時は、カズキと斗貴子が気まずく並んで座っている頃にさかのぼる。  
場所は銀成学園寮管理人室、居間。  
 
中央に鎮座するは戦士長、防護服シルバースキンを着込んでいる。  
部屋からははっきりいって浮いている。水に油を混ぜるように浮いている。  
書類が散らばる机、買いたての座布団、「岡倉・ちーちん」という相合傘やら何やらが落書きされている黒板。  
そんな生活臭漂う中の変態衣装だ。  
国会に福永法源を混ぜて「最高ですかー!」と叫ばせてるような違和感がある。最低だ。  
不意に扉が開いた。入ってきたのはちーちんとさーちゃんだ。  
「し、失礼します…」  
「ブラボー先生いますかー?」  
いる。俺ならここだ。けど今忙しいから後にしてくれ。と言おうとする戦士長。  
いる。なんか変なのが。とりあえず逃げよう。目配せして逃げ出す二人。  
遠ざかっていく足音を聞きながら戦士長、襟をはだき茶をすすり襟を正すと、一人ごちる。  
「なんだピンポンダッシュの一種か? 全くブラボーでないにもほどがある」  
いや部屋でそんなん着るあんたのがブラボーじゃないよという声もあるが  
しかしこれはカズキと斗貴子の行為を検分するため、気合を入れる衣装なのだ。衣装は大事だ。  
死神だって、二人きりの状況で「生まれて初めて」をする時は気分にピッタリの仮面を被る。それと同じなのだ。  
 
ちなみに彼は心得たもので、部屋に6箇所。ちゃんとカメラを設置して、90分3600円のテープに標準録画している。  
視点の切り替えは奥歯に仕込んだスイッチで行う。(加速はできない)  
「故に下からとか下からとか下からとか、極めて多角的に二人の行為を見れる俺に死角は、ないッ!」  
などと思っている間に戦士・斗貴子が服を脱いだ。カチ。横からだと胸が悲しく映るから正面から映す。  
「よくぞ脱いだ!!! …さすが戦士・斗貴子…! …それでこそ年上! それでこそ錬金の戦士だブラボーだ!」  
勝手に戦士長は喜びながら、シルバースキンのポケットから52番の核鉄を取り出して呼びかける。  
「オマエと共に見届けよう! 誰より今、自分の未来を信じているブラボーな二人を!   
二人の目覚めていく心は誰にも止められない! それを共に見届けよう!」  
テレビの前で叫んでいるその様は、まごうことなき不審者だ。  
 
「不審者?」  
「そうなんですよ、管理人室に変なコートを着た人が…」  
身振り手振りで”変なコート”の形を作りながら説明するさーちゃんの前で、岡倉はうーむと腕組みして考える。  
管理人室の方から猛然と走ってきた二人へ、声を掛ければそんな状況。  
警察に連絡するべきなのだが、さーちゃんの後ろで、無言でうつむいているちーちんを見ると  
彼女を理不尽に怯えさせた不審者を即刻捕えて、説教でもしないと気がすまない、という義侠めいた怒りが湧いてくる。  
「よし今から岡倉先輩が、不審者を捕まえてくる!」  
え…?と驚いた顔を上げるちーちんに気づくと、岡倉は優しく呼びかける。  
「大丈夫、一人くらいなら軽いから、もう変なコトは忘れてゆっくり休みなさい」  
「…は、はい」  
ちーちんがか細い声でようやく呟いた。さーちゃんは話題を切り替える。  
「でも、よくあんな遠くから私たちがわかりましたね」  
「可愛い子と、アホ面のカズキは顔を見なくてもわかるのが岡倉先輩なのよ! じゃ行ってくるぜ!」  
さっと朱を顔に上らせたちーちんに気づかずに、岡倉は駆け出した。  
「気をつけて下さいねー」  
さーちゃんが頬に手を立て声を掛けると、後姿がピースを出し、見えなくなった。  
 
