「ふぅ…ようやく帰ってこれた…待っていてくれ、姉さ…ん?あれは…」  
「目的…?決まってるだろうガ。ここの連中を食い殺すことだヨ!」  
「あれは…太!?バカな、倒したはず…ん?誰かが戦っている。すまない、君」  
「え…?何です?」  
「あそこで戦っている人は、一体…?」  
「あの人は、最近街に現れる化け物と戦う正義の味方です。その名も…」  
 
ストロベリー戦士・とっきゅん 第六話 「激突!ヒーローバトルはお約束?」  
 
「昨日の事件、あんまり大きくは取りざたされてないみたいだね」  
ホムンクルス大の襲撃の翌朝、カズキと斗貴子はいつものように一緒に登校する。  
今日も腕を組んでいるが、最早気にとめるものすらいない。  
「まぁ、一般人は知らない方がいいだろうからな。上が手を回したんだろう」  
取り留めのない会話をしながら、ただ学校へと歩く。穏やかな時。  
「あ、お兄ちゃんに斗貴子さんだ!オッハヨー!」  
ところが、そんな時間はあまり長く続かなかった。底抜けに明るい声が、後ろから届く。  
「キミはいつも元気だな、おはよう」  
「おう、まひろ。おはよ…」  
「えいっ!」  
カズキの言葉を遮って。まひろがカズキの腕に飛びつく。斗貴子が腕を絡めていない左側にである。  
「…まひろ?」  
「えへへー、私も腕組んじゃおーっと」  
突然の妹のスキンシップ(なのか?)に、カズキは少々戸惑いを隠せない。  
「…………」  
それに対して、斗貴子は何か言いたそうではあるが、自分も同じ事をしているので、何も言えない。  
「あ〜、斗貴子さん拗ねてる〜。独り占めはさせないからねー」  
「……斗貴子さん、もしかして…昨日の余波がまだ残ってるんじゃ…」  
「あ〜。私も今それを考えていた。昨日の時点でどこかに発散してなければ、そうなるな」  
昨日は大変だったのだ。校舎に戻るなり、桜花がカズキに突進してきたり、数多の男子  
生徒が斗貴子に突進してきたりして、二人とも対処にてんてこ舞いだったのである。  
 
「はぁ…それじゃ、しょうがないか」  
「すまないな。次からはちゃんと加減するよ」  
「斗貴子さ〜ん、お兄ちゃんの独り占めはずる〜い。姉妹で仲良く半分こしようよ」  
彼らの嘆息に気づいているのかいないのか、まひろはさらにカズキに絡める腕に力を  
こめながら、さらりととんでもないことを言う。  
「!?いや、だから…私とカズキはそんな関係ではな………………………………そうだな」  
「斗貴子さん!?」  
斗貴子の口から思わぬ言葉が出て、カズキは思わず、裏返った声を出す。  
「わ!ついに本人の口から交際発言。おめでとう!お兄ちゃん」  
突然のことでまひろは目を丸くしながらも、カズキを祝福する。よくできた妹である。  
「…え゛!?えぇ゛!?」  
対してカズキは、未だ驚いたまま。何だ、喜ばないのか。  
「嬉しくないのか…カズキ?」  
そんな彼の様子を見て、斗貴子が目に見えてしゅんとする。  
「そ、そ、そんなことないよ!嬉しいよ!で、でも…まだ、そんなおおっぴらに…」  
彼自身何を言っているか、理解できてなさそうだ。しどろもどろにカズキは喋る。  
「ふむ…」  
斗貴子は何も答えず、自分の鞄の中を何やらゴソゴソと探る。  
「斗貴子さん?どしたの?」  
まひろの問いにも答えず、斗貴子は鞄の中から何かを取り出し、スイッチを入れた。  
 
『もう、絶対に一人にしない…斗貴子さんは、俺が守る!』  
その瞬間、流れるカズキの声。取り出した何かとはテープレコーダーだったようだ。  
「……3wmlarfw:;la,[@omas@pqew;elqw!?」  
改めて聞くと恥かしいらしい。カズキは声にならない悲鳴を上げる。  
「わわわわわ、お兄ちゃんだいた〜ん。もうプロポーズしてる〜」  
「い、いや、えっと…これは、その…」  
「ここまで言っておいて、後には引けないぞ、カズキ」  
表情一つ変えずに、斗貴子は言い放つ。あんな非常時に録音するとは、したたかなものだ  
 
