その頃大浜は、ラジオと共に「燃えろファイアー! た、た、かえー!」などと歌っていた。炎の転校生だ。
パピヨンは、度重なる蹂躙ですっかり桜色に染まった膨らみに覆い被さり
蝶が蜜にするような静かな調子で、含んだ桃色の突起を舐めしゃぶる。
硬く尖ってはいるが、舌で弄ぶたびにプルプルと弾み、黒と紫の受乳者は妖怪のような笑みでそれを楽しむ。
「………っ!」
まひろは目をぎゅっとつぶって刺激に耐えている。
見なきゃダメ見なきゃダメと言い聞かせているものの、反射的にそうしてしまうのだ。
息を詰め、ベッドシーツをそれ越しに爪が食い込みそうなくらい一生懸命握っている。
淡い乳輪の辺りに熱い息がかかり、全身の肌がぞくりと逆立つ。
はだけた白衣からこぼれおちる膨らみが持ち上げられ、果実にするように大きくねぶられる。
ちゅぱっ ちゅぱっ と生々しい水音は羞恥を期待してだろう。
音を聞くたび、下腹部に尿意のようなムズ痒さがもぞもぞと湧き上がり、ひどく切ない。
スカートからまっすぐ伸びる太ももを、モジモジとこすり合わせる。
付け根はじんわりと熱を帯び、少し湿っているような気がした。
しなやかな太ももに、膨張した股間が押し当てられる。
パピヨンは性格や仮面のせいでそうには見えないが、しかしまだ20歳の青年だ。
この状況に無反応でいられるほど枯れてはいない。
先ほど同様、恍惚とした顔つきで怒張を押し付ける。
しまっていた核鉄が自然に押しのけられてしまうほど、そこは硬い。
鳥肌が、甘く恐ろしい疼きに変わっていく。
乳首がまた一段と尖り、新たな昂揚と執拗な愛撫を呼ぶ。
口で転がすのをやめるとすかさず、舌の裏でぬっとりと力をかける。
かけたまま、パピヨンは顔を傾けゆるやかに、頂点から白い中腹まで舌をずらした。
シーツを握る手が、一度脱力し、力なく握り直す。
白い肌にベットリついた唾液が、蛍光灯を反射して艶かしく光る。
それを満足げに眺めながら、パピヨンは再び乳首に口をつける。
舌をつくのは汗か角質か、酸味がかったしょっぱさ。甘さよりも誘惑的だと密かに笑う。
「…ぁ」
変化を予期したのか短い声が漏れる。丹念に這わされた舌は、引き込むように動きを変える。
「ふぁ…ま、待っ──」
切羽詰った制止が終わらぬうちに、あどけない蕾は下歯と舌でゴリゴリと擦られ始めた。
「ふわぁぁあ!」
不規則に突き抜ける硬軟ふたつの刺激に、白い顎(あぎと)が天井を仰ぎ、ナースキャップが落ちた。
気づかず、ただ苦しそうに眉根を寄せる表情が、皮肉にも興奮を誘う。
パピヨンはコリコリした乳首を甘く咀嚼し、空いた手では均整の取れた美巨乳を、弧を描くように揉みしだく。
肌はひたすら健康的で、ハリのある柔らかさを手に感じるたび、うっとりと息を吐いてしまう。
まひろの顔はというと、すっかり上気し、伏目がちで前髪も汗に濡れて、ひどく大人びて見える。
せわしなくつく息にはリンゴの甘さが混じり、パピヨンの鼻腔を心地よくくすぐる。
だが彼は一旦手を止めた。理由はよく分からない。
まひろは不意の解放に、ねぼけたような表情であたりをボケーっと見回した。
そして状況を再認識すると、弱々しく指パッチンをした。何か思いついたらしい。
肩に垂れる髪をそーっと乳房に乗せてみる。頂きはめでたく栗色の流れに埋もれた。
(やった。コレで見られない)
満足げに頷くと、つられて髪がズリ落ちた。
「ああっ!!」
まひろは真っ白になって叫んだ。せっかくの目論見がパーだ。
「うるさい。何を騒いでいる」
「あのね。あのね…… 隠そうとしたけどズレちゃったの。
マンガだったらどんなに動いても見えないのに。長さが足りないのかな…?」
