私はカズキとまひろちゃんと一緒に寄宿舎の食堂で夕食を取っていた。
「ぷはー。おいし〜い!!ねえねえ斗貴子さん!このうどんすごくおいしいよ。」
まひろちゃんはすごくご機嫌。
元々明るいまひろちゃんだが、今日は一段と嬉しそうにしている。
カズキもそれが気になったみたいで、まひろちゃんに聞いた。
「まひろ何かあった?何だかすごく嬉しそう。」
「うん。明日パピヨンさんとデートなの!!」
それを聞いた瞬間、私は口に含んでいたお茶を盛大に噴き出した。
「斗貴子さん。汚い!!」
テーブルは私が噴き出したお茶でびちゃびちゃになっている。
まひろちゃんいわく公園で偶然出くわしたパピヨンに「空を飛べるのがうらやましい」と言
ってみたところ、パピヨンに空中デートに誘われたとか。
まひろちゃんは雑巾でテーブルを拭きながらすごく嬉しそうに話す。
パピヨンに対する警戒心は皆無だ。
「ハハハ。何だか楽しそうだな。」
カズキもまひろちゃんにつられてニコニコ。
カズキもパピヨンに対して警戒心は皆無。
2人共なんでパピヨンにそんなに気を許しているんだか・・・。
特にカズキは奴が一応人型ホムンクルスだと知っていてその反応。
パピヨンは食人衝動がないとはいえ、腕力などは通常の人間を遥かに上回る。
しかも奴の性格上、何をしでかすかわかったもんじゃない。
ヘタしたらまひろちゃんの貞操の危機だ。
こうなったら明日私が陰からまひろちゃんを護衛しよう。
パピヨンが何かまひろちゃんに危害を加えようとしたら即臓物をブチ撒けてやる。
翌朝の午後2時、まひろちゃんは銀成駅南口の噴水の前にいた。
ここがパピヨンとの集合場所らしい。
私は50mほど離れた場所からまひろちゃんを監視している。
念のためメガネとロングヘアのウイッグ、さらに化粧もして変装も完璧。
もしもの場合パピヨンをぶちまけるために桜花から核鉄も借りてきた。
しばらく待っているとパピヨンが上空からまひろちゃんの元に舞い降りて来た。
「あ、パピヨンさんだ!!」
まひろちゃんは警戒心ゼロ、遠くから監視している私の警戒心はマックス。
「やあごきげんよう。まずは君に今日のためにあつらえた蝶サイコーな服を用意しよう。」
パピヨンがそういうと大量の黒死の蝶が出現し、まひろちゃんの回りをくるくる舞い始めた。
しばらくすると大量の黒死の蝶が完全にまひろちゃんを包み隠し、さらにしばらく後に蝶は
一瞬にして一匹残らずパッと消えた。
中から現れたまひろちゃんの服装はパピヨンスーツになっていた。
左右の胸の間にはパピヨンスーツの紐しかないので今はブラもつけていないらしい。
あの格好はパピヨンでもすでにヤバいのに、女性が着るとエロスを通り越してかなり卑猥。
ましてまひろちゃんは胸があるので谷間が強調されてエロス50%増加。
「あれ?服が変わってる?」
「ん〜。パピヨンマジック!!」
「すご〜い!!どうやったのパピヨンさん!!」
「秘密。そのほうがミステリアスで蝶人らしいだろ?」
まひろちゃん・・・頼むから自分の格好に疑問を持って・・・
この子も含めてこの街の人はかなりパピヨンに毒されている。
「さて、蝶おしゃれになったところで空中散歩と行こうかな。」
パピヨンは自分とまひろちゃんの背にニアデスハピネスの羽根をつけた。
「蝶の羽根!?すご〜い!!」
背中の羽根がよほどうれしいのか、まひろちゃんはぴょんぴょん跳んで大はしゃぎ。
まひろちゃん!!あんまり跳ねてはダメ!!胸が上下に大きく揺れてはしたないから!!
