夜風が銀成学園高校の校庭をひゅうと撫でてゆく。  
コチコチと時を刻む校舎の据え付け時計は、夜が更けて  
きた事を教えている。  
それら以外に音らしい音の聞こえない校庭だが、ここで  
先程まで凄絶な死闘が繰り広げられたのだった。  
 
人喰いの化物ホムンクルス、  
その共同体である組織L.X.E(エルエックスイー)。  
その尖兵として差し向けられた刺客、早坂姉弟は人間だった。  
幼い時に降り掛かった不幸ゆえに姉弟が欲した願いは、  
L.X.Eにとって彼等を自分達に仕える「信奉者」に仕向けるには  
絶好の餌であった。  
 
組織の悲願である「計画」の為に、学園を盛大な食事祭の舞台とするのにはどうしても邪魔な存在があった。  
ホムンクルスを狩る「錬金の戦士」。  
銀成学園生徒、武藤カズキと津村斗貴子である。  
 
周到な準備を行ってこの錬金の戦士を葬り去ろうとした早坂姉弟  
だったが、戦闘経験の差以上に、武藤カズキのある種自己犠牲的な  
説得によって、死闘はひとりの死者を出す事なく、  
早坂姉弟の恭順という出来うる限りの  
最善の結果のもとに、カズキたちの勝利に終わった・・・。  
 
 
回転灯を消した救急車から降りた救命士たちが早坂姉弟を担架に乗せて  
いるのを眺めつつ、カズキは斗貴子に尋ねた。  
「これで大丈夫だよね。あとは病院でキチンとした治療を受けば・・。でも誰が救急車を手配してくれたんだろう?核鉄での応急処置が一段落ついたと思ったら、すぐにこの人たちが来て・・。」  
「それは手配した本人に聞くといい。」  
 
斗貴子の返答と同時に、いささか仰々しい位に重装備のジャケットを  
着込んだ長身の男がどこからか姿をあらわした。  
 
「ブラボー戦士長!?」  
「なんとか間に合ったか。両名共にボロボロだな。だが、見事だった。ブラボーだ!」  
戦士長と呼ばれた男、その名もキャプテン・ブラボーはそう言うとカズキの頭に手をやってクシャクシャとかき回した。  
「心配するな。あの救急車は俺達、錬金の戦士が懇意にしている病院からのものだ。設備の充実と融通の効き具合は当地域で一番ブラボーだ」  
 
カズキ達錬金の戦士を束ねる長、戦士長。彼の押した太鼓判に、この時ようやくカズキはやっと肩の荷を下ろせた様な、ややけだるい安堵感を感じた。笑みがこぼれるカズキ。  
 
その顔を、斗貴子は横目で見遣りながら、かすかに溜息をつく。  
 
担架の上の早坂の姉、桜花。  
カズキのほうへ顔を向けている。手を差し伸べようとしているのか。  
きつそうな彼女の表情をみてとり、カズキはそれを制して、微笑んだ。  
「もう大丈夫だから。落ち着いてから、皆でお見舞いにいくよ」  
桜花も微笑みを返す。目尻にうっすらと浮かぶ涙に斗貴子は気付いた。  
 
「武藤・・。」  
姉のそばに控えるように並び、早坂の弟、秋水が口を開いた。  
「・・・傷は、大事ないか?」絞り出すような声。こちらは顔を伏せがちにしている。  
 
「キサマがいえた義理か!」  
「斗貴子さん!」  
怒気を隠さずに秋水に辛らつな言葉を浴びせる斗貴子。  
慌ててカズキは両者の間に割って入る様にして事が大きくならぬ様に収めた。  
背中に斗貴子の殺気を含んだ視線が突き刺さる。溜息をつくカズキ。  
 
「秋水先輩。いまは、桜花先輩のそばにいてあげてください。オレは、大丈夫だから」  
軽く胸をポンと叩いてまた微笑むカズキ。  
秋水は、カズキに武道者がやる様に、深々とゆっくり頭を下げた。  
「そろそろいいだろう。お願いします。」  
ブラボーは、救命士に声をかけた。  
 
救急車への姉弟の収納が終わり、出発をうながす救命士。  
ブラボーも付き添いとして車内へ乗り込む。  
回転灯もサイレンを鳴らす事もなく、まるで隠れる様にして、  
カズキと斗貴子を校庭に残し車は病院へと走り去っていった。  
 