「…もう、何も言わない。けど、一つだけ。斗貴子さん」  
「何だ?」  
「まさかとは思うけど…それ、目覚ましに使ったりしてないよね?」  
何を根拠にしたのか知らないが、カズキはそんな事を斗貴子に聞く。  
「…おかげで、朝しっかり目が覚めるぞ」  
しかし、カズキの嫌な予想が当たっていたらしい。斗貴子は嬉しそうに微笑む。  
「お願いだから止めてください。他の部屋に聞こえたらどうするの…」  
カズキの指摘にも、斗貴子は動じることもなく言い放つ。  
「まぁいいじゃないか。もう全校公認だし」  
「いきなり開き直らないでよ…」  
彼が本気で焦るのを見て、斗貴子はしばし思案する。何か代替案はないか考えているようだ。  
「キミが代わりに起こしに来るとか…」  
「…え!?」  
突然の提案にカズキは驚くが、すぐに少し考えて顔を赤くする。何を想像しているのか。  
「…と、いうのはいくらなんでも問題だな」  
「そ、そうだね」  
物凄い残念そうな顔で、カズキは相槌を打つ。斗貴子はまたしばし思案する。  
「ふむ、仕方ない。苺屋の苺サンデーで手を打とう」  
「…俺に奢れってこと?」  
うむ、と斗貴子は鷹揚に頷く。しかしカズキは納得が行かなかったらしい。食い下がる。  
「俺、今月お金ないんだけd…」  
 
『もう、絶対に一人にしない…斗貴子さんは、俺が守る!』  
「わかりました。奢らせて頂きます」  
斗貴子がレコーダーを再生した途端に、カズキはあっさり引き下がる。まぁ、仕方ないが。  
「斗貴子さんさ…最近凄い我侭になってきた気がする…」  
『もう、絶対に一人にしない…斗貴子さんは、俺が守る!』  
「スイマセンスイマセンスイマセン。我侭なんてこと絶対ないです」  
そんな二人の様子を見ながら、まひろは思う。  
「お兄ちゃん、将来絶対斗貴子さんのお尻に敷かれるだろうな〜」  
禿同。  
 
校舎内に入るといつものように掲示板の前に人が…いなかった。  
「あれ?今回は桜花先輩記事作らなかったのかな?」  
「昨日のキミに対する突進を見る限り、作ってる暇がなかったんだろう」  
ここにも昨日のオーラの影響があったようだ。そう考えると、あの技の威力の高さが伺える。  
「あら、おはようございます。武藤クンに津村さん、それからまひろちゃんも」  
カズキ達が学校に来るタイミングに合わせているのだろうか?今日も桜花が現れる。  
「おはようございます、桜花先輩」  
挨拶に応じた彼の様子を見て、桜花は一瞬眉を潜めるも、即座に平静を装って言う。  
「あらあら、両手に花ですわね、武藤クン。ストロベリーな事ですね、つ・む・ら・さん?」  
「うむ。任せておけ」  
「…!?」  
堂々と答えた斗貴子に、桜花は驚愕の表情を隠せない。あまりにも予想外だったようだ。  
「な、な、な…」  
「用件はそれだけか?行くぞ、カズキ」  
「う、うん…」  
驚愕にその身を固める桜花に、斗貴子は一瞥をくれると、その場を去ろうとする。  
「ちょ、ちょっとお待ちなさい。津村さん」  
このまま放っておくわけにもいかないらしい。彼女は慌てて斗貴子を呼び止める。  
「何だ。まだ何かあるのか」  
「え、えっと、え〜っと…え〜〜っと………」  
呼び止めたはいいものの、二の句を考えてなかったらしい。桜花は言葉に詰まる。  
「…行くか」  
彼女の様子を見て、斗貴子は再び立ち去ろうとする。一瞬勝ち誇った気がしないでもない。  
「そ、そうだわ!私は生徒会長として、学園の風紀を乱すような貴女のその行動は…」  
「…必死だな、早坂桜花」  
いかにも苦し紛れな桜花の言葉を、斗貴子は一言の下に切り捨てる。  
「そうですわ、そうですわよ!学校内でストロベるのはやめて貰えます?風紀に関わりますわ」  
「ふむ…それも一理あるか」  
少し前まではそのような関係であることすら否定していたのだが、変わるものである。  
「そうでしょう?わかってもらえたなら、幸いですわ」  
斗貴子が納得したのを見て、桜花はほっと胸をなでおろす。ところが、墓穴だったようだ。  
 
