媚薬の元の持ち主は、桜花と御前である。
彼女たちはそれを、斗貴子への軽い復讐に使おうとし
それを没収したパピヨンは、今、コーラと共に小瓶一杯ほどを飲み干した。
容量から見て、どうなるか?
皮膚が感覚的に淫らな粘膜と化し、触れる処女の指先すら娼婦の愛撫になるのだ。
ゆえに攻めるコトあたわず。全てを受けるがまま喘ぐのみ。
(マズいコトになったぞ。ああ、コイツの言ったとおりバチが当たりかけている……)
逞しく痩せた体であぐらをかいているのだが、シーツに触れる足あたりが熱を持ち「あぁ…」と声を震わせたいほどヤバイ。
動いたらもっとヒドいコトになるだろう。今ですら、放出を迎えた所が完全回復し、乳首なんか既にもう。
(落ち着け。落ち着け。こういう時は動かない方がいい。
中年男が無理して重荷を持ち上げたせいで覚えたギックリ腰の予兆が過ぎ去るのを待つように
じっとしているべきだ。蝶にだってサナギの時はある)
まひろがベッドへ昇った。
安い木製のベッドが軋み、その振動に「ぁぅっ」と小さな声が漏れたような気がしたが、真相は分からない。
一糸纏わぬ姿でパピヨンの前に座ったまひろは、三度目の正直とばかり、髪の毛で豊かな胸を隠した。
しかし、キレイに揃えたその細足の付け根では、濃い恥毛が愛液に濡れて光っているのが丸見えだ。
その光景すら媚薬は快楽に変換しているらしい。
こっそりと目を這わせたパピヨンは危うく悶えそうになった。
視線を感じたのか、まひろは慌てて恥丘を手で隠すとコケティッシュに眉毛を吊り上げた。
二人は全裸なのだ。
にもかかわらず「寒い」とはどちらも言わない。
それは行為の残り火のせいか、それともこの部屋が元々暖かいだけなのか。
(どちらにせよ、外よりはマシか)
静かな充足すら覚えているパピヨンに対し、まひろは突如、口を開いた。
「お薬混ぜたの分からなかったでしょ? でも、ちょっとすっぱかったよね」
本当に無邪気な顔だ。しかしそれが告げる事実に、戦慄がさぁっと走った。
「…飲んだのか? オマエも薬の混ざったコーラを」
「ちょっとだけだよ。ほんの一口」
パピヨンは、凄まじい喪失感を覚えた。
迷った末に飲ませまいとした媚薬を、まひろは飲んだ。
思い描くコトは、栄誉も不老不死も超人の矜持も、世界が、いや、世界の作る自分以外が壊していく。
それに慣れ親しみすぎて感覚は枯れ果てて、誰よりも自分のコトしか考えないようになった。
なのに。
他者たるまひろに媚薬を飲まれ、喪失感を覚えている。
死んだ蝶を見ても痛まない胸が、痛んでいる。
パピヨンは吼えた。
声は疲労でかすれていて、廊下にすら届かない大きさだが、それでも吼えずにはいられなかった。
「どうしてオマエは用途の分からん薬を飲むんだ! 本当に警戒心を持て!
でなくばいつか本当に痛い目を見ると、どうして理解できん!」
「え、味見したかったし、舌も苦くてコーラ飲みたかったし、ちょっとだけなら大丈夫かなーって」
のん気な回答に、一気に頭をよぎる陵辱もどきを受け入れる姿に、腹が立つ。
顔へ仮面越しに手のひらを大きく当てて、頭痛を抱えたごとく唸る。
嫌になるほどズレている。
そのくせ真剣で懸命だから始末が悪い。
でもその姿はカズキと同じで、決して嫌いになれない。
「だから俺はオマエが嫌いだ!!」
あっ、とまひろは口を開きかけた。パピヨンは次の言葉を予見し、頬を引きつらせた。
──ダメだよ怒鳴っちゃ。また血を吐いちゃうから。ね?
