蝶々覆面の騒動が無事解決してから数ヶ月。  
――季節は巡り、冬。  
来たるべき事に備え様々な装飾がなされている街の中を斗貴子は歩いている。  
本隊から待機命令がでている為、斗貴子はまだこの街に残っている。  
とはいえ、蝶野が消えたこの街にホムンクルスが居るはずも無く――斗貴子は必然的に暇を持て余す 
ことになっている。  
無論、連日の訓練とカズキへの指導は欠かしてはいないが。  
――さて、どうしたものか。  
無意味に時間を過ごすのを避けるため街に出てきてはみたが、正直状況に変化は無い。  
実に楽しそうに歩いている人たちを見ながら斗貴子は一人歩く。  
ふとある看板に目が止まり、それに続いて足が止まる。  
――クリスマス、か。  
道歩く人たちの喧騒と期待に膨らんだ表情の原因。  
今までなら何も考えずにそれを見送っていただろうが――今は違う。  
ただ、その事態に斗貴子自身は余り気づいてはいないが。  
「現在クリスマスセール実施中でーす、大切な人へ送るプレゼントをこの機会に是非ー!」  
路上で売り込みをしている青年の声――否、台詞が耳に残る。  
――大切な人へプレゼント。  
斗貴子の頭にカズキの顔が浮かぶ。  
が、すぐさま顔をブンブンと振り、思考を停止させる。  
何を考えているんだ、私は。  
自分の意思とは裏腹に熱くなる頬に戸惑いを感じながら斗貴子は思う。  
武藤カズキ――私、津村斗貴子にとって大切な人。  
その感情は同じ仲間としてか、それとも異性としてのモノなのか、斗貴子は整理できないでいた。  
こんなイベントに心を揺らされるとはな、私も変わったものだ――と斗貴子は溜息を一つ吐く。  
――だがまぁ、感謝の気持ちを込めカズキに何かを贈るのも悪くは無い。  
自分の気持ちが何であるかはそれから決めればいい。  
そう思うと斗貴子はすぐさま実行に移すことにした。  
 
「……とは言え、どうしたものか」  
プレゼント用の商品が並ぶ棚をじっと見ながら斗貴子は一人呟く。  
錬金の戦士として生活してきたため、如何せんこういった事に経験が無い自分を少し恨む。  
「こういった場合何を贈るのが良いのだろうか」  
一品一品手に取りながら、斗貴子は悩む。  
何を贈ったとしてもカズキが喜ぶ物でなければ意味が無い。  
「……さすがにカズキ本人に何が欲しいと聞くのもな」  
様々な品物を前にして、すっかり困り果てている斗貴子に誰かが近づき声を掛ける。  
「あれ、お義姉ちゃ――じゃなかった、斗貴子さん何してるの?」  
声の主はカズキの妹まひろであった。  
 
「キミか。いや、何、大したことではないのだが……そうだ」  
何かを思いついたように斗貴子は言う。  
「どうしたの、斗貴子さん?」  
「一つ尋ねたいんだが……プレゼントには何を贈ったら良いのだろうか?」  
「プレゼント?クリスマスに?」  
「そうだ」  
「相手は……もしかしなくてもお兄ちゃん?」  
「……そ、そうだ」  
恥ずかしさからか、顔をそむけて斗貴子は言う。  
「うーん、斗貴子さんからならお兄ちゃん何でも喜ぶと思うけどな」  
指を顎に添えながらまひろは言う。  
「しかし、そうはいかないものだろう?私はこういった経験が無いから分からないが」  
「うーん……」  
まひろは目を瞑りじっくりと考え込む。  
「そうだなぁ……あ、だったら手編みで何か贈ったらどうかな?」  
「手編み?」  
「うん。私が前に手袋編んでお兄ちゃんに贈ったら凄く喜んでくれたから」  
あまり出来はよくなかったんだけどね、と加えてまひろはエヘへと笑う。  
「手編みか……。そうか、男の子はそれで喜ぶのか」  
目の前の棚に並んでるものと比べ実用的だろうと思い、斗貴子は決断した。  
「よし、そうしよう。ありがとう、まひろ」  
「大切なお義姉ちゃんの頼みですから」  
そう言い、まひろは笑顔を浮かべる。  
「いや、それは……まぁ、良い。では、早速作業に移るとしよう」  
ではな、と告げ斗貴子はその場から去っていく。  
「相手が斗貴子さんじゃあ私は適わないもんな。私はどうしようかな……」  
まひろはそう呟くとその場を後にした。  
 
「む、何故こうなる」  
斗貴子は自室で毛糸を相手に悪戦苦闘していた。  
「本を見る限りこれであっている筈なんだが……」  
手芸の教本を片手に斗貴子は毛糸を編み続ける。  
失敗した部分を修正するために再度やり直す。  
「……む、またか。想像以上に難しいぞ、これは」  
毛糸と毛糸の間に大きな隙間が空く。  
「これでは本来の働きをしないではないか、やり直しだな」  
始めてから数時間経過したが、作業は余り進んでいない。  
「痛ッ!……またやってしまったか」  
本日何度目になるか分からない、指への誤爆。  
「これは……作業を投げ出したくなるな」  
そう言い、ふぅと溜息を吐く。  
が、すぐさま眼に生気を戻し、作業に戻る。  
「私とて錬金の戦士だ、途中で辞められるものか」  
等と言いながら夜は更けていく――  
 