「俺は早坂姉弟の付き添い兼護衛としてこのまま彼等と合同する。  
L.X.Eの口封じを警戒せねばならん。事実、お前達の戦いを  
監視していたホムンクルスがいた。追っ払っておいたがな。  
 
さて、俺達の任務の性質上、現場の痕跡を残さない様にする必要が  
あるのだが、お前達。校舎屋上の給水塔が見当たらない気がするが。  
あんなに見晴らしの良い空間では無い筈だぞ。まぁいい。  
組織の事後処理班は優秀だ。手際も良く、弱音は吐かない。  
今回も頑張って貰うか。  
 
今日はお前達も早く寄宿舎に戻って体を休めろ。明日も学校はあるんだから、遅刻するなよ」  
 
「それとカズキ。お前の『友達』も来てたぞ。目的はわからんが、な」  
 
救急車に乗り込む前にブラボーが話した事をカズキは思い返していた。  
友達?・・・もしかして。好敵手の顔がふと、脳裏をよぎる。  
夜風に吹かれながら、静寂に包まれる校庭に佇むカズキと斗貴子。暫く会話もないまま。  
 
「このままここにいても風邪を引くのがオチだ。帰るぞ、カズキ」  
沈黙を破り、斗貴子がいった。  
 
斗貴子の肩を借りながら、カズキは学園正門へと歩いてゆく。  
「人間と戦ったのは初めてだった。武装錬金を使って・・。できれば、もうごめんだな」  
「生憎だがカズキ。戦士を続けるのならば、いずれまた、人間と戦う時がくる。」  
 
その返答はやや冷たい口調になっていたが、それは斗貴子自身も気付いていない。  
「信奉者というのは厄介だぞ。奴らはその主人である化物と同じ様に、なりすます。隣人に、被害者に、時には味方にもな。信じ込ませ、裏切り、己の欲望のために他人の命を化物に供する。反吐がでる」  
カズキは黙っている。辛い思いを噛み締めるように。  
 
「だからカズキ。私はあの姉弟を信じない。・・敵だと認識している」  
 
それは今の斗貴子の本心だった。事実、あの弟はカズキを背後から攻撃したのだ。致命傷だ。姉の武装錬金の特性で事なきを得たが、それでその事実がチャラになるわけでもない。  
カズキは姉弟の命を守ろうとしていたのだぞ!?  
 
・・・・・・私から、な。斗貴子の胸のなかに黒く重苦しい嫌悪感が沸き上がって来る。自分に対しての、だ。  
 
「すまない・・・」  
カズキは謝罪する。力無く。違う。私はキミを責めているのではない。ただ・・・。  
 
その時斗貴子は気付いた。カズキの様子がおかしい。  
みれば額に脂汗をうかべ、耐えるかのごとく目を閉じ顔を  
しかめていた。肩にまわされたカズキの腕の震えが、  
支える斗貴子にもいまやハッキリとわかった。  
 
「・・・ただ・・守りたかった・・・だけなん・・だ・・斗」  
言い終わらないうちに、カズキは崩れ落ち、そのまま気を失った。  
「カズキ?・・・カズキ!!」斗貴子の叫びが、闇のなかに響いた。  
 
地面に崩れ落ち、気を失ったカズキの顔は、月明かりの下である事を  
差し引いても蒼白であるのがわかる。  
カズキも核鉄を使った応急処置を自分に施している。早坂姉弟の核鉄。  
斗貴子も自分のを貸して使わせた。  
だがそれは早坂の姉の傷を癒したあとの話だ。かなり時間を割いて。  
カズキはいつも自分よりも他人を優先する。  
「チッ」 誰にというわけでなく毒づく斗貴子。  
彼の来ている学ランの下、左胸脇と背部左の脇腹辺りから出血があり、Tシャツを赤く濡らしている。  
 
本人が気付かない筈がない。隠していたというのか。なぜだ!  
とっくの昔に走り去った救急車が恨めしい。命に危急の及ぶレベルは、かろうじてない。だが痛みは激しいだろう。  
斗貴子は思考を走らせる。ここにいる事はできない。  
寄宿舎?駄目だ。この負傷を皆に晒す事態は避けなければ。  
止血と核鉄による更なる応急処置。それからどこか救急外来を  
受け付ける病院に運び込む、か。学校内も駄目だ。  
どこか、とりあえず体を横たえられる場所があれば。  
 
