気付くと、自室のベットの上だった。  
記憶が霧散していて、状況がすぐにつかめなかった。  
「カズキ、気付いたか?」  
斗貴子さんが心配そうな顔で俺の顔をのぞき込んでいた。  
胸から腹部にかけて軽い痛みがある。その痛みから、自分がまた無茶をしてしまったこと  
を悟った。  
袈裟懸けに広がる傷口には、核金が当てられていた。  
「斗貴子…さん?  
 …大丈夫?」  
「何が…大丈夫?だ!  
 キミは私より自分の心配をするべきだ!」  
怒気の混じった声で斗貴子さんは答える。  
 
いや、それはそうだろうけど、  
―――そんな顔をされていたら、心配するしか無いじゃないか。  
「―――うん…ごめん。  
 ありがとう、斗貴子さん」  
心からのお礼を告げる。言うと斗貴子さんはうつむいてしまった。  
表情は、見えない。  
照れているのだろうか、だとしたら、とても微笑ましい。  
 
けれど、それは違っていた。  
 
「―――また…キミは…」  
震えた声は、やっとのことで振り絞られたのだろう。  
「斗貴子さん?」  
斗貴子さんは心配する俺の声に答えず、変わらず震えた声で続けた。  
 
「キミはまた、そうやって、私に感謝の言葉を押しつけ、笑顔を向ける。」  
眩しすぎた。  
彼の日常を壊し、  
優しい心に殺生を強要し、  
あげく何度も死の淵に立たせている。  
そんな自分に向けられるカズキの笑顔は、私には眩しすぎて耐えられない。  
「…キミはやはり戦いの世界に身をおくべきではなかった。  
 ―――キミを巻き込んでしまって、すまない。」  
いまさらだ。  
ここまできて、彼にこんな卑怯な言葉を告げる自分がひどく醜く感じられた。  
 
「私は自分の憎しみに従い、ホムンクルスを殺すために戦っていた。  
 その結果、傷つくのは関係のないキミばかりで、私は無傷でのうのうとしている。  
 今回だって、キミは私をかばわなければ、こんな傷を負うことはなかった。  
 ―――私は、最悪だ…こんなのでは、ホムンクルスとなんら変わりがない……!」  
気付けば私は泣きだしていた。  
嗚咽が止まらない。  
こんなにずうずうしく許しを請うようなことばかり述べる自分が憎かった。  
申し訳ない気持ちで一杯で、消えてしまいたかった。  
 
―――そんな…  
そんなぼろぼろの姿で、  
綺麗な白い肌を、所々赤い血で湿らせながら、  
彼女は自分を“無傷”と言った。  
そして自らの罪を責め立てているのだ。  
彼女をここまで追い込んだ、自分の間抜けぶりと無力さに唇を噛んだ。  
「斗貴子さん…」  
さっきから名前を呼ぶことしかできていない。  
ベットに座る形で、斗貴子さんの方に向き直った。  
形の良い顎を伝って、涙か制服のスカートに落ちていた。  
「そんなこと無い。俺が危険な目にあってるのは弱い癖に誰彼救おうとする俺自身のせい  
だ。斗貴子さんが悪いんじゃない。」  
 
斗貴子さんは話を聴きながら激しく首を横に振る。  
かまわず、俺は続けた。  
「斗貴子さんは、本当は消えるはずの俺の命をすくい上げてくれたんだ。  
 …それだけじゃなくて、斗貴子さんは俺に力をくれた。  
 だから、俺は斗貴子さんみたく誰かを救いたいんだ。もうみんなが痛かったり、悲し  
かったり、苦しかったりするのは嫌だから。」  
そして、“みんな”の中には斗貴子さんも含まれているんだ、と。  
「だから、泣きながら憎しみしかない、なんてことを言わないで欲しい。」  
そう言って、俺は斗貴子さんを抱きしめた。  
 
 

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