マジメな笑顔が脳裏に過ぎる。言葉に詰まり、それが心底忌まわしい。
しかしその様子が単なる逆上じゃないと、まひろは思った。
パピヨンが「オマエ」と呼ぶのは、困ったり不機嫌な時だと信じている。
(困ってるんだ。きっと色々なコトを心配してくれてるけど、どう言えばいいか分からないだけなんだ)
単なる逆上ならまず、自分が騙され薬を飲まされたコトを責めるだろう。
でもそれにはちっとも触れていない。まひろの迂闊ばかりを怒っている。
「やっぱりマジメだね。私のコトを考えてくれてる……」
まひろは改めてパピヨンを見直した。不器用で口の悪い男だが、それもマジメなせいだからと思う。
そして笑い、「お薬飲んじゃってゴメンね。これからは気をつけるよ」とも謝り、更にもう一つ。
「でも、肩の力は抜いた方が楽ちんだよ」
とも付け加えた。顔はほのぼの生真面目だ。
予想外の…いや、どこまでもまひろらしい反応に目を丸くする。
こういう所もカズキと同じだ。何を言っても穢れた敵意は返さないし、罵られても非があると思えばすぐ謝る。
嫌いといったそばから、寛大な包容力を良いと思ってしまう。
けれど飲まれた媚薬を思うと、言いようのない怒りと寂しさが湧いてきて、
どうすれば、何を毒づけばいいか、すっかり分からない。
そんな時に肩の力を抜けるほど、器用でも、いい加減な性格でもない。
カズキや秋水ならば、「穢してしまった」と青臭い生真面目さで反省し、すぐに謝るだろう。
しかしパピヨンには、青臭さよりも現実的な──
例えるなら干からびた火薬のように敵意を凝縮した──思索の方が多い。
「俺がさんざ譲歩してやったと言うのに、勝手に飲んで勝手に穢れてどうする!」
と火がついたように叫び倒すのが最も彼らしいのだが、しかし。
まひろは既に謝った。その姿を良いとも思った。
だから生まれて初めて気が引けて、怒鳴れず、どうすればいいか分からず、苛立ちだけが募っていく。
媚薬で弱い立場に置かれているという認識が、彼を少しだけ昔に引き戻す。
病床でひたすら自分と蝶以外を嫌い、そして底で恐れる弱い蝶野攻爵に。
「うるさい!」
八つ当たり気味に怒鳴る。
「良い」と思った部分は人当たりの良さゆえに、誰にでも見せる部分だと思い始める。
もし、看病も握られた手も、されない否定も、そのどれもが「誰にでも」向くモノだとしたら?
結局パピヨンは「誰にでも」という風景の一部としてしか認識されていないコトになる。
一喜一憂も真剣な感情も、媚薬を飲まれた喪失感も、言えばせせら笑われ終わるだろうとも考えてしまう。
近いコトを花房にされた。
誰にでも作り笑いを振りまく彼女は、「病気で死ぬなら用はない」と言い放ち、次郎に近づいていった。
引きずっているかどうかはともかく、それは経験として確かに存在している。
そう、存在している。
され続けた否定の代表格として、否定だらけの二元論に至った切欠として。
その二元論でモノを見れば、また、怒鳴らずにはいられない。
「俺は武藤の為に言っている!」
ホムンクルス以下の連中にまひろが傷つけられ、カズキの戦意が挫けてはたまったものではない。
だから言っている。あくまで重要なのは武藤カズキ。その妹などはどうでもいい。
そう、自分にも相手にも言い聞かせるように叫ぶ。
「どうせ警戒心のないバカなオマエは誰にでも笑って股を開くんだろう!
