(水のりの味… 本物と同じ…… なら大丈夫)
コク…と飲み込んだ白濁が、ノドの中で垂れているのを感じながら
コウイチ君から聞いた、変なモノがしぶとい場合の対処法を思い出す。
彼は、変なコトを知ってて六舛先輩と似てるなぁとか
そういや名前が兄弟ぽいとか、アンモナイトが描かれた101号室に住んでいる勇敢な少年だったとか
麦を刈ってたとか、誠実で特に悪者に好かれてたとか、そんないらんコトと一緒に、思い出す。
(そだ、エネルギーを間断なく放出させればいいんだ)
ならば、お湯に浸してぐいぐい踏むのが最良だが
ちーちんは、屹立と感覚を共有している。苦痛を与えるのはしたくない。
どうせなら気持ちいい刺激の方がいいはずだ。よし! 脱ごう!
ばんざいする格好のさーちゃんの横に、カタツムリがプリントされている子供っぽいTシャツが落ちた。
「な、何で脱ぐの…?」
思いもしない行動にちーちんはうろたえるが
「まぁまぁ気にしない。すべては、ビッグ…… ちーちんの為だから」
さーちゃんは座りながら、親指だけを曲げた手の平をおおまじめな顔で挙げると(意味あるのかとちーちんは訝しんだ)
ぺったんこなブラを取り、原色の赤さのハーフパンツも、これといって特徴もない白いショーツも
てきぱきと脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿になる。
小さな小さな桜の突起が鮮やかなその裸体は
お盆に作る精霊馬にどこか似ている。キュウリやナスに割りばしを刺して作るアレね。
(ここ参照)
ナスのヘタに似た横髪と、腰のくびれも胸の膨らみも全くない細長い胴体から
肉付きのないまっすぐな手足が生えている姿が共通していて、どこかユーモラスだ。
(けどよォ〜 「精霊馬」なのにナスの方は「牛」ってどういうコトだよオイッ! ナメやがってこの言葉ァ、蝶イラつくぜェ〜!)
ユーモラスであろうとなかろうと、裸体にはかわりない。
目に入る光景に、ちーちんは屹立が疼いてしまい、慌てて隠し目を逸らしながらも
屹立をしごいてしまった時の衝動がかすかにある。今度の対象は、屹立か、さーちゃんか。
「あ、反応してる…」
ならば目論見も通るかも、と希望を込めて呟いたさーちゃんの言葉に、ちーちんはかぁっと、頬を染めた。
「違うの… 勝手に…」
と訴える一生懸命な眼差しは、どうも可愛く、妙な気分にさせる。
彼女が嚥下した白濁の催淫作用のせいでもあるが、
(そーいえば、女のコとは初めてだ… 男のコも二人だけだけど…)
してはいけないコトに臨もうとしている事実に、小さな小さな胸がきゅうっとする。
「……わかってる… ところで、変なモノを取る手伝いをしてもらっても …いい?」
裸のままの四つんばいでちーちんにすり寄ると、上目づかいで聞いてみる。
彼女の目論見 ─ 変なモノを受け入れて何度も責めて、消耗させる ─ は
すぐにでも可能だが、しかし、甘〜いコトをしたくもなったのだ。
眼下の顔は、あっけらかんとした仕草や幼い顔立ちとは不釣合いに、女っぽい。
その中にある思惑がわかるせいか、ちーちんは再びドキドキしてきた。
「手伝う」と言う形で、肌に触れ、触れられる。それだけのコトをどうしようもなく欲している。
だが、それを「身を張ってくれている親友を手伝うのは当然」という思いで塗りつぶす。
「う、うん。…どう手伝えばいいの…?」
迷いと期待におどおどと見下ろしている顔が、また初々しくてたまらなく
「こう…」とゆっくり目のキスをしたくなったが、それが親友の初キスだと絶対に悪い。
さーちゃんは、名残惜しく顔を引っ込め、あぐら座りをすると
「こう、ね…」
言いながら、ちーちんの、どこがそうかは上手くいえないが知的な感じの右手を取って
