「うふふ…変身!」  
『…始まったか』  
『ちょっとお粗末すぎるかな、と思いましたがうまくいったようですわね』  
『ああ…仲間が相手ではやりづらいだろう。勝とうが負けようが疲弊するはず…』  
『そこを狙う…』  
『ああ。今度こそ、最後だ…』  
 
ストロベリー戦士・とっきゅん 第七話 「守ることと戦うこと」  
 
「世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし…」  
光が消えて、姿を変えた桜花が現れ、歌を詠みはじめる。  
「桜は人の心を乱す。桜は人の心を踊らす。されど桜がなき世には、平和な時などありはしない」  
その姿は、銀成学園の制服とはかけ離れた姿であった。そう、例えるならそれは、女性ならば  
誰もが憧れるウェディングドレス。頭部にはブーケを被り、胸には桜の花をあしらった飾り。  
「美しき彼の力を纏い、悪を討つは可憐な戦士…」  
斗貴子に勝るとも劣らない、口上を述べる桜花。ふと見ると、秋水の姿がないが…  
「ビューティ戦士・エンゼルチェリー…ここに参上致しますわ」  
そこで桜花はクルリと一回転する。ドレスにしては短いスカートが風を孕んでフワリと膨らむ。  
「貴方のハートを…頂戴しますわ」  
ドガーン!  
これまた斗貴子に勝るとも劣らない、巻き起こる爆煙。やはり変身核鉄のオプションらしい。  
「…はーっ、はーっ」  
と、思ったら後ろで秋水が肩で息をしている。どうやら彼が爆煙を起こしたらしい。  
どうやったかは知らないが、ご苦労なことである。  
「ありがとう。秋水クン」  
「ね、姉さんのためなら…この、くらい…」  
途切れ途切れながらも、秋水は桜花に微笑む。所々焦げてる気がしないでもない。  
「アナタ…いつの間に変身核鉄を…」  
桜花の変身を見て、斗貴子が冷や汗を垂らしながら尋ねる。さすがにこれは予想外だったのだ。  
「あら?変身核鉄の入手先は、一つしかないでしょう?」  
桜花は不敵に微笑むと、経緯を語り始めた…  
 
「戦士長、私達にお話とは?」  
数日前、桜花と秋水は、話があるとブラボーに呼び出されていた。  
「うむ。昨日、街で銀成の服を着た二人組が、悪さをしているとの報告が入った」  
大した被害は出てないと言ったものの、やはりブラボーの耳には入っていたようだ。  
「………まさか、私達を疑っているのですか?」  
桜花が、少し声を硬くして尋ねる。それを見て、彼は苦笑する。  
「お前達が、もうLXEとは切れている事なんざ、目に見えてわかる。疑ってなんかいないさ」  
「……では、何故俺達を?」  
ブラボーの言葉を一応信用したのか、秋水が少し表情を柔らかくして尋ねる。  
「うむ。お前達を疑ってはいないが、二人組と言うのは間違いなくお前達の偽者だ」  
『………』  
自分の偽者など、そうそう現れるものではない。それだけに、彼らの表情も複雑である。  
「…偽者なんだが、上の連中はお前達がやっているのでは?と思っているらしい」  
「先程は、私達を疑っていないと、貴方が仰ったはずですが?」  
唐突にブラボーに手のひらを返され、桜花の表情が再び硬くなる。  
「まぁ、待て。『俺』は疑ってはいない。けど、上の連中はそうもいかなくてな」  
「…なるほど」  
疑われるのは仕方ない。事実彼らは敵だったのだから。そう納得する秋水を見て、  
ブラボーは苦い表情を浮かべながら続ける。  
「で、だ。その疑いを晴らす意味も込めて、お前達に自分達の偽者の討伐を命じたい」  
『………え!?』  
突然、ブラボーの口をついて出た意外な言葉に、彼らは驚く。  
「ついては、桜花。お前用の変身核鉄も無理を言って手配させた。これを使え」  
「え?…あ、ハ、ハイ」  
未だ驚いている桜花に、ブラボーは核鉄とカードを渡す。  
「使い方はわかっているな?そのカードを腰にセットし、核鉄をはめ込む」  
「…合言葉は?」  
桜花の口をついて出た問いに、ブラボーはニヤリと笑って答える。  
「実はな。そんなものは初めからないんだ。あれは、斗貴子やカズキを発奮するための嘘だ」  
「…あらあら。戦士長も、なかなかお人が悪いんですね」  
ブラボーの表情を見て、信頼に足ると判断したらしい。桜花は微笑んで、核鉄を仕舞った…  
 
