秋水は竹刀ダコひとつない綺麗な手で、上着をするりと脱がし背中に手を回すと  
さっぱりとした白いブラジャーのホックを片手で外し、白い双丘を明らかにした。  
素早い。  
これがカズキならば、ホックに両手を使っても指をまごつかせるだけで、笑われただろう。  
夜明けの中の薄い山吹色を見ながら、二人は同時に思ったが口に出すワケもなく。  
ベッドが倒され、桜花は横たえられた。  
 
その光景を看護婦が目撃していたら、色をなしただろう。禁忌だ、と。  
だが、姉弟たる桜花と秋水が恋人のごとく体を重ねるのは、同列で当たり前のコトなのだ。  
「ケッコン式ごっこ」が、知らぬままに姉弟の概念を恋人のそれに摩り替えて、体を重ねさせた。  
長ずるにつれて、それを禁忌を呼ぶと知りもしたが、関係ない世界の秩序と切り捨てていた。  
二人ぼっちで生きていたのだから。  
 
桜花は思う。  
 
強さを積み直そうとしている秋水に倣い、そして世界を歩むのならば  
体を重ねるコトを禁忌にしなくてはならない。それがあるべき姿なのだから。  
だから今からの一時を最後にしよう。区切りをつけるのなら今がいい。  
そして朝が来たなら、恋人として別れを告げよう。姉弟として共に生きるために。  
秋水なら分かってくれる。彼の選ぶ別れに倣うのだから。  
 
そう考えている間に、桜花は生まれたままの姿になっていた。  
ショーツが取られるのを手伝っていたようだ。  
無意識でも抗わないのは、体を重ね続けていたせいだろう。  
思い返せば、無限にも思えるほど数多く、互いを求め合っていた。  
それが、もうすぐ終わる。  
 
一糸纏わぬ白い体が、少し笑った。  
 
桜花の体には、誰もがうらやむ美しさがある。  
 
まるで子供のように小さなつま先から始まる足は、長くすらりと伸びながらも  
膝から先は付け根に向かうにつれ、一段、また一段としなやかに張り詰めていき  
濃くも薄くもない茂みのある細く頼りなげな柳腰に、対義的な肉感を付与している。  
そしてなだらかに曲線を落ち込ませる腹部は、全身がそうではあるが  
ハリのある肌にうっすらと覆われて、瑞々しくも艶かしい。  
寝ていてもなおふくよかに盛り上がる乳房もまた、細い体を豊かに見せている。  
頂きは鮮やかでいて淡く、ツンとそびえているのが誘惑的であり  
二の腕と、それを支える肩は、横の膨らみがウソのように細く  
肌の白さは下でばらけている黒髪と美しく調和している。  
 
それだけに秋水には、二つの膨らみの間に残る薄い傷痕と  
右のわき腹で、透明なシール(創傷を直す為に使われている一種のバンソウコウらしい。  
こっちの方が、消毒液を塗ってガーゼを貼るよりも確実に治る、とは看護婦の弁)の下で  
生々しく糸に縛られている傷口は、致命的にも思える。  
 
目線の奥にある気まずさと躊躇を察したのか、桜花はつとめて明るく笑って見せた。  
「大丈夫よ。これもあるから。ね?」  
その治癒力によって、傷口は消え去るだろうし、今から多少激しい動きにも耐えられる、と言いたいらしい。  
津村斗貴子の傷を思い出しながら、それでもいいと思ってもいたが。  
 
秋水は不承不承うなずきながら、電気スタンドを消すと  
「…もう、夜明けだから」  
言い訳がましく呟き、ドアの近くにある机へ三国志と電気スタンドを置きに行く。  
その背後で、桜花はくつくつと忍び笑いを漏らした。  
彼はきっと、誰かさんの山吹色に白い裸身を照らされるのが嫌なのだろう。  
 
