「じゃあ、おやすみ斗貴子さん」
「あぁ、おやすみ…あ…その…カズキ…」
寄宿舎に戻り、ブラボーから話を聞いた二人。
L・X・Eの事、そしてカズキの錬金の戦士へのスカウト、又、斗貴子はL・X・Eへの任務の為寄宿舎に入りカズキ達と同じ学校で生活することとなった。
「私は…正直な所キミにはもう戦って欲しく無い
戦いは私達に任せて、日常に戻って欲しい…
キミが傷つく姿や苦しむ姿は…もう見たくない」
「斗貴子さん…
…ありがとう でも…自分でよく考えて決めるよ
これは…オレの問題だと思うから」
「そうだな…分かった それと……
今日は…ありがとう…嬉しかった」
真っ赤になりながらさきほどの事にお礼を述べる斗貴子。
「て、照れちゃうよ…そんな事言われたら
でもよく考えたら、次の任務によっては斗貴子さんと会えなくなっちゃったかも知れないんだよね」
「そうだな…キミに好きになってもらうどころではないな
でも私は…キミとこのまま離れるとは微塵も思っていなかったぞ…
何故だろうな…そう…私達を作り、巡り合わせた神様の意思の様なものを感じた…
私達が出会うのは…運命だったんだ…」
「…案外、ロマンチストなんだね斗貴子さん」
「……」
運命論でアピールしてみた斗貴子だが、軽くボケられた。
途端に気恥ずかしくなる。
「じゃ、じゃあ…おやすみカズキ」
「うん、おやすみ…また明日」
部屋に戻ったカズキ。ベッドで横になる。
(ふぅ…今日は疲れたなぁ…
オレ…初体験しちゃったんだよ…な… 斗貴子さんは、オレの事が好き…
でもオレは…あの時はあぁ言ったけど… 本当に斗貴子さんの事好きなんだろうか…
嬉しくなかった訳じゃないけど、なんだろう… ただ初体験できたから嬉しかっただけの様な気がする…
…………わかんないや…
それに、それよりも今は… オレは、戦うべきなんだろうか…?)
そして、斗貴子は…
(まだ顔が赤いな… ははっ、今日の私はすごかったな…
今日のが初めてならよかったな… 初めての…時…)
その時だ、まるで封印された怪物かなにかが飛び出すように斗貴子の脳から記憶が吹き出した。
(!!!!!!!!!!!!)
それは残像となって一気に蘇る、テレビの早送りのように次々と映し出される記憶のコマ。
(嫌…嫌っ……! 思い出した…思い出してしまった…
何故だ…確かさきほども思い出した事だ…そう…私は前の学校で…秘密を知られて…
それだけだ…さきほどではそれだけだった…
それが今全て吹き出したのか?
嫌だ…思い出すのは嫌だ…これ以上悪夢が増えるのは嫌だ…
忘れたい悪夢だったのに……
そうか…私は忘れるわけにはいかない悪夢で…この悪夢を忘れ…いや封印でもしていたというのか…?
だから先ほどは断片的な事しか思い出せなかったが…少しづつ記憶の封印が解かれた?
……ははっ、皮肉なものだな… 自分の記憶の封印を自分で解いたのか…私は?