そんな武藤気取りの偽善者風情に、賢しい真似をされて俺が喜ぶとでも思っているのか!!」
白い裸体には目もくれず、ただまひろの瞳を見据えて声を振り絞る。
「いい加減に、拒め!!」
そして部屋は静かになった。
シワが波打つ白海の上で、ヒューヒューと嫌な呼吸音が響く。
まひろは悲しそうに目を潤ませ、視線をシーツに落とした。
パピヨンは不愉快そうに顔を歪める。
傷つけたコトに対してか、それともそれを悔やむ自分の未練にか
分からないまま自棄じみた感情が沸き、彼を鋭く叫ばせた。
「今飲んだモノを吐け!」
未だ蜜のしたたる指をまひろの口へ伸ばす。
「吐かせてから俺は行く! ……見下すなら勝手に見下せ!!」
しかし。
手首がそぅっと掴まれた。
手は本当に穏やかな感触で、けれども雷に撃たれるようにパピヨンは慄いた。
「吐かないよ。変態さんが外に行くっていうなら、絶対に吐かない」
湿った瞳が、らんらんと光を帯びる。
しかし否定はパピヨンそのものへではない。
「変態さんじゃなかったらこういうコトはしなかったよ。本当だよ。
私は、変態さんの目、すごく好きだよ」
パピヨンは心底から疑問符を浮かべた。
端整だがドブ川のように濁っているそこを、どうして好きだと言えるのか。
どうして、肯定できるのか。
「コーラみたいで、見ているとね、悲しいけど不思議な気分になれるから」
まひろはその色が変わって、名前で呼び合えるようになって、ストロベリーになれたらと思っている。
「喜んでもらえるかどうかは分からないけど、それでも、私は」
白い紅葉をするすると動かし、骨張った手に絡める。
「変態さんの傍にいたい」
(相手を見て言え! 俺は──…)
日常を害する対極の存在なのだ。警戒心の無さが心底から嫌いになる。
それでも握られた手の確かさは、握り返せないが、ウソだとけして思えない
「だから吐かない。ほんのちょっとしか飲んでないから、私は大丈夫だから、肩の力を抜いて」
まひろは手を繋いだまま、優しい目線でゆっくりとパピヨンを横たえた。
彼がハっと我に返る頃には、既に別のコトを考えていた。
(そういえばまだ)
──カズキと斗貴子みたいなストロベリーでドキドキした関係に憧れるなら、まず触れ合うコトだ。
ブラボーの言葉が脳裏を過ぎる。
(触れ合えばいつかはきっと叶うよね。だから……)
後押しされるように目を閉じると、小さな小さな唇をパピヨンのそれに重ねた。
重ねられた当人は、目をあらん限り見開いて驚愕を浮かべた。
あえて奪わなかった柔らかな感触が、吐息とともにそこにある。
行為に使った場所のハズなのに、肯定も否定も忘れ、どこまでも清らかに思える。
身じろぎもできず、何秒経ったか。
まひろはやがて唇を離すと「えへへ」と照れくさそうに笑った。
「だいぶ遅れちゃったけど……今のが初めてなんだよ」
恥ずかしげに震える声には、「他の人にはしなかったし、するつもりもないよ」という響きがある。
パピヨンは足元に押しやられた掛け布団を見た。それで顔を仮面の上から更に覆いたい衝動がある。
言葉の意味に気づいた自分がどんな顔をしているか、見られるのも覚えられるのもイヤだ。
お互いの顔は、息がかかりそうなほど近い。
ある匂いに気づいて、ボソっと呟きが漏れた。
「…あ、リンゴ」
「リンゴがどうした」
務めて無愛想な声に、まひろは(気づいてないんだ)と悪戯っぽい顔をする。
「リンゴの匂いがするでしょ?」
「さっき食べたから当たりま──…」
パピヨンは言葉半ばでさっぱりとした匂いに気づき、思わず唇を押さえた。
まひろはリンゴを食べたあと、唇を拭かなかった。
その甘い残り香が唇に漂っている。
ただの果汁だと思っても、特別な意味を抱いて、平常でいられなくなる。
「気づいちゃった?」
ちょこんと座りなおしたまひろは、目と口を明るく大きく開いた。
それは子供を褒める母親のような暖かな表情だ。
「う、うるさい。だから俺は拭けと言ったんだ」
「じゃあ想像してたんだー」
「そういう意味じゃあ断じてないぞ!!」
「ホントかな〜? ちなみに私の方は血の味でなんかカッコいい!」
「そういう尺度で計…クソ、もういい!!」
顔を真っ赤にして怒るパピヨンを、まひろはクスクス笑った。
バツの悪そうな顔は、ちょっとだけ明るい目になっている。それが何よりも嬉しい。
そんな顔が見れるなら、キスも、キス以上のコトも、惜しくないと思う。
「最後までしてから、一緒にいようね。少なくても一人ぼっちにはさせないから」
慌てふためいたのはパピヨンだ。
やりとりの最中は(心理にかすかな影響こそあれど)忘れていたが、媚薬で受けにしか回れない体になっている。
(そんな状況で最後までしたら──!!)