そのとき、ある映像が斗貴子の脳裏に浮かんだ。  
学園裏、裏山の廃工場跡!かつてホムンクルスのアジトだった場所。  
そこを1人探索した折に、内部の間取りも把握した。  
奥まった位置に、宿直室があったはず。そこだ。  
 
距離もここからは一番近いし、決まりだな。  
包帯、消毒薬は学校の保健室から調達。体にかぶせるシーツか何かも。  
おおよその計画を頭のなかで立てた時、斗貴子はすこし落ち着いた。  
まずは、カズキをあそこへはやく運び込まなければ。  
「武装錬金、バルキリースカート起動。」  
バルキリースカートのロボットアームを彼女自身とカズキを  
支える為に操りながら、彼女はカズキを背負う様にして  
裏山廃工場跡、通称「オバケ工場」へと急いだ。  
アームの駆動音が、静かに規則ただしく音をたてる。  
 
カズキを廃工場の宿直室に運び、仮眠の為設けられたとおぼしき  
畳みを敷き詰めた間に寝かせる。  
埃を払う必要があるかとおもったが、意外にも汚れはあまりなかった。無論ハンカチを使い何度か拭き清めておいたが。  
カズキの靴をぬがせ、彼の身体をゆっくりと寝かせると、斗貴子は自分の通学用の鞄をマクラ代わりに彼の後頭部へとあてがった。  
とりあえず、第一段階は終了。  
 
これから学校へと戻り、保健室に忍び込んで必要な物を調達する。  
暗闇にカズキを残してゆくのは気が引けたが、大した時間はかからない。すぐ戻れる。自分を納得させて、彼女は学校へと戻るべく工場を後にした。  
 
何故戦士長に連絡をいれないのか?  
指示を仰ぎ、錬金の戦士御用達だという病院へカズキも連れていく様  
何故頼まない?それが一番合理的でベストな選択ではないか。  
学校へと向う道すがら、小さな声が自問する。答えられない。  
明確に答えられないまま、津村斗貴子は違う選択した。  
私はどうしようとしているのだろう?  
カズキと私が早坂の姉弟の処遇をめぐって対峙した時の、カズキの私をみつめる目。  
私の攻撃をうけて苦痛にゆがむ顔。早坂の姉弟を狙った処刑鎌の刃を槍で受け止めたときの、私にむけた背中。映像がクルクルと心のなかをまわって、消えた。  
 
津村斗貴子は夜の闇のなかを走り続ける。  
 
 
病院へと向かう救急車のなかでは、救命士たちに  
よる早坂姉弟の手当ても済み、一応の落ち着きをみせて  
いた。無線で病院に外科医の待機状況や空きベッドの確認を  
問い合わせる様子を眺めながら、戦士長ブラボーは担架の上の  
少女と、傍らでその右手を握りながら俯いたままの少年の  
事を考えていた。  
信奉者。彼等をしてホムンクルスへの従属を決意させた動機に  
ついては想像も出来ないが、欲したものは判る。永遠の命。  
 
「姉さん?」  
少女の手を握りしめていた少年、早坂秋水があげた心配そうな声に、  
ブラボーは担架の上の少女を見遣る。  
担架の上の少女、早坂桜花が弟の顔をみつめ何か口を動かしている。  
「駄目だ!何故武装錬金を?その体では無理だ」  
悲痛な声で思いとどまる様に懇願する弟に、微笑みながらかぶりを振る  
桜花。彼等の核鉄はオレが回収してある。何をしようというのか?  
秋水は姉の説得を観念したのか、オレに向かって話しはじめる。  
 
「姉さんの武装錬金は、精密射撃を行える自動人形と弓の一対。そして  
対象者の負った傷を己の体へと引き受ける特性を帯びた矢をつがえる篭手。それがその全容です。そして自動人形の方は、姉さんと意識を共有しつつ、自立した活動を行える。言語機能を使えば姉さんの意を汲んで代弁することも可能です・・・・」  
「俺達の素性を知る貴方にこれからお願いする事は、自分でも虫の良い行為だと思います。ですが。姉はどうしても伝えたい事があるらしい」  
 
