるかよ」  
斗貴子先輩以外にな、と言える訳も無く。  
「あんまり深刻に考えないで、仲の良い人とか、お世話になった人とかでも良いんじゃない  
 かな」  
お世話になった人、か。  
……あれ?  
 
昼食にはいつものメンバーが全て揃った。  
そしていつも通りのたわいも無い愉快な話で盛り上がったが。  
「どうした、剛太?具合でも悪いのか?何かうわの空という感じだぞ」  
「え?あ、は、そうすか?昨夜、寝たのが遅かった所為ですかね?」  
俺だけは様子がおかしかったようだ。それでもどうにか斗貴子先輩の問いは誤魔化した。  
けれど。  
皆が食堂を後にする頃には、俺の覚悟も決まった。  
駄目でモトモト!うまい具合に食堂の出口でその人が他の皆より少し離れた。さっき、俺の  
頭の中に浮かんだ人が。  
俺がいないことに気がついて探しに来てくれた、ただひとりの女の子。  
落ち着いて、落ち着いて。  
俺は声をかける。  
「あ、あの〜」  
「はい?」  
振り向いた彼女の眼鏡のレンズが柔らかい陽光を反射した。  
「あの、若宮さん。実は――」  
 
 
〜オワリ〜  
 
 

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