「うむ。『学校内』ではストロベるのはやめるとしよう。『学校内』ではな」  
「…え?」  
「カズキ、苺サンデーを奢る約束は覚えているな?週末にでも行こうか」  
「な…何ですって!?」  
「早坂桜花。自分で言ったからには、学校内ではカズキに近づくんじゃないぞ」  
「…く!?」  
「…修羅場だね、お兄ちゃん」  
息もつかせぬ二人の攻防に、さすがのまひろも少々押され気味である。当事者である  
カズキを見ると、頭を抱えんばかりに困惑している。もてる男は辛いな。  
 
「…そういえば桜花先輩、秋水先輩帰ってきたんですよね?」  
「こうなったら生徒会の呼び出しでも使って、無理やり手篭めに……え?え、ええ。そうよ」  
空気を変えようと彼が発した質問が、功を奏したらしい。何やら危険発言をしていた桜花が反応する。  
「昨日、修行を終えて帰ってきましたわ」  
「あ、ちーちんにさーちゃんだ、おはよー!」  
ちょうどその時、まひろはさーちゃんとちーちんを見つけ、そのままそっちへ言ってしまった。  
「…で、帰ってきたのか、秋水は」  
話の腰がいきなり折られた事に多少辟易しつつ、今度は斗貴子が桜花に尋ねる。  
「ええ。修行を終えて。L・X・Eとの決戦に間に合わなかったと、残念がってましたけど」  
「秋水先輩らしいや」  
「……なら、秋水とイチャついてればいいじゃないか。あんなに仲がよかったじゃないか」  
ふと思いついたかのように、斗貴子が提案する。確かに、彼女ら姉弟は相当の仲のよさだった。  
「え…?それは、ほら、やっぱり姉弟で、なんて道徳的によくありませんから」  
「…秋水が聞いたら泣くぞ」「…先輩、可愛そうに」  
キッパリ言い放つ桜花の態度に、斗貴子とカズキは秋水への同情を禁じえない。  
「…ま、いいか。お前が秋水の事をどう思っていようが、私には関係ない。カズキも渡さん」  
「ちょ、だから斗貴子さん…そんな大っぴらに…」  
斗貴子の直球すぎる言葉に、カズキは照れながら制止する。だが、斗貴子はレコーダーを取り出す。  
「…スイマセン」  
「わかればいい。行くぞ、もうすぐ授業も始まる」  
「ちょ、ちょっと津村さん…あぁん、もう」  
桜花の言葉を今回は完全に無視し、斗貴子達は教室に向かった。  
 