「さ、沙織が相合傘なんか書くから、変なコトになっちゃったじゃない…」  
「ゴメン。まひろがカズキ先輩と斗貴子先輩の相合傘書いてたから、ついつられちゃって」  
それを二人して消しに行ったら、不審者が居て、今の状況になっている。  
「だからって、私と岡倉先輩で書かなくてもいいでしょ! 」  
「えー、でもこの前、気になるって言ってたし、お似合いかな〜って」  
「それは髪の手入れをどうしてるかって…」  
だがどうも意識してしまう。相合傘を書かれたせいか、別の理由かはわからないが。  
「けど良かったね。可愛いって言ってもらえて。相思相愛だったりするかも?」  
「……」  
怒りもせずため息もつかず、親友がただ真っ赤な顔になったから、逆にさーちゃんは慌てた。  
「ふ、ふざけてるだけだから、そんなに気にしないで! 相合傘もちゃんと消すから!」  
両方の手のひらを、窓を拭くようにバタバタさせて取り繕うも、赤い顔は直らない。  
「…その前に見られたらどうしよう…」と呟くちーちんを、「可愛いけど重症だなぁ…」とさーちゃんは思った。  
 
ザ ッ !  
 
52番の核鉄がはたき落とされた。あっと思うまもなくロックされる戦士長の首。  
だが戦士長、鍛え抜かれた体(獣王激烈掌も足止めにすらならない)ゆえごくごく普通に振り返って状況把握。  
そこには岡倉英之。駆けつけてみれば、不審者はテレビの前で何やら持って喚いていて、いわゆる「ホンモノ」な方に見えた。  
ならばと岡倉、不意打ちで昏倒させて引き渡すのが安全と、ゆっくり近づき凶器を落として首を絞めたのだが神ならざる戦士長にはそんなコトは知る由もない。とりあえずテレビを消す。  
「こらァ! おとなしくしろ不審者め!」  
普通に動かれビビったのか腕に一層の力がこもる。(形相はモテる可能性ゼロ。黒板を見る余裕はない)  
もっとも、シルバースキンと戦士長の体の前では、ライターで鉄板を溶かそうとする位無駄で貧弱ゥな努力だが。  
戦士長は閉口した。なにゆえ突然不審者の扱いを受け、覗…検分の邪魔をされねばならないのか。  
(ああそうか防護服のせいで俺が俺だとわからないのか。 だが正体をバラすのは)  
錬金の戦士であるコトをひた隠しにしているカズキと斗貴子への手前できない。  
手前がなくても、正体が分からないほうがカッコイイからバラさない! ヒューヒュー。  
(仕方ない、適当に言い逃れて検分続行だ! 何でもできるぞ俺! 何度だって立ち上がるぞ俺!  
しかし良かったコイツが不意打ちしてくれて。騒がれたら検分どころではないからな!)  
「ま、待て。俺は…不審者ではないぞ。こ…この超ブラボーな管……理人の友人だ」  
ワザとらしく苦しみながら(これがキく)言った。  
 
「スミマセンでした!」  
三回目の謝罪。不審者から戦士長の人柄(もちろんカッコ良く脚色済み)を事細かに説明されるうち  
岡倉英之、みるみると青ざめて今ではすっかり平身低頭、土下座の繰り返しである。  
土下座なんていいからさっさと帰れと思いつつ、戦士長は机の前に座りきゅうすから茶を淹れると  
「いやいや。私にも非はあるさ。そうだキミ、岡倉英之クンだろ」  
「ハイ…」  
「やっぱり! いやいやブラボーから聞いている以上に(少なくても生ゴミよりは)男前だ!  
不審者を捕まえようなんて普通できないよ! ところで、これ飲むかい?」  
飲んで一秒でも早く消えろと思いつつ、仏の様な声音でおだてて許しながら茶を差し出す。  
 