「と、いうわけですのよ」  
桜花は自信満々に、経緯を話し終えた…のだが、  
「あ、とっきゅん見て見て。ほら、野良猫〜」  
「(ときゅーん!)か、カワイイ…ね、ねぇ。この子寄宿舎に連れてっちゃダメかしら?」  
「ダメだよ、そんなの。確かに可愛いけど…」  
「いいじゃないの…ほら。練習だと思って、二人で育てましょうよ」  
「れ、練習って何の?」  
「何って…決まってるじゃない!もう!言わせないでよ、恥かしい!」  
バシバシバシバシバシバシ  
桜花の話を完全に無視する二人。斗貴子は照れるあまりにカズキをバシバシ叩く。  
「わ、私の話を無視して…挙句に二人でストロベるなんて…」  
「ね、姉さん、落ち着いて」  
ワナワナと肩を震わせる桜花を見て、秋水は慌てて止めに入るが…  
「どちらかと言えば!後者の方が気に入りませんわ!」  
「………!?ウソダウソダユメダヨネ。ネエサンハオレノコトヲスキナハズ…」  
今度は、自身が桜花の言葉に身を震わせる結果をなってしまう。  
「ホント、カワイイわ、この猫。名前つけちゃおうかしら…ん〜、カズキなんてどう?」  
「…何で、俺の名前をつけるのさ」  
「ん〜、『カズキ』ったらカワイイ。ねぇ『カズキ』、今夜一緒に寝ようか」  
「……凄い恥かしいんだけど…」  
「ちょっと、貴方たち!人を無視しないで頂けます?」  
未だイチャイチャし続ける二人に、桜花は大きく声をかける。  
「あ、話終わったみたいだよ、とっきゅん」  
「コラ『カズキ』、くすぐったいぞ。エロスは程ほどに…ね。きゃ、だからそんな所を…」  
…完全に聞いてないな。  
「とっきゅん!」  
「あはははは…え?何?」  
「桜花先輩の話、終わったよ!」  
珍しく、カズキが強い口調で喋る。何だか怒っているようにも見えるが…  
「ちょ、ちょっと。何で怒ってるのかしら?私、何か悪いことしたかしら…」  
「別に……………………………………………そんな、猫ばっかり可愛がって」  
ムスっとしながら、カズキは消え入りそうな声で呟く。なるほど、これは…  
 
「もしかして…嫉妬してる?」  
「う、そ、そんなことないよ!」  
「赤くなってるってことは図星かしら?やーん、嫉妬するなんて…カーワイイ♪」  
「もう…からかわないでよ、とっきゅん」  
「いいわよ。カズキが望むなら貴方と一緒に寝ても…」  
「そそそそそそそそそそそんなこと、し…た、いな…んて…」  
「…お願いですから、私を無視しないで貰えます?」  
 
