「ハンバーガーなんかより人間のほうが何倍もおいしいのよ…」
くるりとカラクリ人形のような緩慢な動きでバイト子が振り向いた。
振り向かれたバイト子の口からはダラリと人のモノとは思えない長さの舌が垂れ下がっている。
「お腹 空いちゃった の 、ね 、テン蝶 何か …… ね ?」
すっと伸びてきた手がパピヨンの腹に当てられ胸元まで指でたどり、くるくると円を描く。
ゆっくりと口の端を吊り上げたバイト子の口の中には鋭利な歯が唾液混じりにギラギラと。
「ね 。 テン蝶 は完全 な ホムン ク、ルスじゃ ないんでしょ ?」
食べさせてお願いと涎で濡れた唇が動く。
蒼白の肌につーっと鮮血。
鋭利に伸びたバイト子の爪先がパピヨンの胸を突き刺した。
「欲しい・・ の 、ちょ ぅだい 。 あの ひと ナにもクレナカッタ」
長い舌を押し付けるようにパピヨンの傷口へと這わせたバイト子が血を舐め、啜る。
突き刺されたままの爪から滴り落ちる紅い体液がバイト子の前髪に伝い顔を染めた。
「不完全とはいえホムンクルスであるオレを食べるというのか、貴様は?」
パピヨンは哀れむような表情を浮かべ見下ろしているバイト子の髪を掴み引き離す。
胡乱な瞳を面倒臭そうにパピヨンに向けたバイト子は
「ホムンクルス ハ タベラレナイ ケド テンチョウ ハ チガウ 」
人の味がするの、だから、も、我慢できないとゆるゆる頭を振った。
「浅ましいコトだ」とパピヨンは鼻で笑い 胸元の傷口に自ら爪を差し込み肉を抉り出すと
顎が外れんばかりに開かれたバイト子の口に押し込む。
閉店後の薄暗い店内にバイト子が肉を喰らう音だけがただ響く。
「タリナイ タリナイ 」
「なんだ、もう食べ終わったのか?欲しければもっとくれてやるぞ」
「モット モット チョウダイ テンチョウ ガ ホシイノ イツモミタイニ モット イッパイ 」
「だが、その前に貴様をそんな体にした奴のコトを教えろ」
パピヨンの声には静かな怒りが秘められていた。