つるつるしている未成熟な秘所へと導いた。
いちおう経験は色々あるのに、いまだに一本の筋しか無いそこへ
ちーちんの手が触れると、とろ…と生暖かい蜜があふれ、甘酸っぱい匂いが漂う。
「触って、動かしてみて…」
「………うん」
こうしないと問題が解決できないし、決して邪な気持ちではないから…
と懸命に自分に言い聞かせ、ほっそりとした指を拙くも賢明に滑らせていると
しっとりと熱く濡れそぼった柔肉に飲み込まれそうな錯覚を覚える。
その度、屹立がはちきれそうに膨らんで、ちーちんは切なげな顔になった。
「ふぁ… そ、そう。そんな風に…」
うっとりと大きな瞳を潤ませ頬を染め、ふぅ…と大きく息を吐くさーちゃんは
その顔が以前、「酔っ払ってるみたい」と言われたのを思い出し、今もそうなのかなぁと思った。
酔っているかもしれない。
小鳥の頭にそうするように、そーっとそーっと秘所を撫でる度に
屹立が疼いてしまい、まるで自分が愛撫されているような顔になる親友も
ちゅくちゅくと音を立てている秘所からの、決して大きくはない刺激を受けて
走った後のように大口を開けて、激しく息をついている自分も、背徳的なのだから。
「指、入れていいよ……」
ぼーっとした考えの中、肩を上下させながら甘い声で訴える。
「いいの…? 血とか……でない?」
「いいの。 こ、こう見えても経験豊富なんだよ?」
なんだか心配されて、さーちゃんは自慢気に笑いながら、「だから大丈夫だよー」と付け足した。
「じゃ、じゃあ」
ちーちんがおそるおそると、震える人差し指を未発達な筋に押し当てると
すでに濡れそぼっていたそこに、あっけなく飲み込まれた。
一瞬だけ目を閉じたさーちゃんの口を、また甘い声がつく。
「んんっ…! い、いいよ… もっと…」
動いて、と言う前にちーちんは、はぁはぁと荒い息を付きながら、狭い秘所をかき回していた。
ぐじゅぐじゅと、中の構造を探るように動かしているのが彼女らしい。
そして、中の湿った粘膜をひっかくように指を曲げた。こっちは勘だ。彼女らしくなく。
「わ、突然っ…! 」
さーちゃんが、珍しくキリっとした目と眉毛をしながら、口は珍しくも無くあんぐりと開けた。
彼女の中で、一番大仰な表情だ。つまり驚きだ。不意の刺激に驚いたのだ。
行数を割いたがそれは一瞬の出来事で、目を閉じて、ビクビクと体を震わせる時間の方が長い。
つられて動く横髪や、一連の表情に扇情されたちーちんは、指を二本に増やしてかき回す。
「わわっ そ、そんな… ふぁ、乱暴に、しないで… ひゃぅっ!」
困った顔、といっても猫に顔でも舐められているような緊張感のない
困った顔を一瞬してから、やっぱり目を閉じて体を震わせる。
どうも一つ一つの出来事に素直に反応しているらしい。
そういう所が可愛らしくて、ちーちんはますます指を激しく動かした。
彼女の屹立からは半透明の液がドロドロと流れているが、それにすら気づかずに。
思えば、先ほどのコードですらこんなコトは自分にしなかった。
締め上げられるように膨張している屹立に、ギリギリと苦しみながらちーちんは思った。
眼前で、しゃっくりのような可愛い喘ぎ声をあげている親友を見ていると、
指先でうねる生暖かさを感じていると、今の自分は、あのコード以上に淫らに思えてくる。
だがしかし、そう思えば思うほど、気分は昂ぶり指も早まる。屹立にそうしていたように。
止まらない怖気のような軽い震えの中で、ちーちんは、コードが自分にした動きを反芻していた。
もっと刺激を与えたい。与えられるのなら忌まわしい記憶であろうと使いたい。
はぁはぁと伏目がちに息をつきながら、一つ、思い出した。
突起だ。名前は知らないが、あの突起を掴めば…
「わわわ! ダ、ダメだよ、そっ そこはぁ……っ!」