「足りないのはキミの頭だ。物理的にムリだろ」
ふと見上げた顔が、自分より年上っぽくてパピヨンはドキリとした。だが。
「ひどい! 私はコレでも一生懸命なのよ!」
口をつくのは幼い抗議の声で、ため息をついてしまう。
あまりに違いすぎていて、ふと、自分が言ったコトが脳裏をよぎる。
(正反対、か)
パピヨンが拒絶を望んでいても、まひろはそうではない。むしろ受け入れようとしている。
……言うコト聞くから。ちゃんと聞くから。ガマンするから。
だから部屋に居てね。…………約束だよ
まひろの言葉が、心に重くのしかかる。
正反対なのが可笑しくもあり、悲しくもあり、ほんのちょっぴりだけ嬉しい。
まひろがカズキの妹でなくても、同じ気持ちになったのかも知れない。
その頃大浜は、「争う痛みうぉー胸に秘めて敵を撃てェーz_ッ!」などと歌っていた。戦士よ起ちあがれだ。
まひろはショーツ一枚を残した全裸になっていた。パピヨンも同じく。
気の変わったパピヨンの指示で、まひろは服を脱いだ。
頬を染めながらおたおたと服を脱ぐ姿は、実に良かった。
また髪で胸を隠そうとしたが跳ね除けられ「ああっ!!」と叫んで、怒られもした。
ナース服もステキ衣装も、ビキニパンツもブラジャーも、足元の方に散乱している。
その中にもちろん核鉄もある。
故にパピヨンの回復は断たれ、彼は本来の体力で行為に臨むコトになる。
「だだだだって、やっぱり恥ずかしい…」
ちらっとパピヨンの股間を見る。
そこは一言でいうと赤黒い。
薄い陰毛からにょっきり生えた怒張は太く長く、カサが大きくせり出して凶悪な印象がある。
見たいけど恥ずかしい。でもあんまり見たら悪い。おかしな葛藤で見たり見なかったりする。
そういう視線をニヤニヤ受けるパピヨンも、まひろの体のラインに見惚れている。
豊満な胸や腰に見合わぬウエストのくびれに、まひろいう所の「エロス」がひしひしと滲んでいる。
ほっそりとした足だが、太ももには柔肉がほどよく付いて、健康美とでもいうべき眩しさがある。
肌はやはり雲のように白く自由で、総括すると、出るべきところが出た美しい細身である。
男の扇情を駆り立てるのはこういう体なのだろう。
「でも、なんで私だけパンツ履いてるの?」
「趣味だ!!」
間髪入れずにパピヨンは叫んだ。
「ええーっ!! どういうコト!?」
「こういうコトさ。」
くつくつと悪辣に笑いながら、パピヨンはショーツを見る。
筋の形にショーツが湿り、秘所がかすかに透けている。
その上に位置する赤リボンの刺繍(ベタだ)に映る黒い影は、恐らく陰毛だろう。
パピヨンにはその光景がいい。
ただの全裸を布一枚で覆っている方がエロスだと、経験から知っているのだ。
そのままショーツの中に指を突っ込みたい衝動を押さえて、ゆっくりと外からなぞる。
「ひゃっ!!」
身をよじらせると、なだらかに潰れた膨らみが大きく弾む。
「おやぁ? なんだかんだ言ってもすっかり湿っているじゃないか」
「うぅ… なんだかよく分からないけど言わないで……」
改めて嘲る調子に、まひろは伏目がちに困り果てた顔をする。
とろりとした熱が瞳に宿り、思わず唇を奪いたくなる色気がある。
指に力が一層こもり、まひろは細身をピクピクと振るわせる。
「それにそんなことしたらパンツが汚れ… ん…!」
「洗えば済む…」
相変わらずどこかズレた事をいうまひろに、パピヨンは無遠慮に指先を更に押し付ける。
(待て… 今のやりとり…)
天井裏から覗いたカズキと斗貴子がしていたそれではないか。
なんかスゴく腹が立つやらカズキを相手にしているような照れが沸くやら、感情の始末に困る。