あまりの彼らの様子に、怒りよりも呆れの方が強くなってしまったらしい。桜花は嘆息する。  
変身した後の斗貴子とカズキは、いつもこのくらいイチャイチャしているのだが、思えば  
桜花は物陰から見ていたことはあっても、自分が応対するのは初めてである。  
「とっきゅん、桜花先輩困ってるよ」  
「あら?忘れてたわ。戦うんだったわね」  
カズキに言われて、初めて斗貴子は桜花の方に向き直る。  
「…俺、あんまり気が進まないんだけどなぁ…」  
と、ため息をつくのはカズキ。無理もない。親しい人間と(しかも)誤解で戦うのだから。  
「ん〜。別に、貴方は戦わなくてもいいわよ」  
そんなカズキに、斗貴子は思わぬ言葉をかける。どういうことなのか。  
「だって、あっちも一人みたいなものだもの」  
「夢、夢、夢…これは夢…」  
 
斗貴子に促されて秋水を見ると、虚ろな目で何かを呟いていた。確かに、とても戦えそうもない。  
「そうですわね。私と貴女の二人だけで、決着をつけましょうか」  
弟がそんな状態だと言うのに、桜花は平然と斗貴子に言い放つ。哀れなのは秋水か。  
「望むところよ。カズキは下がってて。ついでにソレもどっかにどけておいて」  
うん、と頷いてカズキが秋水を抱えながら、脇に退く。  
「さて…始めましょうか?」  
今度は斗貴子はハッキリ桜花を見据え、そして戦いが始まった…  
 
「エンゼルアーチェリー…」キュイイイイイン  
桜花が静かに呟くと、光を放ちながら弓が出現する。  
「それが貴女の武器ってことね…」  
さして表情を変えず、斗貴子は呟く。想像の範疇であったためだろう。  
「何だかんだで、これが一番慣れてますから」  
「でしょうね…ストロベリー・リボン」  
不敵に笑う桜花に、同じく笑みを浮かべながら、斗貴子はリボンを解く。どうやらそれで戦うらしい。  
「あら…?随分可愛らしい武器で戦うんですね」  
彼女もこの武器は幾度か目にしているはずだが。おそらく嫌味だろう。  
「しかたないでしょ。いくらなんでも、この格好でバルキリースカートはできないわ」  
「それもそうですわね…」  
言葉を交わしながらも、じりじりと彼女達は動く。間合いを計っているのだ。  
「さて…お互い準備もできたことですし…」  
「そろそろ…始めましょうか!」  
 
呟くと同時に、斗貴子が一気に中距離程度の間合いまで詰める。相手は弓。当然の判断である。  
「させませんわ!」ビシュビシュ!  
しかして、桜花もそうはさせじと、続けざまに矢を放つ。  
「…そうそう上手くは行かない…わね!」  
仕方なく斗貴子は後ろに退く。だが、ただでは退かず、リボンを桜花に放つ。  
「甘いですわ!」ガキィィィィン!  
予測の範囲内だったらしい。桜花は弓をまるで刀のように振り上げて、リボンを弾く。  
「それはどうかしら?」  
「……え?」  
自信満々に弓を振りぬいた桜花に、斗貴子は不敵な笑みを浮かべる。  
「………く!?」ガキィィィン!  
斗貴子は、ストロベリー・ティアラを同時に投げていたのだ。今度は桜花は弓を振り下ろし、  
何とかティアラを凌ぐ。  
「………やりますわね」  
「………貴女もね」  
戦いはまだ、始まったばかり…  
 