眼前には、ハリのある乳房が重力に引かれて果実のようにぶら下がり
幼い色気を帯びた顔が、じっと見据えてきている。
「まて、今はやめろ! だいたいオマエさっき、だるかったらゆっくり休めと──…」
「大丈夫! 変態さんは休んでてもらうから。
でも私は続きをするの。好きな人とは触れあいたいって行動で示すから安心して!」
「その変わり身の速さはなんだ! オマエのペースが分から…ゲホっゲホっ あう……やばいっ咳にすら」
と騒ぐ当人も、分からないペースに飲まれてすっかり豹変しているのだが、やはり気づかない。
まひろは痩身に覆い被さった。
大きな乳房が胸板でぐにゃりと潰れ、パピヨンは切なげな息を吐いた。
暖かさがゆっくりと体に伝わって、葛藤も苛立ちも溶かされていく。
コリコリした蕾同士が偶然に触れ合って、さながらレズビアンの倒錯が走る。
「あッ」
小さく声を立てたパピヨンに、好奇心いっぱいの顔が向く。
「男の人でも私と同じ反応するんだ……」
「言うな。コレには深い事情… くふっ う…やめろ、擦り合わせるなっ」
「どんな事情?」
「言えるか…」
パピヨンはぷいと顔を背けた。桜花を恨みたい気分だ。
まひろは興味津々な様子で、両手を添えた片胸をパピヨンのそこでせわしなく動かしている。
その中心では、尖った淡い桃色と薄い肌色の乳首どうしがキスをするようにもつれあい
パピヨンの脳髄に甘美な電撃を絶え間なく送り続ける。
はぁはぁと細い息が上がり、女性的な唇がきゅぅっと結ばれる。
「変態さん、なんだか可愛い」
「人が動けないのをいいコトに勝手な台詞を言うなぁ…」
「斗貴子さんに似てるかも」
「オマエは失礼だ! 俺はあんな受け丸出しのじゃ…んはぅ」
乳首がきゅうきゅうとつねられ、パピヨンはまひろを睨んだ。
しかし目には力がなく、すっかり抵抗の意思をなくしている。
黒目がちな瞳は濡れそぼり、どこか心細げに震えてすらいる。さぁヤバイぞ。ギャグにしかならなくなってきた。
「男斗貴子さんだ! すべすべしてるし」
「…違うッ、俺は、俺はァァァァッ!」
媚薬すら飲まなければ華麗なる攻めの化身でいられたというのに、という絶望が身を浸す。
(いや待て。コイツだって媚薬を飲んだハズなのになんで余裕なんだ?)
量が少なかったのと、カズキに輪をかけた触りたがりだからだろう。
お汁粉を作るときに塩を入れるのは、塩という全体に相反した存在が、逆に甘さを引き立てるからだ。
人体に病原菌が進入すれば、それを駆逐してより強固な免疫機能が備わる。
ヒュンケルだって、暗黒闘気を飲み込んでめっちゃ強い光の闘気を手に入れた。
それらの例を見て分かるように、人は障害を克服してこそ強くなれる。恐れさえ乗りこなせるなら進化してくのだ。
まひろは媚薬を乗り越えて、更なる攻めの意思を手に入れたのだ。
クロコダインなら、「人間はいいぞ、人間はいいぞヒュンケル」と泣くだろう。
…最近思うのだが、筆者はマトモな濡れ場を描けるのだろうか。
さて、まひろはパピヨンの脇を舐め始めた。
青い剃り跡にチロチロと可愛らしい舌を這わすたび、パピヨンは必死に身をくならせ抗議の声をあげる。
脇を拭いた時にくすぐったそうだったのを思い出して、
色々恥ずかしいコトされたお返しよ、とばかりにまひろは舐め続ける。
子犬がミルクを飲むような無邪気な音が響く。パピヨンは仮面の裏で頬を染める。
匂いを嗅ぐ仕草をすると、本当に恥ずかしそうに言葉を詰まらせるのが可憐だ。
「仕返し終わり! 次はどこがいいでしょーか?」
わくわくしている顔に、パピヨンは黙った。「どうしてオマエは積極的だ」とツッコむ気にもなれない。
「え、えと、答えてくれないなら…えーと」
主導権を握っているとは思えない戸惑いを浮かべ、まひろはおずおずと目線を移す。
その先には、赤黒く天をつく器官がある。
いまだ精液の匂いが冷めやらぬそこは、尖端から透明な液を流し、見た目にも分かるほど張り詰めている。
(ココなら気持ちいいよね… 変態さんも…自分で言ってたし)
モデルのように細長い足の間に身をかがめると、白い胸の谷間へと屹立を包み込んだ。
「んあっ…!」
(は、花房より大き… いや違うサイズはどうでもいい! クソ、言うんじゃなかった!)