でもとりあえず、愛撫は続ける。
ピースサインできゅうきゅうと乳首をつねりながら、更に肉芽を薄布ごしに押してみる。
「ひゃん!」
子犬のような嬌声を上げると、だらしなく表情を弛緩させて、はぁっと大きな息を吐いた。
先ほど食べたリンゴの甘い匂いが立ち込め、パピヨンの何かが切れた。
「や、や…な、なにっ ふわぁああ! あっ、あっ、んぁぅっっ!」
乱暴にショーツの中に手を突っ込み、揃えた二指で強引に擦り上げる。
粘り気のある液体が指に絡み、生暖かさともつれあうように筋を激しく上下させる。
ぴちゃぴちゃと淫猥な水音が静かな部屋に響く。
まひろの細い肩が震えに振るえ、ひっきりなしに声が上がる。
「あぅ! お、おちつ…はぁっ! んんん…! 落ちついっ…ぁあ!」
首をもたげて懇願する相手へ見せつけるかのごとく、突起を力任せにつねった。
「ああああああっ!?」
甘い痺れが全身を貫き、まひろはぐったりとベッドに沈む。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
天井に赤面を向け、全力疾走したように大きく激しく息を吐く。
「イっちゃたようだね」
ニタァっと笑うパピヨンの言葉の意味は、もちろんよく分からない。
「なんかホワホワする… けど」
焦点の合わない目で、パピヨンを探して見据えて、こうも言う。
「ちょっと気持ちよかった……」
夢見心地でえへらえへらと無邪気に笑う。
パピヨンは舌打ちした。
陵辱するつもりでやっているのに、素直に気持ちいいと言われては立場がない。
(俺はどこまで行ってもこいつに勝てんのか? いや勝たなくてはならん! いつだって俺は勝ってきた!!)
子供のような顔を、真剣に見据える。
相手は、唯一負けた男の日常の象徴なのだ。
決戦を控えたこの夜、それに勝てずしてどうするという闘志がメラメラと湧いてきた。
赤黒い怒張もホットホットだ。
「じゃあもっと気持ちよくさせてあげよう」
「待って… 何を…」
太い枯れ枝のような指が、秘裂に進入しかき回す。
愛液はその分泌を増し、、水音はぐじゃぐじゃとやかましい。
「くふっ! ダメ… ダメ! ちょっと止まっ… ひぃ」
達したばかりで敏感な箇所だが、好都合。
二本の指に少し力を込めて、膣壁をかき回す。
生暖かい粘液はとめどなく溢れ、甘いチーズのような匂いが広がっていく。
もはやショーツは透けきって、激しく動く指のシワの数すら見える。
「頃合か…」
「や… 今度はなに?」
腰を浮かせてガッチリと手を回し、もう片手でショーツを脱がしにかかる。
やがてそれは、たっぷりと吸った愛液の尾をキラキラと付けながら細い足を抜け、適当な場所に置かれた。
(あ、ダメ! ここだけはダメ!)
まひろは慌てて右手を伸ばして、隠す。
ただし。
白魚のような指たちは、なぜか右太ももの辺りを重点的に隠しているので
ぷっくりと盛り上がる恥丘の裂け目も、花弁も肉芽も、半分はパピヨンの目に映っている。
栗色の毛は綺麗にそろっているが、毛深い。そして硬そうだ。
それを暫くからかった後(ちなみに月に一度はさみで切ってるらしい)、
「ところで、キミの大事な場所が半分以上見えてるぞ」
と告げると、一瞬の沈黙の後、まひろは慌てて左手を伸ばした。
「なんだ今の間は。と言うか、隠すなら、手をズラすだけでいいんじゃないのか?」
「え、ええと、気分かな? きっと気分のハズよ。あははは」
白々しく笑いに、鋭い眼差しが向き、まひろは露骨にギクリとした。
「べべべ別に、右太ももの付け根にホクロが二つあるとかそんなんじゃないから、絶対に見ちゃダメだよ!!