また驚いた顔で、体を仰け反らせてさーちゃんの体から力が抜ける。
秘所をかき回されながら突如、開いている左手で一番敏感な所をまさぐられては仕方ない。
「き、気持ちいい?」
すごく蕩けた瞳で呟きながら、ちーちんは、更に親指と人差し指で摘んだ突起をグリグリと擦りあげる。
「ちょ、ちょ、止めて、強… ひゃっ! あぁ… やめてってばぁ…」
ブルブルと身を震わせながら、やっぱり緊張感は薄く、さーちゃんは軽く叫ぶが、ちーちんは
「やめない…」
秘所から指を引き抜き、さーちゃんを押し倒した。触れ合う互いの温もりが心地よくも艶かしい。
突起を激しく擦りながら、いまだ濡れそぼる指で、彼女の豆粒のような乳首をいじり
まだ物足りないとばかりにそっともう片方の乳首を口に含み、ころころと舌で転がした。
「んくっ! …やっ やぁん… 激し…」
密着している肌に、一つ一つの挙作へビクンビクンと反応する体の動きが伝わるは、たまらない。
ちーちんが、一瞬ためらいつつも、乳首をそーっと噛むと
「ふぁっ! あああ…!」
さーちゃんは、丸い目を目いっぱい見開いて達してしまった。噛まれるのは弱いのだ。
「ね、ねぇ… ひょっとしてわたしより、経験豊富だったりする?」
しばらくして、脱力したまま、さーちゃんが聞く。今は二人とも座っている。
「…初めて」
上気した顔で答えるちーちんに、さーちゃんはなんだか才能の片鱗を感じた。
それはさておき、さーちゃんはハっと気づいた。
しまった変なモノを取り除くという当初の目的を忘れかけてた!
「はぁ… ね、ねぇ。今度はあおむけに寝てもらっていい…?」
「うん…」
まだほかほかと湯気の立つ指を名残惜しそうに見ながら、ちーちんは横になった。
「じゃあそろそろ行くよ…」
さーちゃんは、緊張した面持ちで、細い肢体にそぅっとまたがると、
慣れた手つきで、ぐっしょりと濡れぼっている秘所に屹立を当てる。
幼いつくりのそこを、グロテスクな黒いモノが、淡い内部の粘膜も露わに押し広げて、
小学生のように頼りない足の付け根にずぶずぶと埋没していく光景は
背徳というより犯罪的で、ちーちんは息を呑んだ。
と同時に、先ほど指に感じた生暖かさが、屹立にまとわりついていき
「ぁっ…!」
と痙攣のように震える。見た目そのままに狭くてキツいのだ。
「い、今更だけど、ちょっと小さいね… はぁ… 形はいいけど」
あまり関係のないコトを口走りながら、苦しそうに片目をつぶり
さーちゃんは屹立をあっさり全部飲み込んだ。(だって小さいから)
「形に良し悪しってあるんだ…」
「あるよ。そ、それはさておき、動くよ…」
妙な関心を抱くちーちんのお腹に手をついて、これまた慣れた感じで、ゆっくりと上下する。
だが、ゆっくりといえど、「…初めて」のちーちんには、刺激は強く
「んあッ あ、あぁ…!」
静かに抑えた喘ぎが間断なく口をつく。
さーちゃんは、ちょっとさっきの仕返しも込めて、腰の動きを少し早める。
ベッドがギシギシと揺れる。ちーちんの胸もふるふる揺れる。
その揺れる胸の主が声をあげようとした、その時ッ!(世界まる見え風に)
コンコン。
古い引き戸がノックされる音がした。続いて、極めて脳天気な声が響く。
「ちーちんいるー? まっぴーだよー」
武藤まひろがやってきた。親友二人は焦った。そうだ確か……
「CD買ってきたから一緒に聞こうよ〜」
そんな約束をしてたのを忘れてた。ドタバタしていたから忘れていた。
中で起こってるコトなど露知らず、まひろは、引き戸の前にのほほんとした顔で佇んでいる。
もし、この引き戸が擦りガラスでなければ、即、中の状況が露見しただろう。
障子張りなら破る。普通のガラスなら覗く。武藤まひろはそういう人間なのだッ!