「さ、それじゃ行こうか。」
パピヨンに手を引かれてまひろちゃんの体は空に飛び立った。
早く追わないと。
しばし空中散歩を楽しみつつ、パピヨンとまひろちゃんは県境を越えて東京都内へと入った。
走って追いかける私は必死だ。
何せ空を飛ぶパピヨン達のように真っ直ぐ一直線に移動できないから、かなり早く走らない
と追いつけない。
日も暮れた午後6時ごろ、二人が降り立ったのは東京銀座だった。
「どうだい空中散歩の感想は?」
「まるで鳥になったみたいで・・・蝶サイコーでした。」
「ハハハ。鳥ではなくて蝶になったんだけどね。さて、そろそろディナーの時間だな。ここ
のシェフの作るフレンチは蝶サイコーだ。」
「わ〜!!でもここかなり高いんじゃ?」
「無論お代は俺持ち。デートで女性に支払わせるなんて野暮なことはしない。」
二人が入るのはオシャレなレストラン。
私もついて入るが・・・
グリーンピースのクリームスープ1800円!?グリーンリゾット鶏のムニエル添え3200
円!?金目鯛とハマグリのマリニエール4800円!?ストロベリームース900円!?
なんだこれは!?あまりにも高すぎる!!
パピヨンのやつこんな高級店に行きつけてるのか!?
結局一番安いものを注文したが、それでもコースになると軽く10000円以上。
懐が寒い・・・
「ん〜。いい香りの白ワインだ。この店のソムリエはいい舌をしている。君もどうだい?」
未成年に酒を薦めるな!!
「いただきます。」
飲むな!!
まさかパピヨンのやつまひろちゃんを酔わせて良からぬことをする気では?
「苦い・・・」
白ワインはまひろちゃんの口には合わなかったらしい。
「でも料理はすごく美味しい!!」
「ハハハ。そうか喜んでもらえてよかった。」
たしかに美味しいが、あまりの値段にこちらは涙が出そうだ。
それにしてもパピヨンスーツの男女が高級レストランでディナー・・・
異様すぎる・・・
「さ、そろそろ出ようか。」
パピヨンはスーツの股間から一万円札の束を取り出した。
ほとんどドラ〇もんの四次元ポ〇ット
相変わらずあのスーツの中はどうなっているのか少し疑問だ。
会計を済ませると二人は再び飛び立った。
どうやら東京タワーに向かうらしい。
私もダッシュで追いかけるが、食後なので気分が悪くなってきた。
二人は東京タワーのてっぺんに降り立った。
そこは当然一般人が行ける場所ではない。
仕方なく持参した双眼鏡で下から監視する。
「どうだい東京タワーの頂上から眺める夜景は?」
「すごい・・・まるで宝石箱みたい。」
「宝石か。中々洒落た例えだな。」
「キラキラ色々な色で輝いてて・・・あ!!レインボーブリッジ!!」
―――という会話をしているらしい。
遠距離+夜+双眼鏡越しでは唇を読むのも容易ではない。
あ!!どさくさに紛れてまひろちゃんの肩を抱くなパピヨン!!
「さて、そろそろ銀成市に帰るかな。」
二人は夜景を観賞し終えて再び飛び立った。
私は再びダッシュ。
いい加減疲れてきた。
かといって地下鉄に乗ると見失うから仕方がない。
銀成市内に戻って来た二人はお化け工場の近くに降り立った。
この辺りは当然人気は皆無だ。
まさかパピヨンのやつ・・・?
「さあデートのフィナーレだ。」
その瞬間パピヨンは大量の黒死の蝶を出現させた。
「着火!!」
パピヨンの声と同時に一匹の蝶が激しく燃焼し始めた。
やはりここでまひろちゃんに手を出すつもりか!!
そうはさせない!!
「武装錬金!!バルキリースカート!!」
桜花から借りてきた核鉄を使い武装錬金発動!!
「やめとけってツムリン。」
「パッピーはまっぴーに悪さはしねえって。」
「ここで悪さするくらいならパッピーはもうとっくにやってるっての。」
「っていうか俺の意見も聞かずに強引に核鉄を借りるなよな。」
どこからともなくゴゼンの声が聞こえてきた。
しかも四方から同時に。
よく見るとバルキリースカートの四枚の刃全てにひとつずつゴゼンの顔が・・・
「よっ!!ツムリン!!今日の俺はバルスカ気分だぜ!!」
なんて悪趣味なアナザータイプだ!!
