「さて、と」
オレはノートパソコンのディスプレイを見つめながら独り呟いた。
つい先日、六舛に頼んでインターネットをできるようにしてもらった。
何故か。
はっきり言ってオレには錬金術やホムンクルスについての知識がまったくない。
だからネットの力を借りて少しだけでも詳しくなりたいと思ったからだ。
もちろんアテにならないような情報もたくさんあったけど、それでもオレはガ
ンガンそれをかじっていった。
おかげで少しばかりの知識はついたつもりだ。
「これと……これも結構……」
特に興味をそそられたものはプリントアウトもし、資料の山がパソコンの傍に
できていた。
「うん。今日はこれくらいで十分かな。それじゃ……」
オレはディスプレイの下、タスクバーに最小化してあったWinnyのアイコンをク
リックした。
残り時間やバーが表示されたウィンドウが画面いっぱいに現れた。
「こっちの方はどうかなー、っと」
期待の入り混じった声で現在のダウン状況を確認し、思わず歓喜の声をあげた。
ダウンリストに入れていたファイルがほとんど落ちてきていた。
最近は斗貴子さんで妄想することもなく、ネタが豊富で困ってしまう。
六舛に薦められて買った五百ギガのハードディスクが腹一杯の状況だ。
泣く泣く古い動画から削除していった。もちろんすべて拝見済みだ。
大分空きができたので、また新しくダウンリストに入れようと検索を始めた。
検索ワードは“姉”“巨乳”“エロス”“無修正”etc……。
検索に引っかかったファイルはタイトルも確認せずにリストに追加していく。
一通り作業を終え、オレはティッシュがないことを思い出した。
最近のハイペースの欲望処理にティッシュが追いついていなかったのだ。
買い物に行こうと思い、ついでだからまひろも連れて行こうと考えた。
こういうことは兄妹で一気に済ませた方がいい。
早速まひろを連れて買い物に出かけた。三日間点けっ放しのノートパソコンを
そのままに。
「カズキ、いるか?入るぞ」
私はいつものように窓からカズキの部屋に侵入、もといお邪魔した。
「すまない。今日『るろうに剣心』を二十話納めたDVDを返し忘れた。というか
キミはどこでこんな代物を……」
疑問を口にするが答えてくれる人物はいない。どうやら外出中のようだ。
仕方なくDVDを机の上にでも置いておこうと思い、
「これは」
彼の机に置かれてあるノートパソコンを目にした。
スクリーンセイバーが働いているのか、画面は真っ黒で何も映っていない。
その傍らには山のように積まれた資料がある。
カズキが何を調べているか少しばかり気にかかったので資料を一枚手にし、そ
れに目を通した。
「ホムンクルスの情報を集めているのか。可愛いコトをする」
こんな隠れた努力をするカズキを見ると、いつも微笑ましい気持ちになる。
こういったところをあまり見るのは失礼だなと思い、そのまま部屋を後にしよ
うとした。
「あっ――」
不覚にも資料の山をブチ撒けてしまった。元通りに戻そうと慌てて紙を拾い集めた。
「いけないいけない。ん?」
片付けをしている時、ノートパソコンのディスプレイが光っているのが目に入った。
どうやら資料をブチ撒けた際、スクリーンセイバーを解除してしまったらしい。
「しまった」
スクリーンセイバーの待ち時間は何分だろうか。一分あたりに設定しなおして早々
に立ち去った方が吉だ。
急いでマウスを操作してスクリーンセイバーの設定にかかろうとした。
「ん?」
私が目にしているディスプレイには、ゲージや待ち時間が表示されているウィンド
ウが開いている。
「う、ういにー?」
まったく聞き慣れない単語である。
私もハッキングやウィルスなどに対してそこそこの知識は覚えさせられたが、うい
にーなど聞いたことがない。
少しばかり気になった私はういにーをさらに凝視した。
検索ワードとなっているところには、何というか……、今まで私が見聞きしてきた
エロスな言葉がこれでもかと連なっていた。
「カズ……キ」
しかもそのエロスワードは、私とは正反対のお姉様系のものに偏っていた。
彼の性癖は分かっていた。それでも、がっくりとうな垂れるしかなかった。
しかし、
「……いやいや、ここで現実から目を逸らしてはいけない」
エロスワードを見たせいか、僅かに胸がどきどきと高鳴っている。
悪いとは思いつつも、彼のダウンフォルダ“お姉たま”を開いてみた。