「ど、どうしよう…」
という目でちーちんが訴えてきて、さーちゃんは首を振った。静かにしていよう。
悪いけど状況が状況だ。帰ってくれるのを願うしかない。
その間にも、繋がっている部分はなんともムズムズしている。
「あれ? ちーちんもいない… さーちゃんとどこか出かけたのかな?」
どころではない。今まさに部屋の中に二人はいる。まひろが去るコトを祈ってる。
「じゃあ待ち伏せだ! 何を隠そう私は待ち伏せの達人よ───ッ!!」
「いや帰ってよ!」と二人は心の中で同時に突っ込んだ。ああ、なんだかいつもと同じ振り回されっぷりだ。
「ま、約束忘れてたわたし達も悪いよね」
と肩をすくめながら、小声でさーちゃんが言うと、ちーちんは、口を両手で覆いながら頷いた。
声どころか、息すら漏らしたくないらしい。
もしまひろに見つかったら、「た、楽しそう! 私もー」と混ざってくるだろう。
混ざってきたら、確実にちーちんは2対1の「1」の方になってしまう。性格上、絶対に絶対に絶ッ〜対に。
それは流石に厳しい。何をされるか分かったものではない。だから、声はあげたくない。
そんな親友を見下ろしながら、さーちゃんは、にゃっと、口を悪戯っぽい笑みに歪めた。
ネズミを見つけたネコみたいな、まんまるい黒目だ。まひろにつられて黒板に相合傘を書いた時と同じ目だ。
面白そうなコトは、ついついしてしまうのだ。悪癖だが悪気はない。
耐えているちーちんの可愛いらしい顔をもっと見たいのだ。
そして、黒々とした目に映る二つの膨らみへ手が伸びる。
さて、その頃まひろは戸の前に座り、買ったCDをうろ覚えで口ずさんでいた。暇なのだ、今 は 。
「こにしきらぶ ざぴーぴーらぶ こにしきらぶ でぃすぷぇあれー …なんか暑い。窓開けよっと。あ、これは歌詞じゃないよ!」
暑い原因は部屋の中だ。甘い熱気の中で、決して小さくない膨らみが、ふよふよと揉まれ
「んん…!」
ちーちんはくぐもった声をあげていた。(な、なにするの!?)という驚きがありありと見て取れる。
「ちなみに」
さーちゃんはゆっくりと腰を動かしながら、口に片手をあてヒソヒソと、驚くべきコトを告げる。
「戸、鍵かかってないよ…」
ハっとしたちーちんが(のん気な歌声が聞こえる)戸を見ると、確かに鍵がかかっていない。
もしまひろがその気になれば、すぐここに入って来れるだろう。声をあげれば、絶対に。
恐ろしい2対1がすぐそこに迫っている状況に、ちーちんは戦慄し、そして。
「……! っ…!」
その顔が、ちょっと大きめの乳首を撫でられたせいで、悩ましく崩れた。
更に、さーちゃんは、作務衣に隠れた膨らみを何度も何度も揉みしだく。
手にあわせて形を変えるそれが、面白くもあり羨ましくもあり、ふぅっとため息をつき、乳首をきゅっと捻る。
「ぅッ… ! …………」
一瞬出した声に狼狽して、より強く両手を口に押し当てるちーちんだが
一生懸命に声を抑えれば抑えるほど、さーちゃんの幼い嗜虐心と慣れた腰の動きが激しくなり
敏感な屹立がきゅうきゅうと締め上げられる。生暖かい圧迫感がたまらない。
声の代わりに指の隙間を抜ける自分の息も、愛撫のように錯覚してしまう。
思えば妙な話だ。コードを見て気絶したさーちゃんが、今は余裕の攻める側だ。
手をちーちんの胸に置いたまま、目をぎゅっと閉じて、ゆっさゆっさと横髪を揺れるほどに腰を振る。
小さいモノが、敏感な粘膜に何度何度も擦り合わされ、二人はまひろのコトを忘れ、互いに浸る。
「こ、声出さないちーちんも可愛いよ… あ、くふっ…」
「…! …! …っ! ぁ、ぁぁぁっ…!」
止めとばかりに思いっきり腰を捻られて、ちーちんは達した。
さーちゃんは動きを止めて、ドクドクと注がれるその白濁の感触を