「まあ見てろよツムリン。」
パピヨンは黒死の蝶をはるか上空に打ち上げた。
数十m上空で蝶は弾け、花火の如く夜空彩る。
「どうだい?パピヨン特製花火。」
「すごい!!綺麗!!」
「冬空の花火も乙だろ?さ、まだまだ行くぞ!!」
パピヨンは次々と蝶を打ち上げる。
「すげぇぜパッピー!!たまや〜!!」
バルスカゴゼンは花火で大はしゃぎ。
やかましいので錬金解除した。
「さ、夢の時間もそろそろ終わりだ。寄宿舎に帰ろうか。」
パピヨンとまひろちゃんは夜空に飛び立った。
降り立ったのは寄宿舎の前。
「パピヨンさん今日はありがとうございました。」
「まぁ俺も中々楽しめたかな。そうだ君の服は返さないとね。」
パピヨンは再び大量の蝶を出し、まひろちゃんを包み隠した。
蝶が消え、中から姿を表したまひろちゃんは普段の服に戻っていた。
「それじゃ、おやすみなさいパピヨンさん。」
「ああ、おやすみ。機会があったらまた誘うよ。」
まひろちゃんはパピヨンに挨拶すると寄宿舎へと駆けて行った。
「・・・・で、いつまで俺を監視するつもりだ?そこの出刃亀女。」
パピヨンのやつ私に気がついていたのか。
「まったく。そんなお粗末な変装で気付いてないと思っていたのか?」
もはや隠れて監視する意味はないので私はパピヨンの前に姿を現した。
「いつから気付いていた?」
「最初の銀成駅前からだ。いくらカツラやメガネで変装しても・・・その鼻の大きな傷跡を
隠さないと全くの無意味だな。」
「あ・・・」
パピヨンに指摘されるまで気がつかなかった。
顔にこんな大きな傷のある女は中々いないから確かに目立つ。
「全く・・・。ニアデスハピネスで飛行すればついて来れないと踏んでいたのだが、まさか
走って追いかけてくるとは。何故そこまで俺に付き纏うんだ?」
「貴様は信用ならないからな。何かまひろちゃんに危害を加えるようならブチ撒けるつもり
だった。」
「ふん。レディに手を上げるなどゲスなことはしないさ。」
「人をホムンクルス化させようとしたゲス野郎の発言とは思えないな。」
「ん?貴様はレディだったのか?可愛いげも色気もないが・・・」
「パピヨン!!貴様は失礼だ!!」
別にこいつに女性として見てもらいたいわけではないが、今の発言はやはり頭にくる。
「ま、さしずめ貴様は義妹を心配する義姉と言ったところかな。」
たしかにまひろちゃんはカズキの妹なのであながち間違いでないだろう。
「ま、彼女を悪いようにするつもりはないから安心しろ。」
「だから貴様の発言は信用できない。」
「ま、貴様に信用してもらわなくても構わないがな。」
「パピヨン!!彼女にもう近よるな!!」
「貴様が金輪際武藤カズキに近づかないなら考えてもいいかな。」
「なっ!!?」
「フフフ。どうする?」
「そんな条件が飲めるか!!」
「だろうな。じゃあまた今度彼女を誘わせてもらおうかな。デュワッ!!」
パピヨンは夜空に飛び去り、私の前から姿を消した。
チッ!!さっさとブチ撒けておけばよかった。
翌朝の朝食でまひろちゃんは昨日の出来事を話してくれた。
パピヨンが素敵だったこと、空を飛ぶのが楽しかったこと、料理がおいしかったこと、
パピヨン花火が綺麗だったこと・・・
まひろちゃんはものすごく晴れやかな笑顔。
きっと彼女はすごく嬉しくて楽しかったのだろう。
パピヨンも昨日見た限り、まひろちゃんに対してはあの格好以外はいたって紳士的だった。
あまり心配して私が手を出すような過保護なことをする必要はないのかもしれない。
まひろちゃんの笑顔を見て私はそう思うようになっていた。
そして二人のデートを監視するという野暮なことをした自分を反省した。
「しかしあれだね斗貴子さん。」
まひろちゃんについて考えていた私にカズキが話かけてきた。
「このまままひろと蝶野がくっついたら、蝶野は俺の義弟になるんだよね。」
・・・パピヨンがカズキの義弟?
ソウヤが生まれてくるということは将来私とカズキが結婚するのはほぼ確定した未来。
ということはパピヨンが私にとっても義弟になるということか!!!!?
ふざけるな!!!それは絶対嫌だ!!
想像しただけで悪寒が全身に走る。
やっぱり今度会ったらパピヨンの奴ブチ撒けてやる!!