危害を加えた相手から優しくされるのは、キくのだ。  
「あ、ありがとうございます… その、せめてお名前を…」  
なんとこの人は寛大なのだろう。出されたお茶に映る岡倉の顔は感涙に咽んでいた。  
テレビに、机と岡倉を挟んで向かい合っている元不審者は答える。  
「鋼田一豊大」  
不審者は豊大さんで、決して悪い人ではないとちーちんに言って安心させなくては、と  
岡倉が考えている間にも、戦士長は検分したいと焦れていき  
「あの、これ…」  
岡倉が52番の核鉄を差し出すのに気づかぬほど、未練がましく隣の部屋へ集中してしまう。  
鍛えぬいた聴覚には、水音と「そこ、洗ってない…」「妙な味だが……かまわない」という声が聞こえてくる。  
(…洗ってない部分を舐めている戦士・斗貴子!? 見たい!)  
この場合、豊大の昂揚をAV鑑賞でいうならば、見知らぬ人間よりも同級生が出演している方に興奮するのを想像すればよかろう。  
リアルタイムで見てこそブラボーなのだが、邪魔されている。ああ早くテレビ見たい。はよ帰れこの役立たずの豚。  
「テレビつけましょうか?」  
そんな気配が伝わったのか、核鉄を持ったまま岡倉がテレビの電源に指をつけた。  
「待てっ」  
ハっと我に返り豊大は制止するが追いつかない。隣に気を取られてなくば間に合ったのだが  
ブン…と無機質な音が響き、隣の部屋での様子─  
闇の中で、斗貴子が前髪をかき寄せながら、懸命にカズキ自身を愛撫している姿が──  
画面に映し出された。  
豊大、この時の岡倉の驚嘆と歓喜の入り混じった凄まじい形相を死ぬまで忘れなかった。  
闇の中でも親友と可愛い子の姿は見間違えない岡倉は、映像の意味を瞬時に理解した。  
すなわち、カズキと斗貴子さんがエロスをたしなんでいると。  
そして武装錬金発動! エロスは岡倉の闘争本能なのだ!  
 
落ち割れた花瓶を逆再生したかのごとく、破片から2種の形がなされていく。  
1種は両端に両断した砂時計をつけたような、スコープを模した筒。数は6基。色は漆の黒。宙に浮いている。  
1種はライフル(狙撃銃)に似た形状の武装錬金。数は1丁。色は泥の黒。立ち尽くす岡倉の手中にある。  
「エンゼル御前でいうならば、筒は御前のような補助的なパーツといったところか…?」  
誰にともなく説明する豊大、表情が全くない岡倉に気づく。  
 
「……訓練なしでの発動のせいで、精神が不安定のようだな」  
しばらくは人格が破綻するだろう。そんな事例があった。確か。多分。うん。これで好き放題できるぞ。  
この機に武装錬金を回収して、岡倉を部屋に返すのがベストなのだが  
豊大、じゃなくて戦士長、根が面白いコト好きだからこの武装錬金の特性が見たくなった。隣の様子も気にはなってるが。  
「生徒・岡倉、それで何ができるかやってみろ」  
「うお」  
言葉もままならないのか、妙な返事を返しながら、岡倉は銃を構えた。  
すると狙撃銃の後部から溢れた奇妙な線の束が、ビデオの入力端子へと接続され、筒はシュ…とかき消える。  
岡倉がテレビを指差す。なんだかすっげぇワクワクしてきた戦士長の目に映ったのは  
六方同時の六分割でテレビに映される、カズキ自身につま先を押し付ける途中で  
太ももをカズキのすねに当ててしまって頬を赤らめる戦士・斗貴子の顔だった。  
そのどれもがッ! これ以上ないベストなアングルッ! 筒の自動追尾によるカメラ以上の臨場感!   
「ブラボーだ! あの筒で映したものがその銃に送られて、しかもビデオ録画が可能なのだな!  
武器じゃないよーな気もするが、とにかくブラボーだから武器だ!」  
斗貴子の靴下を、当たり前のようにタンスから取り出すと  
「よーしよしよしよしよしよし! ブラボーだ岡倉オマエは! 戦士・斗貴子の靴下をやろう!」  
「うおおう! うおっ」  
投げてよこした。本能でそれが何かわかるのか、岡倉は口でキャッチし至福の顔。  
戦士長も満足げに頷いた。今宵はいい夜じゃハッハッハ!  
 
暗い部屋に溶け込む黒筒に、行為に集中しきっているカズキたちは気づかない。  
足によるサディスティックな愛撫は滞りなく録画中。戦士長たちは大喜び。  
不安定だった岡倉も少し回復した。目を白黒させながら「スゴイデース! スゴイデース!」と叫ぶ程度に。  
そのつど戦士長は舌打ちしながらリーゼントを5ミリずつむしり取る。蜜月の時。だが異変が起こる。  
「…天井裏に一人ッ! 全員男!」  
突如として岡倉が叫ぶと同時に、彼の持つ狙撃銃からスコープが浮き、天井を突き破った。  
そしてコードを出して何かを巻きつけ引きずり下ろした。  
戦士長は驚いた。落下物はパピヨンだ。右手にコードを絡められ、左手にエンゼル御前を握り締めてる。  
 