パピヨンがまひろに耳打ちした時、からかい半分に言ったコトを、実行されている。
あと「耳を舐めたい」とか「挿入」だとかそんな卑猥なコトも口走ったが、それはともかく。
年不相応に発達した巨乳が、グロテスクにも見える怒張を左右から押しつぶす。
肌は、艶かしく不健康な花房とは違い、瑞々しい若さとハリに溢れている。
そんな柔肉に挟み込まれた敏感極まりない屹立は、快感を感じずにはいられない。
「やめ… くぅんっ は、は、はぅ………」
白い膨らみからにょっきり覗くカサは、そのせり出しかけた部分を微妙に圧迫され、それがもどかしく、そして切ない。
「やめない… ちょっと気持ちいいから……」
まひろはほっぺたをリンゴのように赤く染めながら、上へ下へと動きをつける。
小麦粉をまぶしたように留まらない白い感触が滑っていく。
しかし力の加減が分からないらしく、途中で止まったり話したりとぎこちない。
そのせいでぷにぷにした弾力が不規則に力をかけ、パピヨンは甲高い声をあげる。
鈴口から溢れる先走りがあふれ、純白の肌を濡らす。
「あ、また固くなってる… 変態さんのえっちー」
双乳の間で灼然と質量を増した怒張に、まひろはドキドキしはじめた。
自分の行動で相手がこうも反応するのが嬉しい。
元より従順な性格が、奉仕の喜びを覚えはじめている。
「黙れっエロスはオマエのほ… はうぅ…っ あ、くふぁぁっ」
呼吸が分かってきたのか、ギチっ ギチっ とやや規則的に圧迫する乳質に声があがる。
なにせ触るだけでもため息が漏れてしまうほどの素晴らしい感触だ。
それに擦られる度、媚薬に犯された感覚は、甘美な電流に触れたがごとく
意思に反して大きく震え、焼け付きそうな快楽を脳髄に叩き込んでいく。
パピヨンの視界は白く霞み、言葉は途切れ、小さく開いた口で息と喘ぎをあげるのが精一杯だ。
通常、こういう行為を女性にされる場合は多少なりとも征服感を覚えるモノだが
パピヨンは頬を染めてただ与えられる快楽に震えるだけで埒があかない。
相手の行動で自分がこうも反応するのが悲しい。
しかし黒く歪んだ性質は、虐げられるコトに喜びを覚え初めている。覚えるな。
「じゃあ今度はねー」
根が好奇心いっぱいのまひろは、じーっと自分の胸を見て、思案に暮れ始めた。
反応して貰えるのが嬉しいので、もっと工夫をしたいらしい。
うむ、とヘンな顔で頷いた。名案が浮かんだらしい。
「こういうのは気持ちいいかも」
量感のある膨らみを掬い上げるように持つと、左右別々に動かしはじめた。
「くふぅっ、や、やめぇ… ちっとも気持ち良く……」
「慣れるまでの辛抱だよ。それに…」
うっとりととため息混じりに、双乳を撫で付ける少女はこうも言う。
「私は気持ちいい…… なんだかビクビク動いてるよ……」
「そんなコト、言うなぁ」
世にも情けない声をパピヨンは上げた。いかに取り繕おうとも体は正直なのだ。
意中の相手そっくりだと思う相手に奉仕されて、反応しないワケがない。
「うわわっ!」
突然上下運動が激しくなり、パピヨンは可愛らしく喘いだ。ノドはカラカラだが、声は綺麗だ。
まひろはと見れば、また両脇から乳房を押し付けて
ふぅふぅと息を漏らしながら一生懸命に素早く動いてる。
「これだったら気持ちいい?」
雲の様にキメ細やかな白い肌は、押さえられていても動きにつられて魅惑的に揺れている。
頂点の突起はすでに充血しきり、鮮やかな紅さでツンと尖っている。
そんな光景と弾力たっぷりに屹立を擦り上げる感触に、感じない男はいないだろう。
「い、言わないぞ。何されようが絶対に言わないぞ」
息も絶え絶えにそう言うのが、虜から逃れる唯一の術。恥辱にまみれても気高さだけは失わない。
「激しいのはダメなのかなぁ…?」
動きをぴたりとやめると、まひろは、乳房を解放した。
ついに訪れた解放の時! パピヨンはほぅっと暖かな息を吐き、自由への希望に心を安らげた。
ツンと尖った乳首が、膨らみきった亀頭に力強く押し当てられた。不意打ちだ。
