「メリークリスマース!!」
パン!!パン!パパン!
クラッカーの音が私の部屋の中に響いた。大量の煙と火薬の匂いで目がしみり、少しむせた。
今私の部屋にいるのはいつもの面々。私が戦士長の命により銀成学園に編入してからの「いつもの面々」。
この子たちのペースに見事にハマり、一体何回やってきたかという歓迎会を今度は「クリスマス」の名を
借りて行われている。まったく、このくらいの歳の女子は疲れをしらないな…
ちなみに『いつもの面々』に含まれている男子たちは、参加したいということを必死にアピールしていたが、
一人鼻の下をのばしていたせいで全員不参加になった。彼の名前は伏せておくがエロスは程々にとあれほど…。
私の名は津村斗貴子。普通の生活を全て捨てて、今はある目的のために戦いつづける毎日を過ごす。
戦士長からの命でまた学生をやることにはなったが、戦士としての自分を放棄したことはない。
今この時だってホムンクルスは…
「ねえ、どうしたの?」
髪の長い女の子が私の顔を覗く。この子は『武藤まひろ』、私が過去に命を助けた一般人の妹である。
ノリが悪いよ〜?と笑顔を見せながら空のコップに並々とシャンパン(一体どこから??)を注いでいた。
「あ、ああすまない」
「斗貴子さんの歓迎会なんだから主役が面白そうな顔してないとダメだよ〜?」
もう歓迎されすぎているのだが…。
「ほら、まひろ。あんまり自分のペースを人に押し付けない」
「まだまだ始まったばかりだし、ゆっくりいこーよー」
そういえば未だにどっちが『ちーちん』で『さーちゃん』がわからない…。はやく教えてくれないと
私としてもセリフを区別するのが難しくなるので勘弁してほしい。
「え〜でも、もっとハジケた斗貴子さんがみたいなぁ」
と言って抱きついてきた。ちょ、ちょっとやめなさい!…とはいつも言っているがこの子には効かないと
いうことがよくわかったのでただ言うだけになっている。
「ん〜やっぱり斗貴子さんはすべすべ〜〜〜、ふう」
まひろの吐いた息から少しアルコールのにおいがした。ん?これは…
「アルコール度数14%…コレ、本当のシャンパンじゃないのか?」
「当たりです」
メガネの子が肯定しつつ飲みつづけた。
「どうしてこんなものが女子寮に転がっているんだ?」
「や、寮長とちょっとした知り合いなので」
戦士長…
「で、ここからが本題なんです。」
とまひろが寝入ったことを確認してから2人は質問を投げかけた。
「急になにを…?」
シャンパンのせいか、少し目が据わっていた。一体なんのことだろう?
まさかあの時のL・X・Eのことを?。平然を装うためにシャンパンをグイっと飲んだ。
…あまり美味しくない。
しかし2人の顔は又一段と迫ってきた。もしかして本当にバレた?
「「まひろのお兄さんとはどこまでいきました?」」
ブ――――!!!!!
「カ、カズキとは何もない!」
「そんなに力強く否定しなくても…」
まったく、私が勝手に焦ってただけだったのか。少し恥ずかしくなった。
しかしこれで引き下がる2人ではなかった。
「でも結構あやしいですよね?」
「そうそう、いっつも2人でいるし。なによりお兄さんのこと呼び捨て!」
「それは…その、色々あって…」
「色々って?」
「ああ、なんていえばいいのか。いわゆる君たちの考えてるようなことは何もないから…」
まいった。こういう話は苦手だ。前の学校でもそうだが、なぜ女子はそういう色恋沙汰が好きなのだろう?