私しかしらない…ずっと思い出したくなかった悪夢…
つい最近の事でもよくここまで忘れていたものだ…
あの時の私を考えれば無理はないかもな… なんとしてでも忘れたい記憶としかいえん…
ここまで思い出した以上…もう自分で忘れるのは無理だろうな…
ふぅ……なんとか落ち着けたか…いいさ、私は二つの悪夢を背負って生きていく…)
疲れもあってか、そのまま斗貴子は眠りについた。
だが、無我の中で言葉は放たれる。
「誰か…誰か私を、助けて…」
戦女神の二つの悪夢は容赦なく彼女を飲み込んでいく。
戦いへのきっかけとなった悪夢、女としての悪夢。
とても17歳の少女が耐えられる物ではないだろう…
敵を滅することを誓った戦女神の羽根もこのまま朽ち果てるのだろうか…
翌日、斗貴子が銀成学園に転入してからは、休む暇もない日々が続いた。
蝶野が生きていることを知り、本人と再会したカズキは彼と決着をつけることも含め
妹と友たちがいる日常を護るため、戦う事を決意した。
また斗貴子はL・X・Eとの戦いの中で、錬金の戦士になる原因となった悪夢…
ブラボーがカズキとの特訓の中で語った、7年前の小学校の事件を再び揺り起こされた。
「敵は全て殺す」その決意を再び固める。
そして、L・X・Eからの攻撃は止み、膠着状態が続いていたある日…
カズキは特訓も兼ねて、剣道部のエース早坂秋水と手合わせをしていた。
その、稽古の後……
「ありがとうございました おかげでいい稽古になりました」
「!!! 嫌…イヤアアアアァァァッ!」
「斗貴子さん!?」
稽古が終わり、秋水が防具を取った時だった。
いきなり斗貴子が叫び出し、その場に倒れた。
「う……ん………」
「気がついた? 斗貴子さん?」
「ん…ここは…」
「保健室…覚えてる? 体育館での事…」
「あぁ……すまない、迷惑をかけて…」
「ううん、気にしないで みんな心配していたよ
…早坂先輩はかなりビックリしたみたいだったけど」
「ははっ…後で謝っておかないとな
ん…もうこんな時間か…」
「うん、みんなもさっきまでいたんだけど…
もう学校閉めなきゃいけないから、無理言って俺だけ残ったんだ
動ける? 先生も待っててくれてるから、大丈夫そうなら帰ろうか」
「わかった、体は大丈夫だ…」
帰路、平静を装う斗貴子だがやはりどこか様子がおかしい…
「斗貴子さん…ホントに大丈夫?」
「だ、大丈夫…」
「汗かいてるよ…? …おぶってこうか?」
「すまない……ありがとう……」
「ん………
ここは…私の部屋か…あのまま眠ってしまったようだな」
「ん…起きた? 斗貴子さん…」
「あぁ、何度もすまないカズキ…」
「いいよいいよ、それより… だいぶうなされてたよ
その…そんなに秋水先輩の顔…嫌だった?」
「へ? いやいやそんなことは、むしろ彼は美しいと思うぞ
って何をいってるんだ私は…え、えっとぉ…
………………
カズキ…話、聞いてくれるか? 誰かに聞いてもらえれば、少しはスッキリするかもしれん」
「ん…わかった 辛いことだったら…無理しないで…」
「ありがとう…
あの時私が倒れたのは、彼の顔…そうだな髪型や目の辺りが…辛い思い出…
いや、私にとっては二番目の悪夢と言える過去の人と被ったからなんだ…
ここへ来る、少し前なのだけれどな…確か前に話した事あるな、この制服を使って潜入した前の学校の任務の事だ」
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今よりさかのぼるコト約3ヶ月前…
「今日から、このクラスの仲間になる 津村斗貴子さんだ みんな、仲良くしてやってくれ」
(すっげぇ傷跡…)(なんか怖いよあの人…)
「えっと…じゃあ何か自己紹介を…」
「別にありません」
クラス中が静まり返る。
(どうせ任務の終わるまでの間だけなのだし…これでいい…気が楽だ)
その日の昼休み、斗貴子は屋上で一人昼食を取っていた。
(新たに所在が確認された核鉄、ナンバー70を回収…
この地に潜んでいるホムンクルスが所持しているということだが…
共同体が存在する可能性もあるため、学校を警戒した上での捜索…か…
私一人だけで、大丈夫だろうか…?)
「よっ! ここにいたのか転校生」
「うひゃあっ!」
考え事をしていた所をいきなり声をかけられ、思わず驚く斗貴子。
「なんだその反応はっ! ちょっと傷ついちゃったぞ俺!」
「す、すまない…キミは確か…」
「おう、同じクラスの…内海ナオトってんだ、よろしくな!」
「あ、あぁ…よろしく…」
「しっかしひでぇーよなぁみんな、誰もキミに声もかけようともしないんだぜ」
「いや私は平気だ、気にしないでくれ」
「お前もだよ! 転校なんてのは人生に置ける一大イベントだぞ!
