「………」  
カガミに映る自分をじぃっと見つめたまま突っ立っているのは錬金の戦士・津村斗貴子だ。  
姿見の大きなカガミに頭のてっぺんからつま先までばっちり映っている。  
ばっちり映った自分の姿はというと…銀成高校の制服を着ていた。  
「や、やはり私には似合わないぞ!それにヒラヒラしてるし動きにくい」  
今までの制服よりも丈の長いスカートを抓んで文句を言う。  
顔を真っ赤にしているのはご愛嬌。  
そんなカガミに映った自分と目が合うと尚更恥ずかしくなって制服を脱いで着替える。  
「…全く、悪い冗談だ」  
壁にかけた銀成高校の制服を見て斗貴子はまだ文句を言っていた。  
話は戻してなんでこんな制服があるのかというと―――  
「な…なんだこれは」  
斗貴子が転入して間も無い頃、寮の自室に戻ってきたら銀成高校の制服が置かれていた。  
ベッドに置かれた真新しい制服は誰がサイズを測ったかは知らないが合っていた。  
そばにあったメモには「郷に入っては郷に従え。キャプテン・ブラボー」と書かれていた。  
目立つ格好は避けて欲しいという戦士長からの指示のようだ。  
が、動きずらいという理由で銀成高校の制服はその日の内にタンスの肥やしとなる。  
…そうなるはずだった。  
しかし何を思ったのか、試しに銀成高校の制服に袖を通してみた。  
なぜかというと銀成高校の女生徒の大半は制服が可愛いとの理由で入学していたから。  
そんなことをよく耳にしたせいか、斗貴子も「確かに可愛いな」と思うようになっていた。  
で、試着してみたワケなのだが結果はこの通り…  
「時間のムダだったな。こんな似合わないモノは早くしまおう」  
再びタンスの肥やしになろうとしたその時、窓の外に見慣れた姿があるのに気がついた。  
誰かというと毎夜行われるキャプテン・ブラボーとの特訓でヘトヘトになったカズキだ。  
死闘を共にして、これからも一緒に戦う大切な仲間―――  
だがカズキはまだ頼りない弟みたいなモノだった。  
「ガンバっているな…」  
カズキを見ているだけで自然に優しい気持ちになる。  
斗貴子は窓を開けてカズキを呼び止めた。  
 
出されたお茶を啜りながらカズキは壁にかけてあった制服に気づいた。  
「あれ、斗貴子さんって銀成高校の制服持ってたの?」  
頑なに以前潜入した学校の制服を着続けているので持っているとは思わなかったらしい。  
カズキはそんなふとしたことを聞いただけだったのだが、当の本人は大いに焦った。  
まさか試着していたなんて口が裂けても言えない。  
「あ、ああ…転入してすぐに支給されていたんだがこれは動きずらくてな。  
 今の制服なら戦闘の時でもそんなに邪魔にならないし…  
 大体こんなヒラヒラしたモノは私には似合わない!着てみてつくづく思ったぞ…」  
顔を真っ赤にして身振り手振りを交えて懇切丁寧に説明する。  
余計なことまでしゃべってしまったのに気づいていないのだろうか。  
「へぇ…斗貴子さん着てみたの?」  
しまった―――と思ったときはすでに遅く、そのままの姿勢で硬直してしまった。  
チラとカズキを見たら案の定、小さな子どものように目をキラキラさせている。  
こうなるともう何を言うのか簡単に予想できた。  
「ダ、ダメだ!」  
「まだ何も言ってないよ斗貴子さん…」  
「言ってはいないがキミが何を考えているのかなんてすぐわかる!」  
断固として拒否の姿勢を貫こうとする。  
しかしカズキの「見せて見せて」と訴えかける視線に心が揺らぐ。  
駄々をこねる弟に結局負けてしまったお姉さんの如く…  
「…こ、これで満足か、カズキ」  
斗貴子はぶっきらぼうに言って銀成高校の制服を着て見せる。  
恥ずかしくて面と向かって言えず、横を向いてうつむいていた。  
「うん。似合ってるよ斗貴子さん」  
「お、お世辞など言わなくてもいい!似合わないのは私自身が一番よくわかっている!」  
本当は誉められて嬉しいはずなのに口が勝手に動いてしまう。  
素直で無い自分が恨めしかった。  
そんな性格を知ってか知らずかカズキはポンと斗貴子の肩に手を置く。  
「よく見て斗貴子さん。ほら、似合ってるよ」  
カガミの中には銀成高校の制服が似合う可愛い女のコがいた。  
 