え、何、どうして笑ってるの…?」
眼前に浮かぶパピヨンの顔は、凄まじい期待感と狂気に満ちてくつくつと笑っていた。
「つまり、あるんだな? ホ ク ロ が」
「いえ、ないデス! ほんとうデス! 変態さん、自分で質問を質問で返すなって言ったのに返してるし!」
股間を一生懸命押さえながら、まひろは汗をだらだら流した。
伸ばした手に乳房がぐにゃりと潰されていてエロスだが、当人は何かを隠すコトしか念頭にないらしい。
「ないなら見せろッ! まぁどっちにしても俺は見るがな!」
めっちゃ嬉しそうな声を上げると、パピヨンは(勢いのある墨絵を想像すべし)まひろの両手を剥ぎ取った。
「いやぁ…」
また消えそうな声が上げる。
まひろの足に割り入ったパピヨンの眼前に、ホクロが二つ。
しなやかで柔らかそうな太ももの付け根に、なるほど確かに存在している。
だがそれは本当に小さくて、きっと隠されなければ気づかなかっただろう。
「薮蛇だね。しかしまぁ、おかしな所にホクロがあるもんだ」
「ココだけはホントに見ないで…」
別段、欠点らしい欠点ではないのだが、まひろは体のどこを見られるよりも恥ずかしそうだ。
羞恥の基準がよく分からないが、まぁ、天然ボケはそんなモノかとパピヨンは納得した。
「じゃあ俺の質問に答えたら、見るのをやめてやろう」
「本当っ? どんな質問?」
まひろの顔はパァっと光り輝き、パピヨンは耳たぶまで真っ赤にしてうつむいた。
「そのな。その。あれだ。キ、キミの兄も同じ場所にホクロが…その、………あるのか?」
責める立場なのに、パピヨンの声は羞恥に震えている。
無理もない。屋根裏からは見えなかったカズキの恥部が、明らかになろうとしているのだ。
しかしパピヨンは聞いてから後悔した。
──嗚呼、こんなコトじゃなく誕生日でも聞けば良かった。
恥ずかしさに、ポっと頬に桜色が昇る。ちょっと照れる。
「そ、そんなの知ら…」
「そんなのだと!」
パピヨンは怒った。恥ずかしいのをガマンした質問を、そんなの呼ばわりだと!
怒り任せに肉芽の皮を剥いてやる。
現われたのは、白い垢がそこかしこに付着しているサーモンピンクの勃起。
「バツだ。掃除してあげるよ」
楽しそうだが冷たい声で告げると、丹念に丹念に力をこめて、垢を一つ一つ取ってやる。
「ああん! あっ、ああ」
叫ぶ口から一筋のヨダレが垂れて、ひどくはしたない。
質問は続く。指で花弁を撫ですさりながら。
「キミだって武藤と風呂に入ったコトぐらいあるだろ。
だったら覚えているハズだ。さぁ言え、言わないともっとヒドい目に遭わせるぞ」
被せ直した包皮ごとグリグリ擦ってやると、ビー玉のような瞳にうっすら涙が滲んだ。
「ゃう…はっ、はっ、はぁぁ… だ、だから、覚えて… やんっ 覚えてないってばぁ…
そりゃ中学生の頃までは入ってたけど……はぅ…」
まひろはいらんコトまで口走る。それがいけなかった。
(中学生の武藤とだと! おのれ俺すら今は亡き早坂秋水の監視を口実に
銭湯で待ち伏せしてようやく武藤と風呂に入れたというのに、コイツは妹というだけで青い肢体を見たのか!)