もっと積極的にアピールしてかなくてどーすんだよ!」
「はぁ……
まあ、キミにだけは話すが、一ヶ月もしない内に私はここを去ることになると思うから…」
「ええっ! そうなのか!?」
「あぁ、たぶんだがな」
「そんなあ……もったいねーなぁ…近くで見るとけっこうカワイイのに…」
カワイイと言われ、思わず赤くなる斗貴子。
「ま、まぁ…そういうわけだから…あんまり、私と関わらないでくれ…」
「そういうわけにはいかん! たとえ一ヶ月の間だろうと君はクラスメイトなんだからな!」
(ええいうっとおしい… …でも、それだけ私の事を気遣ってくれるということか…)
「あ、ありがとう…
でも私は、そうゆうのはやはり苦手だ…せっかくだけど、一人でいい…」
「オイ…!
行っちまったか…」
(なかなか手強いな…それに期限付きか こりゃ、値上げモンだな)
それから3週間あまりの時が過ぎた。
斗貴子はナオトのおかげもあってか、だんだんとクラスに馴染んでいた。
(こうゆうのも悪くないものだな… でも、ずっと一緒にいられるわけではない、それだけ最後の時が辛くなる…か…)
(そろそろ…売れ時かな?)
その日の放課後、とある川原。
(ここにもいないか… 一体どこにいるんだ
…だが、この3週間で倒したホムンクルスはわずか一体、共同体があるワケではなさそうだな…)
「よう! 津村!」
「ナオト…?」
「奇遇だな、何してんだ? こんなトコで…」
(ここで会うのが奇遇…? まさか彼が… 信じたくはないが、警戒して置いたほうがいいな)
「いや、ただの散歩だ…」
「ふーん… そろそろ雨降りそうだぜ? 送ってってやるよ」
「あぁ…ありがとう…」
その帰り道、途中で雨が降り出してきた…
「あちゃあ〜 降ってきちまったか
どうする? 俺の家、ここの近くなんだけど…雨宿りしてくか…?」
「そうだな…キミがよければ、そうさせてもらおう」
案内された方に二人で走る… だが何かおかしい。
(どんどんひとけが無くなってきている… まさか、本当に…)
「着いたぜ、ここだ」
「ふっ…私を甘く見ない方がいいぞ、
こんな誰もいないような所へ連れ込んで…もう解ってるぞお前の正体は」
「? ………あぁ、あの化け物の仲間だと思ってんのか?」
「え……違う…のか…?」
「残念ながら… ま、それより最悪なパターンかもな」
影から斗貴子と同じ学校の男子生徒が現れた。
「どういうコトだ…?」
「簡単にいうと売るんだよ お前とお前の今の状況を」
「わけのわからんコトを… 私をただの女子生徒と思ったら大間違いだぞ」
「知ってるよ さっきもいったが…あの化け物と戦っているのがお前…
だが、そんなこと一般人に知られるわけにはいかないよなぁ〜?」
「くっ…」
「ちゃ〜んと証拠も押さえてるぜ、ここで俺を口封じしようとしても無駄だ」
「内海…そろそろ買ってもいいか?」
「あぁ、代金は後日頂くよ 先輩も好きだねぇ、こうゆう小柄な子
じゃあな、津村
それと、人を呼んでも無駄だぜ こんなとこ誰もきはしない」
「貴様… 全てこのためか、だがこんな事をして何になる?」
「馬鹿かテメーは、全部金のためだよ
こうゆうリアリティな状況はけっこう売れるんだぜ」
「…?」
「これだよ、これ」
指差した先には監視カメラが… さらにこの場所には他にも無数のカメラが仕掛けれられていた。
「じゃ先輩、あとはごゆっくり… 俺は見ながらどう編集するか考えていますんで…」
そういって内海は立ち去った。鍵をかけて閉じ込められ、もう斗貴子は状況に流されるしかなかった…
長い…長い時間が過ぎた。
初めての行為の時間…斗貴子は自分が女に生まれた事を初めて後悔した。
繊細な体が蝕まれていく時間…ただ終わりの時を待つしかなかった。
叫び、藻掻いてもまるで意味をなさない…ただ耐えることしかできない。
やがて体は耐えきれなくなる、心はズタズタに切り刻まれていく。
犯された…全て…汚された。
降りしきる雨…その場所にはもう、一人の女が全裸で倒れているだけだった。
だが、不意にマンホールのフタが開く。
(何か出てきた…? ナメクジ…? ホムンクルス……? 戦わないと……
核鉄は…破られたスカートの中…あそこか… 体…動けぇっ…)
闘争本能だけで必死に体を揺り起こす斗貴子。
(臓物を……ブチ………散け……ろ)
「な…んだと… お前のような女が錬金の戦士…?