「姉にだけ核鉄を貸して欲しい、というわけか?」  
秋水が静かにうなずく。  
「俺は信奉者です。組織のなかで競争を生き延びる為にこの手を  
汚して恥じる事などなかった。先刻の戦闘でも俺達姉弟をかばった  
武藤を後ろから俺は武装錬金で攻撃しました。  
・・勝てると思ったからです。  
姉は俺とは違います。まだ、貴方達の側で生きてゆく資格がある。  
だから、武藤の呼び掛けに応じ、改心して、俺の過ちをただすために  
武藤の傷を自分へと引き受けました・・・。」  
桜花は驚いた顔で弟を制しようとする。そしてオレの顔をみる。  
・・姉をかばおうとしてるわけか。そして姉も、また。  
 
ガシャン!  
秋水は狭い救急車両の床へ両手をつき頭を下げた。  
その拍子に彼の腕に付けられた点滴の針、そこから伸びる管と鎮痛剤  
のパックがひきずられ、床にぶちまけられた。  
「姉は俺とは違います。ほんとうに貴方に何かを伝える為に武装錬金を  
必要としている。信じて欲しい・・・」  
「バカ野郎!キミも安静にしなければ駄目なんだぞ。担架を拒んで  
座椅子に座る自体無茶なのに、またそんなことを!」  
救命士の若い方の男が怒鳴って秋水を抱え上げようとする。  
「どうか、姉に核鉄を・・」  
・・・・・。  
 
信奉者の「転向」は過去の事例からみても極めてすくない。  
ホムンクルスの提示する「永遠の命への格上げ」に魅了された  
人間を「こちら側」へ引き戻す事のいかに困難なことか。  
武藤カズキ。  
彼はまだ若く、経験も浅く、馬鹿がつくほどまっすぐな人間だ。  
馬鹿ではあるが、愚かではない。善を成す為に己の命をかけて  
偽善を貫き続ける決意を秘めた少年。  
カズキはこの姉弟を信じた。なら、その上司のオレがしてやれる  
のは、命をかけたカズキの判断を信じてやることだ。  
「いいだろう。ただし、体力の消耗を考慮して、なるべく早めに  
きりあげろ」  
 
核鉄を受け取った桜花は、両目を閉じて呼吸を整えた。  
一瞬後、核鉄は桜花の手のなかで開花した花の様に放射状に変型し  
閃光を発した。  
「よーよー!なにシンミリしてんだよオマエたち?おっ秋水じゃん。  
元気そうだな。そうでもないか?なんで救急車のなかにいるんだ。  
うお!覆面コートの変態がいるぞ桜花!」  
ブリキで出来たおもちゃの天使、そういう形容のピッタリな自動人形、  
桜花の武装錬金「えんぜる御前」がオレの前に現れた。  
ふと救命士のほうへ視線を移すと、先程の若いほうの男がクチを  
あんぐり開けて惚けている。もうひとり、こちらは年輩の救命士が  
「お前もすぐ慣れる。こういう職場だ」と若い方へ声をかけた。  
 
「えんぜる御前」は秋水の頭の上に座を求めた。  
どうやら彼?の指定席らしい。くつろいだ口調でオレに言う。  
「んー。話はわかった。オレのクチを借りて桜花がアンタに何やら  
話したいってこったな。イタコになりゃいいわけか。」  
桜花に確認をもとめる御前。頷く桜花。準備は整った。  
えんぜる御前がコホンと一度せき払いしたあとで言った。  
「じゃあ」  
「・・・はじめましょうか。」女性の声に変ぼうした。桜花、か。  
早坂桜花は両目を閉じたままだ。集中してるのだろう。  
 
「はじめに、今回のことでは大変な迷惑をおかけしました。弟ともども  
心からおわびします。・・信奉者が錬金の戦士とその組織にとって  
忌べき存在であろう事は承知しています。  
私も弟も、この身にいかなる処罰が臨んだとしても不服はありません。  
ただ、まだこの身が自由である今のうちに、謝罪の言葉をあのひとへ  
伝えて欲しくて発言の場を設ける事をお願いしたのです。」  
「話すといい。必ず伝えよう。・・・カズキにか?」オレは尋ねた。  
桜花の顔が静かに微笑む。  
「武藤君はもちろん・・でも今、私が謝罪したいのはもう1人の」  
 
