鬱陶しいほどの雨が降り、身体に衣服が密着している。  
「カズキ、回り込めっっ!!」  
「分かった!」  
オレと斗貴子さんは巨大な、牛型のホムンクルスと対峙していた。  
一撃の破壊力はオレの突撃槍と同等、かそれ以上だが、動きは以前闘ったワシ型より遅い。  
斗貴子さんが牛の正面に立ち、オレは指示通り側方に回りこんだ。  
「ちょろちょろと、目障りなっっっ!!」  
牛がオレに腕を振り下ろす。  
「貴様の相手は私だ!!」  
その隙を突いて斗貴子さんが跳び、牛の腕をバルキリースカートで切り刻んだ。  
「う゛がああぁぁぁぁっっっ!!?」  
醜く潰れた断末魔の悲鳴を上げ、牛の巨体がぐらりとよろめいた。  
「今だっ」  
斗貴子さんに言われるまでもなく、オレはすでに攻撃態勢を整えていた。  
突撃槍の先端を牛に向け、しっかりと大地を踏みしめる。  
「くらえぇぇぇぇぇっっっ!!!ジュゥゥゥゥースティィィィィィィイングウゥゥゥゥゥ 
ゥ――(ゲッター風)」  
飾り布のエネルギーが強大な熱量を放ち大気を震わす。濡れた身体が乾き、水蒸気が音を 
立てて立ち昇る。  
力が満ち溢れるような錯覚に陥り、飾り布から発せられるエネルギーが身体を包む。  
「――スラアアァァァァァァァァッッッッッ、シャァァァァァァァァァァアアアアアアッ 
ッッッッッッッ(しつこくゲッター風)」  
加速――。  
周囲の景色が混ざり合う。  
牛の巨躯が目の前に迫り、そして消える。  
両足を踏ん張って身体にかかった爆発的な速度を殺す。  
後ろで轟音が響く。振り返ると、牛が仰向けに倒れていた。奴の腹には、オレが空けた風 
穴が口を開けていた。  
雨の中というやりにくい環境の中で勝利を収めて気が抜けたのか、小さな溜め息が漏れた。  
 
その時、倒したはずの牛の身体がぴくっと動いた。  
いや、それは動いたというよりも、小動物のように痙攣しているだけにすぎない。  
「がっ……ぐぐぅ、ぐ」  
すでに虫の息を上げている奴の首が宙を舞った。  
目の前の光景を理解するより早く、四本の刃が胴体を離れた物体を串刺しにした。  
「甘いぞカズキ。止めを刺すまで気を抜くな」  
オレに告げてきたのは牛の胸の上に立つ斗貴子さんだった。  
まるで敵でも見るように冷たい、鋭い瞳でオレを射抜いている。  
バルキリースカートが動く。同時にそれが刺していた物体が空中で弾けとんだ。  
――背筋が凍った。斗貴子さんが怖い。そう思ったのはこれで何度目だろう。  
彼女が跳躍してオレの横に降り立った。  
「さ、帰ろうか」  
そう言って微笑んでいるのはオレが知ってる、オレの好きな斗貴子さんだ。  
「うん」  
彼女の二重性に戸惑いつつも頷いて歩き出した。  
「しかし」  
オレの前を行く斗貴子さんが自分の身体をまじまじと見ながら呟いた。  
「この格好は気持ち悪いな」  
「……あ」  
つられるようにオレも彼女の後ろ姿を見て声を上げてしまった。  
雨で濡れすぎた斗貴子さんの制服が彼女の身体に張り付いている。  
斗貴子さんの肌がうっすらと透けているじゃないか。  
「あまり見るなっ」  
首だけ振り返った彼女に注意された。  
透ける背中を食い入るように見つめていたオレは慌てて顔を上げて生返事だけした。  
斗貴子さんがぶつくさと人には聞こえないような大きさで何か言ってるけど、それは多分 
オレのことだ。  
もう少し戦士としてしっかり、とかそんなとこだろう。  
でも透ける背中なんて見せられたらまず男として、漢として見ないわけにはいかないでしょ。  
(……ん、待てよ)  
確かオレが見た斗貴子さんの背中にはブラジャーのラインがなかった。  
と、いうことは、よもや斗貴子さん、の、ノーブラ……!?  
 