−それから数日−  
 
「カズキ、今日の授業が終わったら、商店街に行くぞ」  
「オッケー、お金もちゃんと用意したよ」  
今日は土曜日。授業は午前中で終わり、午後からは自由である。街に繰り出すにはもってこいだ。  
「そう言えばさ、斗貴子さん…気になる噂を聞いたんだけど…」  
カズキが少々深刻な顔をして、切り出す。どうやらあまりいい噂ではなさそうだ。  
「ここ二三日、街で妙な二人組みが出没して、悪さをしてるらしいよ」  
「…私も少し聞いたな。大きな動きがないから、話半分に聞いていた程度だったが…」  
斗貴子も話は聞いていたらしい。とはいえ、怪我人が出たという話は聞かないので、特に  
気には留めていなかったようだ。  
「それがさ。男と女の二人組みらしいんだ。しかも銀成の制服っぽいのを着てるって」  
「男と女…銀成の制服…まさか!?」  
提示されたピースが、斗貴子の中で組みあがっていく。カズキも同じ考えのようだ。  
「うん。金城、陣内…は、俺は知らないけど…太と細…現れた奴らの偽者…」  
「銀城、陣外、それに大と小…順番は同じ、か」  
成る程、彼らがオリジナル(?)と戦った順と同じ順で、敵は襲ってきている。そう考えると  
次は早坂姉弟の偽者が現れてもおかしくはない。  
「…で、当の早坂姉弟達は、この噂を知っているのか?」  
当然の如く浮かぶ斗貴子の疑問に対して、カズキは嘆息しつつ答える。  
「聞こうと思ったんだけど、会えなかったんだ」  
「会えなかった?」  
「うん。何かここんとこ避けられてるみたいな感じがするんだけど…」  
「ふむ…そう言えば、ここ二三日は早坂桜花は姿を見せてないな」  
道理で、朝が静かだったわけだ。しかして、今はそんな事を言っている場合ではない。  
「…しかし、気になるな。私達を避けている…?まさか、奴らじゃないだろうな、不審人物」  
「そんなことはない……と、思うけど」  
否定する彼の声にも勢いがない。早坂姉弟に怪しいところがあるのは事実だからだ。  
「丁度いい。今日、商店街に行くついでに、それとなく調べてみるか」  
「そうだね。そうしよう」  
「…言っておくが、ちゃんと奢ってもらうからな」  
さすがは錬金の戦士。抜け目のないことである。  
 
−と、言うわけで場所は商店街−  
 
「実は、私はあまりこの辺りの事には詳しくないんだ」  
「へ?そうなの?でもこの街に来てから随分経つと思うんだけど…」  
彼らが出会ってから早二ヶ月。一つの場所に慣れるには充分すぎる時間だ。  
「…必要最低限の場所にしか、行かなかったからな」  
「斗貴子さん…」  
斗貴子の瞳に一瞬覗いた憂いを見て、カズキはふと気づく。そうだ、そうだった。  
彼女は錬金の戦士である。今までこう言った賑やかな場所とは無縁だったのだ。  
ましてや、親しい人間と遊びに行くなどとは、全くもって未知の世界なのである。  
思えば、先日の斗貴子の我侭も、彼女にとっては初めての我侭であろう。  
「…よっし!」「な、なんだ?いきなり大声を出して」  
彼は思う。折角の平和な時間だ。いつまた戦いが始まるとも限らない。だからせめて今くらいは  
斗貴子と一緒の時間を楽しもう、と。彼女の可愛い我侭を聞く程度なら、安いものだ。  
「折角のデートなんだ。楽しもうか」  
「デ、デート!?いや、えっと…あぁ〜…………そ、そうだな」  
斗貴子は真っ赤になりながらも、嬉しそうに頷く。そして彼らは仲良く苺屋に向かった。  
 
「ところで斗貴子さん…一つ気になってることがあるんだけど…」  
「む…むぐむぐ…何だ?」  
店に入り、注文した苺サンデーを食べる斗貴子を見ながら、カズキは話を切り出した。  
ちなみにカズキはコーヒーのみ。財布の都合だろう。  
「この前さ、まひろがストロベリー・オーラの余波で俺に飛びついてきたじゃない?」  
「…んぐんぐ…そうだな」  
カズキが話す間にも、斗貴子は手を休めない。なかなか美味しいようだ。  
「でもさ、よくよく考えるとまひろ以外は、翌日まで余波が残ってるってことはなかったんだよね」  
確かに、他の生徒は翌日には平常通りだった。前日カズキに突進してきたほどの桜花も、である。  
 
「んくんく…コクン。だから、発散してなかったから残ったんだろう、と言っただろう?」  
「あ、ゴメン。言葉が足りなかった。何でまひろだけ残ってたのかな、って思ったんだ」  
カズキの疑問に、斗貴子は今度は手を休め、しばし考える。  
「…そうか」「原因がわかったの?」「ああ。と、言っても憶測なんだが…」  
確証は持てないが、と断ってから、斗貴子は説明し始める。  
「苺オーラは内に眠るストロベリーな気持ちを揺り起こす技だ。と、言っても  
 誰彼構わず、というわけではないんだ。桜花がキミに突進してきたようにな」  
「ふむふむ。意中の人がいれば、その人に気持ちをぶつけて発散するんだね」  
と、言うことは桜花は自分に気があるということに、カズキは気づいているのだろうか。  
「…って、ことはまひろが俺に飛びついてきたってことは…」  
自分の出した結論に、カズキは嬉しいのか困惑しているのか複雑な表情である。喜べよ。  
「いや、そうじゃない。もしそうなら、昨日の時点でキミに対して迫ってきたはずだ」  
斗貴子は一旦、そこで言葉を切って、説明し始める。  
 