「はぁぁぁぁぁあッ!!!」  
身の丈ほどある突撃槍をカズキは構え、前方へ鋭く突き刺す。  
突撃槍が空気を斬り虚空を鋭く貫く。  
「甘いぞ、カズキ。素直すぎる攻撃は威力は高いが、見切られやすい」  
地面を蹴りフワリと宙に舞いながら斗貴子は言う。  
「糞ッ!なら、これでッ!」  
歯を食いしばり、前足で勢いを強引に殺しそのエネルギーを反転に使い、突撃槍を振り回す。  
――ブォン  
空気を切り裂く鈍い音が神社に響く。  
「ッ!だが、まだ甘い」  
そう言って身体を捻り、斗貴子は突撃槍を躱す。  
「まだだッ!」  
宙に浮いてる無防備な斗貴子へ向かいカズキは大地を蹴り、一気に距離を詰める。  
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」  
そのままの姿勢で肩からの螺旋の勢いを乗せた突きを繰り出す。  
「残念だが、外れだ」  
先程まで目の前にいた斗貴子の姿がカズキの視界から消える。  
カズキは突きの動作を急停止させたが――時既に遅し。  
鈍い音と衝撃と同時にカズキは仰向けに倒れた。  
 
「まだ武装錬金の扱いが躰に染みきっていないな。力で強引に扱っている感がある」  
ふぅ、と呼吸を整えながら斗貴子は仰向けに倒れているカズキに向かって声を掛ける。  
「ぜぇー、ぜぇー、ああー、わ、分かってるんだけど、いざってときになると、つい」  
疲労困憊といった感じで火照った躰と荒い呼吸を何とか整えながらカズキは答える。  
「甘いぞ、いざという時にこそ、この扱いが重要になる」  
「はぁ、はぁ、うん、分かった」  
「だがまぁ、確実にキミは強くなっている。いずれは私を抜く程に」  
「へへっ、だったら尚更努力しないとねェ……」  
笑顔を浮かべながらカズキは答える。  
「とにかく今日の訓練は終わりだ、何時までもそうしていると風邪を引くぞ」  
「も、もう少し……ぜぇー、はぁー」  
「仕方の無い奴だ、ホラこれで汗ぐらいは拭くといい」  
そう言ってカズキに向かってタオルを投げ渡す。  
「ありがと、斗貴子さん」  
タオルで汗が流れ出てくる身体を拭き、カズキは起き上がる。  
 
汗が完全に引くのを待ってカズキは斗貴子へ声を掛ける。  
「それじゃあ、帰ろうか?斗貴子さん」  
「そうしようか――あ、ちょっと待て、カズキ」  
「ん、何?斗貴子さん」  
カズキが振り向くと、斗貴子は自分の鞄から何かを取り出す。  
「ん、その、何だ。今日はクリスマスだろう、だから、その……プ、プレゼントだ」  
そう言って紙袋をカズキに手渡す。  
「え?俺に?」  
「他に誰がいるんだ、一体」  
頬を少し膨らませながらも、斗貴子は視線をカズキから逸らす。  
「うわぁ、ありがとう斗貴子さん。開けて良い?」  
宝物を貰った子供のように目を輝かせながらカズキは尋ねる。  
「ん?ああ、構わな――いや、やはり帰ってから……と、遅かったか」  
「マフラー?」  
袋の中から出てきたのは赤いマフラーである。  
「何分初めてのことで、上手くいかなかったんだが、その辺は許してくれ」  
恥ずかしそうに頬を染め斗貴子は言う。  
訓練中には気づかなかったが斗貴子の指に幾らか傷があるのがカズキには見えた。  
「いや、全然。ホントありがとう、斗貴子さん」  
そう言ってカズキはマフラーを首に巻く。  
「……俺一人にはちょっと長いかな?」  
余った部分を手に乗せながらカズキは言う。  
「すまない」  
申し訳無さそうに斗貴子は顔を伏せる。  
「良いって、斗貴子さんが俺に編んでくれたってだけで嬉しいから」  
「コラ、調子に乗るな」  
ビシ、とカズキの頭を小突く――優しく、丁寧に。  
 
「しかし……私の想像以上に余ってしまったな」  
「うーん……あ、そうだ!斗貴子さん、ちょっとコッチ来て」  
何かを思いつき、笑顔を浮かべながらカズキは斗貴子を手招きする。  
「どうした?カズ――っと、な、何をする!?」  
近寄ってきた斗貴子をカズキはそっと抱き寄せ、その首に余った部分を巻きつけた。  
「これで、長さはピッタリ♪」  
実に幸せそうな笑顔でカズキは言う。  
「……全く、キミという奴は」  
顔を真っ赤にしながらも呆れ顔をした斗貴子が言う。  
「あ……怒った?」  
恐る恐るといった感じでカズキが尋ねる。  
「……怒っていないさ」  
「なら、良かった」  
へへへ、とカズキは笑う。  
 
寒空の下二人で一つのマフラーを共用する。  
 
互いの重なり合った肌から感じる温もりが酷く優しく、温かくて。  
 
斗貴子の胸にあった引っ掛かりはあっさりと無くなった。  
 
 
 
 
――全く、キミは不思議だ。  
 
――その幸せそうな笑顔一つで私の悩みを一瞬で解決してしまうのだから。  
 
 
 
 
 
「――カズキ」  
 
斗貴子は呼びかける――自分の大切な人を。  
 
「カズキ、私はキミが――――――」  
 

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