「わたしのおにいちゃん」
私にはお兄ちゃんがいます。
ちょっとおっちょこちょいですごく突っ走り屋で青汁が好きだけど、
素敵な素敵なお兄ちゃんです。
私は小学生の頃から胸が大きくて、
デカパイとか、乳牛とか、ホルスタインだとか呼ばれていじめられていました。
でも、そんな私にお兄ちゃんは何気なく、本当に何気なく言ってくれたんです。
「いいじゃないか、オレまひろのでかいおっぱい好きだぞ」
と。
お兄ちゃんは覚えていないかもしれません。
そしてきっとお兄ちゃんは知りません。
私がその言葉にどれほど救われたか。
その言葉がどれほど嬉しかったか。
あのときに思ったんです。
お兄ちゃんはいつでも私のことを守ってくれると。
いつだって私のことを受け入れてくれると。
制服に憧れて銀成学園に入ったなんて嘘です。
お兄ちゃんがいるから、ここにいればお兄ちゃんが守ってくれるから、
私は銀成学園に来たんです。
でも、最近ちょっと不安になります。
私の大きい胸を好きになってくれた副作用でしょうか。
リーゼントさんによると、お兄ちゃんは
エッチできれいなお姉さんが好きになってしまったそうです。
どうしてお姉さんなんでしょうか。
どうして私はお兄ちゃんのお姉さんに生まれてこなかったんでしょうか。
胸は大きくてエッチな資格はあります。
あとはお兄ちゃんのお姉さんになれたら、お兄ちゃんは私を好きになってくれるのに。
かなうはずの無い願いです。
だから私は、突然現れた斗貴子さんが好きになりました。
お兄ちゃんのお姉さん。
私がなりたかった人は、とても綺麗な人でした。
お兄ちゃんの隣にいて、お兄ちゃんを叱って、お兄ちゃんと仲良くして。
お兄ちゃんが好きなキレイなお姉さんは、胸が小さいことを除けば、
何一つ文句のつけようがない、私がなりたかった人でした。
きっと斗貴子さんは、お兄ちゃんに守ってもらってます。
だから、斗貴子さんは私のお姉さんなんです。
だから、私は斗貴子さんが好きなんです。
きっと、好きなんだと思います。
そうだと、思います。
お兄ちゃんは斗貴子さんと駆け落ちしてしまいました。
私は、お兄ちゃんの好きな人になれないんでしょうか。
お風呂に入って悩みました。
私の身体は胸が大きくてエッチです。
エッチだと言わないのは、ちーちんとさーちゃんくらいで、
他のみんながみんな、まっぴーはエッチな身体だと言います。
昔とあんまり変わっていません。
でも平気です。
お兄ちゃんが私のエッチな身体を好きでいてくれたら。
私はいくらでもエッチな身体になります。
お風呂から上がったらお兄ちゃんが寄宿舎に戻っていました。
せっかく好きになった斗貴子さんはいません。
振られてしまったのかと思いました。
残念です。
残念だと、思います。
でも、駆け落ちがどうなったのかも教えてくれずに、お兄ちゃんはすごいことを言ってきました。
「おまえの制服を貸してくれ」
ちーちんとさーちゃんが凍ってしまいました。
私の制服をどうするんでしょう。
お兄ちゃんは銀成の制服に憧れてここに入ったと言っていました。
斗貴子さんに振られて、私の制服に興味を持ってくれたんでしょうか。
私に興味を持ってくれたんでしょうか。
私の制服に向かってあんなことやこんなことをしようと思ってくれたんでしょうか。
それなら、いくらでも貸してあげます。
いっぱいいっぱい、すごいことをして下さい。
でもお兄ちゃんの答えは違いました。
「なにって、着るんだよ」
ちーちんとさーちゃんは逃げました。
私を連れて逃げました。
でも、私は泣きました。
涙が出てきました。
怖かったんじゃありません。
私の、胸の張った制服を、お兄ちゃんは小さい胸の斗貴子さんに着せるつもりなんです。
ひどいです。
あんまりです。
せっかく私がお兄ちゃんのためにエッチな身体を我慢しているのに、
お兄ちゃんは制服さえあればいいんでしょうか。
ちーちんとさーちゃんが慰めてくれます。
でも、いくら二人にでもきっとわからないと思います。
私がどうして泣いていたのか。
私がどうして泣きたいのか。
その日斗貴子さんは、お兄ちゃんのジャージを着てお兄ちゃんと一緒にいました。
胸が小さい斗貴子さんだから、お兄ちゃんのジャージを着ても全然目立ちません。
お兄ちゃんの趣味はやっぱりそっちへ行ってしまったんでしょうか。
お兄ちゃんが悪いんじゃありません。
でもお兄ちゃんが嫌いになりそうです。
ぐらぐらぐらぐら揺れてます。
揺れていたらすっごい足音とともに教室のドアが開きました。
「まひろ!体操服貸して!」
もちろんお兄ちゃんです。
ぐらついていた私は思わず泣いてしまいました。
ひどいですお兄ちゃん。
嫌いになりそうになったときにそんなこと言うなんて。
お兄ちゃんのジャージを斗貴子さんが着ていたから、私の体操服をお兄ちゃんが着るんです。
いつも私のエッチな身体に着ている服をお兄ちゃんが着るんです。
いつも私の胸に当たっている上着が、お兄ちゃんの胸に当たるんです。
いつも私のパンツに当たっているズボンが、お兄ちゃんのパンツに当たるんです。
お兄ちゃんは興奮してくれるでしょうか。
私がいつも着ている体操服の中で、お兄ちゃんが興奮してくれるでしょうか。
泣きながらどきどきして、お兄ちゃんに体操服を貸しました。
お兄ちゃん、そのまま体操服を洗わないで返して下さい。
私はその体操服を洗わないで着ます。