「これが私…」  
カガミに映る自分の姿に声が出なくなる。  
ついさっき同じ格好で同じカガミで見たはずなのに、今の自分は違って見えた。  
銀成高校の制服が良く似合うただの女のコだった。  
「ね、似合ってるでしょう」  
今度はカガミの中のカズキと目が合う。  
一直線な性格で放っておけないのだが、どこかで頼りにしてしまうほど強い心の持ち主。  
今のカズキは間違いなく後者だった。  
「う………………………………………………………………………………(コクン)」  
長く考えた後1回だけ、それも小さく頷いた。  
カズキに背中を押された感じがして、ちょっとだけ素直になれた気がした。  
でも素直になれたのはほんのちょっとだけ。  
似合っていると認めてしまった途端、恥ずかしくなって耳まで真っ赤になってしまった。  
「も、もういいだろう!着替えるから向うへ行っていてくれ!」  
びしっとドアをゆび差す。  
だがカズキは一向に部屋を出る気配が無い。  
それどころか後ろから抱きしめてくる。  
「こ、こらカズキ!悪ふざけもいい加減に…」  
グーを作って怒ってみせるがカズキの腕の力は緩まない。  
それどころかそのままヒョイっと持ち上げられてしまって宙ぶらりんになってしまった。  
「カズキ…一体何をしているんだ…」  
斗貴子の頭に大粒の汗が流れ落ちた。  
床に届かなくなった足はブラブラと宙に泳ぎ、腕はがっちりと押さえられている。  
なんとな〜くだが、イヤな予感がした。  
「ねえ斗貴子さん…」  
カズキの声にビクンとカラダが跳ね上がる。  
なんとかやめさせようと言い訳を考えるが声が出ず、口がパクパク動くだけだった。  
何も言ってこない斗貴子にカズキは恥ずかしそうにだが短く言った。  
「………シヨっか」  
その一言に斗貴子は抱っこされたままプシューっと音を立てて黙ってしまう。  
戦士長の特訓のせいで、ここんところご無沙汰だったそうだ。  
 
「あ…」  
ベッドに寝かされカズキと目が合った。  
性格と一緒の真っ直ぐな視線にカラダ中の力が抜けてしまう。  
もはや何をされても拒むことはできないだろう。  
斗貴子は目を閉じて唇を差し出す。  
「んむ…」  
カズキのキスは最初は優しくだが、次第に強く求めてきた。  
それに応えるようにして斗貴子も両手を首に回してカズキを引き寄せる。  
くちゅくちゅと音を立てながら2人は夢中になってキスをしていた。  
「んッ!」  
突然襲いかかってくる新たな感覚に斗貴子が短く声を上げた。  
制服の上からカズキに胸を触られていたのに気づく。  
しかし直に触られていないせいでもどかしく、斗貴子は慌てて止めようとした。  
「ち、ちょっと待てカズキ。シワになるから脱ぐぞ…」  
一応もっともな言い訳をするが、カズキの手は止まらなかった。  
「気にすることはないよ。だってもう着ないんでしょ、この制服。このまましようよ」  
「こ、こら!カズキ、私の話を聞け…んグ」  
唇を塞がれて文句が言えなくなる。  
しかもカズキの手は相変わらず焦らすような弱い刺激なので斗貴子を困らせた。  
仕方ないのでカズキの手に自分の手を重ね、もっと強く触らせる。  
「斗貴子さん、この手は何?」  
「え…だ、だってカズキが…」  
「おれのせい?」  
中途半端に昂ぶったカラダの疼きは中々収まらなかった。  
斗貴子はプイっと顔を逸らし、涙目で精一杯の抗議をしてみせる。  
「ズ、ズルいぞカズキ……キミはいつも私を困らせる」  
もしカズキの顔を見ていたら何一つ言えなかっただろう。  
それくらいに今の斗貴子は弱かった。  
「ゴメン、斗貴子さん」  
軽く頬にキスをしてカズキはスカートに手を伸ばした。  
 