「まぁ、事実だけを言うとだ。まひろには明確に好いている人物がいる。その人物は  
 学園生ではない。翌日キミに飛びついたことから、キミはその人物の次に好かれている」  
「まひろの好きな人…そっか、まひろが…」  
わかりやすい事実を述べた斗貴子の言葉を、カズキは反芻する。  
「どうした?兄としては複雑か?」  
「うーん、何ていうか…まひろも恋をするほどに、成長したんだなぁ、と」  
微笑みながら問う斗貴子に、カズキは苦笑しながら答える。  
「いつまでも、子供だと思っていたら大間違いだぞ」  
「そうだね。でも、誰なんだろ…まひろの好きな人って…」  
そこでカズキだと言われれば、ある意味一番納得できる。しかしてその事実は否定された。  
岡倉達三人の誰かか?とはいえ、まひろが周りに悟らせずに恋をできるとも思えないが。  
(あの時、まひろが見せた表情…まさか、な…)  
斗貴子には何か心当たりがあるようであるが、口には出さない。憶測に過ぎないからだ。  
「うーん…」(まぁ、なるようになるか)  
悩むカズキを前に、斗貴子は考えるのをやめて、苺サンデーの残りに取り掛かり始めた。  
 
「そう言えば、苺サンデー美味しそうだと思ったけど、結局俺食べてないや」  
会計を済ませ、彼らは店を出た。今からは調査も兼ねて周辺をブラブラする予定である。  
「何を言っている。私が食べるか?といったら、いらないといったじゃないか」  
「そりゃあ、あんなに人がいる中で食べさせてもらうのは恥かしいって…」  
そう。いつかの弁当と同じように、斗貴子はカズキに食べさせようとしたのである。  
「今さら、照れることもないと思うがな…」  
何時の間にか、斗貴子よりカズキの方が、羞恥心が勝っているようである。  
世の中わからないものだ。  
「それはともかく…この辺だね。不審人物が目撃されたのは」  
「この辺り…って、思いっきり街中じゃないか」  
彼女の言うとおり、人通りの激しい街中である。今は週末、人の多さもひとしおだ。  
「にも関わらず、わざわざ現れて目撃されていると言うことは…」  
「罠、かもね………………あ!」  
その時、カズキが突然大きな声を上げる。何かに気づいたらしい。  
 
「どうした?カズキ」  
「今、人通りの向こうに、秋水先輩がいた」  
「本当か?」  
「うん。こっち見て笑ってた」  
言われて、斗貴子も目をやるが、既にそこには秋水の姿はなかった。  
「見間違いじゃないのか?」  
「そんなことないよ……ほら!あそこ!」  
カズキが再び秋水を見つける、今度は斗貴子も確認した。明らかにこっちを見て笑っている。  
「…こっちには気づいているな。あれが秋水なら、こっちに来るはずだ」  
「ってことは…ビンゴ、だね」  
「うむ。追うぞ、カズキ」  
「了解!」  
彼らは人ごみを掻き分け、秋水に似た人影を追いかけた。  
 
「チッ、明らかに誘ってるな」  
「そうだね。どこに行くつもりなのかな…?」  
その人影は、彼らと付かず離れずの距離を保ち続ける。間違いなく、どこかに誘っている。  
「でもさ、斗貴子さん…」  
「何だ?深刻そうな顔をして」  
何気なくカズキに答えた斗貴子は、カズキの次の質問に言葉を失うことになる。  
「彼らが先輩たちの偽者って事は…人間ってことだよね…」  
「…!?」  
偽者の存在はよくわからないが、おそらくカズキの言うとおりであろう。今度の敵はおそらく  
人間である。敵は敵と割り切っている斗貴子はともかく、カズキは戦えるのだろうか…  
「…今はそれを考えている時じゃない。まずは奴を捕らえるのが先だ」  
「…そうだね」  
それっきり、彼らは黙ったまま追跡を続ける。暫く追っていると、人影は角を曲がった。  
「逃がすか!」  
追いかけて、斗貴子達も角を曲がる。その瞬間、  
 