「……おお」
思わず感嘆、というか呆れたのかもしれないが、とにかく息を漏らした。
びっしりと綺麗にリネームされて整理整頓してあるえっちな動画が並んでいた。
ごくりと喉を鳴らせてしまう。期待か、不安か、失望か。様々な思惑を孕みながら、
私は動画を一つクリックした。
「――あうっ!あぁん!はぁ、ああんっっ!!」
タイトルも無しにいきなり女性の身悶える声が大音量で流れ出した。
「っ!?」
慌ててボリュームを無音にまで下げた。
「か、カズキは、いつもあんな音量で見ているのか」
カズキの神経を疑ってしまったが、ノートパソコンのすぐ傍にヘッドホンが置いて
あるのを見つけた。
「そうか。これを使っているのか」
パソコンにヘッドホンを差し込んで耳に装着した。
音量を徐々に上げていくと、両側から女性の喘ぎ声と、男と女の肉が激しく打ち合
う音が聞こえてきた。
画面上では猿のように腰を振って女を攻め立てる男と、突かれて嬌声を上げる女の姿。
その様がカズキと私の行為のときとリンクした。
私もあんな風によがり狂っているのだろうか。カズキもあんなに懸命に腰を動かし
ているのだろうか。
卑猥な妄想がじんわりとショーツを濡らす。
私は食い入るように画面を見つめながら、椅子に腰掛け、指を縦筋へと伸ばしてい
った。
画面には男の下で声を荒らげる女の姿が映っている。
男が腰を打ちつけるたびに女の豊満に膨らんだ胸が音を立てて揺れ動く。
上へ下へ、時には横へと変幻自在な動きを見せる乳房。
左手で自分の右胸を揉んでみるが、画面から伝わるほどの豊満さはやはりない。
そのことが悔しくて堪らない。カズキにも何度か揉んでもらったが一向に大きくな
る気配はない。
私の胸が人並みならば、カズキもこんな動画に手を染めたりしなかったに違いない。
もしかしたら、これから胸のせいで浮気などされてしまうかもしれない。
そう思うとかなり惨めになってきた。胸のせいでそんなことになるなんて。
男の腰の動きが早くなった。それに合わせて女の乳房が、どこかに飛んでいきそう
なくらいに揺れだした。
応じるように私の指も激しくなり始めた。
左手はない胸を寄せ集めるように強く揉みしだき、右手は筋を滑るようになぞる。
エロスが高まった私はショーツの脇から秘裂へと指を突き立てた。
蕩けるように熱いそこは、自分でも信じられないくらい強く指に吸い付いてきた。
「くぅっ」
パソコンの中の女とリンクするように私の吐息も荒々しくなってくる。
膣の中を掻き混ぜる指が、極上の快楽となって全身を駆け巡る。
オレは鼻歌交じりに部屋へ急いだ。
ティッシュも大量に買い込み、後は手淫を済ませるだけだ。
どんなエロペグが落ちてきているか、期待で顔が緩んでいる。
嬉々として部屋のドアを開けた。
空けた瞬間、床に這いつくばった。
「んんッ、はぅぅ……」
部屋の中から聞こえるのは甘美な女性の喘ぎ声。
(ここって、オレの部屋だよな……)
一瞬入る部屋を間違えたかと思ったけど、部屋の中のレイアウトは間違いなくオレ
の部屋だ。
じゃあ一体誰が、そう思いながら匍匐全身の要領で部屋に侵入し、ぐるりと中を見
回した。
「うわっ……」
目に飛び込んできた光景に小さな悲鳴をあげてしまった。
斗貴子さんが、ヘッドホンをつけた彼女が椅子に座って自分の身体を愛撫、オナニ
ーしている。
その姿を見て焦ると同時に、斗貴子さんの自慰行為に激しい興奮を覚えた。
耳を澄ますと、彼女の膣穴から水が絡みつく音が聞こえる。
喉を鳴らし、気付かれないようにそっと床を這い、彼女へ近づいていった。
途中でドアが音を立てて独りでに閉じたが、斗貴子さんは弄りに没頭しているせい
で気付かない。
可愛らしい喘ぎと卑猥な水音を耳にしながら、オレは彼女の背後まで回りこんだ。
慎重に立ち上がり、彼女がパソコンで何を見ているか覗き込んだ。
画面には裸の男女が腰と腰を打ちつけ合い、音は聞こえないものの激しいよがりっ
ぷりが伝わってきた。
これを見てオナニーしている斗貴子さんをとてもエロスに感じた。
息を切らして上下する肩を後ろから見ていると、どうしようもなく襲いたくなって
きた。
画面の中の男と女が身体を重ねて動きを止めた。中出しでイッたみたいだ。
それに同調するように斗貴子さんの指の動きが激しくなり、卑猥な水音と喘ぎが大
きくなる。
絶頂へ昇りつめようとする彼女を、後ろからぎゅっと抱きしめた。