「戦士・斗貴子か」  
「ハイ。・・・津村、斗貴子さん・・・」  
 
「秋水クンの刀で武藤君が貫かれた時、私が篭手の特性を用いて彼を  
助けようとしたのは・・理由がふたつあります。  
ひとつはもちろん武藤君の献身的な説得。彼は私達姉弟へ新しい世界  
の扉を開き招き入れようと命をかけてくれました。  
戦闘能力のいまだ無効化したわけでも無い私たちに背を見せて・・  
戦士としての職務を遂行しようとした津村さんの攻撃から守って  
くれた。いわばふたつの刃の間に己の身を投じたのです。」  
 
「その姿は、言葉にも増して彼が真剣に私達を救おうとしている証しでした。」  
車内の音は、生命維持機材の単調な反復音と、時折無線から流れる  
病院の応答係の声。そしてえんぜる御前を通して語られる、早坂桜花  
の独白だけ。  
 
「もうひとつの理由。それは彼の背中越しにみえた、あのひとの顔」  
秋水の刃が武藤カズキを貫いた時、桜花の目に写ったもの。  
オレは先を促した。  
 
「あんな哀しい顔をみたことはなかった。こころの半分を、魂の半分を  
削り取られたような、そんな顔。まだ私の目に焼き付いています。  
あのひとは武藤君の名をさけびました。  
そして駆け寄ろうとしたんです。己を護る刃を下げて、両手を広げて」  
 
「武藤君と津村さん。二人をつなぐ絆の強さとかけがえのなさ」  
「私達姉弟とはまたちがった『ふたりぼっち』の世界に彼女は生きて  
いる」  
「死がふたりをわかつまで」  
「私達が恐れてきたこの言葉があの時彼等の上に降り掛かるのを  
みたんです」  
桜花は静かに言葉を続けた。  
「それは耐えられないものだから。だから私は初めて弟以外の  
人の為に矢を放ちました」  
「津村さんに、よろしくお伝え下さい。早坂の姉弟が、  
謝っていたと・・・」  
 
「わかった。確かに伝えよう。心配するな」  
「ありが・・・」  
 
オレの返事を聞くや否や、桜花はそのまま気を失ったらしい」  
ここまでの会話は、今の彼女には相当の負担になっていた筈だ。  
えんぜる御前も姿を消した。武装錬金の解除だ。  
御前自身の判断だろう。  
 
「姉さん、俺のせいで、・・・」  
悔いる秋水の声を聞きながら、オレは銀成学園に残してきた  
カズキと斗貴子のふたりの事をおもった。  
救急車は、それから間もなくして病院の門をくぐった。  
 
 
必要品の調達を終えた斗貴子は、返すようにしてカズキの待つ  
工場跡へと急いで戻った。  
彼のいる宿直室へむかい、まず携帯ランプの明かりを灯す。  
これは学校の備品室から頂戴した。  
他にもいろいろくすねてきたから、明日はちょっとした騒ぎに  
なるかも。  
今の私は錬金の戦士ではなくて、ただのコソ泥だな。  
苦笑する斗貴子。  
光を調節して外部に漏れ出さない様にする。  
 
カズキの上半身だけ服をぬがせた。  
それからすぐにカズキの応急手当てを始めた。止血して、  
滅菌ガーゼに浸した消毒液で傷口のまわりを浄める。  
傷の縫合が必要かと縫合糸と滅菌針も持ってきたが、  
核鉄の治癒効果かそこまでは必要なさそうだ。  
軽く絞ったタオルで顔や体の汚れをおとして、別のガーゼを当て、  
丁寧に包帯を巻く。  
 
そして、斗貴子は自分の核鉄をカズキの胸のあたりへと合わせて置く。  
核鉄が微かな作動音を発してカズキの治癒力の喚起を促しはじめた。  
体の上から清潔なシーツをかぶせてあげる。  
やっと斗貴子の仕事は終わった。  
こころなしかカズキの寝顔も穏やかなものになった気がする。  
斗貴子のこころのなかに安堵感が拡がり、  
そして張り詰めていた気持ちも解放されて、クタクタに  
なってしまった。  
カズキの横に腰をおろし、膝をかかえる様にして座った。  
心地よい疲れ。斗貴子にも眠気が訪れた。  
カズキのほうへ顔を傾けて、その名を呼んでみる。  
「カズキ・・・・・・」  
そのまま膝のうえに顔を埋めて、斗貴子も眠りに落ちた。  
 

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