パピヨンは嫉妬に燃えた。何かが決定的に間違っているような気もするが、それはどうでもいい。
ともかく。
細い足を乳房の上に乗せ、大きく広げてやる。
それで隙間の開いた清楚な花弁へ、更に両手を当てて開く。
くぷり…と粘っこい水音と共に、薄桃色の粘膜が露わになった。
すっかり蜜に浸って艶かしいそこから、チーズのような雌臭が広がる。
それを一通り吸い込むんで味わうと、パピヨンは舌を突っ込んだ。
「ひぃん!」
細腰をビクリとくならせて、まひろは喘いだ。
必死な様子と、生暖かい膣壁に舌がとろけそうな感触が楽しい。
とめどなく溢るる蜜を大音響ですすってやる。
「や…! そんな音立てないでよぉ…… あぁん」
蠢く舌の感触に、くぐもった甘い声があがった。
しばらくそんな風に責めた後、パピヨンは口を離した。
そして渋々、いかにも妥協してやったという顔をして、「なら武藤の誕生日を教えろ」と聞いた。
2月29日、との答えにアイツらしいと感心すると、
「アイツ…? 違うよ、私の誕生日だよ」
とまひろは息をせわしなく吐きながら答えた。
「どうしてオマエの誕生日を答える。俺は武藤の──…」
「え、『武藤の誕生日』って聞かれたから私のかなーって」
声を遮って、きょとんとした顔が答えた。そしてやがて、ああ、と納得した。
「あ! お兄ちゃんの誕生日? それなら12月1日だよ。お兄ちゃんのコト、武藤って呼んでるんだねー」
「当たり前だ」
武藤カズキとも呼ぶが、カズキとは呼ばない。そういう馴れ馴れしさが嫌いな性分なのだ。
それがまひろにとってややこしい。そして勘違いを生んだのかなーと思う。
「けど、私も武藤だよ」
憔悴した顔がそう言い、得意げに、そして柔らかく微笑む。
よく笑顔を花になぞらえるが、その笑みはひまわりのようにおおらかだ。
英語ですら太陽を冠する花の笑いに、しかし蝶はひやりとした。
「兄妹だから苗字が同じ」と言ってるのだろうが、同一視を看破されてるようで、気まずい。
そういえば、「俺は武藤の友達だ」と言った時、まひろは嬉しそうな顔をしていた。
「ひょっとして、俺のコトを友達だとでも思っているのか?」
「…うん。今はそうだよ」
誤解である。あの時のまひろは「武藤」を自分だと思い、友達だとも思ったのだろう。
推測になるが、友達だからこそ必死に部屋へ引き止め、ブラボーから匿ったのかもしれない。
しかし誤解がなかったとして、違う行動を取ったかどうか。
『お兄ちゃんの友達なら、私にとっても友達よ!』とでも言って、同じ行動を取っただろう。
そういう人間なのだ。ちょっとした結びつきを大事にしたがる。
「私は好きだよ変態さんのコト。意地っ張りで物知りで可愛いから。
だから、私のコトはまひろって呼んで。まひろちゃんでも、まっぴーでもいいよ」
行為の最中とは思えないのん気な調子で、言う。
「呼ばん! 確かに俺は物知りで天才で美しいがどこが意地っ張りだ! 好きとか言うんじゃない!!」
暖かい目線を注ぐ顔は、どうも怒鳴りたくなる。得体の知れない感情が湧いてくるから。
この上名前を呼べば、それこそ決定的に変わってしまう気がする。かつての自分がカズキにされたように。
まひろは、ただの照れだと思っている。一緒にいればいつかは呼んで貰えて、ストロベリーになれるとも。
意識の間にある溝は、深い。
真史は、「逃げ場なんてないさ! うーそも矛盾も飲み干す強さ、と共にィ─z_ッ!」などと歌っていた。Reckless Fireだ。
ラジオでは熱い曲のメドレーが掛かってて、真史は歌っているのだ。
その心中にはやり場のない怒りが充満しているが、彼自身はどうしてかわからない。筆者にもわからない。
果たして、夜中の屋外でラジオと一緒に歌っているような男(スク水フェチ)に春は来るのだろうか。
そこなんですよ。人間賛歌を描いてて悩むのは。答えはあるのか?
