※ゲームネタバレ注意  
 
「とうとう夜になってしまったな。どうする? まさかこんな事になるとは思わなかったから  
野営の装備も無いし、このまま強行軍も心もとないトコロだが……」  
 
『パピヨニウム』回収の任務を帯びてパピヨンパークへとやってきたカズキと斗貴子だったが、  
パピヨンの悪乗りとムーンフェイスの暗躍によって、事態は予想外の方向へ発展しつつあった。  
結局、無茶な深追いは危険との判断から、パピヨンの提案で一旦休むことに。そして案内されたのが─  
 
「どうだ武藤、このオシャレなパピヨンホテルは。パークの開園に先立って既に蝶・絶賛営業中だ」  
高い天井から柔らかな光を放つシャンデリアはもちろん、柱や壁にも蝶の意匠。絨毯の模様に至るまで、  
まさに蝶づくしの一階ロビー。  
「こんなでかいホテル、よく造ったなぁ」  
キョロキョロと周囲を見回しながら素直に驚くカズキ。その隣では  
「……悪趣味な。右も左も蝶だらけで夢に出そうだ」  
斗貴子がゲンナリした表情で顔を覆っていた。ちなみにソウヤは大して興味無さそうに突っ立っている。  
「ああ、チェックインの手続きは必要無いぞ。既に最上階の『パピヨンスイート』を手配してある。  
蝶サイコーの夜景を眺めながら蝶々型ジャグジーで疲れを癒し、蝶柄バスローブに身を包んだら  
蝶々プリント付き回転ベッドで色々と愉しむがいい」  
「なんだそのいかがわしい部屋は! 普通の部屋は無いのか!?」  
顔を赤らめてパピヨンに食って掛かる斗貴子。一方のカズキは、売店コーナーで興味深そうに  
『パピヨンサブレ』や『パピヨンペナント』を物色している。  
 
「とにかく時間が惜しい。俺としてはさっさと休みたいんだがな」  
ぶっきらぼうにソウヤが呟いた。  
「──ふん。ま、そう焦るな。まずは腹拵えといこうじゃないか。付いて来い」  
パピヨンの先導で、ホテル内の高級そうなレストランへ。  
「おお、カズキに斗貴子。お前達も今日は終了か」  
「キャプテン・ブラボー!」  
「それに戦士・千歳、さん!?」  
意外な先客にカズキと斗貴子が驚きの声を上げた。  
いつもと変わらぬツナギ姿のブラボーが“ニカッ”と笑って片手を挙げ、私服の千歳がワイングラスを  
片手に無言で会釈をする。  
「戦士長がどうしてここに? ホムンクルス殲滅は終わったんですか」  
「まぁ待て、戦士・斗貴子。“腹が減っては戦が出来ぬ”と言うだろう。お前達も今夜はゆっくりと  
英気を養い、また明日からの戦いに備えるんだ」  
苦みばしった“漢の顔”で重々しく語り、ブラボーもグラスを手に取る。  
 
「ケッ! 偉そうなコト言っといて、戦団の経費でイチャついてんじゃネェよ」  
「火渡戦士長!?」  
背後から聞こえた声に、斗貴子が振り向いた。襟元をはだけた真っ赤なシャツに白いジャケットと、  
まるでヤ○ザみたいな服装でスラックスのポケットに両手を突っ込んでいる。その背中に隠れるように  
「あ、あの……こ、こ、こんばんは、みなさん……」  
中学生と見紛うような小柄な少女が半分だけ顔を覗かせて挨拶した。  
「毒島も? 一体どうして……」  
「高校教師が教え子同伴でホテルで食事か? これは少々見過ごせんな火渡」  
ブラボーの目が僅かに険しくなる。  
「うるせぇ、オフ日に何しようが俺の勝手だろうが。わざわざ毒島連れて陣中見舞いに来てやったんだ、  
感謝しろよガキども」  
「……知ってるわ。この前、戦士・犬飼が懸賞で当てたここのペア宿泊券を、貴方が巻き上げたのを」  
「ッ!?」  
千歳の一言に、火渡の顔色が変わった。  
「それとな火渡。何か誤解しているようだが、俺がここで食事をしているのは、あくまで民間人の  
護衛が目的だ。……レストランの奥を見てみろ」  
ブラボーに促されて、火渡と一緒にカズキと斗貴子も顔を向ける。  
「あれは──!」  
「斗貴子さんと同じ制服……確か『ニュートンアップル女学院』の……」  
斗貴子と同じセーラー服に身を包んだうら若い乙女の集団が、レストランの殆どの席を占拠している。  
「ああ、学院理事長の御令嬢のたっての願いでな。修学旅行の団体客を受け入れてる」  
さも大したことでは無さそうに応え、パピヨンが前髪を撫で上げた。  
「この非常時に何をノンキな! 無関係な人間を巻き込むな!!」  
 
「あら。あちらにいらっしゃるのは──蝶々の妖精さん?」  
「ごきげんよう妖精さん。私達のプレゼントは喜んでいただけまして?」  
こちらの騒ぎに気付いた女生徒たちが、パピヨンに声を掛けてきた。  
「ああ。今もこれ、この通り──」  
パピヨンが自分のコスチュームに手を掛け、一気に引き剥ぐ。  
 
 ──ブワッ!!  
 
どんな仕掛けが施してあるのかスルリと脱げた服の下から現れたのは、女学院のセーラー服を模した  
パピヨンのニュー・コスチューム姿。  
「蝶・サイコーーーーーーーーーーッッ!!!!」  
両腕を頭上でクロスさせ、カクカクと腰を振るパピヨン。  
「きゃーーっ! 素敵!」  
「輝いてますわ、妖精さん!」  
黄色い声ではしゃぐ女生徒たち。  
「☆?◇×◎#!!!?」  
変態の変身を間近で見てしまい、パニックに陥る毒島。  
「ああ、もう! いい加減にしろ!!」  
怒鳴る斗貴子。  
そんな騒動を横目に、ソウヤは独り、少しはなれた場所で唇を噛み締めていた。  
「くそっ。こうしている間にも、ムーンフェイスは着々とあの忌まわしい研究を完成させているかも  
しれないのに……本当に俺は彼らと手を組んで良かったのか!?」  
 
 
 
その頃、パピヨンホテルの一室では──  
「むーーん。スパイシーなソースを洗い流して後を引く芳醇な香り……。ここのソムリエは  
中々いい仕事をするね」  
 
ムーンフェイスがルームサービスでディナーを摂っていた。  
 
 (おわり)  
 

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