目を伏せながらぼーっと感じていた。とりあえず、一区切りだ。
丁度その頃、部屋の前では、パン!とかんしゃく玉が爆ぜたような音と
何か重いものが落ちる音と、「うわ、変態さんが降ってきた!」というまひろの声と
そして、何やら遠ざかっていく台車と足の音が、それぞれしたのだが
余韻に浸り、ふぅふぅと息をついているちーちんとさーちゃんは気づかない。
ややあって、ぼんやりしていた二人は同じコトに気づいた。
「…まひろが」
「うん。いないね… どこ行ったんだろう」
いなくなったらいなくなったで、妙に心配してしまう。
まぁ彼女ならどんな厄難危難も、のほほんとかわしそうという、妙な確信があったりするが。
「ね、わたしも不完全燃焼だから、しばらく好きにさせてもらうよ。もうちょっとで消えるハズだから」
さーちゃんは目を細めると(こうすると少し大人っぽく見えるコトにちーちんは初めて気づいた) 再び腰を上下させ始めた。
「ま、待って、私はまだ… ひゃくッ! あ、あああ…」
この後、無理やり二回の放出を経て、変なモノこと岡倉の武装錬金はその薄汚い煩悩を満たし
光の中に爆ぜ消えた。考えようによっては、岡倉が一番役得に預かったコトになる。
「とりあえず、これで終わり… 頑張ったね、ちーちん」
心身ともに満足したという顔でさーちゃんが呟く横で、ちーちんは俯いていた。
「ね、ねぇ沙織…」
「んー?」
のんきに親友の方を向くさーちゃんだが、次のセリフにまたもや大仰な表情をした。
「その… イヤじゃなかったら、また……」
やってしまった。流石のさーちゃんも、変なモノを取り除こうとして親友をヘンな道に引き込んでしまったコトには猛省……!
「その、ほ、ほら、ちーちんには岡倉先輩がいるし、ねっ! 考え直して!
あ、そうだ、もうすぐ点呼の時間だし、部屋に戻るね。ブラボーが点呼に来たら相合傘を消すように頼むから!」
わーっと困りきった顔でまくしたてるさーちゃんを、ちーちんは、複雑な表情で見ていた。
この後、ちーちんの部屋の前の天井が崩れているのに二人は気づいたが
管理人室に行くのはイヤなので、点呼の際に報告するコトにした。
とりあえず、この二人の忙しい夜は終わった。
「これからどうしよう…」と、二人は友との関係をどうするか悩むのだが、それはまた、別のお話。
場所は管理人室に戻る。
御前は適当に入れたお茶を飲みながら、戦士長から借りた水滸伝を読んでいた。
何故かと言うと、戦士長がやかましいからだ。
「よしッ! 騎乗位で抜かずの6連発とはブラボーだ戦士・斗貴子! 戦士・カズキも負けるな頑張れ!
明日の戦闘に差し支えありそうだが、そこは核鉄の回復力でカバーだ! ああ、流石に休憩か。
お! 髪を撫でるか! 撫であうか! そして見つめあって… ブラボー! おおブラボォォォオオッ!」
こんな風に、戦士長はビデオを見ながら出来あがっているから、やかましくて鑑賞どころではない。
岡倉の武装錬金が、なぜか解除された時は、静かになったのだが、「ならばカメラだ! 舐めるなァァァッ!」と
ひっきりなしに奥歯をカチカチしながら、アングルを切り替え切り替え、そして騒いでいる。ああうるさい。
御前は、そんな馬鹿に集中力をカケラでも向けたくないから水滸伝を読んでいる。
これを読み終わったら帰ろう。ビデオは明後日にでも病院に届けてくれるコトで話はついたし。
「むむむ…! 読みふけっているな御前。どうだ、横山作品はブラボーだろう!? カッコいいだろう!?」
ビデオテープを換えると、戦士長はビデオ見ていればいいのに御前に絡んできた。
鬱陶しい。テンションのあがったおっさんは、酔っ払いと大差なく鬱陶しい。
無視してやりたいが、桜花が文庫版三国志全30巻を借りてるせいでそうもいかず、仕方なく答える。