それで納得すると思います?といいつつ空になった私のコップにシャンパンを注いでいた。つい飲み干す
「まぁ、ちょっとまだ切り出すのは早かったかな?」
トクトク
「切り出すも何も私とカズキにはなにもない」
ゴクゴク
「またまた〜」
トクトク
「そういえばカズキもカズキだ、なんだあのさっきの顔は…」
ゴクゴク
「お兄さんがどうしたんです?」
トクトク
「カズキはすぐに顔にでる…から、こっちがはず・・かしくなる…」
ゴクゴク
「ほうほう」
トクトク
「あの時だってそうだ。そんな、私だってそういうのは…」
「「おお!」」
「私だって…」
ス〜〜〜〜〜ス〜〜〜〜〜
「ああ!肝心なところが…」
「おしかったねぇ。でも結構わかったんじゃない?」
「そうね、とりあえずお兄さんとは 絶 対 !なにかあったのは確か」
「おにいさん罪作りな男だねぇ。まっぴ〜もお兄さんのこと好きっぽいし」
「まぁ、これで学園生活は当分楽しめるかもね」
「うん、じゃ今日はこれにて。まっぴ〜背負うから手伝ってよ〜」
「はいはい」
「カズキ」
「あ、斗貴子さん。今日はちょっと遅かったね」
実は大分待った。帰りたいなぁと思ったときに斗貴子さんがきてくれた。
時間は午前1時過ぎ、俺の身体は冷え切ってる。ここに来る前に買って来たホットコーヒーは
氷嚢みたいに冷たい。
斗貴子さんは隣に座った。ふう…と息を吐くと少し酒臭い。結構飲まされたのかな?
よくみると顔も朱に染まっている。
「頭が痛いな…飲んでるときの事を覚えていない…」
「珍しいね」
額を抑えている斗貴子さんはいつもの気高さというか、凛々しさが見られなかった。
とにかくその……艶っぽくて魅力的に見えた。
「しばらくそこで深呼吸でもしてたらいいよ」
「ああ、すまない」
はいコレかけて、と自分の着てた上着を手渡した。
「キミが着ていなさい。風邪をひくぞ」
「いいよ、ちょっと運動がてらに歩くから」
「…すまない」
結構素直に引き下がった。思ってたよりも重症ぽい。ちかくにあったブルーシートを床に敷いて
斗貴子さんを横にした。そしてやさしく上着をかけた。
「あたたかいな」
「ホッカイロいれてたしね」
「そういう事じゃない」
少し笑った。
ちょっとした静けさが俺と斗貴子さんを包んだ。聞こえるのは相手の息づかい、そしてシンとした寒さ。
時がとまったような感覚さえうける。
「…ここで私はキミを巻き込んだ」
天上を見ながら斗貴子さんは沈黙をやぶった。
「気にしてない」
「でもキミは一度死んでいるし、L・X・Eという組織まで絡んできた」
淡々としゃべる
「そして、なによりもキミを生きるか死ぬかの戦いにまで巻き込んでしまった」
懺悔のような声の調子に聞こえたのは気のせいだろうか?
ちょっと止めたほうがいいだろうか…
「でも嬉しい事もあったよ、斗貴子さん」
「?」
「その…と、斗貴子さんと知り合えた…」
ちゃんと顔は見えないけれどコッチをみてるのは判る。少しの間だけ静寂が流れる。
寒いはずなのに耳まで赤くなっているのが自分でわかる。キザすぎるって俺…
「ふふ、なにもでないぞ」
普通に流された普通に流されたよ。結構頑張ったんだけどなぁ
ちょっと行き場がなくなった感じがして恥ずかしい。
「でも、ありがとうカズキ…」
いつもの斗貴子さんとは違うトーンだった。すごく、すごくやさしい暖かい声だった。
顔まで赤くなってしまった…
「しかし飾りもなにも用意してないんだな」
「ごめん、ここにくる事だけを考えてたから…」
「ん、気にしなくていい。こんなクリスマス。いや、こんな夜を味わえるだけでも充分だ」
「カズキ、メリークリスマス」
「うん、メリークリスマス。斗貴子さん」
===一方男子寮===
「あああああ!!ちくしょ〜〜〜!!!今年も一人身かよ!!!」
「岡倉くん、もう飲みすぎだよ…」
「うるせえ!まだまだ寮長から拝借した酒はあるんだ!もっと飲ませろ!!」
「アルコールも程々にしときなさい」
「「え!?斗貴子さん!!?」」
……
「六枡!てめえ!紛らわしいんだよ!!」
〜完〜