いろいろと馬鹿な妄想ではあはあしているうちに寄宿舎に帰り着いた。  
「では私はホテル帰る。ゆっくり身体を休めなさい」  
「うん」  
「なんだか、少し顔が緩んでいるぞ。きりっとなさい」  
「こ、こうかな」  
眉を上げて口元を引き締めてみた。  
「……そんな表情は似合わないからやめなさい」  
少しは自信があったのに呆気なく否定されてしまったので肩が落ちた。  
「斗貴子さんもちゃんと身体温めなよ」  
「キミはこういうことはちゃんと言うんだったな」  
「うん」  
「わかっている。気をつける」  
微笑んで、斗貴子さんが寄宿舎前から去ろうとした。その時、  
「あーー、お兄ちゃん!」  
寄宿舎の玄関からまひろが姿を現した。  
「それに斗貴子さんまで!こんな時間に何してるの?っていうかずぶ濡れ!!」  
オレはまひろに向けて苦笑いするしかなかった。いろいろ聞かれても言い訳できそうにな 
かった。  
まひろは洗面用具を抱えている。すでにそんな時間になっていた。  
そんな時間に男女が二人で外出していたなんて、例え銀成学園の生徒じゃない相手でもま 
ずいだろう。  
(ホントのこと言うわけにもいかないしな)  
錬金術と武装錬金、ホムンクルスについては他言無用としつこいくらい斗貴子さんに言わ 
れている。  
どうやってこの場を乗り切るか、斗貴子さんに目配せした。  
が、斗貴子さんも首を小さく横に振った。いい案がないようだ。  
オレと斗貴子さんが困っていると、まひろが口を開いた。  
「とにかく上がって。そんなに濡れてたら風邪引いちゃうよ」  
「お、おう。そうだな」  
まひろはオレと斗貴子さんが二人っきりだったことを詮索してこない。  
そのうち訊かれるかもしれないけど、それまでに何とか言い訳を考えておく時間ができた 
ことに安堵した。  
「斗貴子さんも。お風呂に入ろ」  
「え?わ、私もか?」  
そんなことを言われると思っていなかった斗貴子さんが狼狽えた。オレも狼狽えた。  
「当然ですよ。風邪を引いちゃったらいけません」  
 
結局、まひろは嫌がる斗貴子さんを無理矢理寄宿舎に連れ込んだ。  
オレと斗貴子さんはまひろの後ろについて寄宿舎の廊下を歩いていた。  
ここに上がる前に衣服が吸った水を軽くきり、靴下も脱いでいたのでそれほど廊下を濡ら 
してはいない。  
まひろの背中は妙に楽しそうで、横にいる斗貴子さんは困った表情をしていた。  
「それじゃ少しだけ待ってて」  
まひろが自分の部屋へ入っていった。斗貴子さんの着替えを持って来るそうだ。  
「……キミの妹はいつもああなのか?」  
「いや、今日だけ妙に楽しそうだけど」  
「私の都合も考えてもらいたいんだがな」  
「まひろも悪気があるわけじゃないからさ。許してやってよ」  
「分かっている。今日だけはキミの可愛い妹に付き合ってあげよう」  
二人で話していると、まひろが部屋から出てきた。  
「はい斗貴子さん」  
斗貴子さんがまひろの差し出した着替えを受け取ると、まひろが風呂に向かって立って歩 
き出した。  
オレと斗貴子さんはまたまひろの後ろについて歩き出した。  
(カズキ)  
斗貴子さんが小声でオレに話しかけてきた。  
(なに?)  
(キミもすぐ風呂に入るのか?)  
(いや、オレも着替え取りに行かないといけないからちょっと遅れるけど)  
(ならば私が風呂に入っている間、これを預かっていてくれ)  
オレの手に硬い物が触れた。横目で確認すると、それは斗貴子さんの核鉄だった。  
(見つかるといろいろ面倒だ。頼んだ)  
(分かった。任せといて)  
斗貴子さんから核鉄を受け取り、そっとポケットに忍ばせた。  
「まひろ」  
前を歩いていたまひろがくるっと首だけ向けてきた。  
「なにお兄ちゃん?」  
「着替え取ってくるから斗貴子さんと二人で先に行ってていいぞ」  
「うん、分かった」  
二人と別れ、オレは自分の部屋へ向かった。  
 
「それじゃ行きましょう」  
「う、うむ」  
まひろと二人っきりになったせいか、少しだけ斗貴子さんの挙動がそわそわしだした。  
途中で少し言葉を交わしたはずだが、斗貴子さんはその内容もよく覚えていない。  
「お風呂はこっちです」  
案内されるまま『女湯』と書かれた暖簾をくぐった。  
脱衣所には蒸し暑い空気が漂っているせいで若干息苦しく、斗貴子さんは少し顔をしかめ 
た。  
まひろは意気揚々と身につけているものを脱ぎ、棚に放り込んだ。  
その様子を見た斗貴子さんも渋々服を脱ぎだした。  
まひろが上着を脱ぐと、ブラジャーに包まれた豊満な胸がプルンと揺れる。  
斗貴子さんが上着を脱ぐと、……何も起こらない。  
まひろがスカートを脱ぐと、発育の著しいお尻にちょっと引っかかる。  
斗貴子さんがスカートを脱ぐと、すとんと落ちる。  
まひろがブラを外すと、弾けるようにぼよよんと揺れる。  
まひろがショーツを脱ぐために身を屈めると、豊かな胸が下を向く。  
まひろが髪を留めようと腕を動かすと、その動きに合わせて胸がぷるるんと振るえる。  
まひろが動くたびにその胸は縦横無尽に礼儀知らずに恥知らずに暴れ回る。  
「…………」  
まひろの胸の動きを、斗貴子さんはとり憑かれたように凝視していた。  
服をすべて脱ぎ終えたまひろが斗貴子さんの視線に気づいた。  
はっとした斗貴子さんはいそいそと自分の服を脱ぎだした。  
 