なんでこの二人が天井裏にいるのだ? と戦士長は首を傾げるも  
そこは戦士の長たる男。すぐに疑問を解決して、ポンと手を打つ。  
「ま、なんだ。敵と付き合うのもブラボーではあるが、オレたちを売るなよ?」  
「付き合うワケねーだろ! こ、これには色々事情があって、オレはむしろ被害者なんだよぉ」  
「で、オレは加害者か… フン。武藤の邪魔をしようとするからだ」  
「蝶々覆面か… ウヌ!? 体温を感じさせぬとは… キサマ、一体…!?」  
「武装錬金に体温はないから」  
御前を驚愕の目でみる岡倉へ、三人が一斉にツッコんだ。もっとツッコむべき所がある気がするけど。  
「…良くわからんが、隣を覗いていたのなら一緒に見るか?」  
パピヨンが盗撮に気づき怒りを露にしたが、気づかないまま誘った瞬間  
『「よ 、 余 計 な 事 を 言 う な ぁ ! !」』  
斗貴子の大声が響き、戦士長は心臓を凍りつかせた。岡倉は「ニョロニョロ〜!」と喜んだ。  
パピヨンはビデオを見ながら熟考中。御前は内心ビクビクしながらも、交渉をもちかけた。  
「ダビングして、忌々しい傷女をカットできるかブラ坊? 2万円までなら出せるぜ?」  
「斗貴子さんがメインニョロよ! 24時間式の時刻表示が分かりづらい時は12を引けば分かり易いニョロよ!」  
「…え? あ、ああ。えとそうだな。20:00なら08:00になって分かり易…」  
言いかけて、戦士長は首をふる。衝撃が冷めなくて、今の自分何が足りないのかもわからない。  
「もとい! 1万円でも引き受けるが、やはり戦士・斗貴子がメインのはずだ!   
カレーライスにルーをかけずに売るようなモノだ。ブラボーじゃない!」  
力説する戦士長だが、ここぞとばかりパピヨンと御前は  
「違うな。戦いの数だけその力手に入れる武藤こそが!」  
「そうだ。呟いた言葉が現実になるように願い続けているカズキンこそが!」  
反論し、更に、互いの拳を突き合わせながらキレイにハモる。  
「メ イ ン だ ッ !」  
その声に合わせるように、メインが画面の中で白濁をブチ撒けたから二人はうっとりした。  
「結局仲いいニョロね〜 あとチェックメイト後のキャスリングは反則ニョロよぉ〜! 杖投げるニョロよ〜!」  
「なんなんだこの状況…」  
戦士長は頭を抱えた。  
 
ところで、パピヨンには「分け与える」という概念はない。この時もそうだった。  
「…さて、つまらない雑談はやめにするよ。  
今すぐビデオテープを渡してもらう。オマエたちに裸を見られては武藤が汚れるからね!」  
妙な嫉妬で独占しようとした。だが従う馬鹿はいない。  
「断る! 俺は戦士・斗貴子をくんずほぐれつする戦士・カズキも見たいのだ!」  
「断る! テメーみたいな変態にビデオを独占される方がカズキンが汚れちまうんだよ!」  
「断る! いかに余が寛大な男でも目の前の獲物をさらわれて笑っているほど甘くはないぞ!」  
パピヨン、御前の言葉にちょっと傷ついた。  
「武藤の為にオレの操を守り通して、決してお邪魔もしないから汚れないさ!」  
「だからビデオのおそばに置いてほしいってか? そりゃオレも同じだ女だから」  
戦士長はビデオを今さらパピヨンに捧げられないとばかりに構える。  
「…お別れするより死にたいワケだな。ならば今ここで決着だッ!」  
あわや変態同士の頂上対決かと思ったとき、岡倉が戦士長を遮った。  
「ドgdlg@ラフ簿#ア尾dt髑んんぁP!!」  
「!? 駄目だ! 下がれ!」  
語気にこもる先ほどの恩義を返そうとする強い意志を、戦士長は制するも  
「…言ってくれるね。オレも随分舐められたものだ」  
爪を出すパピヨンの周囲に、黒い筒が6基現われた。カズキ達を映していた武装錬金である。  
錨が沈むより早く、コードがパピヨンに襲い掛かる。だがパピヨンは更に早く、筒を一つ破壊した。  
「ま、こんなものさ。力づくなだけのキミにオレを捕らえるコトなどできないよ?」  
「カ、カルロス! アリ地獄が使えるハズだったカルロスゥ〜!」  
「あの筒、名前があったのか? ム、今度は2つ同時に。ああけどやられた」  
「ジミィ! カルダン! 斑点ができて血を吐けるジミィとカルダンがァッ!!」  
「何の役に立つんだよその機能。…なんかオレがやられてるみたいで胸クソ悪ぃな」  
パピヨンは襲いかかるコードを適当に避けるのも飽きたのか、コードをつかんで筒を叩きつける。  
「ン? このコードには針がいっぱいついてるぞ」  
「気づいたか。それは陳の機能、毒針よ。オマエにコードを危険と思わせずそれを食らわせるのが真のねらい!」  
 