バスバスバスバス!  
『………!?』  
斗貴子とカズキの足元に、光の矢が突き刺さる。敵の奇襲だろうか。だが、今の攻撃は…  
「この矢は…早坂桜花か!」  
「今度は、桜花先輩の偽者か…」  
そう、その攻撃は以前彼らと戦った、桜花の武装錬金と同じものだった。  
「片付いたかしら…?」  
「いや、多分無理なんじゃないかな…」  
足を止めた彼らの前に、会話をしながら現れる影が二つ。  
「…やはり、キサマらか!」  
見まごうはずもない。早坂桜花と早坂秋水である。偽者とはいえ、瓜二つだ。  
「今度は先輩達の偽者か…」  
ところが、現れた二人は、カズキ達を見て驚愕の表情を浮かべる。  
 
「津村さん!?」「武藤!?」  
「…驚いて見せても無駄だ。お前達は早坂の偽者だろう?今度の名前は何だ?菊花か?春水か?」  
「…ちょっと待って斗貴子さん。二人の様子がおかしい」  
啖呵を切る斗貴子だが、カズキは異変に気づく。早坂姉弟は驚愕の表情を浮かべたままだ。  
「ここに津村さん達がいるってことは…」「はめられたみたいだね、姉さん」  
「斗貴子さん…この二人、本物だ」  
「…何!?」  
カズキの言う通り、彼らが放つ雰囲気は本物そのものである。銀城や陣外と違って、  
桜花は最近はよく一緒にいたのだ。雰囲気が違えば、すぐに気づくはずだ。  
「ごめんなさい津村さん。今の矢は貴女達を狙ったものではないの」  
突然、桜花が謝る。敵の作戦だろうか?  
「今、姉さんの偽者を俺達は追っていたんだ。追い詰めたから姉さんが攻撃したんだが…」  
どうやら違うらしい。彼らもカズキ達と同様、偽者を追っていたようだ。  
「そこに丁度俺たちが来た、ってわけですか」  
「ああ。すまないことをしたな」  
「…信じられるか」  
 
斗貴子が言い放った言葉に、空気が凍りつく。  
「…あらあら。信じられないとは?」  
「私達は、秋水の偽者『らしき』人物しか見ていない。いや、第一偽者なんて存在するのか?」  
「…何が言いたいんだ」  
静かに呟く秋水に、斗貴子は言葉を突きつける。  
「全部、お前たちの芝居ではないか、と言うことだ」  
「何を根拠にそんな事を言うのかしら?」  
「そうだよ斗貴子さん。そんなことしても先輩たちにメリットなんて…」  
カズキは早坂姉弟を信じ切っている。今回ばかりは斗貴子に反論するようだ。  
「わからないぞ。そもそも、コイツらは元々L・X・Eの一員だ。今回の騒ぎの元凶は  
 わからんが、コイツらが敵側についた可能性は充分にある」  
「…言いがかりだな」  
「そうでもない。早坂桜花なんかは、私のことを邪魔に思ってもいるだろうしな」  
 
そう言って斗貴子は、チラリとカズキの方を見る。なるほど、恋敵と言うわけだ。  
「邪魔だなんて。まぁ、貴女がいなければ武藤クンは好き放題♪なんて思ったりしてますけども…」  
「姉さんそれ墓穴…………………ッテイウカ、ジョウダンデスヨネ?」  
カズキを持ち出されたことで、桜花の声にも硬質なものが混じる。誤解は解けそうにない。  
「もしキサマらが元凶なら、放っておくわけにはいかない!カズキ、変身して戦うぞ!」  
「え!?ちょ、ちょっと。それはまずいよ斗貴子さん。桜花先輩も何とか言ってください」  
先輩たちと戦うわけにはいかない。カズキは思わず桜花に助け舟を求める。  
「あら?私は構いませんわよ。この辺りで決着をつけておきましょうか?」  
ところがそれがまずかった。まさしく火に油である。  
「ね、姉さん…落ち着いて」  
姉の態度に本気を感じ取ったのか、秋水までもが止めに入る。  
「決着をつけましょう?どっちが武藤クンとストロベるのにふさわしいか…」  
「武藤…許さん!」  
「秋水先輩!目が濁ってる!」  
「カズキ!」  
斗貴子が再びカズキを促す。カズキは渋々了承する。どうやら、この場は収まりそうにない。  
「あんまり乗り気じゃないけど…」  
 