全裸になった二人が脱衣所から扉を抜けて風呂場へ入ると、そこには十名程の女子がいた。  
広さは大浴場といったものではなく、五十名が収まる程度である。  
それでも今の閑散とした状況ならば十分な広さである。  
ロングヘアを留めたまひろと斗貴子さんがタオルで前を隠して浴場へ入る。  
桶を手にし、浴槽からお湯を掬い取って雨で冷えた身体に二、三度かけた。  
身体がお湯に慣れ、まひろと斗貴子さんが湯船に爪先から太腿、腰、そして肩を沈めてい 
った。  
「ふー」  
湯船で身体の緊張がほぐれたのか、頭にタオルを乗せた斗貴子さんが大きく息を吐いた。  
その様子を見たまひろがくすくすと肩を揺らして笑い出した。訝しく思った斗貴子さんが、  
「どうした?」  
と訊ねる。  
「だ、だって、斗貴子さん、おじさんみたい……」  
笑いの合間に何とか声を絞り出したまひろだが、それを口にしたせいでさらに可笑しくな 
り笑い続けた。  
「キミは失礼だ!」  
斗貴子さんが顔を真っ赤にしてまひろに言った。  
「大体キミだって……」  
留めた髪がソフトクリームみたいだ、と言いかけた時に気付いた。  
まひろの双房がボールのようにぷかぷかと湯船に浮いている。  
ばっと自分の胸元に視線を落とすが、自分の股間が、太腿がはっきりと見える。遮る物は 
何もない。  
(……ま、まさかっ!?)  
斗貴子さんが首を廻らせた。浴場にいる女子、その全員の胸を確認した。  
誰しもが、程度の差こそあれ、ふっくらと丸みを帯びた胸をしている。  
そう。全員、斗貴子さんより胸が大きいのだ。  
 
(そ、そんな……)  
津村斗貴子、十八歳。学校に行っていれば今年で高三になる。  
浴場には一年から三年までの女子がいるので、一応その場にいる女子の中では最年長に当 
たる、はずだ。  
(私は、どうしてこんな……)  
しつこいくらい強調しよう。斗貴子さんは、胸が、誰よりも小さいのだ。  
「斗貴子さん、どうしかしたの?」  
熱い湯船に浸かっているにも関わらず、心なし顔が蒼くなっている斗貴子さんにまひろが 
声をかけた。  
「いや、どうもしないどうもしないぞ」  
平静を装おうとしている斗貴子さんだが、内心は自分の発育不全っぷりにかなり焦りを感 
じていた。  
そうですか、と言ってまひろはそれ以上突っ込まなかった。  
だが、斗貴子さんとしては、まひろにどうしても突っ込んで聞き出したいことがあった。  
 
湯船の中をすすっと移動し、まっぴーの真横にいくとっきゅん。  
「少しいいか?」  
「はい?」  
とっきゅんは少し躊躇いを見せたが、言葉を慎重に選んで口を開いた。  
「(ここはどうでもいいのだが)カズキとは、いつも一緒にいるのか?」  
「(ま、まさか斗貴子さん嫉妬!?)いつもっていうことはないですよ」  
「(この辺から聞きたいことなのだが)なら食事の時は一緒なのか?」  
「(嫉妬……じゃないのかな)そうですね。朝夕は一緒の時が多いですよ」  
「では、普段どんな食事を?(キミが)」  
「(お兄ちゃんは)カレーやクリームシチューに……、あとケーキとか甘い物も好きです 
ね」  
「(やはり乳製品がっっ!)では、それを食んで大きくなったのか?(胸が)」  
「そうですねえ、すごく大きくなりました(お兄ちゃんの身長)。て言っても人並みくら 
いですけどね」  
「(キミの胸が)その大きさで人並みっっ!?それは本当かっっっ!?」  
「うーん、そんなに大きくないですよ(お兄ちゃんは)。でも、まだまだ成長期だから大 
きくなるんじゃないかな?(身長)」  
「そうか……。まだ、大きくなるのか(キミの胸が)」  
「(もしかして斗貴子さん、自分の身長気にしてるのかな?)斗貴子さんもまだまだ大き 
くなりますよ。きっと」  
「(胸が)大きくなると、期待していいのか?」  
「大丈夫ですっ!牛乳と青汁を毎日飲めばすぐ大きくなります(身長が)」  
「どうして青汁が(胸と関係あるのだ)?」  
「(お兄ちゃんは)毎日牛乳と青汁を飲んですぐ大きくなりましたから(身長が)」  
「そうか、それはいい事を聞いた。ありがとう」  
非常に微妙に噛み合わない会話が終わり、明日から毎日牛乳と青汁を飲もうと決意すると 
っきゅんであった。  

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