「面白いぜ。なつめ売りに化けた連中が十万貫を強奪するあたりが。頭いいよなこいつら」
「そうだろう! こういう分かり易い知略こそ横山作品の真骨頂だと俺は思っている!」
バシっと拳を固めた戦士長から漂う、イカみたいな匂いに御前はげんなりしたが、力説は続く。
「特に俺はバビル2世が好きだッ! 三国志もブラボーだが、超能力というものを分かり易く…」
「な、なぁ、そろそろ点呼の時間じゃねーか!? エロスも部屋に戻さないとマズイだろ!? な?」
趣味に走ってるヤツってタチが悪くて(ゴメンな。でも楽しいのさ)、なんか辟易しながら御前は話をそらした。
「おおそうだったな。だが、これだけは言わせて貰う。
『流れ流れていつか消え行くとしても、永遠に止まらない、時の河は続いていく』という歌がある。
残せるモノがあるのはこの上なくブラボーだ。そしてそれは、誰がどうあろうと、…俺だけは忘れない」
戦士長、部下の核鉄をポケットから取り出し、少しだけ見つめると
点呼の為に武装を解除して、管理人室を出て行った。すごい幸福な寝顔の岡倉を肩にかけて。
「それを言われて、オレはどうリアクション取りゃいいんだよ!? …あ、カズキンがあんなトコ吸われてる……」
間を持て余した御前は、とりあえずぼーっとテレビを見た。
点呼を終え、岡倉を部屋に返した戦士長が部屋に戻ってくると、御前の姿は既になく
「じゃあ、そろそろ桜花が寝るから帰るぜ。ビデオ、ちゃんと届けろよ?」
という書置きと2万円だけが置いてあり、その向こうのテレビの中では、カズキと斗貴子がぐったりしていた。
やれやれといった顔でそれらを見ると、戦士長は仕事でも片付けるコトにした。
仕事とは、組織への定期連絡(やり方はヒミツ)と、管理人日誌の記載である。黒板の落書きも消さなきゃならない。
【定期連絡】
戦士・カズキの特訓の仕上げは無事終了。よって、明朝8時よりの決戦には彼も同行する。
仕上げの際、偶然、武装錬金を発動させた一般生徒が
乱入してきたパピヨンと交戦し、まぁ結果的には放逐したのを付記しておく。
名づけるなら、『エロスリーゼント』という感じの武装錬金の特性と、それによる戦闘の内容は
…………その、知らないほうが幸せなコトもあるぞ? どうしても知りたいなら送るが、俺を恨むなよ。俺だって被害者だ。
パピヨンは、寮生の点呼ついでに捜索してみたが、気配はなく、既にアジトに帰還したと思われる。
また点呼の際、寄宿舎西廊下にて、破壊された天井と開いている窓を発見した。
天井の破片は内側からコゲており、また、爆発物の残骸も無いコトから
パピヨンが「火薬」に類する武装錬金で天井裏を吹き飛ばし、ここから逃走したと推測するのが妥当だろう。 以上。
【管理人日誌】
・5月○日 快晴。本日も病人けが人行方不明全てゼロ。点呼時も欠員はなし。
・その際、慌てた様子で、「管理人室の黒板の落書きを消してください」と頼む生徒がいたので注意しておいた。
黒板への落書き(特に相合傘)をするブラボーじゃない生徒が
最近どうも多いので、近々、教師の口を通じて注意をしてもらいたい。
・あと、「複数の不審者を目撃した」という生徒が二人ほどいたが、すぐに勘違いだとわかった。
・管理人室と西廊下の天井が一部、破損した。どうも腐っていたらしい部分に
「何か」が乗ったせいで壊れたようだ。まぁ、イタチか何かだ。蝶々や天使じゃないよ。
修繕は、諸事情により明後日から行う。 以上。
書きながら、武藤まひろやその友人二人が妙にひっかかる態度だったのを思い出したが
まぁそんな日もある、特に武藤の妹はそんな性格だから問題ないと片付けると
戦士長は、明日に備えて寝るコトにした。しかし。彼が寝た後も戦いはまだ終わらない。
と、言う訳で→ 続く。