「じゃあ」  
戻ってきた秋水は言葉少なに、妙に見栄えのする病院着を、一枚、また一枚と脱いでいく。  
場所と桜花の容態ゆえに、少々ためらっているその様子が  
桜花にはなんだか、体を重ね出した頃のように初々しく見え、ひどく懐かしい。  
 
露わになった無駄のない端整な体が、桜花の上で四つ足をつき  
子供のように単純に口づけをする。  
彼らの中では極めて軽い愛撫だが、(諸々の道具や媚薬をよく使っていた。  
ちなみにそれらは、戦士長が原因のある出来事によりベッド近くの棚にしまってあるが  
しかしそれを教えて使う気にはならない)今の桜花には心地よく、じっと目をつぶり静かに受ける。  
夜明け前の冷えた空気が、熱を帯び始めている体を包んでいく中で、桜花はひたすらに唇を感じる。  
やがて感じていたものが離れた。  
 
もうちょっとだけ、といったあどけない表情をよそに  
秋水はその唇を柔らかな膨らみの間へとそぅっと移す。  
あるのは、彼らが分かち合った寸分違(たが)わぬ双子の傷。  
核鉄と医療によって、彼らが日を同じくして糸を抜いたそこはまだ刺激に対して弱く  
「ん…」  
鼻にかかった甘い息が漏れた。  
じっと当てられるネコの鼻のような弾力の唇が、痛くもあるが気持ちよい。  
その愛撫と、双丘に擦れる秋水の細い前髪のくすぐったさとを  
逃さぬように逃さぬように、桜花は懸命に感じていく。  
 
ややあって、再び唇を離すと秋水は桜花の右脇腹にある傷に唇を押し付けた。  
姉と不揃わせている無力の証の傷を、消し去りたい衝動があるのだろう。  
彼らしくもなく、熱ぼったい唇をグイグイと何度も押し付ける。  
流石にちょっと痛い。  
桜花は軽く顔をしかめたが、嫉妬交じりでも乱暴でも彼なりの愛情表現だと思い直し  
やれやれといった風で頭を撫でる。  
そうして、黒髪を這う白魚の指を見ているうちに、どうしようもなく息が詰まっていく。  
静かにもう片方の手を口に当てた。声を出したら嗚咽になりそうで、それだけが怖い。  
突如、唇よりも生暖かい感触(多分舌だろう)が走った。と同時に秋水が止まった  
「…苦い」  
傷を保護しているシールがそうらしい。愛撫をやめざるを得ない程に苦いらしい。  
桜花は、不機嫌そうに呟いた秋水をからかうように、「あらあら」とだけ笑った。  
嗚咽は出なかった。  
 
「ね、今度は秋水クンが下になって」  
ぎこちなく口元を擦る顔を見ながら、桜花はうきうきと笑う。  
淫靡というより、子供が「お〜いハニ丸」「できるかな」と言った幼児番組を見るような無邪気さがある。  
「寝てた方が」  
「しばらくなら大丈夫。コレもあるし」  
ひらりと核鉄を見せた。  
「…ならいいけど、もう少し待って」  
秋水は手短に告げると、桜花の両足を開いて鎮座して  
細身に見合わぬ質感を持つ乳房へ右手を伸ばした。  
「あっ」  
不意のコトに桜花は声を上げた。珍しく舌足らずなのは  
大好きな秋水の手が触れたのが嬉しいからだろう。  
手は規則正しくぐにぐにと、弾力に満ちた乳房を肩に追いやるように揉みしだく。  
「速くしてもいいわよ…」  
すぐ刺激を受け入れて、うっとりと息を吐きながら呟く桜花だが  
こういう時は不思議と口数の少ない秋水は答えない。  
その代わり、左手も加えて勢いをつけ双丘をかき回す。  
桜花の鼓動は、その上でぶるぶると跳ね回る弾力と同調し  
頬にはうっすらと朱みがさして、か細い息も早くなる。  
その様子を認めた秋水が、今度は指で淡い乳紋をなぞる。  
知り尽くしている桜花の弱点の一つだ。  
「あん……」  
しなやかな体をきゅぅっとよじりながら、甘い声を桜花はあげた。  
どこか芝居っ気があるが七実三虚。  
お互いが燃えるのなら、「ちょっとぐらいお芝居してもいいわよね」とか桜花は常々思っている。  
 