カズキの手がスカートの中に入り、大切な場所に触れた。  
下着越しにだったが昂ぶった斗貴子のカラダは十分に反応していた。  
「あッ!」  
研ぎ澄まされた神経に電気が流れ、快感が瞬時にカラダ中を駆け抜けた。  
待ち望んでいたはずの感覚。  
カズキのゆびが動く度にもたらされ、あっという間に根を上げてしまう。  
「や、やめ…カズキ、これ以上されたら…」  
鋭敏な感覚と戦いながらスカートの上からカズキの手を押さえようと一生懸命になる。  
しかし斗貴子の手に力は入らず、めくれ上がったスカートを押さえただけだった。  
責められ続ける大事なところを中心に、斗貴子は小さなカラダを丸めてガマンする。  
「いいよ斗貴子さん。イって…」  
カズキの囁きに斗貴子の意思が揺らぐ。  
「そんな…私だけだなんて…」  
「斗貴子さんがイクときの顔、見てみたいんだ」  
下着をずらしてカズキは中にゆびを入れる。  
それだけで斗貴子はイきそうになったが、歯をグッと食いしばってなんとか耐えた。  
しかしカズキのゆびがより一層激しく動く。  
「あ…カ、カズキ!」  
突き抜ける快感に、たまらずカズキの名前を呼ぶ。  
そのすぐ後に全身を震わせて斗貴子は達した。  
 
「…キミは本当にズルい男だ」  
斗貴子はイった余韻に浸りながらもカズキを責める。  
しかしその顔はいつもの凛とした戦士の顔ではなく、普通の女のコの顔だった。  
「可愛かったよ、斗貴子さん」  
「バカ…」  
ぼんやりとした意識の中、カズキが優しく頭を撫でてくれたのに辛うじて気づいた。  
 
 
呼吸が整った斗貴子はカズキに視線を絡める。  
「もう大丈夫なの斗貴子さん?」  
斗貴子は「んっ」と頷いてみせ、丸めたカラダを戻す。  
無防備な姿を見せ、カズキに全てを委ねるような目を向けていた。  
「斗貴子さん…」  
名前を呼ばれただけで斗貴子の胸は、きゅっと締めつけられる。  
カズキの手が胸元のタイに伸びたとき、なぜか斗貴子は首をふるふると振った。  
不思議に思ったカズキと目が合うと斗貴子は顔を赤らめながらごにょごにょと言う。  
「…こ、このままするんだろう」  
「と、斗貴子しゃん!?」  
意表を突かれたカズキの声が裏返った。  
今度はカズキがおどおどして行き場の無くなった手を持て余す。  
「カ、カズキ…早くシテくれ。す、すごく恥ずかしいんだが…」  
「ででででも斗貴子さん、このままじゃできないよ!」  
「そ、それもそうだな………じ、じゃあこれならどうだ?」  
そう言って斗貴子が見せた格好はもっと刺激的だった。  
壁に手を突いて小さなお尻をカズキに向け、スカートをまくってみせる。  
首をいっぱいに曲げてカズキに向けた目は「早くシテ」とおねだり光線を出していた。  
これにはカズキも理性がぶっ飛び、獣と化して斗貴子に襲いかかった。  
「と、と、と…斗貴子さん!」  
「ああ…カズキ、もっと優しくぅ…」  
激しく腰を突いてくるカズキに斗貴子は悲鳴にも似た声を上げる。  
だが艶やかな声を上げていたので満更でもなかった。  
制服を着たままエッチをするのは2人にとっても刺激的なようで、いつもより激しくなる。  
「カズキ…もっと強く…こっ、壊れるくらい…」  
「わかってるよ斗貴子さん。激しくされるのがいいんだよね」  
カズキが突く度に斗貴子の顔が壁に当たる。  
痛みよりもカズキに貫かれる快感が勝り、斗貴子の頭の中が真っ白になっていく。  
「斗貴子さん!」  
「カ、カズキ!」  
最後に斗貴子は自分の中に熱いモノが広がるのを感じながら深い絶頂に達した。  
 
 
 
「…はああああ」  
斗貴子は盛大なため息をついて、ゆびについたベトベトの液体を見る。  
ゆびを広げると自分の出した液体が糸を引いていた。  
「ま、またやってしまったのか私は……」  
銀成高校の制服を着たまま激しく自己嫌悪に落ちる斗貴子。  
ここ最近、決まってこの時間に1人エッチをしていた。  
しかもネタは決まってカズキで、さらにイった直後は決まって落ち込むのだ。  
落ち込みながらもティッシュで事後処理をする姿はなんとも寂しかった。  
「うーーー…カズキもカズキだ!  
 私がこんなに寂しい思いをしているのに戦士長と特訓ばかりして!」  
手当たり次第に物に当たる。  
結局寂しがり屋なのかも知れない。  
が、そのとき窓の外に見慣れた姿が…  
「カ、カズキ?」  
どこかで見たような…既視感(デジャブ)を感じた。  
とその時、斗貴子の頭に二択が表示される。  
 
声をかける?  
声をかけない?  
 
斗貴子は重要な分岐点に差しかかったのを感じずにはいられなかった…  
 

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