「す、凄い…」  
目の前で繰り広げられる攻防に、カズキは思わず口を開ける。  
「姉さん…戦ってる姿もやっぱりたまらない…ハァハァ」  
その横で、秋水が恍惚とした表情で同じ所を見ている。何時の間にか復活したらしい。  
「秋水先輩…加勢しなくていいんですか?」  
それは即ち斗貴子が2対1になるということなのだが、カズキは思わず尋ねる。  
「いや、姉さんが自分で決着をつけると言っているんだ。邪魔はできないよ」  
姉の意思を尊重する、いい弟である。  
「…………………………って、いうか邪魔したら何されるか…」  
そっちが本音か。  
ビシュビシュビシュ!「………うわ!?」  
突然、桜花の矢が秋水の足元に飛んでくる。流れ弾だろうか。  
「………」  
いや、秋水とあった桜花の目が語っている。聞こえている、と  
「…スイマセンスイマセンスイマセンスイマセンモウイイマセン」  
その瞬間、秋水がいきなり謝り始める。どうでもいいのだが、非常にみっともない。  
「しゅ、秋水先輩も苦労してるんですね。実は斗貴子さんも結構…」  
ヒュオンヒュオンヒュオン!「…うわわ!?」  
カズキが何かを呟いたその時、今度は斗貴子のティアラがカズキの鼻先を掠めていく。  
「……………」  
「…ゴメンナサイ」  
カズキも、秋水に倣って素直に謝る。どうにも男達の方が立場が弱いようだ。  
「……おとなしく見てようか、武藤」  
「……そうですね」  
結局、男性陣は傍観を決め込むようである。  
 
「さすが…」ガキィン!「正真正銘の…」ビシュ!「戦士は違いますわね!」ギィィィン!  
「そうね…」ギィィン!「さすがに…」ヒュン!「一般人には負けられないわ!」ガッキィン!  
お互いに放たれる矢やリボンを弾きながら、二人は言葉を交わす。状況は互角…とはやはり  
いかないらしい。変身して戦うのに慣れているのもあるが、斗貴子の方が優勢である。  
 
「でも…そんな戦うことに生きる人を…武藤クンはどう思うかしら?」  
「……え?」  
桜花の言葉に、斗貴子が一瞬動きを止める。なるほど、揺さぶりをかける作戦にしたようだ。  
「戦うばかりで、ちっとも女の子らしくない貴女を…武藤クンは好きになってくれるのかしら?」  
「な、何を言っているの!カズキは私の事を…す、す、す、好きなはずよ!」  
戸惑いながらテレながら、斗貴子は言い放つ。後ろの方でカズキが赤面しているが。  
「それはどうかしら?少なくとも、貴女は武藤クンの好みを、満たしていない部分がありますわ」  
「…な、何ですって!?」  
だが、桜花は不敵に笑って斗貴子の言葉を切り捨てる。そして、とんでもない一言を放った。  
「少なくとも…武藤クンのベッドの下にある本には、貴女の体型ではほど遠いのではないかしら?」  
 
「何で知ってるの桜花先輩ぃぃぃぃぃ!?」  
自身の性癖を暴露されたカズキは、思わず絶叫する。そんな、カズキの肩を、秋水が叩く。  
「姉さんの情報を甘く見てはダメだ。徹底的に洗われるんだ、姉さんに関わると」  
なるほど、経験者はかく語る、か。  
「…あ、秋水クン。貴方が押入れに隠していた本…」  
「………!?」  
どうやら、秋水も何かを隠していたようである。秋水の体がビクビクっと痙攣する。  
「ゴメンナサイね、私は『姉』で…『妹』じゃなくて…」  
よりによってそういう趣味だったらしい。秋水はひたすら謝る。  
「…………ゴメンナサイ、もう捨てます。一時の気の迷いです」  
だが、そんな秋水の言葉も桜花には届かない。桜花は一言の下に切り捨てる。  
「…貴方の一時というのは、随分長いのね、秋水クン?」  
「ホント、ホントスイマセン。この通り」  
土下座までするのか。どうやら桜花との力関係は絶対らしい。  
「まぁ、秋水クンは後でたっぷりお仕置きするとして…」  
桜花はチラリと斗貴子の方を見る。どうやら、少なからずショックを受けているらしい。  
「それは、確かに前も見たけど…でも、この前聞いたら捨てたって言ってたのに…くすん」  
弁解のため、慌てて駆けよかったカズキに、斗貴子は呟く。涙目である。  
「な、泣かないで斗貴子さん!アレは、その、えっと…」  
カズキは何とか弁解しようとするが、言葉が出てこないらしい。  
 