バビル2世かよと戦士長は思った。  
 
「このオレに…毒だとっ…! 笑わせ… っ!?」  
目に急接近する床を、信じられないという風に見ながらパピヨンは倒れ伏した。  
「残念だが蝶野攻爵、ホムンクルスのお前には、武装錬金から出た毒はモロに効くぞ」  
「く… まるで温度が蝶高熱の強い酸をも含んだマグマを流し込まれて、全身の血に火がついたようだ…!」  
「くどい説明してんじゃあねー!」  
「昔、アメリカでカスター将軍ひきいる第七連隊がインディアンに皆殺しとなった。  
オマエもそれと同じ運命にしてやる! …いや待て。さっき操がどうとか言ってたな…」  
岡倉以外の三人は、その言葉にギクりとした。まさかこいつ…?  
残り二つの筒からコードが出る。その音にパピヨンは咳き込みながら巳田を思い出した。  
「むごたらしく汚れ死ね! つまらん邪魔の罰としてなぁ! 行けダック! ロビンソン!」  
「やめろ! 何一つ良いコトがないからやめろォッ!」  
「バクチってのはな… 外れたら痛い目みるから面白ぇんだよ!! ク〜ックックックッ!」  
無常。伸びたコードが床に潰されている桃色の蕾を蹂躙した。  
「やめ… ぁ… はぁぁ…ごぱぁ!」  
パピヨンの可憐な唇から吐息が切なげに漏れ、毒のせいか血を吐いた。  
 
色々あって終わった。何一つ良いことなく。  
 
戦士長は、邪魔したら斗貴子を映さないと脅されて、必死に我慢したけど  
後で、自分の仕掛けたカメラがあるんだから我慢する必要なかった…と気づいて泣いた。  
御前は、戦士長になんたらという秘孔をつかれたせいで、武装解除で逃げられなくて泣いた。  
そのせいで桜花は、夢の世界に行ってしまった。  
(すまない。……武藤、すまない…!! オレは汚れてしまった…!)  
パピヨンは、太ももを伝う破瓜の血に、噴出しそうになる感情を懸命に抑えながらも一筋の涙を流した。  
岡倉は襲い来る疲労の中で、後悔していた。パピヨンの声に少し興奮してしまっていたのだ。  
更に隣の部屋から、カズキに秘所を猛烈に愛撫され、あらわもなく喘ぐ斗貴子の声が聞こえ、更に昂ぶる。  
あのコードを乱入させ、自らの手で斗貴子を喘がせたくなる衝動が沸く。  
だがそれは親友への裏切り(映すのはOKなのだ)だと、強引に衝動を押し込めると、二基の筒を隣へ送る。  
 
(もう少し… もう少しだけもってくれ。最後まで映さなくては…!)  
 
親友や戦士長こと豊大さんへの義理と、不安定な精神と純然たるエロスへの欲求。  
それらの葛藤が、エロスを闘争本能としている岡倉の武装錬金に軋みを起こす。  
しかし誰もが気づかない。疲弊しきっている4人は気づかない。  
 
