最近、カズキの様子がおかしい。カズキに限らず、戦士長も何か隠し事をしているように見える。  
何かあるのだろうか・・・。私はその夜、カズキの部屋に行って、カズキに聞いてみることにしてみた。  
コンコン。カズキの部屋のとびらをノックする。 するとすぐにその部屋の主が出てきた。  
 「どうしたの?こんな夜に・・・。」 不思議そうな眼で私を見たが、とりあえず部屋の中には入れてくれた。  
「どうしたの斗貴子さん。何かあったの?」  
いつもの優しい眼で私を見る。カズキを疑うわけではないのだが、それでも私は聞いてみた。  
「カズキ。最近何か私に隠し事をしていないか?・・・・・」  
突然に質問に、カズキは戸惑う。  
「え、いきなりなんで!?べ・・別に隠し事なんかしてないよ!」  
やっぱり。この子はウソをつけない体質らしい。すぐに見抜くことが出来た。  
「私に隠し事なんて、らしくないな。一体何があったんだ?。」  
すこし強引に話を進める。  
「い、いやホントに何もないって・・・・。」カズキの眼が一瞬悲しげになったのを私は  
見逃さなかった。  
「君が何かを隠すときは、いつも挙動不審になる。それとも、私には、私には言えない様な  
ことなのか?・・・・・」  
声が少し荒げる。カズキが隠し事をすることは何度かあったが、それは大体六枡や岡倉と手を組んで、  
まひろちゃんの誕生日を祝うようなことぐらいである。もちろんそれには私も参加した。だが、今回  
の件は、少し違う。しかも戦士長も参加してるとなると、戦団がらみのこともありうる。それが凄く  
心配だった。  
「戦士長も様子がおかしかった。カズキ。また戦いの世界に戻る気じゃ・・・」  
今は戦団の活動は収縮してはいるが、まだどこかに生存するホムンクルスとの戦闘は終っているわけ  
ではない。カズキと恋人同士になって、ようやく手に入れた平和なのに、また戦う気なのでは、またヴィクター  
の件ようなことがおきるんじゃないか・・・。  
真剣な眼でカズキは私を見る。私もカズキの眼をずっと見つめる。するとカズキは「これは極秘事項だけど、俺は  
斗貴子さんにはウソをつきたくないから話すよ・・・・。」そういって話を続けた。  
「白い核鉄を使って俺は人間に戻れた。けどまだ完全に戻れたわけではないんだ。」ゆっくりとカズキは言った。  
「後3ヵ月後には一気に第3段階を越えるほどの化け物になるらしい・・・・・。」震える声でそう答える。  
・・・・・・・そんな・・・。  
カズキがそんな・・・・・・。  
「そして、そうなるまえに俺は月へ飛ばされることになったんだ・・・。」  
私は、頭の中が真っ白になった。  
 
ようやく頭の中が整理され、しかしそれによって受け止めたくない現実が頭の中をめぐった。  
「な、なぜ。どうして!?あの時、パピヨンの作った核鉄が効かなかったのか!?・・・・・」  
あの核鉄で確かにカズキは人間で戻れたはずだ・・・。なのに、どうして・・・・・  
「確かに、一時的に抑制することができたけど、また再発するって戦団の研究者に聞いたんだ。」  
これまで見たことの無いような悲しい表情で、カズキは続ける。  
「実際、月ではヴィクターも同じようなことになっているらしいんだ。複製した白い核鉄で、  
何度も抑えようとしたらしいけど、もうすでに第3段階にまで達してしまったらしい。」  
・・・・ヴィクターが月で・・・・・・・。  
そんなことが・・・・・。  
「でも、幸い理性までは失われてないみたいで、ヴィクターも戦団と協力して抑制法を探してるんだ。」  
 