ようやく外でこの形態になれたのに…くそっ…食事の前に…
ヤツから盗んだ…この核鉄さえ…この核鉄さえ…どこかの人型ホムンクルスに…渡せれば…
俺も…俺も…ナメクジ型ごときの、俺でも…」
捨てゼリフを吐くホムンクルスだが、斗貴子の耳には入っていなかった。
聞こえていさえすれば、もしかしたら運命は変わっていたのかも知れないが…
「はぁっ…はぁっ……」
もう、限界だった…
精神面での苦痛も大きいが、肉体もボロボロに汚されていた。
立っているだけで震える足…押さえつけられた痛みと跡が残る細い腕…
舌を覆い尽くす嫌悪感…苦みしか感じない口内…
耐えられない力が酷使された胸…今にもちぎれそうなその先の乳首…
股を戦いで感じるものとは違う痛みが襲い真っ赤な血、そして吐き出された精液が流れている…
(私…私…)
倒れ込み、溢れる涙を押さえることなく吐き出す。
(イヤだ…イヤだ…
こんなこと…こんなこと…
こんなこと忘れたい…忘れたい……)
自分の体が少しづつ楽になっていくのに気づく。
(核鉄…そうだ…私は錬金の戦士…
あんな事を二度と起こさないために…私は戦う……戦っている…戦っていく…
あんな事を、二度と…)
しばらくたてば十分動けるほどには回復できた。
服を来て、仮住まいに帰る。
全てをシャワーで流し、全ての汚れを取り払おうとする。
もちろんその間も自分の記憶を過去の悪夢で占領しながら…
(ホムンクルスが憎い…憎い…憎い憎い憎い憎い)
そして一夜が明けた時…斗貴子の二番目の悪夢は…抜け落ちていた…いや…自分の記憶から隠れていた…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
再び時は戻る。
「…………
じゃあ…俺の心臓の核鉄は…」
「あぁ、その時のものだ
もっとも何故動物型ホムンクルスがそれを持っていたのかはわからないが…
まぁ、倒した戦士から奪ったとか…そんなところだろう
それならばその後回収任務が出たことにも説明がつくしな」
「ごめん斗貴子さん…こんな辛いコト…」
「いや、自分の中にずっとしまいこんでおいたらもっと辛かったと思う…
聞いてくれてありがとう…
今思えば、私に優しくしてくれたナオトはどこかキミに似ていたな…
私は…彼の幻影をキミに求めていただけかもしれん…」
「……それでも構わないよ、オレは」
「え?」
突然斗貴子を抱き締めるカズキ。
「斗貴子さんは…苦しい過去ばかり…背負いすぎだよ…
斗貴子さんが、オレと一緒にいて楽しいなら…嬉しいなら…
オレがずっと…いつまでもオレがずっと…斗貴子さんの楽しい過去、嬉しい過去を作るから…
苦しい過去に負けないくらい作るから…」
「カズキ…」
胸いっぱいの喜びに包まれる斗貴子。
返す言葉が出ない、でも溢れ出る喜びは抑えられない。
生まれて初めて…斗貴子は嬉し涙を流した…