「くすん…もういい。カズキなんて知らない!」  
彼がそんな態度を取る以上、斗貴子がこのような態度に出るのは当然である。  
「と、斗貴子さん!えっと、え〜っと…………………………………あ〜」  
ギュッ  
下手な弁解は逆効果だ。行動で示すしかないと思ったカズキは、斗貴子を抱きしめる。  
「あのさ、斗貴子さん。ゴメン。俺の話…聞いてくれる?」  
斗貴子は黙したまま。それを肯定と受け取ったか、カズキは続ける。  
「ホントは、胸が大きいとか、年上とか、どうでもいいんだ。俺が好きなのは…」  
そこでカズキは言葉を切る。次の言葉への期待に、斗貴子の鼓動が早くなる。  
「俺が好きなのは…斗貴子さんだから」  
「………カズキ」  
顔を上げた斗貴子は、満面の笑みを浮かべていた。  
「ホントゴメンね、斗貴子さん」  
「………帰ったら、ちゃんと捨てること」「……うん」  
「…………」  
思わぬ事態の推移に、桜花が情けなく口を開ける。苺戦士のエネルギーの源を断とうとした  
ようだが、読みが甘かったらしい。  
キィィィィィィィィィン  
その時、斗貴子の核鉄が光を放つ。これは…大と小との戦いの時にも見られたものであるが…  
「とっきゅん…?」「ちょっと、離れててね。カズキ」  
頷いて、カズキが離れたのを確認すると、斗貴子は例のポーズを取った。  
キュィィィィィィン  
光が今度は斗貴子の体を包み、そして斗貴子の姿が変わる。  
「ストロベリー戦士・とっきゅん!ミルクフォーッム!」  
スカート、リボン、ブローチがピンク色に変わる。苺戦士の第二の力、ミルクフォームである。  
「……く!?」  
それを見て、思わず桜花は後ずさる。無理もない。ただでさえ押されていたのだから。  
「女は外見なんかじゃないってこと…教えてあげるよ!」  
斗貴子は不敵に言い放ち、そして左手首のブローチから、刀を抜く……と、思ったら  
「………マイク?」  
そう、斗貴子が抜いたのは刀ではなく、装飾の付いたマイクである。一体何をするのか。  
「行くわよ!ストロベリー・コンサート!」  
 
トキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!  
毎度毎度の効果音と共に、平らだった場所に、ステージが出来上がる。  
「………」  
事態についていけずに、呆然とする三人をよそに、斗貴子はステージの上に颯爽と立つ。  
「いきます!ストロベリー戦士・とっきゅんで…『Berry Magic』!」  
その瞬間、どこからか音楽が流れ始めた。その曲に合わせて、斗貴子は体を揺らす。  
「♪夜更けに起きた女のコ(とっきゅーん!)」「♪こっそり部屋を抜け出して(とっきゅーん!)」  
「♪そ。しなやかに。目指すのは。貴方の部屋の中〜」  
 
「な、何ですの…これは」  
歌を聴いた桜花に、奇妙な感覚が芽生える。どうやら、ストロベリー・ワールドのような  
精神攻撃系の技のようである。に、しても突然歌いだした斗貴子も凄いが、それに絶妙な  
タイミングでコールをするカズキもかなりの者だ。さすがのコンビネーションと言えよう。  
「♪ベッドに眠る男のコ(とっきゅーん!)可愛い寝顔と寝息で(とっきゅーん!)  
 ね。寝ているの?起きないの?あたしここにいるよ(ハーイ!ハーイ!ハイハイハイハイ!)」  
 
「これは…なかなか堪えますわね………って、秋水クン!?何をしているの!」  
「ハーイ!ハーイ!ハイハイハイハイ!」  
これも技の影響なのだろうか。何と秋水までもがコールに参加している。  
「いや、これは…とっきゅーん、ハイ!違うんだ…とっきゅーん、ハイ!体が勝手に…」  
ピョンコピョンコ飛び跳ねながら言っても全く説得力はないぞ。  
「…く…何て技なの。これは…さすが、に…」  
「♪Berry Magic あ・な・た・と 夢の中でもストロベリ〜  
  Moonlight Magic いつだってイチャイチャしたいの〜」  
 