「そして、俺もエネルギードレインが始まる前に、月へ行くことになったんだ・・・・。」  
「明日の夜には、寄宿舎を出なくちゃならない。」  
そこでカズキの話は終った。  
私はショックのあまり何も喋れないでいた。  
カズキが月へ行ってしまった事を私は忘れたことなど一度もない。  
そしてカズキはまた、月へと行こうとしているのだ。  
・・・・いやだ・・・・・。離れたくない・・・・・。  
また、あの時と同じ気持ちが蘇る。私を守るため、一心同体の誓いを破ってまでも空に  
消えていったカズキの表情も。  
「本当に・・・ごめん・・・・」  
その時言った、言葉も。  
私は、カズキの袖を強くつかむ  
「斗貴子さん?・・・・・」  
「・・・離れたくない・・・・」  
「え・・・」  
「もう君とは離れたくないんだ!!」  
必死になって言った言葉が、それだった。  
 
 
「ドンドン!」  
突然とびらの叩く音が鳴り響き、二人は振り向く。  
「糞ガキ!いるか?早く出て来い!」  
とびらを叩いたのは火渡だ。とりあえず、カズキはドアを開けた。  
「どうしたんですか?こんな夜中に。」  
カズキが驚きながらも質問した。  
「どうもこうもあるかッ!月では今大変なことになってる!ヴィクターのエネルギー  
ドレインが予想以上に激しくなってるんだよ!」  
火渡は続ける。  
「エネルギードレインのせいで、研究しようにも近づけないんだ!抑制出来るのは、  
防人とヴィクター化できるお前しか居ねぇんだよ。大戦士長からの命令だ。いますぐ  
防人と月へ向かえ!!」  
突然すぎる。どうすればいいか分からずおどおどしていると、火渡はカズキの胸倉を  
つかみ、  
「何ボサッとしてんだ!行くぞ!!」  
無理やり連れ出そうとした。しかし、斗貴子がそれを止める。  
「待ってください火渡戦士長!少しだけ時間を・・・・」  
「うるせぇ。早くしねぇとコイツだっていつ化物化するかわからねぇんだ!  
さっさと月へ送らねぇと大惨事になるぞ!」  
「カズキは化物ではありません!!本当に、本当に少しだけ話をするだけ・・・」  
ドスッ  
火渡が、斗貴子のみぞおちを殴り、気絶させる  
「斗貴子さん!!」  
カズキが斗貴子に歩み寄ろうとしたが、火渡はそれすらも止めてきた。  
「防人はもうバスターバロンに乗ってんだ。オメェがさっさと来ないと  
任務に支障が出る。早く来い!」  
また胸倉を強くつかまれたが、カズキはそれを振り払い、  
「よくも斗貴子さんを・・・やっぱりお前は許せない!!」  
胸に手を当て、ランスを出現させようとしたが、火渡の手が首をつかみ、  
今度はカズキの腹を思い切り殴った。  
「カ・・・ハッ・・・」  
消え行く意識の中、カズキは火渡の顔を睨む。  
「遊んでる暇はねぇんだ。つれてくぞ。」  
そこで意識は途絶えた。  
 
 
凄まじい轟音が鳴り響く。その音でカズキは眼が覚めた。  
「ここは・・・!」  
「起きたか。」  
振り向くと、ブラボーがシルバースキンに身を包んで立っていた。そして横には火渡が。  
「お前・・・」  
カズキはまた胸に手を当て、ランスを出そうとしたが、  
「まて、カズキ」  
ブラボーが中に入る。  
「乱暴なことをしてすまなかった。全く。あれだけ騒がせるなと言っておいたのに・・・」  
そういって火渡を睨んだが、  
「おめぇが早くしろっていったんだろうが!文句言うんじゃねぇ」  
と、タバコをくわえて、部屋から出て行ってしまった。状況がわからないカズキはただ黙るしか  
なかったが、ブラボーがようやく話を切り出した。  
「月の件はもうかなり前にはなしたな。」  
カズキはうなずく。  
「いきなり予定を変更してすまなかった。だが、今来てもらわないと、  
事が進まなかったんだ。」  
カズキは立ち上がり、  
「事が進まないって・・・?」  
そう答えた。  
ブラボーは進める。  
「うむ。エネルギードレインが悪化したのは火渡から聞いたらしいな。  
案の定。今、月ではヴィクターに近づけず、研究が滞っている状態だ。」  
そこまでは確かに火渡から聞いた。  
「元々、白い核鉄はすでに完成し、後はどれくらいの出力で調整するかだけなんだ。」  
なるほど。ヴィクターに対応した白い核鉄を作ると。  
「しかし、この調整はかなり慎重にやらねばならん。」  
「出力が弱すぎれば、黒い核鉄の力を抑制できず、免疫を持たせて白い核鉄が  
使用不可になる可能性がある。」  
白い核鉄をヴィクターに撃ち込んだ時の事が頭に浮かんだ。  
「そして出力が強すぎれば、拒絶反応を起こし、原子核が一気に圧縮され、  
本体は死に、広島、長崎に匹敵するほどの核爆発をおこす。」  
核爆発!?そんなに危険なのか  
「だから、一発でヴィクターに対応した白い核鉄を精製しなくてはならない  
そのためにはまず、ヴィクターに近づき、黒い核鉄を調べなくてはならない。」  
「それを俺達がやるんだ」  
カズキは言葉を失った。  
もし失敗すれば、生きて帰れない。  
もう、地球には戻れない。  
斗貴子さんに会えなくなる。  
 