硬く尖っていてもあまり大きくはない突起が含まれた。  
「んん」  
秋水の頭が、悩ましくも優しげにかき抱かれた。  
突起を穏やかに吸う唇の動きが、乳紋にも軽く触れ、微弱でじれったい刺激が走り  
「んふぅ… ぅぅん……」  
くぐもった嬌声があがる。  
大きな刺激を待ちわびるのは気持ちよい。  
次はくる次はくると待ちわびながら、しかし裏切られ続けて、  
その満たされなさに身悶えるのは、ただ刺激を受けるよりも気持ちよく  
清楚なたたずまいの秘所からとろとろと蜜がこぼれ、ねっとりとした甘い匂いが漂う。  
触発されたのか、秋水は舌をチロチロと乳紋に這わした。  
もっと焦らしても良かったのにと思いつつも、七実虚三の反応を返す。  
「やん! ちょっと強…ゃ… 強いってばぁ、秋水クン………」  
左右へ振られるくすぐったげな顔のその下で、漆に似た豊髪がふわふわと波打った。  
相変わらず秋水は答えない。行為の最中はそうなので、何を考えているか分からない。  
あるいは、そんな彼に対する不安が、芝居っ気に繋がっていたのかも知れない。  
 
しかし秋水。喋りはしないが、先ほど胸を触ったように、桜花が頼みもしないコトを仕掛けてくる。  
積極的なのか消極的なのかよく分からないその左手が、乳房ごと乳紋をつねった。  
「ひゃんっ」  
目が軽く見開き、白いノドが仰け反った。核鉄を握る手にも力が入る。  
秋水は、緩やかに引き伸ばした柔肉に埋もれる、ぶどうのような感触の  
(あるいはアキレス腱とふくらはぎの境目にも似た)乳頭の付け根を何度も  
奥から先、奥から先へと、引きずり出すように擦り上げる。  
秋水はそのまま桜花に覆い被さると、色の鮮やかさと硬度を増したもう片方の乳首を更に吸う。  
流石に笑みも消えて、崩れそうな勢いの細い息が部屋に響く。  
「そ、そんなにしたって…はぁ…… 何も出なっ あぁん!」  
「でもこっちは出てるよ……」  
珍しく喋った秋水は、右の人差し指を秘所に潜り込ませていた。確かに出てはいる。だが。  
「やだ秋水クン…おじさんみたい……」  
なコトを言うのはいかがなものか。桜花は少し意地の悪い笑みを浮かべる。  
 
秋水はムっとした。  
出てるから出てると言っただけなのに、何故そんなコトを言われなくてはならないのだ。  
だが桜花はそんな珍しい秋水 ──行為の最中に喋った上に、少し怒っている──に、はしゃいだ。  
顔は悪女のそれだ。御前がこの場にいたら、しとやかでおとなしい性格になってだろう。  
「『でもこっちは出てるよ……』『でもこっちは出てるよ……』」  
意地悪を前面に押し出して、ニコニコしながら声と表情をマネる。  
双子ゆえにかなり似ているのが秋水にはまた腹立たしい。  
怒った。指を引き抜くや否や、その上の突起の皮をめくりあげ、人差し指と親指で力任せに押しつぶした。  
「あ、ぁああん! やめ… そんなに強く… ダ、ダメぇっ、お尻はいじ… ひぐっ!(あ、けどちょっといいかも…)  
や、や、やぁぁん! ゴメンなさいっ秋水クン、謝るからっ はぁ、はぁああ! ゆ、ゆるしてぇ〜!」  
懇願空しく、ぐしゃぐしゃと粘液まみれで動き回る秋水の手は止まらない。後からも前からも強引にかき回す。  
どこかちょっと楽しそうな桜花が気に入らない。後の穴に指が二本入った。彼ら的には新記録だ。  
「わ、私はまだ… や、ダメ、ダメだってばぁぁあ!」  
まだケガが治ってないからやめて、などと卑怯な言い訳を持ち出す間もなく、桜花は達した。  
 