カズキと、秋水が飛び、叫び、そして桜花は苦痛に突っ伏する。  
 
「♪Berry Magic ゴ・メ・ン・ね 素直じゃなくてわがままで  
  Moonlight Magic お・ね・が・い ずっと傍にいて」  
 
そんな、楽しいのか苦しいのかよくわからないコンサートは、暫く続いた…  
 
「♪Berry Magic し・ん・じ・て 素直になれない私でも  
  Happy Magic や・く・そ・く ずっと抱きしめて」  
 
「……ハァハァ、う…く…」  
桜花にとっては地獄のようなコンサートが、ようやく終わった。もはや満身創痍である。  
「……まだ、続ける?」  
そんな桜花に、斗貴子は言い放つ。桜花は首を…横に振った。  
「完敗ですわ。武藤クンだけじゃなく、秋水クンまで虜にするなんて…」  
「いや、俺は別に虜になっては…!?姉さん危ない!」  
バスバスバス!  
「……ぐ!?」  
秋水が桜花を突き飛ばすと、そこに矢が飛んできた。その内の一つを、秋水は受けてしまう。  
「……秋水クン!?」  
「大丈夫、大した怪我…じゃ…あ、あれ…何か、意識が…」  
「秋水クン!」  
「……スー、スー」  
悲痛な叫びに答えるは、秋水の寝息。おそらく、先程の矢に薬でも塗られていたのだろう。  
「どうやら…本命の登場みたいね!隠れてないで出てきなよ!」  
「…やはり、そう簡単には仕留められないか」  
斗貴子のどこかに声を掛けると、ソレは現れた。男と女の二人組み。しかしてその姿は…  
「貴方達が…私達の…」  
そう、今そこに倒れている秋水と、それを抱えている桜花。その二人そのものである。  
「私がもう少し性格に狙っていれば…申し訳ありませんわ、秋草兄様」  
「なに、気にすることはない。お前の狙いは完璧だったよ、橘花」  
ただ違うのは、その名前。そしてどうやら姉弟関係が逆のようである。  
「シュウソウに、キッカ…ね。あいもかわらず適当な名前だね」  
斗貴子の呟きに、秋草はどうでもよさそうに、答える。  
「仕方なかろう。本当は名前などどうでもよいのだがな…ないと何かと不便だろう?」  
「よくも秋水先輩を…」  
目の前に立つ秋草に、カズキは敵意のこもった視線を向ける。  
「だったらどうする?戦うか?殺すか?この、俺を?」  
 
「…………!?」  
だが、続く秋草の言葉にカズキは言葉を失ってしまう。そうだ、忘れていた。彼らは人間だ。  
「…お前にはできまい。ホムンクルスですら、殺すのをためらったのだからな」  
「…蝶野のことか…だけど、お前達を止めることくらいは!」  
「できぬ」  
過去の傷を持ち出され、いきり立つカズキを、秋草は一言の下に切り捨てる。  
「俺達を止めることはできぬ。そもそも俺達はつくr」「兄様。少し喋りすぎかと」  
何かを言いかけた秋草を、橘花が制する。何か喋ってはまずいことだったのだろうか。  
「冥土の土産くらいにはよいかと思ったが…確かにそうだな。すまなかったな、橘花」「いえ」  
「カズキ。キミは無理に戦わなくてもいいよ。あたしが、何とかする」  
途方にくれるカズキに、斗貴子がそっと囁く。だが、カズキには懸念すべきことがある。  
「……殺すの?」  
「………何とか、止めてみるよ」  
カズキの問いに、斗貴子は少し間を置いて答え、そして桜花に向き直る。  
「桜花。お前は秋水を病院に。とりあえずここにいては危険だよ」  
「私もたたk…そうですわね。素直に従いますわ」  
何だかんだで秋水のことが心配なようだ。桜花は秋水の肩を支える。  
「そうだ。津村さん。これを渡しておきますわ。何かの役に、立つかもしれませんから」  
そして、その場を去る前に、斗貴子に変身核鉄を渡していった。  
 