まだ口紅よりも菓子の食べカスが似合いそうな幼い唇から、赤黒い怒張が見え隠れする。
あぐらをかくパピヨンの股間に栗色の髪が埋まって、ぎこちなく上下しているのだ。
先ほどのやりとりの最中でも、秘裂に思わず生唾を飲むコトがしばしばで
怒張も痛々しいほど張り詰め、先走りもびちゃびちゃとこぼれていた。
ともすれば最後の一線を越えそうな衝動が首をもたげ、それを収めるべくまひろに咥えさせた。
陵辱する気はさらさらない。陵辱じみたコトは拒否を勝ち取る一手段にすぎないのだ。
しかし、太い血管が脈動する恐ろしげな肉棒を目の当たりにしても
まひろは少しためらうだけで、最終的には、本当に小さな小さな口でするりと飲み込んだ。
動きは本当にひどくつたない。
けれど、歯を立てないよう歯を立てないよう気を遣っているのが感じられ、配慮が心地よくも寂しい。
パピヨンからは見えないが、力なく眉毛を下げて恥ずかしそうに目を細める顔は一生懸命だ。
収まりきらない肉棒をできるだけ咥え込み、膨らんだ頬を苦しげに歪めながら、ふぐふぐと上下する。
先走りの苦さに耐え、その忍耐が肌を赤く上気させる。
触られていた時と同じくらいの愛液が、秘所からこぼれシーツに染みを作っていく。
陰毛にカズキに似た前髪がツンツンとあたり、パピヨンは無意識的にそれをかきあげた。
結果、頭を撫でるような格好になり、まひろは苦しそうに笑った。
「ふぃふぉひひひ?」
「悪くは…ってやめろ。見上げるんじゃあない」
子犬のように純粋な瞳と目が合い、パピヨンの顔に複雑な感情がさぁっと走った。
一つは、瞳がカズキに似ていて、カズキにこういう行為をされているような感じがしたからだ。
もう一つは、青く冷えた言いようのない感情に飲まれそうなのもあるが、カズキを思うとどうもダメだ。感じてしまう。
そしてまひろは、見上げるなという言葉を誤解した。
下からだと、仮面の隙間から素顔が見えそうだ。
それに気づいて、それを嫌がっていると思った。
(でも私だって見られたしいいよね!)
考えは基本的に明るい。それがこの場での唯一の救いだろう。
優しい顔で見上げたまま首を捻る。ちょっと素顔が見えそうで、粘膜が当たってパピヨンはビクっと震えた。
「コ、コラ」
「ふふふ」
狼狽する様子を楽しそうに見上げつつ、清水の舞台から飛び降りる気持ちで、舌を使ってみる。
尖端をチロチロと舐める。苦い。
けど額にシワをよせながら、水を飲む子犬のようにピチャピチャと舌を動かす。
一段と質量を増した怒張に驚きながら、ちょっと前に視点を移す。頬やら鼻梁の端っこが見えた。
「だ、だから見上げるなぁ…」
切羽詰った声が上がり、まひろの頭ががっしりと掴まれた。
「ふぁ、ふぁひ!?」
まひろは強引に下を向かされ、そのまま激しく上下に揺すられた。
怒張がノドに当たり、むせそうになる。
「くふっ、くふっ、んぐぐぐぐぐ… くふぅ……」
髪がたなびき、鼻にかかった苦悶の声にパピヨンは陶然と笑う。
激しく擦れる粘膜にヨダレが幾筋も垂れて、気持ちいいコトこの上ない。
屹立を咥えているのはカズキだ、声を漏らしているのはカズキだ、大好きだカズキ。
若干倒錯した感情に、気分は高まり粘っこい息が絶え間なく吐かれ、やがて放出の時を迎える。
「あ、あ、出る、出るよ!」
「ふぁひぐぁ!?」
びゅるびゅると口中に熱い白濁が流し込まれ、まひろは目を白黒させた。
シーツの上で激しい息が重なる。
射精直後の青年と、それを受けた少女は、並んで寝そべりビクリビクリと体を震わせている。
「んん、んんんん!」
白い筋を口からツツと垂らしながら、まひろは横を向き、しかめっつらで口を忙しく指差した。
「コレ、どうすればいいの? すごく苦いけど捨てちゃなんだか悪いし…」と言いたいらしい。なんとなく分かる。