お互い調子に乗りすぎた。はぁはぁと息をつく桜花の前で秋水は気まずい。  
「だが俺は謝らない」  
とりあえず毅然と呟いてみる。シリアスなハズのこの話で何を書いてんだオレは。  
 
「ね、済んだコトは忘れて……」  
秋水は内心、(言い出したのは姉さんなのに)と思ったが、とりあえず従う。初めて後の穴に入れた指を持て余しながら。  
「…上になっていい?」  
「いい」  
桜花をゆっくりと抱き上げると、秋水は後に倒れこんだ。  
その上で綺麗な体がもたもたと、四つん這いで移動して  
やがて、姉弟の秘部それぞれがそれぞれの眼前に晒される形になった。  
俗にいう69の体勢である。彼らはコレをムーンフェイスから教わった。  
二十三夜待と眉月を始めとする十五組が実演月で教えてくれたのだ。だから何書いてんだオレは。  
 
ますます白んでいる光の中で、桜花は朝が間近にあるコトを悟る。  
朝が来たなら別れよう。姉弟としてはしばらくに。恋人としては永久に。  
 
だが今はまだ、秋水の上にいる。屹立を感心しながら見つめている。  
「…おっきい。ねぇ秋水クン」  
「何?」  
ちょっと間を置き、そして、  
「さっきみたいに……激しくしないでね」  
おずおずとした口調なのは、先ほどの行為がこたえているからだろう。  
わかった、という代わりに、秋水は膝の裏にある小さな窪みをさすった。  
「あん…」  
軽い嬌声を上がると、それにつられて二つの膨らみが揺れ、やがて引き締まった腹筋の上で押しつぶされた。  
そうして顔を近づけた屹立は、透明な液体を尖端に湛えていて、興奮しているのが見て取れる。  
「ふふっ」  
カッコ良くてもやっぱり秋水クンは男のコね、と妙な笑いを漏らしつつ  
キスの時のように首を傾げながら、屹立に顔を近づけていく。  
そして「カサ」に唇を軽く留めると、ミルクを飲むネコのごとく  
鮮やかな色の舌を、ちろちろと素早く這わしていく。  
場所も角度も速度もひっきりなしに変えて舐め続け、かと思えば  
経験がまるでないように、一箇所だけを遠慮がちにつついてみたりする。  
気まぐれな舌の動きに、悪戯っぽく浮かぶ表情はよく似合っている。  
秋水は後で声を押し殺し、しかし微かに震わされた屹立から刺激を望む証を滴らせてしまう。  
 
立ち込めた匂いは鼻によく染みて、桜花の表情も思考も、うっとりと溶かされていく。  
長大な屹立を咥えると、首をゆっくり動かし始めた。押しつぶされている膨らみが、杵の下の餅のように形を変える。  
桜花は唾を唇に追いやって、更に滑りやすくしながら動きを早める。  
髪が背中から零れ落ちた。  
「んっ…んっ…んっ…!」  
鼻から漏れる息と、細身を覆い隠すように暴れ回る黒髪に、秋水は眩んだ。  
眼前にそびえたつ肉感的な太ももを掴むと、軽く身を起こして秘所に口を付けた。  
「太ももはダメ、掴まな… はぁんっ や、やだ、激しくしないで…」  
太ももの裏側も弱点の一つ。桜花は悩ましく腰をねじった。  
その動きを強引に押さえつけると、秋水は舌をゆるやかに秘所へ潜り込ませた。  
「はぅ…」  
桜花は細かく叫ぶと、屹立を再び口に含む。  

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