「カズキ。キミも下がってなよ」  
「……」  
斗貴子を一人で戦わせるわけにはいかない。だが、彼らと戦う勇気もない。  
カズキは、所在無くその場に立ち尽くすのみである。  
「…行くよ!先手必勝!」  
相手は未だ戦闘体制を取っていない。そこをチャンスとばかりに、斗貴子は一瞬で  
いちごみるくを抜き放ち、秋草に切りかかる。避けられる間合いではない。だが、  
ガキィィィン!  
神速の如き抜刀で、秋草は斗貴子の刀を受け止める。  
「く…速い!?」  
「愚かな…俺に刀で戦いを挑むか」  
 
それだけに止まらず、秋草は一瞬で刀をずらし、その柄の部分で斗貴子の腹を突く。  
「あ゛う」「とっきゅん!」  
たまらず吹っ飛ばされる斗貴子を、カズキは何とか受け止めた。  
「ありがとうカズキ。助かったよ…カズキ?」  
礼を言った斗貴子は、カズキの表情の異変に気づく。  
「とっきゅん…俺、戦うよ」  
その表情は何かを決意した表情だった。だが、斗貴子は思わず尋ねる。  
「い、いいの?戦うってことは…彼らを…」  
それを聞くことは残酷だと言うことはわかっている。だけど、聞かずにはいられない。  
「そりゃ人と戦うなんて嫌だけど…でも、アイツは秋水先輩を、そして斗貴子さんを傷つけた」  
ポツリ、ポツリとカズキは語る。  
「大切な人と、それから一番大切な人を傷つけられてまで、俺は黙っていられないよ」  
そう言って、カズキは斗貴子に微笑みを向ける。少し、悲しい微笑みを。  
斗貴子を地に下ろし、そしてカズキは兄妹に向き直った。完全に戦う気である。  
「人を傷つけるのは嫌だ。でも…大切な人を、斗貴子さんが傷つくのは、もっと嫌だ!」  
「そうよ、それよ!カズキ!」  
斗貴子は大きく頷いて、そしてベルトから自身の核鉄を外す。  
すると、ガチャンと音がして左手首のブローチが展開する。そして丁度核鉄をはめられる  
ようなサイズの隙間が出来た。そこに、斗貴子は自身の核鉄をはめ込む。  
『アブソーブミルク』  
どこからか、機械的な声がする。さらに、斗貴子は桜花から託された核鉄を、ブローチの  
横の隙間にスライドさせる。  
『フュージョンシュガー』  
また、機械的な声がする。斗貴子は、桜花の核鉄を、ベルトにはめ込んだ。  
キュィィィィィィィィィィィン!  
その瞬間、激しい光が辺りを包む。今までどんな変身をしても、これほどの光はなかった。  
光が収まり、斗貴子の変貌した姿が現れる。それは、白。全てが白。スカートも、リボンも、  
胸の、そして右手首についたブローチも、全てが真っ白である。  
光が完全に収まったとき、斗貴子は目をゆっくり開き、そして叫んだ。  
「ストロベリー戦士・とっきゅん!シュガーフォーッム!」  
 
 
次回予告  
 
 
桜花の力を借りて、新たな力を手に入れた斗貴子!果たしてその力は、秋草と橘花に  
通用するのか!そして、苦悩の末戦うことを決意した、カズキの気持ちの行方は…  
 
 
 
次回 ストロベリー戦士・とっきゅん 第八話 「終わらないジレンマ」  
 
 
佳境に入ったら、我ながら一気にペースダウンしたなと思いつつ→       続く。  
 
 
 

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