「はぅあ!!」
硬くも柔らかくもある弾力が、もっとも敏感な箇所を一局集中していて、地獄と天国を同時に見た。
「ゆっくりとするね。おっぱいじゃ気持ち良くなさそうだったから…」
「やめろやめろやめろやめろ! おっぱ…じゃない胸の方が気持ちいいからやめてくれェェェ!」
苛烈なる攻めの前に、ついに気高さは崩れ去った。パピヨンは一筋の涙を流した。
「あ、ありがとう」
まひろは嬉しそうに屹立へ胸を寄せると、むぐむぐと唾を溜めて、せめぎ合う隙間へと垂らした。
こうすると滑りが良くなるのだ。
「ちょ、待て、それで動くのは… うおおっ!」
制止むなしく、再び動き出された瞬間、背筋にゾクゾクと鳥肌が走り、パピヨンはお腹だけを仰け反らせた。
重苦しい摩擦は消え、かわりにとにかく滑る。生暖かい蠕動(ぜんどう)は膣内と遜色ない。
いつ放出してもおかしくないぐらい、甘美な脈動が断続的に襲い来る。
刺激を受けるたび、全力疾走した後のように体から力が抜ける。
正直、白い膨らみから赤黒い尖端が見え隠れする光景はヤバイ。
(あ、ああっ、コレはコレで…… できたら歯を立ててくれ…)
なのに、はぁはぁと青息吐息をつきながら現実に迎合しかかるパピヨン。それでいいのか。
「じゃ… エロスな真似をもっとしちゃう」
赤黒いカサに、まひろはチロチロと舌を這わす。
「やっぱりダメ〜」
と顔をしかめたのは苦さにだろう。ちょっと涙目で飲み込んだ。
しかし眉毛はシャキンと居直る。立ち直りの早さも兄譲りだ。
「でも頑張る!」
「頑張らんで…い、いや、どうだろ……」
弱気なパピヨンの声はともかく、まひろは胸の谷間からちょこんと覗く尖端を咥え込んだ。
「く、くぅっ!」
口から出されるたび、小さな唇がまくれあがって擦れるのがたまらない。
そんな様子に気を良くしたのか、舌を横から這わしたり、また乳房の動きを変えたりするまひろは
攻めに回っているとは思えないほど健気な瞳をしている。
行為を淫靡などとは思わず、純粋な愛情表現として捕らえているのだろう。
一つ一つの動きは拙いが、心は確かに篭っていて、それがパピヨンに快感を与える。
(んな分析に浸ってどうする。できたら噛んで欲しいが俺の本質は攻めのハズだッ!)
やはり迎合はしないらしい。未練がましく自分を鼓舞すると乳房へ手を伸ばした。
「どしたの?」
無邪気な顔で鈴口を舐めているまひろにドキッとしたが、それは無視。
まひろの手ごと乳房を掴み、思うさま腰を降り始めた。
「あっ、やだ突然激しくちゃ、ダメぇ」
「うううるさい、いつまでも受けに回っている俺だと思うな!」
先走りと唾液でぐっちゃぐっちゃと卑猥な水音を立てながら、
あどけない唇に何度も何度も尖端を突きつける。乳房同様ぷにぷにした感触に射精の誘惑が走る。
それは、腰を振るたび猛然と近づいてくるが、意地をかけて動かす。
3秒後。
「いかん、出る、出るっ くっ……!」
「ひゃっ。」
熱の篭った白濁をあどけない顔にブチ撒けながら、パピヨンは達した。いわば、自滅である。
「ああ、だから激しくしちゃダメって言ったのに…」
まひろの声がパピヨンに届いたかどうか。
消耗した所で二度目の放出を迎えた彼は、すごく眠くなってきた。男というのはそういう生物なのだ。
「お、俺は寝るぞ。寝るが、5分、か10分ぐら……いだから、泊…まるつもりはないからな……」
「添い寝しようか? 私も結構眠いよ」
いつもならすっかり寝ている時間なのだ。起きているのは行為に対する様々な興奮がさせている。
そんなまひろの顔には、べっとりと白濁がかかっている。
なんだか鼻水が垂れて持て余している子供のような顔だ。あまり気にしていない。
パピヨンは、遺言のようにこう呟き、眠りに落ちた。
「顔、拭け…」
「うん。わかった。拭くよ。でも」
枕元からティッシュを取り顔を拭きながら、彼女は彼が飛び起きそうな一言を呟いた。
「寝てる間に最後までしちゃったら…… 怒る? だって起きてたら絶対嫌がるし… 」
それは犯罪なのだが……