シュルルルル、ガチン!  
ため息をつきながら、カズキはカードをセットする。今回もカズキが先に変身するようだ。  
「太陽よ!俺に力を!変身!」  
ガチン!キィィィィィィン!  
光が発生し、カズキの姿が変わる。装甲を纏う、その戦士の名は、超槍戦士・サンゼリオン。  
「銀のランスに思いを乗せて、築け平和の銀成町!超槍戦士・サンゼリオン。強制されて、ただ今参上!」  
カズキが名乗り口上を上げると同時に、斗貴子も核鉄を取り出す。今回は力は溜まっていないが…  
「斗貴子さん!どうやって変身するの?膝枕より凄いことって…どうするのかな」  
とてつもなく期待に満ちた目で、カズキは斗貴子を見る。きっと、斗貴子はあのセリフを言う。  
「エロスは程ほどにしておきなさい」  
「でも、そんなこと言ったって変身しないと…」  
なおも食い下がるカズキを見て、斗貴子は不敵に微笑んで、何かを取り出してスイッチを入れる。  
 
『もう、絶対に一人にしない…斗貴子さんは、俺が守る!』  
「ホント、勘弁してください」  
速攻でカズキは謝るが、斗貴子は取り合わず二回三回と再生する。  
トキューーーーーン  
そうこうしている内に、パワーが溜まったらしい。斗貴子は頷き、変身の構えを取る。  
「ストロベリーパワー満点☆ストロベリー、メイク、アップ!」  
そのまま核鉄を下に落とし、自身は例のポーズを取る。核鉄が、カードのはまる!  
キュイイイイイイイイイイイイン!  
光が発生し、セーラー服に身を包んだ戦士が現れる。我らがヒロイン、苺戦士だ。  
「私とカズキのストロベリーを邪魔する大・悪党!月が貴女を許しても!私は絶対許さない!」  
セリフが微妙に違う。カズキに影響を受けたのだろうか。  
「貴女を討つは愛の力!愛の力は苺の力!ストロベリー戦士・とっきゅん!ここに見参!」  
「…………ホントに、性格が変わるんだな…姉さんが言ったとおりだ」  
今回が初見となる秋水が、唖然とした顔で斗貴子を見る。そして、斗貴子は決め台詞を放つ。  
「貴女のハートをブチ撒けチャウゾ☆」  
 
ズドーン!  
毎度の如く巻き起こる爆煙。変身核鉄のオプションなのか?もしかして。  
「フフフ…相変わらずノリノリですこと」  
彼らの変身を見ても、桜花は不敵な笑みを浮かべるのみである。何か策があるようだ。  
「桜花先輩、今ならまだ間に合うよ…斗貴子さんに謝って」  
どう考えても謝るのは斗貴子のような気もするが、ともあれカズキは説得を試みる。  
「あら?そんな必要はないですわ。行くわよ、秋水クン」「ああ」  
それでも桜花は不敵に笑い、そして何かを取り出した。その何かとは…  
「それは!?」  
「変身核鉄!?」  
驚愕に目を見開く二人の前で、桜花はカードを腰にセットし、変身の構えを取る。  
「うふふふ……変身!」  
桜花が核鉄をカードにセットした瞬間、激しい光が辺りを包み込んだ…  
 
 
次回予告  
 
誤解から、戦うことになってしまった斗貴子達と早坂姉弟!何時の間にか変身核鉄を  
手に入れていた、桜花の実力とは!?そして、そんな彼らを物陰から除く人物とは!?  
さらに、カズキに迫られる選択。カズキが導き出した答えとは!?  
 
 
次回 ストロベリー戦士・とっきゅん 第七話 「守ることと戦うこと」  
 
次回までにはリズムが戻っているといいなと思いつつ→            続く。  
 

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