四つんばいで息をつくパピヨンの頭に、銃口がつきつけられる。  
「まずは、この狙撃銃ヨミさまで終わ…」  
だが岡倉、無残にも崩れ落ちた。  
「訓練なしで武装錬金を酷使し続けた反動が、一気にきたようだな」  
興味本位で使わせたのを後悔しながら、戦士長は岡倉を壁際へともたれかけさせる。  
御前はふと気づいた。床に転がる狙撃銃や、筒から送られる挿入間近のカズキたちの映像がいまだに消えていない。  
「…色物のクセにカッコつけやがって…… 気絶しても武装解除しねーなんてなぁ」  
岡倉の顔は笑っていた。使命を果たした満足と次に託す安心を浮かべて、笑っていた。  
御前は泣いた。戦士長は「ブラボーだ。戦士・岡倉」と敬礼した。パピヨンは冷笑を浮かべると核鉄を手にした。  
そして状況が変わる。黒い粉が蝶の羽を成すのに合わせるように、扉が開いたのだ。  
「…失礼します」  
「岡倉先輩、…無事ですかー?」  
入ってきたのはまたもやちーちんとさーちゃんだ。  
待てど暮らせど帰ってこない岡倉を心配して来たのだが、彼女たちの目に入ったのは  
黒羽を生やして血を吐きまくっている蝶々覆面に、窓際に佇む不審者と変な人形。  
岡倉には気づかない。他があまりに強烈すぎる。  
その上パピヨンが(窓と扉、両方を塞がれていたのでやむなく)天井裏へと翔んで逃げたからたまらない。  
「い、いやあああああああああ!!!」  
涙を流しながらちーちんとさーちゃんは魔境から逃げ出した。  
「またピンポンダッシュか!」  
「鏡見ろよ! 何で逃げたかすぐわかるぞ!」  
「まぁとにかくパピヨンはいなくなった。これで心置きなくテレビを見れる」  
 
この時、二人は気づいていなかった。  
床に転がる狙撃銃から、スコープの部分だけが無くなっている事に。  
 
舞台は変わり、ちーちんの部屋。  
 
どこをどう走ったのかわからないまま、さーちゃんとちーちんはこの部屋にいた。  
ベッドに腰掛けながら、全力疾走したせいでとめどなく流れる汗など構わず、善後策を検討する。  
「どうしよう…」  
「け、警察を呼ぶしかないでしょ! 変質者があんなにいたら!」  
泣き出しそうな顔なさーちゃんに、ちーちんは強い語調で言う。  
「ゴメンね。わたしが岡倉先輩を止めて、最初から警察呼んでいればあんなに増えなかったのに。  
…岡倉先輩にもしものコトがあったらゴメンね」  
「私だって止められなかったんだしから…謝らないで。  
とにかく今は、悪いコトは考えずに警察に──」  
通報すべく携帯を取り出すちーちんだが、その動きが止まった。  
「…どうしたの?」  
「何かいる…」  
彼女たちの目線の先、飾り気のないベージュのカーテンの前にそれはいた。  
バッと、反射的に筒の上をちーちんは見た。  
先ほど天井裏に逃げた変質者が、この筒をピアノ線か何かで吊っているのかと思ったのだ。  
冷静なようだが、すっかり錯乱している彼女の横で、空気が抜けた風船のようにさーちゃんは気絶した。  
「沙織…!」  
支えようとした手に、筒から伸びたコードが巻きついた。  
哀れ、ゴト…と固い音を立てて床に伏したさーちゃんだが  
しかし彼女を思いやる余裕は既にちーちんにはない。  
幾本ものコードが彼女の作務衣の胸元をはだき、侵入を試みていたからだ。  
素肌に流れ込む生暖かい空気はぞくりとするものがある。  
「やめ…!」  
とっさに、自分の首を締めるような格好で、作務衣の胸元をかき抱く。  
コードの先端はクリップ状になっていて、それで胸元をはだいていたのだが、それはどうでもいい。  
彼女は、今日はたまたまブラジャーをつけていない。  
故に、作務衣の胸元が彼女にとっての最終防衛線なのだ。  
(見ないで!)と彼女は耳たぶまで真っ赤にして防衛線を握り締めた。  
 
筒の名前はバラン。  
スコープとしての機能以外の機能は。他の筒と同じく、狙撃銃から分離したり、コードの形状や長さを変えられる位だ。  
鉄球も出せる。相変わらず寝かしつけるのが下手だったりはしない。ロボットだからマシーンだから。  
そのバランが何故ここにあるか。それは岡倉自身の葛藤に起因する。  
カズキたちへの義理を通しつつ、自身もよりエロスを嗜みたいという欲求が  
このスコープに乗り移り、その時たまたま管理人室に入ってきたちーちんやさーちゃんを標的とした。  
ただそれだけなのである。  
 