でも、やらなくちゃ誰かが傷つくことになる。誰かが死ぬことになる。  
いや、絶対に成功させて、生きて地球に戻るんだ。  
そしてまた斗貴子さんに会うんだ。  
 
カズキは覚悟を決め、ブラボーを真剣な眼で見つめる。  
「・・・・ブラボー。俺やるよ。やって必ず成功させる。」  
カズキの眼を見て、ブラボーも小さくうなずく。  
「間もなく月に到達します。」  
バスターバロンの内線スピーカーが鳴り響く。  
二人は近づく月面を見つめて、強く誓った。  
「必ず・・・必ず成功させて、地球へ帰ろう。」  
 
 
 
 「・・・・・ん・・」  
斗貴子はゆっくりと目を開ける。ここは?病院?腹部に痛みがある。そうだ、  
火渡戦士長から殴られて意識が飛んで、それから・・・そこでカズキのこと  
が思い浮かんだ。あわてて周囲を見回す が、求めている人は何処にも居な  
い。  
「カズキ・・・・そんな・・・」  
 
またあの記憶が蘇る。ヴィクターとの決戦のときのあの言葉・・・  
「その約束守れない・・本当にごめん・・・」  
 
「カズ・・・キ・・・」  
 
「コンコン」  
突然鳴り響いたノックの音。  
「千歳よ 入っても大丈夫?」  
声の主は千歳さんだった。斗貴子は目いっぱいに溜まった涙をぬぐい、すぐ  
に答える。  
「はい・・・」  
 
「カズキは・・月へ行ったのですよね・・」  
斗貴子は、千歳が入れたコーヒーの入ったカップを手に、そう質問した。  
「ええ・・・・防人君といっしょに昨日出動していったわ。」  
「戦士長と?」  
「そうよ・・・ヴィクター抑制には、防人君の武装錬金が必要だったから。」  
どこか寂しげに、千歳は答えた。   
 
「カズキは・・カズキは帰ってきてくれるのでしょうか・・・」  
斗貴子は震える声でそう言う。  
「また、あの時の様に、会えなくなるんじゃないかって・・私は  
それが不安で・・・もし本当にそうなったら・・・」  
斗貴子はまた目に涙を浮かべて、今にも泣きだしそうな状態だった。  
千歳はそんな斗貴子を見て、そっと語った、  
「防人君は、今までどの任務に出動しても、必ず帰ってきた。  
カズキ君はどう? あの子もいつもぼろぼろになりながらも生きて帰って  
きたじゃない? 大丈夫。二人は絶対に帰ってくるわ。」  
それを聞いた斗貴子は少し落ち着いた様子を見せた。それだけ確認すると、  
千歳は立ち上がり、部屋を出て行った。  
 
それを見た後、斗貴子は布団に潜り、体を丸めて  
「・・カズキ・・・・・」  
涙を・・・流していた。  
 

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