「だから、捨てろと…」
気だるそうにティッシュへ手を伸ばす。
完全に回復してない状態で放出したせいで、ひどく消耗している。
「くれてやるからさっさと始末しろ。あと、しばらく話し掛けるな。できたらイヤと言え……」
枕元からティッシュを何枚か取り、渡す。ちょっと気弱な口調なのはアレだ。
カズキを欲望の始末に利用してしまった罪悪感があるのだろう。
まひろはというと、白くドロドロ光る粘液をティッシュに吐き出し、その量に驚きの声を上げた。
「苦いはずだよね… でも、コレが男の人の………」
初めて見る液体に、感動と満足の声をひっきりなしに上げる。
(言うな。いちいち感動するな。ああダルい)
足元に核鉄が見えるが、それを取って回復する気にもならない。
ぶっちゃけていうと、このまま眠りたい。でもそれをしたらまひろに負けるコトになる。
「大丈夫…?」
「ちっとも大丈夫じゃあない。いい加減ほっといてくれ」
窓際にいるパピヨンはぷいと顔を背けて、カーテンを所在なげに見つめる。
がっちりした肩が大きく息をする。まひろはじっとそれを見つめ、「そうだ!」という顔をした。
「ちょっと待っててね。だるい時にぴったりの方法があるから!」
ベッドから下りる気配がした。
睡魔と戦いながら、水でも持ってくるんだろうとぼんやり思う。できたら舌が火傷しような熱々のコーヒーが飲みたい。
コトコトという何かの作業音がしたが、見る気にはならない。
やがて戻ってきたまひろが、「コレ飲んで元気だしてね」と薄汚いコップを眼前に置いた。
なみなみとコーラが注がれているそれには見覚えがある。さっきまでコの字の上に乗っていたモノだ。
「まぁ、ないよりマシか」
炭酸の抜けたコーラは栄養たっぷりだとか言っていた。だから今にぴったりなのだろう。
パピヨンは勝手に納得すると、大儀そうに身を起こし、飲んだ。飲み干した。
それを毒気のない顔でニコニコと見届けたまひろはうんうんと満足げに頷いた。
「これね、お薬混ぜたんだよ。だから、だるいのも治るよきっと」
ぼふっと鈍い音がした。
コップがシーツに落ちたのだ。幸い、もうすっかり空なのでシーツは無事だ。
けれどパピヨンは無事じゃない。襲い来る正体不明の恐怖に思わずモノローグが入った。
【一分前の春の夜…】 ドクン
【オマエはコーラに何をした?】 ドクン
【何をしてしまった……!?】 ドクン
薬とやらに覚えが一つある。
天井裏から御前から没収した。ブラボーが来た時に股間から取り出した。
媚薬という名の穢れた薬。それをコーラの横に置いていたではないか。
(どうなった…頼む、入っていてくれ。無事でいてくれ)
バッと振り返り、祈るような心持ちでコの字の上を見る。でも空だ。
願いというのは叶わぬものかと、逆に笑いたくなった。
「つまり混ぜたんだな。オマエは小瓶の中身を混ぜたんだな」
「いぐざくとりー!(その通りだよ!)
苦いお薬でもコーラに混ぜたら飲みやすいかな〜って。
でもあのお薬、何のお薬? メロンソーダみたいだったけど」
「ああ、ブラボーとやらが帰った後に言ってたいい方法だな。
なるほど、ずっと考えていたわけだ。ハハハハハハ」
和やかに笑う。まひろもつられて笑う。
パピヨンはけたたましく笑った。ヤケなので血を吐くほど笑った。まひろは拭いてあげた。
やがてパピヨンは目を濁らせたまま、大手を広げて天井に向かって絶叫した。
「何が『いぐざくとりー!(その通りだよ!)』だ!!
なんてコトをしてくれた… なんてコトをしてくれたんだ…… 俺たちは、バカだ!!」
まひろは思った。オービーの弟と横山水滸伝の黄信のセリフとBJネタを混ぜるなんて、変態さんは欲張りだなぁと。
でも黄信なんて分かり辛いネタはアレだし、パピヨンの不健康な肌は火照りを帯び始めた。
パピヨンに危機が迫る。