ちーちんにしてみれば、そんなのは知ったことではない。  
必死に胸元を抑えていた腕を、新たなコードたちが引き剥がし  
さらにバンザイさせる格好で手首を幾重にも拘束すると、彼女をベッドの中央へと引っ張っていく。  
「放して…!」  
鋭い目つきと声で遥か向こうの筒を威嚇するが、人間とて聞かないその声が  
無機物に効くハズもない。人差し指ほどの太さのコードがはだけた胸元に潜っていく。  
「や… やめなさいっ」  
温度も湿り気もなくただ無機質に這う感触に、少し涙目になる。  
まひろに比べれば見劣りするが、それは仰向けでもキレイなお椀型で  
怒鳴り声と同時にふるふると震えるくらいには膨らんでいる。  
その膨らみを、コードは、吸った。チューブに姿を変えて。  
「んん…!」  
真っ白い膨らみに赤い跡がつくほど強く吸われて、ちーちんは軽く眉根をよせた。  
更に、一本、二本、三本、とチューブの数は増えていき、  
まひろを除けば、誰も触れたコトのない柔らかい肉を吸っていく。  
筋肉痛をほぐしているような感覚に、ちーちんは戸惑う。  
彼女は、たとえば、読んでる小説の中でキスシーンが出てきたら、辛いものでも食べるように  
顔を赤くして汗をかきつつ、早く終わって早く終わってと一言一句にドキドキしながら読み進み  
キスシーンが終わったらへたり込んでしまうタイプなのだ。  
そんな彼女が生々しい性知識を持っているワケもなく、芽生えつつある「気持ちいい」という感覚に戸惑うのだ。  
 
「い、いい加減に… ひぃ…あ、あ、あぁ」  
自分では大きめに見えて悩みの種になっている桜色の突起を  
チューブに、ぷしゅぷしゅぷしゅと、リズミカルに吸われて、あらわもない声があがる。  
彼女の両手が自由ならば、口を塞いでいただろう。  
こんな奇怪な物体に蹂躙されているのに、なぜこんな甘ったるい声が勝手に出てしまうのか、  
自分でも不思議で、それ以上に恥ずかしい。キスシーンを読んでいたほうがマシだと思える位。  
それを知ってか知らずか、子供の腕くらいの太さのコードが彼女の口を塞いだ。  
「んぐ…! むぅぅぅ」  
口の中に広がる苦いゴムの匂いにいやいやをするように首を振るが、それで止まれば苦労はしない。  
噛み切ろうともしたのだが、ただゴムの味がして顎が疲れるだけだった。  
コードは何度も、何度も、何度も、何度も、彼女の喉奥を突く。  
ゴムの匂いが肺腑の奥まで染みていき、ちーちんは息苦しさと吐き気を覚える。  
だが、コードはおかまいなしに、一層早く突いてくる。  
うすい唇はその度めくれ、涎が止め処なく疲れた顎を濡らしていき  
理知を宿した端整な顔が、苦しさに崩れていく。  
「!?」  
コードが、粘っこい糸を引きながら口から出て、急な開放に  
けほけほと咳き込みつつも、一安心したのは束の間。  
コードは、目の前にくると2〜3回震えて白くてドロドロした液体を、ちーちんの顔にブチ撒けた。  
「や、やだ……! 汚い……!」  
額や頬から、生暖かい粒が垂れ、消毒液みたいな匂いが鼻腔をつく。  
もちろん眼鏡にも液体はたっぷりと付着している。  
コードはそこを中心に狙ったのだから当然だ。絶対にすべきコトだから当然だ。  
ともかく。顔全体にべったりとついた液体は、汚い汁にしか思えず、拭けないコトに暗澹としながら  
ちーちんは首を起こした。溶けたつららのように液体が、眼鏡から露わになっている胸元へ落ちて  
徐々に徐々に視界が戻ってくる。額から流れてくる液体が涙のように頬を伝った。  
あるいは、視界が確保できなかった方が幸せだったかも知れない。  
彼女は、作務衣の前止めがコードにほどかれているのを見てしまい、慄然とした。。  
「だ、だめ…!」  
と言い切る前に。作務衣は両脇に広げられ、彼女の上半身が露わになる。  
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル