秋水の姉、桜花と共に喫茶店で談笑してすごす斗貴子とまひろ。
「でもお兄ちゃんに津村さんみたいなカノジョが出来て
実はちょっぴりヤキモチ焼いているんじゃないのかな?」
「んーでも 斗貴子さんがお姉ちゃんになるなら」
「ああそっか 結局おいしいところ一人占めなのね」
(あれ… 斗貴子さんいつもお兄ちゃんの事聞かれると真っ先に否定するのに…)
(知り合って間もない早坂桜花にまでカノジョと思われている… わ、悪くはないな…)
翌日、突如学校の早坂姉弟を襲撃してきたホムンクルス達によって二人がL・X・Eの一員だと知るカズキと斗貴子。
戸惑いながらも激戦に望み、なんとか勝利をおさめる。
だが、敗れた二人から衝撃の言葉を聞くカズキ。
二人は信奉者…ホムンクルスの共同体の協力者の様な存在で、
自分達を認めてもらい、二人でホムンクルスになって永遠に生きていくことを望んでいた…
さらに話を続ける二人、幼い二人が信奉者となった背景が語られる…
それは、ただただ残酷な出来事…
その話を聞いたカズキと斗貴子は二人の処置で対立するが、
秋水に貫かれたカズキを桜花が救ったことをきっかけになんとか事態は収まった。
その後、損傷の激しい桜花は病院で治療に専念し、秋水は自分自身に決着をつけるべく旅立った。
そして数日後…L・X・Eとの決戦は幕を開けた。
早坂姉弟から情報を得た錬金の戦士はL・X・Eのアジトへと乗り込む。
だが、時を同じくして裏切りの戦士復活を目論んでいたバタフライ達は動きだしていた。
ブラボーがムーンフェイスの足止めを阻止するためアジトに残り、カズキと斗貴子は学校へと急いだ…
ホムンクルス調整体の大群との激戦、合体した蝶整体との戦いで内に秘められた力の片鱗を見せるカズキ…
そんな中、修復フラスコの中の裏切りの戦士が目覚めた。
ダイレクトに広範囲の生命エネルギーを吸収する特異な存在…それは人間でもホムンクルスでもない、第三の存在…
吸収を止めさせるため屋上へと急ぐカズキと斗貴子、校庭では乱入してきたパピヨンとバタフライの激戦が繰り広げられる。
かなりの負傷を負いながらも勝利したのはパピヨンだった。
そして…ついにフラスコの中から、裏切りの戦士…ヴィクターはその姿を現した。
繰り広げられる激闘…だがカズキの武装錬金がヴィクターの武装錬金の一撃によって砕かれる…
それはカズキの死を意味していた…意味していたはずだった…
偽装されたナンバー70の核鉄、中から現れた黒い核鉄ナンバー3…
それが体内に入っていたカズキ、”黒い核鉄”を命にした者…第三の存在はもう一人目覚めた。
赤銅色に変色する肌…蛍火のように光っていく髪…尖った爪…そして、呼吸ともいうべき生態 エネルギードレイン…
(何故…黒い核鉄など…!? 私はカズキ何をした!? 何を…してしまった…)
疑問と後悔しか沸いてこない斗貴子。だがすぐさま二人分のエネルギードレインを近くで受け、苦しむこととなった。
(くうっ……カズキ、キミは本当に…私のせいで…)
そして最終戦が始まった。
第三の存在になった事により、ようやく対等に渡り合えるようになったかと思われた勝負。
だが、守るべきものが有るものと無いものの差か。
あるいは、もはやヴィクターはこの場で死ぬことを望んでいたのか…
数分で決着はついた、秘めていた力を全て解き放ち圧倒的な力を見せたカズキが勝利した。
序々に消滅していくヴィクター…
「ふっ…まさかこのオレが死ぬことができるとはな
…いずれ、キミはオレと同じ苦痛を味わうことになるだろう…
だが同胞としては…キミの未来が明るくなることを願う
すまない…そんなコトはあり…えないな……」
そう言い残してヴィクターは消えた。黒い核鉄ナンバー1が床に落ちた…
「カズキ…」
「斗貴子さん…」
勝利はできたものの、大切な物が失われてしまった。
この間にもエネルギードレインは止むことはない、元に戻ることもできない。
「すまない…本当に、本当にすまない」
「斗貴子さんが謝ることじゃないよ… それに、これのおかげでみんなを守れたんだ…
…じゃ、オレ行くよ 行く場所なんてないけど、どこかの山にでも籠もるしかないと思うから…」
「待って…待ってくれ…」
「待てない、早くしないと斗貴子さんやみんなが危険だから…
思い出を作る約束…守れなくてゴメン
みんなによろしくね さよなら」
「カズキ…カズキイイイイイィィィィィィッッ!」
あまりにも唐突、あまりにも残酷な別れ…
斗貴子はただ自分を責め、悲しい現実に泣くしかなかった。
数日が過ぎた…学校の人達は全て錬金の戦士管轄の病院へ収容された。
あの日何が起こったのか…戦っていた人達、あの化物は何者なのか…
隠し通すことができなくなった現在、全て事情は説明された。
だが、世間に知れ渡ることだけは絶対に避けねばならない。
彼らは隔離をよぎなくされた、反発する者も当然出たが、従う他はなかった。
他に監査しながら住ませれる所もないため、しばらくは全員病院での生活をよぎなくされた。
「戦士・斗貴子」
「はい…」
「君はもう、戦士として戦っていくのは無理だと俺は思う」
「私も…そう思います もう戦いなんて…嫌です…」
「一つ聞こう…君は今からどうしていきたい?」
「……カズキに謝りたい、カズキに犯した罪を償いたい…それしか、ありません…」
「…そうか……」
「あ、戦士長 ドタバタしてて忘れてましたけど、これ…」
「ん、回収してもらった裏切りの戦士の黒い核鉄か… それに、第三の存在…俺もこれらについては本部からなにも聞かされていなかった…」
ブラボーは受け取ろうとするが、斗貴子は突然、躊躇したように渡そうとしない。
(あの戦いの時…二人はお互いにエネルギードレインの作用を受けていなかった…)
「どうした…?」
「あの、戦士長… 無理を承知でお願いします
やっぱりこれ… 私に預からせてください…」
「何故だ…? ! 斗貴子、まさか…!」
「私は… 私は… カズキのためなら…」
「それだけはやめるんだ! 君がそこまでの責任を負うことはない」
「そうじゃないんです… たぶん私はカズキと一緒に生きていきたいだけなんだと思います…」
「それならなおさらだ! たったそれだけの思いでそんなことをしては…
俺を含むみんな それにカズキだって悲しむことになる…」
「でもカズキは…! カズキはっ! たった一人でっ! これからずっと…一人で…!」
涙を流しながら自分の思いを振り絞る斗貴子。
「落ち着くんだ カズキの事で苦しんでるのは…悲しんでるのは君だけじゃない!」
「でも…でも… 私はカズキが好きです… 私はカズキを愛しています…!
愛する人と一緒になりたい…なるためなら…これ…くらいっ…!」
「やめるんだっ!」
「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
斗貴子を止めようとするブラボーだが、すでに斗貴子は冷静さを失っていた。
カズキのため…いや、自分のため…何も躊躇することなく心臓目掛けて、黒い核鉄をブチ込んだ。
「馬鹿なことを…! もう戻ることはできない……
じきに君の元の心臓の機能は停止し、まず間違いなく君は第三の存在になるだろう…
そして、君の意思とは関係なくエネルギードレインが始まる…」
「げほっ… 大丈夫です、私は後悔していません」
「バカヤロウ!」
ブラボーは思いっきり斗貴子の顔を殴った。
「痛っ…」
「何が後悔していませんだ! お前はそれで満足かもしれないけどなぁっ!
少しは…周りの奴らのことも…」
思わず感情的になるブラボー、目からは涙が流れていた…
「戦士長…」
「君がそんな選択をしたところでカズキが喜ぶはずは絶対にないんだ!
それに、本当にそれで君は満足か…?」
「わかりません… でも、カズキと一緒にいられるなら…」
「そうかよ… どの道もう君はカズキの所へ行くしかないんだしな…」
「はい…今までお世話になりました」
「さっさと行け… 人間でいられる内に他の連中にも会っとくんだな
さっきは感情的になって済まなかった こんな事言いたくもないが、カズキをよろしく頼む…」
「はい…」
「そんな! 斗貴子さんまで!? 嘘でしょ!?」
「本当だ… 私はカズキと一緒に生きていく道を選んだ…それだけだ」
「そんな…
二人ぼっちじゃ、寂しいよ…?」
「でもカズキがもっと寂しい思いをするよりは…」
「お兄ちゃんは、斗貴子さんがそんな道を選んだら…悲しむと思うよ…?」
「戦士長にも同じことをゆわれたな…それでも私は、カズキと一緒にいたいと思う…」
「……そっか わかった、もう止めないよ お兄ちゃんといつまでも仲良くしてね」
「ああ、当然だ」
立ち去る斗貴子だが、それが見えなくなった後、
まひろは一晩泣き続けた…
もしかしたらカズキが元に戻って自分の所に帰ってくるかもしれないという思いもあったのだが、
斗貴子の決意を見たことで、それもありえない事だと実感したからだ。
「なんでなんだよ斗貴子さんっ! カズキはそんなこと望んじゃいないはずだ!」
「やめろ岡倉…!」
「キミがそう思うのも無理はない だが私は…カズキがいないと…」
「その…エネルギーの吸収を止める方法とかはないんですか?」
「残念ながら無い… これからそんな方法が発見されるとも思えない」
「斗貴子氏、あなたがそうゆう選択をした事を責めるつもりはありません
だけど…カズキを今以上に不幸にしたら、たぶん許さないと思います…」
「肝に命じておこう 絶対にカズキを悲しませたりはしない…」
複雑な表情で見送る三人、かけがえの無い親友を失い彼らも悲しんだが、
もしかしたらその親友が幸せになれるかもしれないという期待を込めて祈るしかなかった…
病院の玄関を出た斗貴子。
「もうそろそろだろうな…自分の中でなにかが蠢いているのがわかる…」
「待ってください」
背後から声をかけられた。桜花だ。
「早坂桜花…」
「もしやとは思っていたけど…本当に…」
「ああ…私はカズキと生きるために人間をやめた…」
「そう…
私も…武藤君に惹かれていたわ…」
「!」
「でもね…あの戦いが終わってから入院してた数日間…
実は、エンゼル御前を使って武藤君の部屋を覗いたわ…小型カメラもついてるのよ、あれ」
「…………」
「毎晩愛し合うあなた達を見て、私の想いなんてかなわないと思ったわ
それに私はたぶん好きな人のためにそこまでの事はできない…
だから…武藤君を大事にしてあげて…それだけ言いたかったの」
「ああ…わかった…」
カズキを探しながら斗貴子は答えが出せずにいた。
(本当にこれでよかったのだろうか…みんなを悲しませてまで自分勝手な愛に生きて…
……カズキに会えばハッキリするだろう……早く会いたい…)
数十時間かけて近辺の山を探し回った。そしてついに…
(見つけた…)
「カズキ!」
「え…?」
男が振り向いた。途端に驚愕の表情を見せる。
赤銅色の肌…蛍火の光を帯びた髪…尖った爪…
自分と同じ存在になったその人物に…
「斗貴子…さん…」
「よかった…お互いが第三の存在ならエネルギードレインは起こらないみたいだな」
「どうしたんだよ斗貴子さん! こんな…こんなコト…!」
「すまない… でも私は、どうしてもキミを諦めきれなかった…」
「なんで…なんでだよ… 斗貴子さんがそんなコトしても、俺は…悲しいだけだよ…」
(みんなに…言われた通りだな…)
「カズキ、私は…私自身は悲しくなんかない…
お願いだ こうなった以上キミと一緒に二人だけで生きていきたい」
「そうするしかないかもね…
俺も一人で色々試してみたんだけど、元に戻る事なんてできなかった」
「そうか… カズキ…キミも一人で生きてくよりはいいだろう…? 頼む…」
「そりゃ…そうだけど! でも…でもっ!」
これからどうするべきか、答えは一つしかなかった。
二人は、泣きながら交わり続けた…
互いを求め、互いを重ね、互いを中に入れて
一つになるイメージ…一つの肉塊となるイメージ
二人ぼっちの未来は、始まったばかりだった。
最初はたった一つのズレから生じた世界。
やがてそれは大きな広がりを見せた。
元に戻る方法…ヴィクターなら何か知っていたかもしれない。
でもそれはすでに叶わぬコト、第3の存在とは一体なんなのか…手がかりはわずかにしかない。
外界ではこれからも、錬金術を巡る戦いは続いていくだろう…
もう、世界の歪みを修正することはできない…
世界がどう変わっていくか、誰にもわからない…
永遠の命…それは悲劇しか生まないのだろうか…
偏在する世界の物語はこれにて幕を閉じる。